Over Your World   作:Satellite WE'RE

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第九話

 

 

 番場くんを介抱した僕は今後の動向について非常に悩んでいた。彼はあれきりしゅんとしてしまったように見える。

 今は進める状態じゃなさそうだ。

 

 それに、このダンジョンも問題だ。

 デバッグ作業は完了した。これでボスの無敵性はなくなり、エナジーアイテムも展開されていく。やはり、ここのエリアボスもデバッグなどの前ステージの動きは見ていないようだった。

 しかし、どう考えても進むことが出来ない。どこまで五感を惑わせて来るか、即死級のトラップがどこから飛んでくるか。進むのは憚られる。何より番場くんは……

 

「先生、やっぱり行きましょう。……忘れてるかもしれないですけど、僕は先生にずっと守られていて一度もアイテム使ってないんですよ」

 

「いやでも、やっぱり危険が過ぎるよ。何か、何かあるはずだ。君を脅威にさらさない方法が……『いつまでだらだらくっちゃべってるんだ』 ――!」

 

 な、ボスの干渉音声!? いや、なんで今まで来なかった? 正直あんな話してたのを聞いてたとしたら、すぐに止めに来るか何かするはずだ。

 

『早く手塩にかけた僕のダンジョンに入って。なんて、どうせ動かないだろから、ほらカチッとな』

 

「! せ、先生!」

 

「あ! やめろ! 番場くん、手を――!」

 

 エリアボスはじれったいといった感じで何かのクリック音を鳴らすと、なんと番場くんのいた場所に落とし穴を出現させた。

 そして、僕の伸ばした手は、届いた。しかし、下から吸収音が聞こえる。エグゼイドのSTRでも、引き上げるのが叶わないっていうのか――!?

 

『はあ、エグゼイド。今すぐにダンジョンに突入すればそいつのことは見逃してやるよ。ほら、さっさとしろ。実質選択肢ないぞ』

 

「……わかった」

 

 そう言って僕はダンジョンに入ることを約束する。するとまたクリック音がなったと思うと吸収音が止まった。番場くんを引き上げた僕に対し、ボスが嘲笑を隠せないとばかりに口を開く。

 

『はーい契約成立。それじゃ馬車馬のようにでいいから、自慢のステージに進んでよ。――景品も用意してやるからさ』

 

「――え」

 

 遅い。

 遅かった。彼がいない。

 現状を受け入れる前にモニターが頭上に出現する。そこには眼鏡をかけたいかにも普通な青年と、番場くんが、いた。

 

『ほらね、さっさと来ないからこうなる。まあ安心してよ。お前がその身を削って僕を楽しませてくれる間はこいつのことは保証してやるよ』

 

「――っっ! ……聴覚に干渉したな」

 

 レベル2じゃ、五感干渉は免れなかった。

 

『は~、流石に出来るな天才ゲーマー。そんなに冴えたら絶望が近づくだけだってのにな』

 

「ふざけるな! その子を景品だなんて!「先生、大丈夫です。信じてます」番場くん!?」

 

「おーい、景品の方から誘ってきてるぞ。答えてやれよなw まあ、気が向くうちは待ってるよ~』

 

「おい待て! ……そんな。番場くん……」

 

 ダメだ、行かないと。

 彼が攫われたのも、危険にさらしてしまってるのも、作戦を思いつかなかった僕のせいだ。

 ごめん、本当に……ごめん。

 

 迷う時間すら与えられない。急いで助けに行かないと!

 

〈マキシマムマイティX!〉

 

「マックス大変身!」

 

〈ガッチャ~ン! レベルマ~ックス!〉

 

 マキシマムを出現させながらダンジョンの始点で思い切り踏み込み、飛び出した。マップは頭に叩き込んだが、正しい物体認識が出来るかは怪しいし、そも正しい地図なのかもわからない。

 

 今まで培ってきたゲームでの感覚を信じるしかない。

 僕はステージのオブジェクトやアーティファクト、道のりから殆ど勘頼りでマスターダンジョンを駆けだした。

 

 

 

  *******

 

 

 

 

『ふぅ~、やっぱおっかないな天才ゲーマー。まさかそこまで進んでしまうとは』

 

「くそっ、やっぱり様相が……」

 

 鋼鉄化、マッスル化、伸縮化、縮小化、高速化、透明化、回復、風船化。

 

