ワールドトリガー x ウルトラマンZ   作:全て儚き名も無き遠い理想郷

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詳しい説明や設定は次回以降にしていきます。
ワールドトリガーの基本情報も次から入れていきます。
それではどうぞ。


第1章 ご唱和ください、我の名を!
春川夏樹


「お姉ちゃんの声、聞こえてる?」

 

聞こえてるよ、と返したかったけど口が動かない。

それどころか体全体の感覚がほとんどない。

視界は黒い布でも被せられているみたいに真っ暗で、体全体がフワフワと浮いているみたいな不思議な感覚だ。

耳が何とか機能していることが奇跡のように思えた。

 

「ねえ、夏樹」

 

姉の声がそっと語りかけるような口調に変わった。

そして、俺のことを夏樹と呼んだ。

それはつまり、今から聞き逃してはならない重要なことを話すという姉からのサインだ。

 

「お姉ちゃんさ、夏樹が綺麗な女の子を「この人、俺の彼女だから」って感じで紹介しに来るまでは死なないつもりだったんだけど、それはどうやら無理みたい。ごめんね」

 

姉が何を言っているのか理解できなかった。

言いたいことを汲み取れない。

いつもこの話題になれば「なっくんに彼女はいなくていいの!お姉ちゃんだけいればいいの!」って言ってたじゃないか。

何故、そんな優しい口調で言うのか。

 

「大丈夫だと思うけど、秀次君とは仲良くね」

 

心配しなくていいよ。

 

「お父さんとお母さんのことは気にしないでいいから。好きな事を好きなだけやりなさい」

 

わかってるよ。

 

「お風呂には毎日入りなさい。時間がなかったらシャワーでもいいけど必ず髪と顔と体は洗うこと。夜更かししてもいいけど程々にしなさいね?熱中すると時間を忘れちゃうんだから時計をちゃんと確認すること。それから……」

 

まるで、一生会えなくなるみたいな口振りで姉は語っていく。

やめてくれ、そんなこと言わないでくれよ。

死ぬまでずっと家族だって言ったじゃないか。

一人ぼっちにしないって約束してくれたじゃないか。

父さんや母さんみたいに勝手にいなくならないって言ったじゃないか。

俺が作家になるのを見届けて、入ってきた印税で豪遊するんじゃなかったのかよ。

 

「お姉ちゃんはずっと一緒にいるから。ずっと一緒にいるからね」

 

そう言って姉は俺の右手を優しく握る。

感覚がないはずなのに、いつも感じていた姉の手の暖かさを感じる。

 

「困ったら迅悠一って人を頼りなさい。ぼんち揚食いながらセクハラするカスだけど頼りになるから。私の名前を出せば話を聞いてくれるはずよ」

 

やめてくれと叫びたかった。

迅悠一って人が誰なのか、姉が今から何をしようとしているのか、全くわからない。

それでもやめてくれと叫びたかった。

 

「愛してるよ、夏樹。ずっと一緒だからね」

 

そう言った姉の表情はわからない。

右手に感じる暖かさが次第に強まっていく。

暖かさが強まっていくにつれて強烈な眠気が襲ってきた。

それに抗おうとしたが、俺は意識を手放した。

意識を手放す直前、涙をこぼしながら笑みを浮かべる姉の顔が見えた気がした。

 

 

 

その日。

俺ーー春川夏樹は姉を失った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「お、嵐山隊じゃん。毎度のことながら人気凄いな」

 

ソファに寝転がっておにぎりせんべいを食べながら神崎一夏がテレビに映る嵐山隊の面々を見て言った。

嵐山隊は「ボーダーの顔」としてメディア露出が多いため、知名度が高い。ボーダーについてよく知らない人でも嵐山隊の事は知っているという人が多いほどである。

 

「あれだけテレビに出てれば嫌でも覚えるわよ」

 

デスクの上で書類作業をしながら朝田詩乃は溜息を吐きながら答える。

確かに嵐山隊はテレビに毎回出ているわけではないが、さっきも言ったようにメディア露出が多いので帰ってきてテレビをつけたら映っていたなんてのはよくある話だ。

 

「夏樹君、こっちの書類終わったよ」

「ありがとう。こっちで確認する」

 

詩乃の隣で書類作業をしている結城明日奈が向かいに座る春川夏樹に書き終わった書類を渡す。

夏樹は明日奈から書類を受け取り、簡単に確認を済ませてからファイルに入れる。

 

「一夏!寝ながら菓子を食べるな!」

 

夏樹の隣で書類作業をしていた君塚暁が立ち上がって一夏を指差して注意する。

それに対して一夏はめんどくさそうに頭を掻きながら答える。

 

