Over Your World 作:Satellite WE'RE
第七話
……心が揺れる。
俺は今、CRのドレミファビートの筐体前にいた。俺がここにいるということは、再びゲームにダイブする算段がついたということだ。ちょっとしたバグワザを使うんだけどな。
「パラド、お疲れ様。『Over Your World』、確保してきたよ」
「ああ、ありがとポッピー。すぐにでも永夢達の下に向かわないとな」
そう、俺はポッピーのバグヴァイザーツヴァイに潜り込んでゲームにログインするつもりなのだ。つまり、緊急対応を任せていたポッピーの手が空いたって事だ。
……いや、違うな。それならどれほどよかったか。ポッピーや俺ではもう、手につかなくなってしまったからだ。
「普通に買えちゃったよ。まさか、発売日までに攻略が間に合わないなんて! しかもゲームの中では時間の流れまで歪められてるってどういうこと~!?」
「ああ、やられたぜ。宣伝がうますぎたんだ。バグスターウイルスへの特効薬どころか、ワクチンまで普及してる今、人類のバグスターへの関心が薄まってた。だから少しウイルスの情報がチラついたところで人類がゲームに進むのを止められるわけなかったんだ」
マキナビジョンはそもそも外資系の会社だったのに、ノア=ゴッドスピードが無茶苦茶やって発売まで漕ぎつけたんだから、実力が保証されてるのもたちが悪い。チラつくと言えば、もっと他のウワサが広まってたのも問題だ。
ネットで広まってるのはぶっ通しで『Over Your World』をプレイしていれば、リアルから解脱すれば痛みも苦しみもない天国に導かれるとかいう意味不明な妄言だ。それに惹かれる奴らの気が知れない。
正直、俺たちバグスターは人間の積み重なった疲労や悲しみには疎い。そんな胡乱なものを信じ込んでしまう訳は、やっぱりわからなかった。
「何なんだよ、『仮想天国』って。有限の命の定義が揺れるVRMMOだからそんなことをしでかすってのか。それにノせられる人間もどうなんだ」
「みんな、この世界がイヤになって、天国っていうものに魅せられてるのかな? 私、悲しい気がする。一つの命の大切さは人間みんなが教えてくれたのに」
ポッピーの、心がトゲトゲくる感覚は俺にもよくわかる。俺は今までの経緯を振り返った。
+++++++
俺はゲームを追放されてからとにかく舞い戻る方法を見つける為にネットを渡りまくった。しかし、事態はもっと深刻で、ゴッドスピードが企む恐ろしい計画の一部がわかってしまったのだ。
事の発端はあるVR専用機器だった。
ネットの海を彷徨う俺は何となくそれが気になって急浮上した。その先は人の家だったので誰かとバッタリで気まずい、なんてことにならなくてよかった。
「……ん? 何だこれ?」
俺が変な予感を覚えたVR機器は、まさしく『Over Your World』に使用されるもの。問題なのはそれが起動中だったことだ。
俺はその家で人間と出くわしてない。つまり、無人なのにゲームが起動していることになる。しかも、もしこれが正常な反応だったら遠隔で精神だけをVRMMOに飛ばしてるってことになる。そんなヤバいこと、バグスターウイルス関係に決まってる。
不審に思って色々調べてみたら、その機器の持ち主は先行プレイヤーで、やはり微量のバグスターウイルス反応を残したまま昏睡状態にあるという。
俺はその機器を持ち出して、持ち主の下に駆け込んだ。俺のバグスターとしての力で強引に干渉し、事情を聴きだすためだ。
「おい、聞こえてんだろ? 返事しろよ。俺はちょっとこのゲームについて聞きたいだけだ。なあ?」
「聞こえない、聞こえないよ! 僕は! 何も、知りません!」
「しゃべってるじゃないか。しゃーない。ちょっと強引に引っ張りだすからな」 〈マイティアクションX!〉
「え? ちょ、ちょっと何を! ぎゃー! 引っ張られる!」
全然応じないプレイヤーに呆れつつ、俺はプロトマイティアクションXガシャットオリジンを起動した。
ノイズ混じりの起動音が俺のレベルを下げまくってきたゲンムの下品な笑い声を思い出させてくる……今はどうでもいい。
このガシャットは聖都大学付属病院再生医療センターを訪ねて、八乙女紗衣子に貸し出してもらったものだ。
