Over Your World 作:Satellite WE'RE
迅速な手続きを経て、僕はCRに到着した。
近くには何とか状態が良くなってきた患者さんが二人。この調子ならもうすぐで意識が覚醒するだろう。ひとまず山場を越えて僕は安堵のため息を吐いた。
「なに気抜いてんだ。さっさと新型バグスターウイルスについて調べろ」
そんな僕を咎めてきたのは、花家大我さん。なんともう一人の感染者は彼のクリニックで保護されたらしい。僕と同じようにオペを行ったけど、やはりウイルスの反応が残留してしまったようだ。
紆余曲折あってちゃっかりCRまで入ってきてるけど。
彼は衛生省からゲーム病専門医として活動を特別に許可されているので問題はなかったりする。どうやら僕達と共同で調査したほうがよいと判断したらしい。
「わかってますって。頼りになる大我さんがいてよかったって思っただけですよ」
「――は? ……とにかくさっさと進めるぞ」
嘘は言ってない。飛彩さんや貴利矢さんがいない今、大我さんがいてくれて僕達は本当に助かってる。ただ、普段頼られ耐性がなさそうな大我さんはこうやってノせたほうがいいかなと思っただけだ。
どうやら上手くいったようで、それ以上ややこしくなることはなかった。このままヘンな言い合いになったら時間がもったいないしね。そういうのはニコちゃんと二人でやってもらおう。
「ただいま。情報持って戻ってきたぜ。やっぱり例のゲーム、きな臭いなんてレベルじゃなかった。言うからしっかり聞いてくれよ」
少し経って、ネットワークの海で情報収集を任せていたパラドが戻ってきた。
今、僕達の現場体制は患者さんとウイルスについて対応している僕と大我さんと明日那さん。それと戻ってきてくれたパラドだ。
もし、パンデミックが起こるような事態にでもなったら僕達だけじゃ対応できない。速く対処法を見極めないと。
……だめだな。ネガティブになっちゃだめだ。今はパラドの持ってきた情報から今後の方針を判断しよう。
「例のゲーム、『Over Your World』の先行プレイヤーが次々と世界中で新型ウイルスに感染してるみたいだ。しかも意識が無いとこまでここと症状が同じ。
これだけでも驚きだろうがもうちょい聞いてくれ。開発者兼現マキナビジョン社長のノア=ゴッドスピードが失踪中らしい。……少なくとも黒の一人はこいつだろ」
「え、え、えぇ~~!? ってあれ? わかってることってタイヘンなことになってるのとアヤシイ人がとことんアヤシイってだけ?」
「まあ、そうなんだけどさ。とにかく、俺たちのやるべきことは決まってる。患者は全員、ゲーム起動後に発症してる。プレイ中だったり、プレイを終えた後だったりだ。でもカセット自体にはウイルスが着いてない。
つまり、このゲームを起動してみないと何もわからないってことだ」
「だよね~! も~! ケッキョクどうすればいいの~!? ピプぺポパニックだよ~!」
混乱してバグスターの姿になっちゃったポッピーは置いておいて、考える。
僕たちの中にはシステムのファイヤーウォールを突破できるようなハッキング技術を持つものはいないし、バグスターの二人も侵入できなかった。
さすがは大規模型多人数オンラインだ。大勢のプレイヤーが介入する分、特にセキュリティ面は力を入れているんだろう。裏ワザは使えないとなると、真っ向から挑むしかないんだけど……
「だが、どうやって俺達が介入するんだ。ログイン方法は患者に吐いてもらうとして、バグスターウイルスが絡む以上、仮面ライダーの力も持ち込む必要があるぞ」
「そうですよね…………」
何とか切り抜く方法を、考える。
そもそもゲームにログインできるかどうかもわからない。ちょっと物騒な言い方だったけど、大我さんの言う通り、このゲームへの介入は患者さんの協力が必要だ。
一つのカセットで最大三人挑戦できるようだし、チームで取り掛かれるのが救いだろう。やっぱり、正面から行くしかないか……
「あれ……? ここは、え?」
そうやって僕達が懊悩していると、患者さんの一人がやっと目覚めた! 僕達でも混乱してるんだ、しっかり気を付けて説明しないと……
そうして僕は患者さんと向き合う。
この時の僕はまだ、この出会いが大冒険につながるなんて思ってもみなかった。
*********
目覚めるとそこは知らない天井だった。なんて、ふけってる場合じゃない。
なんだここは。思わず声を漏らしてしまった。しばしばする目で周りを見渡すと、医師らしき人が二人、いや三人になった……? やたらピンクの色彩があったはずなのに……あれ、そもそも人影も四人いたはずなのに。
困惑しているとその中の一人に話しかけられる。
