Over Your World 作:Satellite WE'RE
心までは共有していないが、Rが何か思いついたのはLにも察せられた。
しかし、狂笑を貼り付け銃を乱射してくるボスに対して、ずっと平静のままいられるわけでもない。
ステージセレクトは発動しない。リプログラミングは届かない。そもそもデバッグしないとダメージは通らない。そのモードに移行する時間もない。
今は耐え忍ぶしかない。光明は必ず来る。
Lはそう信じてアドルを守り続けていた。
*********
「おい、何とか鳴いてみろよ天才ゲーマー。押し潰されるのが怖くて何も出来ないか? そうだよね! はっはっは! ざまあないな!」
「いーや。お喋りが過ぎた、お前が何もできないんだ」
「は? まだイキる余裕あるんならもっと分からせ―――っ! なにこのメダル!?」
「知らないのか? ゲームには、サポートアイテムがお約束だろ?」
俺たちの周りに飛び出てきたのはエナジーアイテム。このアイテムは本来仮面ライダーのゲームエリアに付随する。デバッグ作業によって解禁された切り札ってわけだ。
自分の予測しなかった事態に混乱するエリアボス。やっぱりゲームの逆転には驚きがなくっちゃな。そして―――
「――何捕まってんだエグゼイド。もっとしっかりしとけ。おかげで俺がデバッグするはめになったんだからな」
「信じてたぜ、スナイプ!」
―――ピンチに駆けつけてくれる仲間もお約束だ!
颯爽と現れたのは周りのスイーツオブジェを蹂躙しながら進んでくる、戦車に乗ったスナイプ。どうやらバンバンタンクを有効利用したらしい。
「うそっ! な、なんで一番遠くに飛ばしたあんたが! 絶対ここまでたどり着けないはずなのに!?」
「はっ、そいつは手を緩めたお前のボスに聞くんだな」
そう得意げに言ったスナイプの後ろからひょこっと何かが飛び出してきた。
はためくマントと
なるほどな。ゴッドスピードはバンバンシミュレーションのブロックルーチンは組めたが、タドルファンタジーまでは及ばなかったんだ。さすがゲンムが作ったガシャットなだけはある。独立した使用は可能だったわけだ。
スナイプはファンタジーの『ウォーフェアマント』の能力である短距離瞬間移動を繰り返して、ここに駆け付けたってことか!
「ああもう! あんたは私が直接潰してやるよ。そのままあいつらがひしゃげるさまを拝ませてやる!」
「おい、エグゼイド! タイミングを見計らえ!」
「ああ、任せろスナイプ! 青い方、これを使え!」
「うわっと、キースラッシャーキャッチ! よし、二匹は任せて!」
さあ、ここからノーコンティニューでクリアしてやるぜ!
*********
翠と対するのは血を流しながらも獰猛に吠え続ける二匹の獣。しかし、それはボスの身勝手な嗜好のままに改変された玩弄の象徴。本来の姿からかけ離れたであろう獣の牙を抜いてやりたいと、翠のライダーは切に思う。
決着のために動き出す。彼らが踏み出したのはほぼ同時だった。
〈挑発!〉 〈ズ・キュ・キュ・キューン!〉 「……今楽にしてやるからな」
ボスと応酬しているRの下に向かわせるわけにはいかない。
Lはすかさず跳躍し、獲得した挑発の効果で獣の攻撃対象を限定する。一直線に突っ込んでくる二匹に、Lはしっかりと照準を合わせた。
〈キメワザ! マキシマムマイティクリティカルフィニッシュ!〉
望まれぬ改竄を終わらせる、必殺の一撃。しかし、鋭く一点に向かう光線は、二匹の獣同時に命中することはないだろう。
〈巨大化!〉 「いっけぇーーー!」
――ピンチを覆すアイテムが無ければ。
光線が発射される瞬間、Lは巨大化を投げ出していた。それは見事に光線の斜線上で直撃、効果が発動される。
極太の必殺レーザー。サイズも破壊力も上昇。すべてがランクアップしたそれは、寸分違わず対象を捉え、獣たちの全身を浄化していった。
+++++++
〈ジェットコ~ンバット!〉〈縮小化!〉
「くそっ、ちょこまかと! 甘味を味わうときに沸く、お前みたいな虫が一番きらいなのよ!」
「うるせえ! おやつも虫も家で食ってろ!」
