Over Your World 作:Satellite WE'RE
〈デュアルガシャット!〉
ゲムデウスが力を貸したことから、彼は半ば確信していた。
──このゲームを攻略する方法を。
「……MAX大変身!」
〈マザルアップ! 赤い拳強さ! 青いパズル連鎖! 赤と青の交差! パーフェクトノックアウト!〉
パーフェクトノックアウトゲーマー、レベル99。
颯爽とゲムデウスクロノスに並び立つ。相対するは邪心のままに稼働し続ける悪意の機構、ゲムデウスムテキ。
徐に鐘の音が鳴り響く。
ここは教会エリア。聖堂で周期的に音を漏らしたに過ぎない。
しかし彼らにとっては、それが最後の幕開け。現実に程遠い夢に別れを告げるため、一斉に駆け出した。
〈ガシャコンキースラッシャー!〉〈ガシャコンパラブレイガン!〉
不動のムテキの背後に、クロノスが粒子速度で回り込む。
パラドクスと囲む形になった瞬間、力任せに何度も斬り捨てようと試みた。
「……!」
ノックバックするもムテキは動かない。
もはや避ける意味はない。敵対者にはダメージを与える手段がないと、これまでの足掻きから判断したのだ。
気味のいい所でパラブレイガンを受け止める。刃を持ったまま後方に投げつけ、キースラッシャーを弾き飛ばした。
そしてその勢いのまま、掌で何かを誘導する。
〈終焉!〉
「──下がれ、パラドクス!」
「───」〈高速化!〉
間に合わないと判断したパラドクスは、即座に把握していた位置のアイテムを使用。顧みず、全速力で後方に退散する。
何度目かの轟音が、辺り一面を震わせていく。それは、マグマが噴き上がる地獄絵図。
強化が切れた頃、パラドクスが見たのは静謐の教会が見る影もなく炎上している様だった。
「なんて破壊力だ……ゲムデウスムテキ。本当に奴の隙を捉えられんのか?」
立ち上がったパラドクスの前に、チャーリーのバネ推進で跳躍、上空に回避したクロノスが降りてきた。生身のままのニコたちは五線譜の旋律に乗せて元のエリアに帰している。
二人が見遣るのはエリアとしての機能を閉ざし始めた大地。至る所にラグが入り、悲鳴を上げている。一分後にはステージが崩壊し、自分たちも元のファーストステージに戻されるだろう。
「まずいぞ、あっちにはまだ大勢プレイヤーが残ってる。……何かあるか?」
「一つだけ、ある。上手くいけば何とか抑えられるかもしれない……エリアが変わった瞬間に一斉にいくぞ」
パラドの作戦を聞き入れ、体制を整える大我。
……終焉の世界で歩みを進めるゲムデウスムテキ。黒が漏れる踏み出しによって、遂にステージセレクトが解除された。
「──動かないと思ったぜ! やれ、パラドクス!」
「!」
〈マキシマムマイティクリティカルフィニッシュ!〉
クロノスの力で再び召喚されたブレイガン。粒子速度でムテキを抑えたクロノス。パラドクスはトリガーを押し込んだ。
停滞を終わらせる波動が放たれた。それはかつて彼が解放したムテキのように、一直線にゲムデウスムテキに命中する。
天門の前への逆流が完了する。舞い戻ったのはセレクトした空の真下の地点。セッティングされていない、城下の平地。もはや逃げ場はどこにもない。
ダメージは入らず、クロノスが振り放される。間もなく必殺の噴流も終了した。
しかし、否応のない違和感を覚えたゲムデウスムテキは、思わず胸に手を当てる。
邪心に触れさすまいと張られたファイヤーウォール。そのすべてが、リプログラミングによって消し飛んだ。
残ったのは剥き出しの、声が届く距離に晒された一つの心。
「ゲムデウスムテキ! 確かにお前はゲムデウスが恨みによって練り上げた一つの機構かもしれない……でも、お前がムテキなら分かるはずだ!」
心からの声を絞り出すパラドクス。
ゲムデウスムテキは……動かない。