「よかった、目を覚まされたんですね! 気分はどうですか? どこか、辛いところはありませんか」
視界が透き通った。
いや、もちろん言葉の綾なのだが、それはもうリアルと言っていいほどのものだった。
まるで宝石のような表情をする人だと思った。そんな人に面と向かわれて、本当にぼやけていた目先が晴れたようだった。
「……ぁ、はい。なんとか、特に。大丈夫だと思います」
卒然のことで、抑揚のない腑抜けた言葉しか出てこなかった。いったいどうしたんだろう。この人も、私も。どうして、どうやったらこんな純粋な表情で患者と向き合えるのだろう。どうしてこの人を見ると靄がなくなったように感じるのだろう。
「そうですか! 本当によかった……あっ、すいません。今大変なことが起こっていて。事情を説明させてください。疑問や思うところがあれば、その度にいってください」
そうして、その宝生先生に聞かされたものは私の想像通りの混乱だった。
私は気づいていた。このゲームの本当の目的に。だからこそ、運営の注目を浴びるような事をしていたのだ。
なのに、私は一線を踏み切ることが出来なかった。私の中にある
その記憶で私が行っていたことが正しかったのか、間違っていたのか。今の私には推し量れない。自分の強かったはずの信念が、わからない。だから、いきなり意識が浮かび上がった数日前からこの世界でも何も考えずに同じ選択を取ろうとしていた。そして、私は見事に先行プレイヤーの中でも有数のポジションに選ばれた。
……結局、運営の意志に反した私は気づけばゲーム病とやらにかかっている。勝手に倒れて、勝手に病院の世話になって、勝手にキュアの手間をかけさせている。
ある意味、これは宝生先生のせいだ。先生の顔を見ていると、まるで自分が重ねてきた嘘とごまかしばかりのベールが溶けていくようだ。それで、こんなことを考えてしまっている。……それが、私のありのままなのか?
欠片も論理的でない思考を繰り返し、ふと思い至る。この人を追えば、自分の本当の心がわかるのではないか。その透き通るような眼に充てられていれば、自分の本当にやりたいことがわかる、そう思わずにはいられないのだ。この人に付いて行こう。私がそう決めるまで、時間はかからなかった。
私はその場で架空のストーリーをでっち上げた。でっち上げと言っても、嘘はほとんどついていない。私は偶然選ばれた先行プレイヤーだったが、選ばれた
上手く可笑しさのない言葉に言い換えて、如何にもただ巻き込まれた一般人だと思わせることに成功した、筈だ。むしろ、ゲーム内容に関する情報を提供したのだから、私に疑いが向くほうが変なぐらいだろう。
「すごい、先行プレイでもうそこまで行くなんて! 特にあそこの縄代わりにするギミックとか難しそうなのに。僕はCMで写る画角だけじゃ思いつきませんでした……あっ、僕もあのゲームは予約してて。楽しみにしてたんですけど。でも番場さんが協力してくれるなら助かります。すぐにゲームクリアして、いつか一緒にゲームしましょう」
流れるままに私はCRへの協力を承諾した。
協力者になれば、先生はログイン権限のある私とともに行動せざるを得ない。良い方向に落ち着いたと思う。それに、先生がゲーム好きだとは意外だ。私もゲームは好きで、話が弾んだ。だからこの世界でも、ゲームを通じてあの運営のお目にかかることになったのだが。
すべてが、偶然とは思えない。これまでの
ともかく、仮面ライダーとしてバグスターウイルス?に対応する彼らドクターに、私は協力することとなったのだ。
*********
患者さんは最初は戸惑っていたようだけど、柔軟に話を聞いてくれて助かった。しかも協力者に進んでなってくれたし、先行プレイで進める限界までクリアしていて、僕達もそこからゲームに挑めるみたいだ。
少しだけ希望が見えてきた気がして、僕は改めて身を引き締めた。
少し整理しよう。
マキナビジョンの新作にして世界で数少ないVRMMO、『Over Your World』。ゲーマーが一度は夢見るゲームの中でリアルのようにプレイできるゲーム。
このゲームは脱出系のアドベンチャーゲームだ。VRMMOと聞くと、ファンタジーやデスゲームものを思い浮かべる人が多いと思うけど、そのジャンルで開発しなかったのにもちゃんとワケがありそうだ。
まず先端的なゲームとはいえ初期型と言える今作、テーマやギミックは割り振られている。
珍しい構成だが、いきなり自由度の高すぎるファンタジーだと、プレイ目的が曖昧になっちゃうからなんだろう。他にもプレイアビリティとか生産方法とかいろいろ。