大空を滑空するジェット機のごとく、旋回し続けるスナイプレベル3。縮小化が切れた彼の目線の先には準備を済ませたエグゼイドが二人。
決着に向かうため、スナイプは急転降下する。その無茶な軌道はボスの意表をつくには充分だった。
慣性に抗い、翼が地面を削り取りながらも、ボスの死角に回り込むことに成功した。
「っ、逃がすか! これでもくらえ!」
ボスが取り出したのはキャンディやチョコの混じったバズーカ。暴発の考慮を無視し、急速チャージによってエネルギーを膨張させていく。
ロックオンされたスナイプは強引な駆動を強行した結果、着地の反動を持ち越していた。回避を許さない、無慈悲な必殺の大玉が撃ち込まれた。
スイーツを凝縮させた大凶弾が、動けないスナイプを飲み込み、崩壊させる…………そのはずだった。
「!? いない!? どこに――〈キメワザ!〉ッ!」
確かに直撃させたはずの標的はそこにはなかった。煙が晴れて露わになったのは、目をぐるぐるさせたオレンジのゲーマだけ。ボスは完全に出し抜かれたのだ。
すぐさま捉えようと索敵するも、間に合わない。
一瞬のスキを突かれ、キメワザが放たれる。だが、その狙いはボスではなかった。
〈ジェットクリティカルフィニッシュ!〉
〈スポーツ! ロボッツ! クリティカルフィニッシュ!〉
まるでバラバラのジャンルのゲーム。しかしそのどれもが共通して、隔てを終わらせるための珍弾となった。
ミサイル、タイヤにロボットアーム。これらすべてが向かうのはクリームの激流が織り成す絶壁。両側からの絶え間ない乱弾によって、ついにそのベールがはがされた。
「おもちゃ達は出させるか!」
無論、気付いたボスはエリアの特権によりすぐさま激流を再開させる。しかし、勝負はすでに決まっていた。
「……? な、なんで外に出てるの? エグゼイド!?」
「スナイプの弾道ミサイルはしっかり届いたぜ。ギアデュアルベータと一緒にな!」
開いた檻から脱出するのが彼らの狙いではなかった。
スナイプの下からは、ただのミサイルだけではなく弾道ミサイルが放たれた。エグゼイドらは届いたファンタジーを起動し、短距離瞬間移動を果たしたのだ。
「「さあ、フィニッシュは必殺技できまりだ!」」
〈キメワザ! マイティダブルクリティカルストライク!〉
二人のエグゼイドが天高く跳躍する。そしてボスの玉座ごと、連続キックで粉砕せんと突貫した。ボスはそれに耐えきることなど出来ず、Perfect!が表示され、勝負は遂に決した。
「ぎゃあァああぁぁあ〜ァァァ!!」
**********
「ゲームは終わりだ。あんたの知ってることを教えてもらおうか」
「うぅ、わ、私は選ばれて、選ばれたんだよ! このゲームをプレイして、真っ先にクリアした者は私を含め四人だけ! だってのに、何でこんなザマに……」
「つまりその四人がエリアボスに任命されてゲームで好き勝手してるんですね。でも、さっきも言いましたけど、あなたにはバグスターウイルスの反応があります。現実で感染してる先行プレイヤーも目を覚まさないのに、ここに入り浸ってたらあなたにどんな影響が出るかわかりません。今すぐに……」
「は? それは当然でしょ。だって先行プレイヤーh【ホントにお喋りが過ぎますよ、■■■。あなたは回収します】―――!!? ゴッドスピード様!?」
「なんだって!」
その声はエグゼイドやスナイプには届かない。運営特権の通信機能のようだ。仮面ライダーのレベル2などに搭載された秘匿通信が相手側でも可能らしい。
ゴッドスピードの言う通り、エリアボスは回収されていく。その光景が前階層の消え方と変わらないことから、その時の彼も同じように回収されたのだと確信出来た。
……ギアデュアルベータの失態には触れないのだろうな。
「ご、ごめんなさい! 私、全然敵のこと知らなくて。もっと情報があれば勝てたよ! まだやれる! だから! やめてぇぇ――――――」
【挑戦者と同じくらいの情報でいいじゃないですか。もう少しアタマを働かせてほしかったですね。さて、聞こえますか? 役目を失いゆくドクター諸君?】