俺は先行プレイヤーは彼らが感染している特殊なバグスターウイルスによって、遠隔かつ自由意思で『Over Your World』にログインしていると推測した。
この考えが正解から遠かれ近かれ、感染しているウイルスを抑制出来ればプレイヤーの意識を引っ張り出せる。それが、レベル0のガシャットなら可能だった。
しかし、持ち主のレーザーは音信不通。ゲンムのガシャットは言わずもがな行方知れず。
そこで、かつて八乙女紗衣子が俺を縛り上げたときにガシャットオリジンの力を利用していたことから、抑制の技術を今も使えるのではないかと思い至り、突撃したのだ。
それにしても、再生医療センターに到着したときは驚いた。
なんと技術だけ貸してもらおうと思ってたのに、
それに研究所の面々は何だか皆忙しそうだった。当の八乙女紗衣子もかなり疲弊していた。
「ホントにサンキューな。これでゲームに惑わされてる人々を救うことができる」
「ええ、力になれるなら大歓迎よ。ただ、あまり多くは話せなくて……はあ」
「大分疲れてるように見えるぞ。あんまり根を詰めすぎないようにな。何でも再生医療に進展があったんだって? 人類もバグスターも、再生医療を応援しているぜ」
「…………、……これは、私の杞憂かもしれないけれど。マキシマムについて、頭の片隅にでも置いておいた方がいいかもしれないわ。いや、本当に杞憂だと思いたいけれど…………kシマムは本当に……?」
「ん? なんか言った……いや、参考にさせてもらうぜ」
……そうして、多くを追求せずに、急いでプレイヤーの下に来たわけだ。
コミュニケーションが取れたことで確信した。こいつら先行プレイヤーは本当に遠隔でゲームにダイブしてたんだ。今世界でログインし始めた普通のプレイヤーとはワケが違う。こいつらは完全にゴッドスピードとグルだ。
ガシャットオリジンの力が周囲に満たされていく。やはり大規模型なだけあって、セキュリティは万全だった。しかし、一人だけ、さらに俺の力が合わされば突破できる。
ガシャットオリジンの力でコイツの中に潜む、遠隔操作に作用していたであろうウイルスを抑制し、強制ログアウトさせる。病床を隠れ蓑に出来るのはここまでだ。
「さーて、わかるよな? お前たちの絶対が崩れたんだ。色々吐いちまったほうが楽になるぜ?」
「え、あ、そ……はっ、無理だって! ノアは絶対止めr、分かったわかったこわいわかったって! いう! いいます!」
そこから出てきた情報は耳を疑うレベルのものばかりだった。
まず、やはり先行プレイヤーはゴッドスピードが選んだ、というかそそのかした奴らだった。
今世界に出回ってる根も葉もないうわさと似たような文句でノせられたらしい。ただ聞いてる限り、選考されたプレイヤーの共通点はよくわからなかった。
そこは仕方ない、一番ヤバいのはそいつらがゲーム内や現実で『仮想天国』のことをいいように広めていることだ。広報が課せられた使命ってことなんだろうが、一部プレイヤーはエリアの支配権まで保有しているらしい。
でも、それならボスが自分の好き勝手にステージを作り変えて普通のプレイヤーに挑ませる形になってしまう。そんなつまらないゲームはプレイしたいと思わないはずなんだが。もしかしたら自分に従えばこんな自由に振る舞える、なんて宣伝になってるのかもしれない。
とにかく、ゴッドスピードがプレイヤーを仮想空間に集めて、その空間を拡張したいということはわかった。
バックグラウンドや最終目標はわからないが、俺が向かうしかない。
なんとなく感じている。俺の身体に異変が起きていることが。
八乙女紗衣子の心配は現実になってしまった。ゴッドスピードが俺を追放したときに仕掛けたのはブロックルーチンだけじゃなかったんだ。俺は、リプログラミングされつつある。
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ゴッドスピードはどこでそんなもん手に入れたんだろうか。
疑問は解決するどころか増えていくばかり。永夢の近くにはスナイプとアドルがいるが、アドルもきな臭くなってきた。一刻も早く出発しないと。
途中、幻夢コーポレーションに寄って色々協力してもらい、俺はポッピーとVR設備をCRで整えた。
「じゃあ、ポッピー頼んだぜ」
「うん、多分私もフウマと遭ってるから変身できないかもだけどログインはできるはずだよ」