……ってこれは黎斗さんが考えそうなことだ。今回はもっと、天才ゲーマーMらしい妙手を考えないと。
とにかく、最初期のVRMMOとして、脱出系という恐怖と興奮のジャンル。
進むルートが一本道だから攻略はしやすい部類で、それをリアル以上に体感できるというのがウリだ。
そこに絡んでくるギミックも単純明快で、コントローラーを操作するかのようにキャラクター(容姿はある程度設定できる)の身体を動かせるマニュアルモードと自分のリアルの身体の感覚で動くストレングスモードがある。
ずっと自分の脚で進むのはさすがのVRでもキツイけど、そこはゲーム。盛り上げてくるのが数々のアイテムだろう。
CMではエナジーアイテムのようなもので身体強化して進んだり、現地のアイテムを使用する姿もあった。
そうそう、各エリアにはボスキャラがいて、それを上手くかわしながら進んでいくのも面白そうで……
「永夢、ゲーマーの血が騒ぐのはわかるけど、今はコッチが大事だぜ」
「興奮して一人で浸ってんなよエグゼイド。普通のゲームは自分んちでやってろ」
二人に一斉に注意されてしまった。いけない、ついゲーマーの性で、長々と勝手にワクワクしてしまった。
同じぐらいゲームが楽しみだったパラドも真面目に考えてるんだし、僕も何とかしないと。
そうして切り替えて冷静にしてみると、一つの抜け道を思い付いた。
「──そうだ、パラド! あれ、アレを使うんだ!」
「アレ? アレって……幻夢のVRか? 確かに侵入用の機器としてはアリだし、何ならそれで乗り込むつもりだったけど──そうか」
「え? なに? 何思いついたn「いいからさっさと教えろ、何とかなるもんなんだろうな」……ピヨル……」
「ああ、明日那さん……ええ、これなら何とかなります。黎斗さんが残したVR関係のアイテムはもう一つあります。VRの世界で秀でる者はいない、マイティクリエイターVRXが!」
そう、僕達ドクターライダーにもあるのだ、VRでの運用を目的としたガシャットが。
それがマイティクリエイターVRX。VRの中でゲームを創造するゲーム。
元々のプレイが仮想空間でのインチキをするためのものだったから……言い方はアレだけど、悪く使えばVRMMOへのライダーシステムの持ち込みだけじゃなくて、ゲームのバックドアを作れるかもしれない。
もしそれが可能なら、一瞬でエンディングを迎えることが出来てゲームクリアだ。ゲームに感染するバグスターはそれで完全に消滅する。
「猶予はあまりありません。あと二日で通常版もプレイできるようになります。患者さんと協力して、それまでにゲームをクリアしましょう」
「もし製品版の内部……仮想世界自体にウイルスが蔓延してたら、VRと現実を行き来できるそれはパンデミックにつながるから……スピードクリアが大事だな」
「おい、あの番場アドルから湧いてくる情報も怪しいぞ。なんかパッとしない物言いばっかりだ。名前も変で偽名くせぇ。お前らあまり信用し過ぎるなよ、お人よしだからって」
「わかりましたよ、大我さん。でも今は一人の患者さんですし。それとゲームの流通の件ですけど……」
「ったく、今から発売中止しろって言っても聞かねーんだろうな。それができるだけの証拠も不十分だ、俺達がやるしかねえ」
「……えっと私は? 三人用なら私は行けないよね?」
「明日那さんは現実の患者さんやバグスターウイルスについて緊急対応をお願いします。大丈夫です。必ずクリアして戻って来ますから」
「永夢……それにみんなも。気を付けてね。絶対だよ!」
「ああ、患者の運命を変えてやるよ」
「ミッション遂行準備だ」
パラドも大我さんもやる気十分だ。番場くんにはゲーム内で付き合いになるけど、万一再発症したり、容態に不安が出てきたら強制ログアウトしよう。
緊急時のプランも打ち合わせ、僕らが向かうのは幻夢コーポレーション、VR機器管理室。黎斗さんと挑んだハリケーンニンジャ用に用意したスペースがそのままになっているらしい。
灰馬院長に挨拶を終えて、僕らは未知のゲームのスタート地点を目指すこととなった。
・番場アドル
『Over Your World』先行プレイ開始一日前にこの世界で意識が覚醒。容姿は十代半ばのものとなっていた。調べると自分の戸籍や名簿などの存在を発見、恐怖する。
しかし、その後、何故かそろえられていたVRMMO用セットを用いて、選考プレイに取りつかれたかのようにのめり込む様子が確認できた。
プレイ二日目には先行プレイ可能範囲をすべて制覇。ずいぶんなゲーム好きだ。
決まった通り、エグゼイドに接触した彼はまだ始まったばかりだ。
・ノア=ゴッドスピード
今回のラスボス。現在水面下で色々画策している。騒々しいラストネームだ。