 永夢は数多くのエナジーアイテムを使用しながら息も切れ切れに迷宮をジェット噴射で進んでいた。

 これは地に足つけることで床のトラップを踏まないようにするためだ。しかし、その巨体で壁に激突しないようコントロールする微調整は精神を確実に疲労させている。

 

 救いだったのは迷宮というより迷路に近い形式で、高楼大廈などではなく、比較的天井が低めであったことだろう。

 設置されたエナジーアイテムは、一定の間隔で手を伸ばせば獲得出来る距離にあったのだ。

 

『しかしどうにも納得がいかないな。今の君がどうして曲りなりにも進んでこれるのか。お前、本領発揮出来てないっぽいのにさ』

 

「ッッ! 剣山!?」 〈マキシマァム、クリティカルブレイク!〉

 

 突然前方から飛来した、人を刈り取る形をしたトラップを蹴り飛ばす。

 その一撃で吹き飛んだ剣山は迷宮の壁に何度もぶつかりながら奥へ奥へと消えていった。

 数舜して、その軌跡上のオブジェクトが崩れ落ちていく。永夢は己の犯したミスを実感し、奥歯を軋ませた。

 

(まずい、手札を晒しすぎた。リプログラミングを見られた以上、更なる妨害と迷宮改変を仕掛けてくる!)

 

 永夢が危惧しているのは五感の妨害だけではない。正確にはエグゼイドにはダイナミックゴーグルやセンダーイヤーなどにより、ほとんどの感覚妨害は及ばなかった。

 だが、その情報とリプログラミングによるゲームの強制シャットアウト性能をボスに悟られることは非常に良くないものだと後悔する。

 

 相手が激昂するかもしれない。

 別のアプローチで自分を潰しに来る。

 事態は、さらに悪化する。

 

『挑戦者、プレイヤーの分際で、チートコード染みたもん持ち込むなんて、ゲーマーの風上にもおけないなあ……!』

 

「お前だってゲーマーだろ! 何でこんな戦い方するんだ!」

 

『まあそうだが、戦いたいならお前のプレイをもっと見せてくれよ』

 

 一方で、迷宮に入ってからというもの、エリアボスが延々侮蔑してくる点には疑問を抱いてた。可能性としては、危惧していたもう一つのものがある。

 

 迷宮のリアルタイム改変。

 今までのエリアボスの振る舞いから、ステージを改変できるのは大元のゴッドスピードが構築した層の上でオブジェクトを自在に改変していることがわかっている。

 しかし、それをこんな迷宮で、リアルタイムでこちらを観測しながら進路を書き換えられるなどたまったものではない。

 

 永夢は迷路の攻略法として、風向き読みと左手法(壁沿いに手を当てて進む攻略法)を採用していた。

 これは他のアルゴリズムを利用した進み方では分岐点などをリアルタイムで改変されてしまうからだ。

 しかし、理不尽な改変により、しらみ潰しやハイスピードカメラのフィルムにモンタージュ(アイライトスコープの機能)、バグスターウイルスを利用したジャマーやエネミーの解析(アイライトスキャナーの機能)がほとんど無意味にされてしまった。

 

(くそっ、目的地までの具体的な距離がわからない! やっぱり、このままじゃ――!)

 

 実は進行方向のみ、永夢には最初からわかっていた。事前に〈挑発〉のエナジーアイテムをアドルに投与していたからだ。

 これにより、常にどの方向にアドルがいるのかは分かるのだが、肝心のゴールまでの距離が不明。焦燥に駆られるのには十分な理由であった。

 

 横から圧死させんと迫りくる鉄壁。停止、躱し、塞がれた進路を粉砕する。

 すかさず目前に飛んでくる鉄球。絶え間ない連続の拷問。いくら機動力があっても、マキシマムのパワフルボディではよけることが出来なかった。

 ダメージを負い、ノックバックする。その衝撃で、ついに永夢は地面を踏み込んでしまった。

 

『やっとはまったか! それ!』

 

 瞬間、エグゼイドの身体に異変が生じる。一撃即死のトラップでもマキシマムにタダで通じることはないとわかってはいた。

 しかし、受けた感覚はもっと気味の悪いもの。

 永夢の身体が、勘が、最大限の警鐘を鳴らしている。理性的な判断をかなぐり捨て、永夢はすぐさまEXシェルターガードによるマキシマムの完全防御モードに移行した。瞬く間に五体が収納される。