「早くいかないと不味いからな。もし本当に俺の読みが正しければ、特に永夢が危ない」
「よ~し、パピプぺポチッとn「お待たせしました! ちょっと急に呼び出してどういう要件ですか? 色々予定を切り上げて来たんですよ~……」……えっ、作さん?」
「何だよ作。さっき協力して貰ったのは助かったけど、今取り込み中だ。忙しすぎてスケジュール管理間違ったんじゃないか? 別に誰も呼び出してないし、出来れば離れててくれ」
「ゴメンね作さん! 今チョ~危ないゲームに挑んでる永夢たちを助けに行かなきゃだから……あっ早くしないと、ポチっとな」
「えちょっと、皆さん!? ……そんな~、え、ホントのホントでs、みたいですねもういないもん……何だったんですかあ、せっかく言われたもの持ってきたのに……」
ポッピーのお陰でログインに弾かれない。安全にVRMMOの地に降り立つことが出来るだろう。
待ってろ、永夢。俺達が助けになるからな。
……なんて、活き込んでたけど。俺達はすぐに驚愕することになる。
確かに形作られた、天国を謳う地獄に。
命の重さが揺れる、もう一つの世界に。
********
「はい、僕は大丈夫です。それより、また事前情報と様子が全然違う……」
「そうだけどとにかく! ――本当に、無事で良かった……!」
「永夢先生、ありがとうございます。でもとにかく今はもう、進むしかありません。行きましょう」
「……番場くん?」
いったい何で急いでるんだ、番場くん。
……僕は改変VRMMOを進む宝生永夢。偶然目覚めた患者兼プレイヤーの番場アドルくんに協力してもらい、順調に突破していた。
ゲートに戻る大我さんと別れて、待機していた僕達は、背後から近づいてくるもう一つのゲートに気付かなかった。
僕達はそのゲートに飲み込まれ、目が覚めたら……身体が縮んで――
……なんてことはなかったが、実際次のエリアに飛ばされてしまった。番場くんの言う通り、確かにこのエリアも情報と違ったけど……彼は冷静過ぎる。なのに、どこか焦りも感じられる。
「何でそんなに焦ってるの? 今は迂闊に動き回るべきじゃないし、それに……僕には今の君の足取りに迷いがあまりないように思う」
「――! ぁ、いや、その……先生の言う通りです、本当に。今は現状をしっかり受け止めるべきですね」
……何とも判断に迷う返答だ。前者と後者、どっちの言葉を肯定したのか。
しかし、今の彼は協力者だし、何より僕の患者だ。彼は本当のことを話すと約束してくれた。しかるべき時まで、詮索は控えよう。
今回のエリアは絡繰り仕掛けの、忍者が潜んでそうなお屋敷。このゲームは脱出ゲームだけど、一番その要素が生かされているのはこのエリアだろう。
隠されたトラップ、不可視のジャマ―。どこかのテーマパークなんかで開催されてるであろうもののハイクオリティバージョンと言える。さらに、ハリケーンニンジャを作ったマキナビジョンなんだから、一番気合入ってそうなんだけど……このエリアも完全に改変されていた。
「やっぱり情報通りとは行きませんね」
確かに絡繰りの蠢く空間ではあるけれど、和モノからファンタジー系統のオブジェクトに様変わりしている。
明らかにプレイヤーを陥れることを目的としたような凶器や目線を感じる。ここはそのデッドリーウェイの出発地点みたいだ。
さらに、何かの受付、窓口のようなものもある。まさか、この改変ステージは……
「先生、これ、明らかにゲームを知ってる、のめり込んでるヤツのやり方ですよ。それにしても悪趣味な……」
「うん。それにここはなんだかギルドの受付みたいだ。ほら、アドベンチャーとかによくあるやつだよ」
「受付のNPCみたいなのは居ませんけど、マップがありますね。……まるでダンジョンだ」
ダンジョン。よくRPGなどに出てくるものだ。確かにトラップやエネミー、ジャマ―などがこれでもかと飛び出してくるイメージはある。
ここまで冒険の書にありそうなマップになってるってことは、相当ゲームに見識がある。一筋縄じゃいかないボスが待ち受けていそうだ。
「それにしてもここから見える奥行きだけでもトラップみたいなのが多いな……初見殺しが狙いなのかな?」
「……どうせ、この手のヤツが妄想してるのは度を越えた鬱憤晴らし。引っかかったらその先で……」
「え? なんて……そうだ、番場くん。ステージに挑む前にボスがどんなヤツか考察できるかな。君の考えを聞きたいんだ」