「消えた……おい、どういうことだゴッドスピード! 最初から聞こえるように話せ!」
【ああ、すみません。ですが同じことをしたあなた方は人のことを言えないのでは?】
「屁理屈言ってんじゃねーぞ。他に大量にいるはずの先行プレイヤーはどうした」
【それはですね……おっと。その前にワタシの理念についてお話ししましょう。ワタシはずっとマキナビジョンの優れたVR技術に第一線で携わってきた。それは素晴らしく充実したものだった。そしていつしか気づいたんですよ。VRMMOこそが天国足りうると】
「……は?」
【ええ、ええ。バグスターウイルスを無様にも蔓延させ、未だに新型の脅威への対抗策が皆無! おまけに消滅者の復元等という次元で滞っている仮面ライダー! ……時代遅れにも程がある。だからこそ、ワタシが最後に、最大限にイノベーションし、利用してやるために呼び寄せたんですよ。そのシステムはワタシの世界のデバッグ作業にちょうどいい】
「……俺たちが走り回ってることが、この仮装世界を強固なものにする事に利用されてたってのか」
【やっと自分達の用途を分かってくれましたか。しかし、肝心なことがまぁだ察せていない。ワタシが導くのは全ての苦しみから解放される
なるほど、すべて事前に言っていたとおり。本当に理念だけで重要な情報を抜かしている。しかも質問を無視して自分語りだ。だが、後ろで震えているスナイプには何か思うところがありそうだ。
「ふざけんな! 現実をゲームに塗り替えるなんて絶対……いや早々できるもんじゃない! それにもしそんなことしたらリアルはどうなるんだ!」
【まあまあ、アナタたちの選択もすぐそこだ。これを見れば否応にも運命というものを感じ取れるでしょう】
そういってノアが出したのはプロジェクター。そこに映るのは多数のログイン記録。
まさか、これが示すのは……
「この膨大なログイン数は、先行プレイヤーの比じゃない! 通常販売が開始されてる!? まだ、発売日じゃないはずだろ!?」
「――まさか! ここと外との、時間の流れを改変してたのか!? もうそこまで……!」
「それよりこのままじゃ、みんなもウイルスに感染して……え?」
「なんだ、これ……天国へのキップ?」
見るからに怪しいものが付随したスカーフがプレイヤー全員に装着された。これで賛同者を募る算段なのか。
ちなみに、どの新規プレイヤーもバグスターウイルスに感染する様子はない。当然だろう。その役目は先行プレイヤーのものだ。
【その切符はきりたいときに切ってくれて構いません。もしそうすれば、ワタシの導く天国に誘うことを確約します。無論アナタたちもですよ、ドクター。尤も、その肩書はもうすぐ意味を失くす。たった一つの命に固執する必要が無くなりますからね! ワタシはノア=ゴッドスピード。世界を救い取り、仮想天国で満たし、導く者!
「あっ、アイツ言いたいことだけ言って切りやがった!」
「ど、どうしましょう大我さん。あいつの言ってることも気になりますけど、このままじゃ参加者が取り返しのつかないことに――!」
「くそっ、俺が戻る。戻って何とか言いくるめるしかねえ。お前らは一旦ここに留まれ。援軍が来るまでおとなしくしてろ!」
「わかりました、お願いします!」
変身を解いた永夢先生とスナイプが方針を決めた。どうやらここからは先生と二人になるようだ。スナイプは一目散にコンバットシューティングゲーマーで通ってきたゲートに飛び込んでいった。
……援軍を待つのは無理だろう。後ろから私たちを飲み込むべく、次のゲートが迫ってきているのだから。
人類だけじゃない。私の選択の時も近づいている。
……ノアの言う通りだと、思う。彼の目指す世界ではドクターが必要とされることはない。命の概念が塗り替えられた、限りなく理想の世界。これから永夢先生も、私も、それを思い知ることになるだろう。
…………ドクターの戦いなんてとっくに終焉を迎えた。永夢先生、あなたはそんな世界でも、一つの命を守ろうとし続けるのですか?
――第一章、則ち第一進捗が完了。
第二章:『生まれかけのevils』
……四月中報告予定。