Over Your World 作:Satellite WE'RE
事態はさらに混迷を極めている。
というのも、次のエリアである
これはおそらくゴッドスピードによる奸計。先ほどのデバッグモードによる、ダメージ判定を有効にする作戦を封じ込めるためなのだろう。前回はエム先生とスナイプの二人がいて、片方が時間を稼いだから出来たものだったのだ。…………それとも、私に促しているのか?
未だ私は答えを探している。ゴッドスピードの余裕がなくなる前に何か結論を出しておきたいところだ。
……何の? 一体何を探せているというのだ。ただ協力者として付いて行っているだけで、まだ何もはっきりしていない。
この身を擲つに等しい、そんな選択をすべきとわかっている。しかし、選択肢の内容すら不明瞭ではだめだ。
自分を侵食し始めた小さな焦燥を封じ込め、私は永夢先生に迫ることにした。
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これはもう、正面からぶつかるしかない。
ゲートに入ってすぐに、一直線になっていたルートが裂けるように真っ二つになり、大我さんと引き離された。おそらく進む方向は同じだったので、別の地点に落ち着いたと思うけど……黒幕の言葉を信じすぎたか?
「ぁあの、先生。大丈夫ですよ、花家さんは。それに僕を守ってくれたあの人は、とても頼もしかったです! そんな人がすぐにゲームオーバーになるなんて思えませんよ」
「番場くん……これ以上キミを危険にさらすわけにはいかないと思ってるんだけど……ログアウトが出来なくなってて、完全に退路を断たれてる」
「それでも! 僕は大丈夫です。永夢先生がいてくれるなら。…………それに、僕の命はそんなに重くない」
「……え? 番場くん、そんなこと絶対ないよ。どんな命でも、軽重や優劣はないんだよ。」
「……それです。そういうのを! 惜しげもなく言えてしまうのは、どうしてなんですか。僕はこんなVRの世界を見ると、よくわからなくなってしまいます」
「ええっと、結構スケールが大きくなったね……」
やっぱり、番場くんはどこかネガティブになってしまっている。ただ、それだけじゃないような気もする。
きっとこの子は不安なんだ。今まで何かがあったのかもわからないけれど、少しでも安心させてあげたい。多分、僕の話が聞きたいのかも。そんな風に思ってるんじゃないかな。
「えっとね、僕は小さいころ交通事故に遭って。それまでは命について、深く考えたことがなかった。でも、事故に遭って、人は本当に死ぬんだってことを実感した。それで、とても怖くなって。でも、同時にわかったんだ。そんな恐怖から救ってくれるヒーローがいるって。それが、ドクターをはじめとした医療従事者だったんだ」
「……!」
「僕は命を救われて、笑顔も取り戻すことができた。それで憧れるようになって、僕もなりたいって思ったんだ。患者の笑顔を取り戻せるヒーロー、ドクターに」
「……本当にドクターの鑑の人ですね。羨ましいです、そんな強い信念を職場でしっかり持っているのは」
「あはは、そこまで言われると照れるな。でも、信念だけじゃだめかもしれないよ」
「え?」
「僕はドクターになって、色々あって仮面ライダーとしても活動してるけど……最近、それだけじゃだめだって思うようになったんだ。信念ってなんか硬くて強そうなイメージがあるけど、違う。膨らませ過ぎたら固定観念にも成り得ると思うんだ。そうなったら、周りが見えなくなったり、エゴが強くなりすぎたりして。自分の身近にいるはずの人達と接するのを避けてしまうかもしれない。だから、思い詰めちゃダメだよ」
「――それは」
「信念とか、そればかり気にする必要はない。もし悩んでたら、自分ではなかなか気付けないけど、周りに誰かがいるはずだよ。自分一人じゃいけない。少しだけ勇気を出して、誰かに自分を曝してみるのも、大事なことだよ」
自分の心と向き合ってみて、思い知った。
無意識に閉ざした、自分一人で持ち続ける信念の危うさを。
仕事だけじゃない、大切な仲間と何気ない時間を過ごすことの素晴らしさを。
だから、たくさん一人で思い悩んでるであろう番場くんには、ポジティブになって欲しい。なんとなく、一人で思い詰めてそうだから。この子が誰かと心を通わせられたらいいなと思う。勿論、そんな重苦しい事情じゃないかもしれないけどね。
でも、僕のことに興味があるのなら、素直な心は教えて欲しいな。それが例え今じゃなくても。
「…………ありがとう、ございます。たくさん話してくれて。僕もバイアスとか無視して、いったん落ち着いて考えてみます。……答えが出たら、きっと自分のこと、正直にお話しします」