 

(これは、ワープ!? 飛ばされて、此処は……マグマ)

 

 理不尽なトラップにより、永夢が投げ出されたのは触れるだけでゲームオーバーになりそうなマグマだまり。〈挑発〉が示す道標も反応しなくなるほどに遠い所に追放されたようだった。

 重力操作をされているらしく、吸引力が半端ではない。マキシマムのジェット噴射がどこまで抵抗できるかわからない状態だった。

 周りには倒したはずのエネミーがうじゃうじゃと徘徊している。ボスはミスを犯した者すべてをこのデッドゾーンに叩き落していたのだと永夢は推察する。その証拠に、エネミーはほぼすべてがゴーストタイプとなっていた。

 

 確かに短期間で挑戦者を痛めつける用意をするとしたら、一か所に地獄を構築し、ワープで絶望に叩き落とすというのは中々鬼畜で、納得できて…………義憤を覚えずにはいられないやり方だ。

 永夢はそんな非道にストレスを感じ始めていた。

 

 ライダーゲージが徐々にだが減少していく。完全防御モードでなければ今すぐに灰塵と化していただろう。

 身動きがとれない永夢に、エリアボスが嘲笑を投げかけてくる。

 

『所詮天才なんて名乗っててもそんなもんかwお~い、辞世の句ぐらいは聞いてやるよ~』

 

「……こんなのゲームじゃない。お前は自分が作ったコースのクリアチェックを出来ないのか? 僕はこんな人を陥れる為だけのゲームを、認めない」

 

『まぁだそんな煽り入れてくんのかよ。ノアが言ってるのと調子が違ったね。正直もっと口悪いイメージだったし、もっと進んでくると思ってたけど』

 

 ボスの言っていることには耳が痛くなる。

 永夢は今回、何故か変身しても()に目覚めなかったのだ。

 二重人格というわけでなく、気合が入るといった感じでゲームのときに性格が変わるタイプなのだが、永夢の場合はそうならないことが大変な問題だった。

 

 天才ゲーマーMの力が、失われていることを示している。

 

(この現象、前も経験した。……僕がパラドの遺伝子を、再構成した時だ)

 

 永夢は現在の自分の異変がかつての自分の危機と瓜二つであることに気付き、茫然とする。

 これは、自分はどこかで、誰かに、リプログラミングされたことに他ならないのだから。

 思い当たる節は一つしかない。ノア=ゴッドスピード。ヤツと最初に相対したときにその技術を使われたのだと、永夢は確信する。

 自分はゲームに挑む前にゴッドスピードと会合した覚えはない。その技術は厳重に保管され、EMR並みに機密情報として扱われていたはずなのに。

 

 だが、今そんなことを考えている暇はない。永夢は、絶体絶命だった。

 

『なんかあっけないなあ。まあ、お前は頑張ったほうだよ。他のプレイヤーやお前の仲間がクソな部分がでかかったからな』

 

「――何?」

 

『他のクソザコ実験プレイヤーは全然ダメダメだったよ。この仮想天国だってのに想像力が足りないんだよな。チャレンジャーにしてやったんだからちゃんと動いてほしかった。まあ、リアルナーフしたりしたのは悪かったけどwみんなゲームオーバーになったら幽閉されるんだからね』

 

「お前、他の先行プレイヤーをこんなダンジョンに挑ませたのか!?」

 

『当然だろ。ここはVRMMO。ダンジョンマスターがすたこら作ったラビリンス。それに挑ませていかに絶望に叩き落とすかが醍醐味なんじゃないか』

 

「お、お前、本当に……!」

 

 やはり、番場くんの言っていた通りなのか。

 永夢はボスの所業に苛立ちと失望を直に示せないのが嫌になるくらい、憤った。

 

『それとお前のお仲間だよ。見れないのは残念だったが、まったく手伝ってあげないなんてな。一人で死なせに生かせるなんていやらしいにも程がある。

 まあ、お前の末路はしっかり保存して、プレイヤーに流してやるからさ。先の犠牲者を参考にさせて下さってありがとうございます、今後のプレイの参考にさせていただきます、なんて感謝してもらわないと』

 