「ゲムデウスが倒されたとき、お前も感じてたはずだ。……邪心だけじゃない、ゲムデウスが認めたのは他でもない永夢の、ハイパームテキだった。お前はムテキでありながら、同じ力を持ったもう一人に倒された。疑問に思わないか?」
ふざけるな。あんなものはタダの偶然に過ぎない。強いのは至高であるこちらだ。
思わず拳に力が入る。気に食わない過去を掘り起こすパラドクスに憤慨するゲムデウスムテキ。だがそれこそ、彼が純真な思考を得られたことの証明だった。
「答えは簡単だ。ムテキの力は、揺るぎない心の強さを持った者が完全勝利するんだよ。お前はライダーを滅ぼすという指針しか持ち得ていなかった。だから、仕方なかったんだ」
「…………!」
明らかに動揺したゲムデウスムテキ。
ハイパームテキの絶対性は、装着者の心が折れない限り奮われ続ける。事実、洗脳されて悪の心のままに動いていた宝生永夢はリプログラミングで変身が解けた。そして、一つの悪意でしか動かないゲムデウスムテキもまた、揺さぶられるのは必然だった。
心を揺らすため挑発するパラドクスだが、心の中では『もしも』が巡っていた。
もしかしたら、心を実感したゲムデウスムテキも笑顔になれるかもしれない。
もしかしたら、次の仮面ライダーカーニバルでは一緒に戦えるかもしれない。
ダストデータであったはずなのに、ちゃんと感情が出てきたのがその証拠。されど、ここでは叶わない。
希望は未来に託して、決着に向かうことにした。
「紅蓮爆竜剣!」
突如、背後からソルティの塩塊に扮していたゲムデウスクロノスが躍り出た。
硬直したムテキにガシャコンソードが直撃する。驚く間もなく、振り抜かれたその切っ先に極炎の眼光が奔った。
具象化したのは、好敵手の紅き龍波。巻き付くようにムテキをせり上げ、渦になった軌跡が捉えて離さない。さらに、本体はそのままパラドクスの下に駆け抜けた。
「これで最後だ!」
龍に飛び乗ったパラドクス。波動と共に突撃し、再びムテキに迫りゆく。
大人しくやられるわけにはいかないと、闘志を放つムテキ。
召喚したキースラッシャーでクロノスと火勢を薙ぎ払う。すぐさま渾身の迎撃を試みた。
〈ウラワザ!〉〈キメワザ……!〉〈液状化!〉
すかさず踏み込み、飛翔するゲムデウスクロノス。龍と翔けるパラドクスに高度を合わせる。
刀身に全エネルギーを集中させるゲムデウスムテキ。ダメージは通らない。真っ向から叩くことを選択した。
「──なんてな」
「───!」
肉薄寸前、質量を伴った気配が増えた。
思わず見遣ったムテキに、粒子の加速度で何者かが取り付いた。
振り払うことなどできない。移動前、クロノスが呼び出したバグスター突撃部隊。その残党がしぶとくも現れたのだ。
その主とどこまでも似つかわしい姿──
〈パーフェクトノックアウトクリティカルボンバー!〉
〈クリティカルクルセイド!〉
リボルのバグスター部隊。その心髄は
液状化していく龍の矛盾した爆炎を受け、最大加速するパラドクス。クロニクルのバグスターの姿が投影。その全てを御身に集めた瞬間、大気を侵し強襲するゲムデウスクロノス。
全力を滾らせた両足が、右足が、ムテキの腹背を劇震させる。
二方向から加わる衝撃。抜け出そうにも、隊長の膂力までもを完全にコピーした尖兵から抜け出せない。
やがて必殺の波動は終わりを迎え、起点から全躯に奔騰し、爆発した。
「……、…………、──!」
ダメージは入らない。だが、緊縛は終わらない。
自身の不変性を実感し、硝煙の中立ち上がろうとするムテキに液状の龍が絡みつく。獲物を捕らえた猛犬の如き様になった瞬間、正面からモヤを晴らす波動が広がった。
〈パーフェクトクリティカルフィニッシュ!〉〈液状化!〉〈挑発!〉
必殺の反動で立ち上がれないパラドクスが
先程辛酸を舐めさせられた
二度も厄介は受け入れない。ゲムデウスムテキの
では、
「……〈〈ムテキガシャット! キメワザ!〉〉───!」
ムテキを迎えたのは、充填完了のマグナムとヴァイザーⅡ。