「番場くん……」
「でも今はステージを進んでいかないとです。……大丈夫です、個人のこととコレとの分別はできます」
「ありがとう。でももし辛かったら僕に頼ってね。……このエリアは和と中華が混ざったような商店街っぽいところだね。城下町とも言えるかも」
「VRMMOの醍醐味ですね。まさか匂いまで体感できるなんて。ただ、今回のエリアもそんな風には見えませんが……」
そう、彼の言う通り、またエリアの様相が事前情報と食い違っている。
いたるところから漂ってくる甘ったるい香り。それを感じ取る嗅覚はこのVRでは確かだったようで、周りにはこれでもかとスイーツが敷き詰められていた。ドーナツやチョコ、ケーキやキャンディー。木々にはビスケットやグミが生え、流れる川は水がコーラなどの炭酸飲料とすげ替えられている。
まるでマイティに出てくるお菓子なステージがさらに主張が強くなったみたいな。若しくは昔学校で見た気がする映画のお菓子工房みたいだ。
ただ、ゲームのブロックやジャマーの配置にしてはおかしいと思う。ゲームを作る人ならこんな詰めるだけ詰め込んだたような配置にはしない。
おそらく、これもエリアボスが書き換えたステージなのだろう。今度こそ、黒幕に加担するような真似をする理由を聞きだしたいところだ。
それと、ずっと不気味に思ってるのは普通にプレイしてる先行プレイヤーが一人もいないことだ。何人かはゲーム病で今も現実で苦しんでいる。しかし、すべてじゃないはずだ。
僕達のスタート地点が先行プレイで進める限界だったけど、ゴッドスピードが根本から書き換え始めた今、前に進んでいるプレイヤーを見つけてもおかしくないのに……
「先生。この香り、ずっとあっちの方向から漂ってきてませんか? もしここのボスも自分が望むままにエリア改変したのなら、集約させているのかもしれません。蓋しスイーツに囲まれたい願望なのかも」
「なるほど! つまり、この匂いを辿れば、自ずとボスにたどり着く……! ナイスだよ、番場くん。相手のことを悟るのが得意なんじゃない?」
「……そうかもしれないですね。とにかく、早速行ってみましょう。お役には立てませんけど、応援しています」
「大丈夫だよ、君は僕が守るから。できるだけ傍を離れないでね」
「はい、お願いします!」
方針は決まった。番場くんはさっきより心なしか明るくなっている。
僕は良化したであろう、彼の健康をしっかり守ることを再び胸に誓い、進み始めた。
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恐る恐るといったいった足取りで、二人は匂いの示す方向へ進んでいく。目的地に近づくにつれて、粘り気を錯覚させる程に強くなる薫香は、彼らに得体のしれない圧迫感をもたらしていた。
気付けばオブジェクトだけでなく、道路や足場までもがスイーツに埋め尽くされている。
―――ボスはすぐそこにいる。
〈マイティ、マイティアクションX!〉
永夢の予感は正解だった。
咄嗟に迫りくる飛行物体をエグゼイドが叩き返す。だが、それは跳ね返っていくのではなく崩れ落ちてしまった。残骸を一瞥するとチョコと生地の混じった、甘ったるい匂いが漂ってきた。
そして永夢はようやく視認出来た。目前にいる襲撃者を。
「やるね、天才ゲーマー(笑) チートでカッコつけるのもサマになってるよ」
目の前にある玉座に、それは居た。周りと同じく過剰に装飾された玉座にふんぞり返り、哄笑を持って見下してくる少女が。あまりに周囲の光景の主張が強すぎて、気づくのが遅れてしまったのだ。
金を塗り込んだような髪。リボンやフリルが目立つファッション。可愛らしく設定されたであろうその容姿とは裏腹に、傲慢な態度が漏れ出ている。
「ね~え。なんでシカトすんのかな? この最高な光景に目を奪われるのはわかるけど、そういうのはイラつくんだよね」
「悪いな、俺の趣味とは合わなかったぞ。こんな有様になった背景は、お前も含めて知りたいけどな。ハイなエリアボスさん」
「あーあーあー。そうやってすぐ煽るやつが嫌われるんだよ、ゲームでは。―――舐めた口聞くなよ」
「! アドル、離れ――! なっ、抜け道がない!?」
気づけば退路を断たれるどころか、忠実に再現されていた曇天までもが閉ざされている。すぐにステージそのものが作り替えられていることを永夢は悟った。
「ほんっと、間抜けな虫ケラ共! ここは私の世界。望むならもっと浸らせてあげるわよ? この甘美な世界に。……ただし、ペットとしてね!」
「ボスはどいつもこいつも口どころか耳も通じないのかよ! 離れるなよアドル!」