「んだよ、ポテチじゃなくておにぎりせんべいだぞ?何処に汚れる要素があるんだよ。おにぎりせんべいに失礼だろうが」

「あにぎりせんべいが悪いなんて一言も言ってねえよ!お前のマナーがなってないって言ってるんだ!」

「じゃあ明日からじゃがりこにするから機嫌直せよ」

「寝転んで食うのがダメだって言ってるんだよ!菓子を変えろなんて一言も言ってねえ!」

 

一夏と暁が言い合いを続けているが夏樹も詩乃も明日奈も気にせずに書類作業に意識を向ける。

いつもの事だから誰も気にしていないのだ。一夏が暁に注意されて直す気がないことも、暁が最終的に折れるのもわかりきっているので誰も口出しをしない。恐らく明日か明後日には一夏がマジにじゃがりこを持ってきて暁がツッコミを入れるだろう。

そんな感じでいつものように書類仕事をしていると詩乃が夏樹に聞いた。

 

「というか夏樹、あんた本部に呼ばれてたんじゃなかった?」

「この書類を終わらせたら行くつもり」

「後は暁に任せるから行ってきなさい。上層部の人たち、特に根付さんあたりは遅れるとねちっこいわよ」

「ちょっと朝田さん?何自然な流れで俺に仕事押し付けてるんすか」

「そうか?でも暁に押し付けるのも悪いし…」

「あの春川さん?心配してくれるのは嬉しいが、なんで俺に任せるのは決まってるんですか」

「気にすんな。どうせ報告の後に嫌味言われるだけなんだから早く言って終わらせてこいよ」

「書類作業してないお前が何でちょっと偉そうなんだよ!」

「そうだな。それじゃあ、行ってくるよ。暁、悪いけど後は頼めるか?」

「なんで俺の意思は反映されないんだよ!別にいいけども!」

 

暁に残っていた書類を渡すと夏樹は部屋を出て行った。

夏樹が部屋を後にしてから間もなくして一夏が口を開いた。

 

「今日は何の用で呼び出されたんだよ。定期報告は先週済んだだろ?」

「特空機の予算申請の件についてだって聞いてるよ」

 

一夏の疑問に明日奈が答える。

 

「先月許可が下りた記念で隊長が焼肉おごってくれたから多分違うだろうな」

「どうせ、()()()()とかでしょ。それか特空機の件でのクレームか」

 

暁の予想に詩乃がめんどくさそうに返す。

夏樹、一夏、詩乃、明日奈、暁の五人はボーダー総武支部に所属するボーダー隊員である。

ボーダー総武支部、別名ストレイジは「対近界民特殊空挺機甲」通称・特空機と呼ばれる独自の対近界民用ロボットを操縦して近界民と戦っている。トリオン兵との戦闘を含め、瓦礫撤去や消火活動や救助活動といった近界民災害への対処を任務としている。

 

「まあ、特空機あってもA級部隊が出れば並みのトリオン兵なんざ瞬殺だし、クレームを言いたくなるのもわかるけども」

「仕方ないだろ。幾ら後始末をやるって言ったって巨大ロボットがやるのと人間の回収班がやるのとじゃ事情が変わってくる」

「目的が違うってんだよ」

 

しかし、特空機の評判ははっきり言って良くない。

特空機1号セブンガーの身長は55m。55mの巨大ロボットがトリオン兵を駆逐するわけでもなく、ただ瓦礫撤去や消火活動のためだけに出撃し、作業の間は立ち入り禁止や通行禁止などの規制がかかり生活に支障が出るとの声が多数。

対してボーダーの回収班は回収や現場検証などをスピーディーにこなすからとても助かるとの声が多数。

一夏が言うようにボーダーの回収班とストレイジの特空機は目的が異なっている。

ボーダーの回収班はボーダー隊員に撃破されたトリオン兵の回収が目的で、ストレイジは瓦礫撤去や消火活動といった災害への対処が目的だ。

 

「それにしても()()A級でここまで扱いが違うかね」

 

そう言った一夏に暁が「一夏!」と声を荒げる。

()()()はストレイジメンバーの間では暗黙の了解でNGとなっているからだ。

 

「…悪い」

 

一夏は視線を落としながら答えると「空気悪くしたから何か買ってくるわ」と言って部屋を出た。

 

「明日奈、一夏も悪気があったわけじゃないのよ」

「うん。わかってる。ありがとう、シノのん」

「まあ、一夏の言いたいこともわかるけどな」

 