──確実に、逃れられない。自身が最も嫌う力が零距離に、ある。
「──バン」
〈クリティカルジャッジメント!〉
〈ハイパークリティカルフィニッシュ!〉
身体を貫き、飛び散っていくは流れ星。最後の審判は今下された。
ムテキにはムテキの力。
敵からダメージを受けることはないと、大前提を誤認していたのが、このゲームの決定打だった。
「……! ──! ……、…………」
奇しくも先程までの新鮮な情動が安らいだのか。気の抜けたかのように、穏やかな佇まいで消滅していくゲムデウスムテキ。
それを見届けるパラドクスは、未来の可能性に心躍らすのだった。
「お前にも心があるって。言った通りだったろ、ゲムデウスムテキ? ──また遊ぼうぜ」
「……ミッション、コンプリート」
世界が晴れていく。光が差し込んでいく。そして旅路が開かれた。
それは天国の門などではなく。生きとし生けるものの為に広がり続ける
〈ゲームクリア!〉
「──ゲム、デウスムテキが…………何故だ」
「?」
「―――何故ハイパームテキを手放してる!?」
ゴッドスピードが信じられないといった感じで睨んでくる。
そんなの、決まってるじゃないか。
瞳が赤く輝き、ゲームを終わらせる準備が整った。
「仲間と一緒にゲームをクリアするには助け合いが必須だろ? ……あきらめろ、ゴッドスピード」
「愚かな人間め! 自らの命綱を切り落とす愚行を犯したのはどっちだ! まだだ、まだ! 私自ら、人類を……!」
「あきらめろ、ノア」
アドルが遮った。
もう、彼の眼に憂慮はまったくない。
「思いあがるな! 大体、お前こそが最も扱いやすい人種だと思ったのに、どうして狂った!」
「決まってんだろ。こいつも、プレイしてた皆も! 一つの命の大切さを知ってたからだ!」
本当は最初から皆分かってるんだ。だから簡単に夢に溺れたりしない。
アドルはドクターの在り方もよく知っていた。
「どれだけ困難でも、たくさん苦しんでも! 健康に、必死に生きようとする命がある! その命を抱いて駆け抜ける人生は果てしない……だからこそ! 一つ一つがかけがえのない、大事なものになるんだ!」
「……だまれえぇええええ!」
ゲムデウス
俺も最後のガシャットを取り出した。こいつが狙ってたのは本当にVRXだけ。奪われることなく、確実に通るガシャットだ!
「お前もみんなを見てわかっただろ? 運命は変えられるって。その輝きを、今からお前に見せてやる!」
〈マイティノベルX!〉「……変身!」
〈マイティノベル、俺の言う通り! マイティノベル、俺のストーリー、
純白の物語。新たな運命の黒きスタートラインが身体に走る。ノベルゲーマー・レベルX。
運命を変えていくと決めた俺たちは、また新たに紡ぎ始める。
「大樹よ! エグゼイドを拘束しろ!」
迫り来る森羅万象の鞭。だが、歩みは止められない。
「運命を変えていくために、決して俺たちは止まらない」
「な……!?」
確かな勢いで命中したはずの木々は俺を捉えられない。
ノベルゲーマーは進んでいく未来を決めることが出来る。
「夢の話は終わった。お前の絡繰りもそろそろ寿命だ」
奴の機械仕掛けの身体が軋んでいく。やがて、維持も出来ず完全に動かなくなった。
「バカなぁあ!」
「命が生きる強さを知れ」
明け渡されたエクス・マキナの胴体をぶん殴る。
俺たちの生き様がそのまま質量となって、奴を吹き飛ばした。
「わ、たしはァア! 世界をォ!」
「俺たちが心のままに進む人生を、その身で受け止めろ」
命中が確約される。
俺はキメワザスロットホルダーにノベルXを差し込んだ。
〈キメワザ!〉「フィニッシュは必殺技で決まりだ!」
励起するノベルXから、右脚にエネルギーが集約していく。
次の瞬間、俺は空に飛び出した。
〈ノベルクリティカルデスティニー!〉
人生を、生きていく力を丸ごと推進力に変える。
運命の蹴撃が、奴の身体を全速力で貫いた。