「は、はい!」
++++++++
「あははっ、やれやれ! ほら、そこだ! キューティ!」
永夢からすれば途端に発狂したようにしか見えないエリアボス。そして、その攻撃は濁流のごとく迫りくる無慈悲なものだった。
激昂したボスの玉座の背後より現れた、鎖で繋がれた二匹の動物。それは猛獣といえる獰猛さであり、かけらも癒し要素などなかった。
永夢らの前に出て来た巨大な二匹の捕食者。ギラギラとした貫くような視線を向け続けられている。
しかも、彼らが追われているステージは、お世辞にも地の利があるとは言えない。
ボスが変形させ、作り上げたのは蹂躙目的の闘技場。囲んでいるのは取り留めもなくなだれ込んでいる滝のようなクリーム。目下に敷き詰められているは見るだけで気分が重くなるほどのお菓子。
噛み合ったそれらが形成しているのは狭獄。永夢らは檻の中で猛獣の殺意に晒されているのも同然だった。それはまるでサーカスの一幕に放り出されているかのように。
観客は満場一致で、領域外から嘲笑っている獣の飼い主だろう。
エリアボスはあくまで自分の危険は冒さないことに決めたのだと永夢は推測する。このままエサになるのも、曲芸に付き合わされるのもごめんだった。
〈マイティブラザーズ ダブルエ~ックス!〉
「変身! ―――さらに、大変身!!」
〈マイティ、マイティブラザーズ ダブルエ~ックス!〉
レバーを二回引き、変身を完了させる。
永夢が選択したのはアドルを守りつつ、攻撃が可能なダブルアクションゲーマー。アドルを翠のLに任せ、二体の猛獣の前に橙のRが躍り出る。その胸の内には、このボディを纏っているのがパラドクスでないことへの微かな落胆があった。
獣と対峙するRだが、それらに付き合う気は毛頭ない。
ダメージが通らなくとも偉そうな玉座くらいなら消滅するはず。そんな期待を込めて、Rはキースラッシャーを取り出した。
「お前のゲームで遊ぶつもりはない!」
〈マキシマムガシャット!〉
「へー……せっかく二人に裂いたのに増えるんだ」
〈マキシマムマイティクリティカルフィニッシュ!〉
「くらえッ! ―――なっ! 届かない!?」
「ぷっ、単細胞だね。何のためにリングを用意してやったと思ってるのさ。もっとらしく逃げまどいなさいよ! 行け、忠実なウサギちゃん!」
あれウサギだったのか。
抜けた感想がよぎるくらいには放心しかけたRだが、頭は冷えてきていた。
迫りくる猛獣を回避しながら気づいたことだが、徐々にステージが狭まってきているらしい。ただのクリームだと高を括って放った光線を通さないほどの勢い。そんなものに触れれば圧死してしまう。
Rは思考を巡らせていた。タイムリミットがあるこのゲームをどうすれば攻略できるのか。相手はどこまでこちらの手札を知っているのか。
しかし、思考する間を与えんとばかりに獣の猛襲が激しさを増してきた。鋭く魔改造された牙と爪で幾度となく引き裂かんと迫ってくる。キースラッシャーで対抗しているが、相手が二匹な分きりがない。
「ほらほら、どうしたんだよ。もっと派手に吹き飛びなさいよね!」
そう言って観賞していたボスがどこからともなく取り出したのは、なんと散弾銃。檻の外から無造作に放ち始めた。
まるで豪雨が横から降ってくるような勢いで弾丸が肉薄してくる。だが、その強攻に怯んでいるのはRだけではなかった。
「くっ、お前、自分のペットまで巻き添えにして……!」
「それがどうしたのよ。図体がでかいから悪いんだ。消えたらまた投入すればいいし? 即興で作った見世物だから精々二匹なのは残念ね~」
ヤジどころか弾丸を放ってくる観戦者の嘲笑から、Rは考察を重ねていた。
スナイプと自分を分断したのは彼女。趣味通りならここに誘ったのも彼女。このリングを用意したのも彼女。しかし、人数制限があるような言い方。そして迫る壁は光線は通さないが物理的なもの。
―――こいつは前階層の俺達を観てない。
永夢は最初、デバッグモードでムテキを引っぺがしたから分断されたのだと思っていた。ボスの有利性を壊すような荒業を承認するはずがないからだ。
しかし、ボスが支配するのはあくまでこの世界。本気で引き離すならゲートの転送中にデータの海に追放するし、
ここからわかるのは、ボスはVRXの改変能力を分け与えられているが、手を加えられるのはオブジェクトやステージといった
だが、ボスは見せ筋と戦った様を見たわけではない。それなら、攻略の糸口はある。
まだゲームを創る感覚が掴めていないかヘタクソかのどちらかだろう、とRは考察を締めくくった。問題は時間までにアドルを守り続けられるかと、一縷のチャンスを掴みとれるかどうかだった。