一夏は仲間の気にしている事を平気でべらべら喋るような男ではない。それをわかっているから誰も追い打ちをかけるようなことを言わない。

明日奈と詩乃が書類作業に戻る中、暁はテレビに映る嵐山隊に目を向ける。

嵐山隊に何か恨みがあるわけでは無い。

自分がボーダーに入隊したのは約1年前、それも少しワケありでこの総武支部にスカウトと言う形で。

 

(夏樹が帰ってきたらフォローだな)

 

暁は夏樹が戻ってきたときのことを考えると再び書類作業に意識を向けた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ー春川夏樹sideー

 

 

「報告は以上です」

 

ボーダー上層部に呼び出されるのは今月に入って2回目になる。

前回は先週に特空機2号の予算申請の件で呼ばれた。

今回は特空機1号セブンガーの活動報告で呼ばれたが、あくまでそれは()()()()()だ。

今日、この場で行われるのは俺の()()()()だ。

 

「特空機1号の声は耳に入っているかな?」

「はい」

 

メディア対策室長の根付さんがそう言って手元の資料に指を立てて言葉を続ける。

特空機1号セブンガーの評判は良くない。

セブンガーは予算や様子見の都合に加え、災害への対処を目的としているのもあってトリオン兵を撃退するのに適した武装を備えていない。そのため、トリオン兵を相手にしてもボーダー部隊よりも時間がかかり、それに伴って周辺への被害も大きくなってしまう。

 

「実に良くない。ボーダーの管轄だということをわかっているかね?」

「理解はしています」

「特空機の開発に幾ら金を持ってかれているのも理解しているのか?」

「自分が理解できている範囲では」

 

本部開発室長の鬼怒田さんが鬱陶しそうに言う。

セブンガー開発の段階でかなりの予算を持っていかれた、と隊長から聞いている。

怒るのは当然だと思う。ノーマルトリガーの量産や技術発展にもかなりの予算を食われる上に、隊員たちの持つトリガーの修理やカスタマイズにも使用される資金をセブンガーは持って行ってしまったのだから。

資金を提供しているスポンサーからも「意味のない巨大ロボットを作るのなら提供しないぞ」との声がいくつも寄せられている。事実、いくつかのスポンサーはセブンガー完成を機に離れたと隊長から聞いている。

 

「だが、セブンガーは瓦礫撤去や消火活動において結果を出している」

 

本部長の忍田さんの言う通り、確かにセブンガーは瓦礫撤去や消火活動で結果を出している。

トリオン兵を撃破する点で見ればボーダー隊員に劣るものの、瓦礫撤去や消火活動においてはセブンガーの方に軍配が上がっている。

トリオン体になることで身体機能は確かに向上するが、それでもセブンガーとトリオン体の人間数人とでは処理速度が違ってくる。自分の体の倍はあるコンクリートの柱をトリオン体の人間は数人がかりでようやく持ち上げられるところをセブンガーは片腕で難なく持ち上げられるし、何ならそのままキャッチボールの感覚で投げることだってできる。

 

「私が問題視しているのはセブンガーのパイロットが春川()隊員、君だけだという点です」

「先週お伝えした通り、自分以外のメンバーも総動員で動いています」

「根付室長、彼は今でも隊員だ。ストレイジはボーダーの管轄、そのようなことを言うのはやめていただきたい」

()()()()がですか?」

「根付室長!あなたはまだそんな出まかせを…!」

「根付室長、忍田本部長。そのことについてはまたの機会にしてもらおうか」

 

ボーダー最高司令官の城戸さんが口を開いた。

城戸さんの言葉に根付室長と忍田本部長は口を閉じる。

会議室の空気が静かになったところで城戸司令は俺をまっすぐに見据えて口を開いた。

 

「結城くんの様子はどうかね」

「体調に問題はありません。チームメンバーとも上手くやれています」

「君はどうかね。何かあれば言ってくれて構わない」

「問題ありません。自分は自分のできることをするだけですから」

「…そうか。時間を取らせてしまったな、下がっていい」

「はい。失礼します」

 

一礼してから会議室を出る。

会議室を出ると空気が澄んでいることをなんでだか考えてしまう。会議室の中が緊張状態にあるからだろうか。

 

「さて、戻るか」

 

暁が頼んできた仕事を終わらせているかもしれないが確認のためにも戻らねば。

取り敢えず、特空機2号の件については問題なさそうだ。セブンガーについても市民からいい声を聴かないというのは毎度の事なので、今まで通りに運用していく方向で問題はないはずだ。

今の時間は夕方なので隊員が増え始める頃だ。あまり顔を出したくないので早々に立ち去らねば。

俺はとある事情からボーダー本部では浮いた存在だ。根付室長が俺を()隊員と呼んでいたのもその事情が絡んでいる。

 