「ァぁぁぁぁぁ…………、……てん、ごくが、わた、しの…………」
バグスターの粒子がほどけていく。
ゲーム内の全権が解放される。僕は変身解除し、番場くんの下に駆け寄った。
「行こう。戻ろう。果てしないけど、命ある世界へ」
「はい……はい! 今まで、ありがとうございました。先生!」
そういって見せてくれた彼の笑顔は本当に眩しくて。
生きるエネルギーに満ち溢れていた。
〈ゲームクリア!!〉
事態はすぐに収束した。
夢に囚われていた人々は現実で息を吹き返し、何とか元に戻ったようだ。ゴッドスピードに加担した者達はあくまで扇動に留まっていたので、あまり大事にはならなさそうだ。
『Over Your World』は全機回収されて、そのVR技術はまた新しい試みに転換させるらしい。あの世界で繋がったたくさんの人がコミュニティツールとして押しているから、それになるんじゃないかな。
VRMMOの可能性は広い。今後医療にもっと役立つだろうし、もっと別の倫理的な岐路を作り出してしまうかもしれない。
だけど、僕たちが命をしっかり持っていればきっと悪いようにはならないはずだ。僕はそう信じてる。
みんなも特に症状は無く、健康にログオフすることが出来た。
特に大我さんはゲムデウスの力を利用してたから凄く心配したけど、何回チェックしてもウイルスなどは診られなかった。ゲムデウスはゲームが終わっておとなしく退散したという。もしまた機会があれば、彼らとも仮面ライダーカーニバルで会えるかもしれない。
パラドはガシャットが消えたのどうの不穏なことを言っていたけど、大したことじゃないと言ってどこかに飛んで行ってしまった。こっちの方が心配だよ……
とにもかくにも、何事もなく平和に戻ったのは本当に良かった。
ただ、一つだけ心残りがある。
「番場くん、きっと大丈夫だよね……」
VRMMOから帰って来た時、彼は置手紙を残して忽然と消えてしまった。荷物もちゃっかりなくなっていた。
他の感染者もウイルスがすべて消滅したらしいから、彼の身体はしっかり健康だろう。
だけど、心配なのは心だ。
これからも、彼は笑顔で生きていけるだろうか。……いや、それこそきっと大丈夫だろう。
診療が終わるとそこで終わってしまう関係ではあるけれど、なんだか少しさみしいな。短い間だったけど、患者さんとあんな形で一緒にいるなんてなかったから。
でも、おかげで僕も命の大切さについて再確認できた。
いや、今までよりもっとすごいものだと思えた気がする。
「どうか彼が精一杯生きられますように」
思わずこぼれ出た願い星。
それに呼応して、今回の冒険の情景がフィードバックしてくる。
……VRMMO。命を越えた概念か。
ふと、思った。もしすべての、世界の命の価値観が塗り替えられた時。僕はどうするのだろうか。
……もし本当に不可逆な概念の倒錯が起こったとしても、僕はドクターとして患者に寄り添い続けるのだろう。
だって、それは辛い心が付随するもののはずだから。
健康に旅立てるまで、患者さんの笑顔を取り戻そうとする……うん。僕のやるべきことは決まってる。
でも、それだけじゃない。そのうえで僕は、運命を変えることを選ぶんだろう。
一生を賭けると決めたライバルがいる。しかも、その人は患者だ。
きっと、色々なものを後に託して発つときが来る。
みんなにもちゃんと相談して、たくさん考えた後にきっと。
後腐れなく、自分で選んで旅立つ時が来ると。そう思わずにはいられない。
挑戦の応酬は終わらない。多分、僕はそんな確信を持っていた。でも、やっぱり多分だ。きっとですらないかもしれない。
そして、脳裏によぎった。
才能の旅に出ると約束した、あの人の高笑いが。
──観測完了。
彼らの命の輝きが、強き心が。
きっと、彼を変えたでしょう。
この世界に幸あれ。
では、最後に一つだけ。
この物語の主人公は、番場アドルです。