 違う、誰もお前のゲームを求めてない。

 

『聞いたところによるとウイルスまで味方につけてるんだって? しかもお前がいなくなれば完全に独立させてやれるんだとな? これはもっと僕を褒めてくれないと困っちゃうなwお前の枷を排除してやったんだぞ感謝しろ、ってな』

 

 みんな自分のやるべきことをやってるんだ。

 

『じゃあな、ただのゲーマー。お前のプレイはちゃんと参考にさせてもらうから』

 

 知った風な口を、聞くな。

 

「…………るな」

 

『……ん~~?』

 

 ゲージは残り僅か。

 

「ふざけんなって、言ってるんだ!」

 

 永夢のストレスは最高潮だ。

 

「誰もかれもが自分とみんなの命を大切にして、必死に生きてるんだ! それを、誰かが、お前が、弄ぶなんて許さない! 

 僕の仲間だってそうだ。一緒に戦ってきてくれた大我さん! きっと外国でも戦ってる飛彩さん! 今もどこかで調査してる貴利矢さん! 緊急対応に励んでくれてるポッピー! 一緒にゲームに挑んでくれた番場くん! そして……僕のかけがえのない相棒である、パラド」

 

 そう言い放った永夢は完全防御モードを解除した。

 飲み込まんとするマグマに対抗噴射するマキシマムゲーマを足場にし、その姿を晒したのだ。

 

 その手には一枚のエナジーアイテム。

 自分の信じる、〈相棒〉の奇跡を予感させる一枚。

 

 ボスはその挙動を見逃さず、重力場を一層強くする。さらに周りのエネミーの思考ルーチンを書き換え、今にも飛びつかんとさせる。

 永夢は重力に耐えきれず、ゲーマに膝をついてしまった。

 

『死に様は一瞬が良かったか! 自分一人じゃ何も出来ないお前は、一人にした周囲を憎んで、そのその命を終えるんだ!』

 

 そうじゃない。ボスの挑発に乗ってはいけない。

 仲間の奮闘する様を思い浮かべた永夢は、心を冷静にしていくことが出来た。

 今、己が抱くべきものはなんだ? 出来ればヤツへの意趣返しに、否定になるか? 

 走馬灯のように、仲間と駆け抜けてきた軌跡が浮かんでくる。

 

 そして、永夢が行き着いた想いは――『感謝』だった。

 

「違う、僕はあきらめない。信じあう仲間のために。世界中の命のために。僕はお前の挑発には乗らない。僕が皆に、悪意を抱くわけがない。そんなものより、示すべきものがある。僕は共に駆け抜けてきた仲間に、感謝してる」

 

『先生……』

 

 なにより、目の前に救いが必要な患者がいる。

 永夢が覚悟をきめるのは必然だった。

 

「みんなの運命は、()()()が変える!」

 

 永夢は立ち上がる。

 その瞳を赤く輝かせて。

 体内のバグスターウイルスを活性化させ、エナジーアイテム〈相棒〉をパス、媒介とし、信じる仲間と繋がる()()()を獲得したのだ。

 

 そして、運命を変える為、その手には奇跡のピースが握られていた。

 

〈ノックアウトファイター2!!〉

 

〈The strongest fist! "Round 2" Rock & Fire!〉

 

 すかさずドライバーに挿入されるガシャット。軽快な選手入場を思わせる音声が鳴り響く。それは、ここからが本番だぞと言わんばかりの威風。

 エネミーも、ボスも、アドルもそれをひしひしと感じ取っていた。

 場はすべて整った。永夢はレバーを思い切り展開する。

 

「変身!」

 

〈ダブルアップ! 「俺」と「僕」の拳! 友情の証! 超キョウリョクプレイ! ノックアウトファイター2!〉

 

 参戦するのは二人の闘士。

 信じ、思い合い、ストレスを感謝に昇華する。

 そのすべてが相棒を、パラドを引き寄せるに至った。

 

 ―――奇跡はここに極まった。

 今再び、エグゼイドとパラドクスが一つになり、ダブルファイターゲーマーレベル39が降臨したのだ。

 

「永夢、お前が運命を変え、奇跡を起こすこと、信じてたぜ。サンキューな」

 

「ああ、()もだ。……ここからは」

 

 

「「超キョウリョクプレイで、クリアしてやるぜ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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