「春川じゃないか!」

「嵐山さん」

 

と思った矢先に知り合いに見つかった。

話しかけてきたのは嵐山隊隊長の嵐山准さん。テレビと変わらないぐらいの爽やかさだなと会うたびに思う。

 

「上層部に呼ばれてたのか?」

「はい。嵐山さんはテレビからの帰りってところですか?」

「ああ。今日は生放送だったからな。見てくれてるのか?」

「うちの隊員が見てまして」

「そうか。お前も元気そうで何よりだ」

「嵐山先輩、その人は?」

 

話しかけてきたのは木虎藍。確か俺が本部を離れてから嵐山隊に入隊してエースを担っていると聞いている。

といっても隊長経由で得た情報なのだが。

 

「木虎か。彼はストレイジの春川夏樹だ」

「春川夏樹…?あの()()()()ですか…!?」

 

嵐山さんが俺の名前を出すと木虎さんは一歩下がって睨みつけてきた。ここでトリガーに手を伸ばさないところを見ると、俺は忍田本部長の言う通り()()隊員として扱われているみたいだ。

 

「春川夏樹です。よろしくお願いします」

「一体、何のつもりですか?」

「本部に呼ばれた帰りに嵐山さんと会って話してただけです」

「そうですか。私たちは忙しいのでお引き取り願いますか?」

「木虎、春川は…」

「嵐山さん」

 

俺は木虎さんに事情を話そうとした嵐山さんを止める。

 

「しかし、春川…」

「事実ですから仕方ありません。俺は戻ります、お忙しいところすみませんでした。木虎さんも、ご迷惑をおかけしました」

「そんなことはいいですから早くしてください」

 

嵐山さんに頭を下げてから二人の横を通り過ぎていく。

通り過ぎる際、木虎さんが少し距離を開けたが仕方ないことだ。

()()()()と呼ばれても仕方ない。こうして違う形でボーダーに残してもらえているだけでもありがたいぐらいだし、ましてや嵐山さんみたいに接してくれる人がいるだけでも感謝しなければならない。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「木虎、前にも言ったが春川はあんなことをするようなやつじゃない」

「嵐山先輩は甘すぎます」

 

夏樹が去ってから嵐山隊作戦室にて嵐山と木虎は夏樹について話していた。

春川夏樹の名をボーダー本部内で知らない者はいないと言われるほどに彼の名前は広がっている。

()()()()

曰く、同じ部隊のオペレーター以外のメンバーを防衛任務の最中に背後から襲撃して殺害した。

それが原因で1年ほど前に隊員資格を剥奪されたが、同時期に新設されたボーダー総武支部、通称ストレイジの所有する特空機1号セブンガーの専属パイロットとして組織に留まっている。

 

「彼を気にかける必要はありません。理由はどうあれ彼が()()()()と言われるだけの事をした事実は変わりませんから」

「なんて、言ったの」

「っ、綾辻…」

 

嵐山隊オペレーターの綾辻遥がいつもの穏やかな雰囲気を消して作戦室の入り口に立っていた。

木虎が言った言葉を全部聞いていたのだろう。彼女は夏樹がまだ本部にいた頃から関わりがあり、夏樹が本部所属でなくなった今でも()()()()と呼ばれていることを嵐山以上に気にしていた。

 

「夏樹君がそんなことをする人じゃないって前にも言ったよね?」

「綾辻、落ち着け。木虎は別に春川がやったって決めつけてるわけじゃない」

「彼が()()()()と呼ばれるだけの事をした事実は変わりません。もし、そうでないとしても彼が否定をしていないのなら、それは後ろめたいことをしたということの何よりの証明です」

「何がわかるっていうの…!彼の事、何も知らな……」

「そこまでだ綾辻。木虎も少し熱くなりすぎだ。綾辻、少し頭を冷やしてこい。今日はこの後何もなかったから上がってもいい」

「…わかりました」

「…少し出てきます」

 

嵐山に言われて木虎は書類に目を向け、綾辻は作戦室を後にした。

遅れて戻ってきた佐鳥と時枝は様子を見て事情を察したのか嵐山に声をかける。

 

「春川さんに会ったんすか?」

「ああ、上層部に呼ばれてたみたいで声をかけたんだよ。その時偶然、木虎と遭遇してな」

「仕方がないですよ。春川さんがいなくなったのは木虎が丁度うちに入ったぐらいの頃ですから、面識もないでしょうし」

「俺たちも何があったのか詳しく知らないっすからね」

「まあ、何かあれば木虎と綾辻のフォロー頼む。二人も春川に今度会ったら何か話してやってくれ。俺は綾辻の所に行ってくるから」

「はい」

「了解です」

 