「ぇ、ええっと、はい。……そうですね。まず、エリアボスはゴッドスピードがステージを任せているわけですから、何かしら共通点があるとは思っていました。正直、今まで出会ったボスは両方とも、その、なんか小物でしたね」
「あ、ああ確かにそうだね……」
「でも、それらからにじみ出る欲望や妄想は嫌というほど伝わりました。
自分の思うがままに振る舞っている。まるでVRの世界ではどれだけ自由に振る舞ってもいいんだぞ、と力を見せつけてるかのように。
それはこれから挑戦してくるプレイヤーにはどう映るのでしょう」
「うーん、あんまり面白そうじゃないな~、とか、ステージが無茶苦茶になってる……、とか……?」
「答えは簡単です。みんな羨望するんですよ。
自分も毎日のストレスを忘れて、あんな風に暴れたい。日頃のしがらみから解放されて、好き放題したい。もちろん葛藤もするでしょう。しかし手ごろな力があれば……いえ、VRMMO、現実ではないからこそ、その衝動を抑えられない。
そしていつしかそれらの境界線すら曖昧になり、残るのは醜い欲望だけで暴れる人間ですらない、ただの狂信者だ」
「ええっと、そうかな? みんなそこまで、というか飛躍したような……」
「残念ですが人間なんてそんなものです。そしてノアの言う通りならこのVRMMOが導く世界が新たな人類の活動領域になるようです。そこを上手いこと扇動すれば、賛同者は大勢増えて、気付けばみんなが欲望のままに振る舞うでしょう」
なかなか辛口なコメントだ。やっぱりこの子は人間、というより何だろう? それも含めて良い印象を持っているものが少ないんだろうか。
僕の診療は患者を笑顔にするまで終われない。やはり、もっとこの子の事を知らないと。
「つまり、その……エリアボスは?」
「えぁ……長々となってしまいました。とにかくエリアボスに選ばれてるのは、己の欲望のままに振る舞う者で、その妄想や規模に応じて選定されているのかと。その最も大きな願望は……? なんだ? ……えっと」
「ああ、主人公かも! 今までのボスはみんなNPCより悪役向きの発言が多いヤツばっかりだったけど、みんな自分が主人公とか支配者って感じだったなあ」
ちょっとムーブが敵キャラ過ぎたけど、そんな感じはする。
僕は今まで色んな敵と戦ってきた。
ライダークロニクルの主人公を気取っていたパラドや、ゲームや世界のすべてをジャッジし、君臨しようとした支配者な檀正宗。
大分格は違うけど、抱いていた願望は案外似通ってるものがあるのかもしれない。
「主人公に支配者……? それが、願い? 一体なんの……? 僕は、 …………今は違う気がする」
「え?」
「ああいえ! 何でもないです。先生の言う通りだとしたら、このステージ、その最深部で待ち構えているボスがしているロールプレイは……ダンジョンマスターだ」
「ダンジョン、マスター……?」
********
――その頃。
「……ようやくこの時が来た。カーニバル、さしずめ最後の宴が始まる。……これで我が導きは最終段階に突入する。マジョリティとマイノリティの逆転。それは活動領域だけじゃない、人間もだ。この世界は、ゲームに呑まれたエンディングで幕を閉じるのだ!」
男は何もかもが上手くいっている現状を噛みしめ、狂乱のままに叫んでいた。必要なピースがほぼすべて集まり、進捗は滞りない。その足元には小星作が苦しみに悶え、うずくまっていた。
男はそれに目を向けることもなく、自分のあるべき世界に戻ろうと足を踏み出した。その手には誰かと繋がっている無線と、一つのゲームデータが宿るUSBが収められている。
「もちろん、これを仮面ライダーのアイテムになどさせない。あくまでマスターガシャットに組み込むためのものだ。……厳密にはそれすらガシャットではないのだが……ククッ、これだけは絶対突破出来ない!」
計画の絶対性を再確認した男の身体には培養されたウイルスが巡り始めていた。
勝利を確信した男は、最後のステージに向かう。人類すべてを、その手に収めるために。
・花家大我
全形態観測完了。
彼はファーストステージにてポッピーとパラドクスと合流するだろう。
・鏡飛彩
現在日本にはいない。
しかし、行先でウイルスと交戦し、解決に勤しんでいる為、観測は完了した。
・九条貴利矢
N/A
・檀黎斗
N/A