そう言って嵐山は作戦室を出て綾辻を追いかけた。

この話題になると木虎と綾辻は衝突することが多々あった。日常生活や任務、広報活動での連携に支障は出ていないものの、この話題になると今のようになるため嵐山たちはこの話題を出さないようにしていた。

 

「時枝先輩たちもあの人の事を庇うんですか?」

「春川先輩は良い人だったしね」

「あの人が何の理由もなしにあんなことするとは思えないしね」

「…私が間違ってると言いたいんですか」

「そうじゃないよ。木虎は入れ違いになる形でうちに入ってきたから先輩の事を知らなくて当然だし、綾辻さんは先輩と関わる機会が多かったから気持ちが入っちゃうのも当然だからね」

 

ただ、関わったかことがあるかないかの話だ。

もし木虎が()()()()と呼ばれる前の夏樹と関わっていたなら考えや印象は変わっていたかもしれない。木虎がA級にいた頃には夏樹は本部から去っていて互いに関わることがなかった、ただそれだけの事でしかない。

 

「ただ、綾辻さんみたいに先輩を信じてる人がたくさんいるのをわかってくれればいいよ」

「…そうします」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その頃、三門市警戒区域にて。

 

「現着した。大型近界民(ネイバー)の撃破を確認。かなり派手にやってる、どこの部隊の仕業だ?」

『調べるわ。ちょっと待って』

 

三輪隊隊長の三輪秀次はオペレーターの月見蓮に撃破した部隊を調べさせる。

 

「すっげー。バッラバラじゃん。こりゃA級の誰かだろー」

「…だろうな」

 

同じ部隊の米屋陽介の言うように三輪は先着した他のA級の誰かかA級部隊だろうと考えていた。A級でなくともB級上位あたりだろうと目星をつけていた。

しかし、月見から帰ってきたのは予想しなかった答えだった。

 

『…おかしいわね。先着した部隊はいないわ』

「なに…?」

 

当然の疑問だった。

しかし、自分たちが来るよりも先に撃破されているのは明白だ。

 

『他の部隊はそこに来てない。私たちが一番乗りのはずよ?』

 

先着した部隊が報告をしなかったのか?

それは考えられない。現着して撃破したなら自分のようにオペレーターに報告するのが当たり前だからだ。

そもそも、報告をしない理由がない。

報告を忘れるようなミスならば納得がいくが、B級であってもそのような初歩的なミスをするかと聞かれれば疑問だった。

 

「…どういうことだ?じゃあ一体、誰がこれを?」

『セブンガー着陸します。セブンガー着陸します』

 

疑問が解決するよりも先にストレイジが到着した。

周辺の住民や現着しているボーダー隊員への合図として鳴るアナウンスは最早聞き慣れたほどだ。

一年を通して最早見慣れるようにもなった巨大ロボットーーーセブンガーはアナウンスを響かせながら着陸する。着陸すると首付近のコックピットハッチが開き、そこからパイロットが姿を見せる。パイロットは三輪の幼馴染でありセブンガー専属パイロットの春川夏樹だ。

 

「ストレイジ現着しました。お疲れ様です」

「…ああ。被害状況の確認と撤去作業を頼む」

「了解しました」

 

それだけ済ませると夏樹は一礼をしてから足早にセブンガーへと戻っていく。

程なくしてセブンガーが起動し、瓦礫撤去の作業を黙々と始めた。

 

「話してかなくていいのか?」

「…互いに仕事中だ」

「そうかい」

「…引き上げる」

「はいよ」

 

米屋は深く聞かなかった。三輪と夏樹の関係を知っていて、当人たちの間でいざこざはないとわかっていたからだ。

自分にも変化はあった。

だが、彼を取り巻く環境は大きく変わった。

 

『…彼、()()()()以来、すっかり変わったわね』

 

月見の言葉に三輪は何も返さなかった。

言われずともわかっていた。

何が変わったのか、何が変わらないのか。

 

『前のようになれたらいいのだけど』

「…ああ」

 

三輪は短く返した。

前のように、それは()()()()が起こるよりも前。

基地へ戻る最中、三輪の頭に先着した何者かについての疑問はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




警戒区域外に出現する近界民。
撃退したのはC級隊員の三雲修だった。
駆けつける嵐山隊とセブンガーを駆る夏樹。
そして、空から飛来する宇宙怪獣ベムラー。

次回、【空より来たるモノ】
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