鷹岡が教室から出た後皆は絶望していた。当然だろう。またあの体罰授業を受けなければならないのだから。
「鳥間先生~私たち鷹岡先生の授業受けたくないよ」
そう言う倉橋に対して鳥間先生の目に迷いがなかった。
「俺が理事長と交渉する。皆今日はもう帰ったほうがいい」
「その判断は賢明です。私は政府の所に行きます」
殺せんせーもオレ達の事を思っている。政府を脅してでも、オレ達を守るつもりらしい。いくら理事長に権力があったとしても政府が鷹岡を辞めさせる事はできなくはない、上からの命令で自主退職という形で。
まあ、それだけ鷹岡が危険ということなのだが。あんな授業を受けていたら体が壊れるしな。
皆も鳥間先生の言う通りに帰宅する。鳥間先生と殺せんせーも行ってしまった。
オレは一人で教室に残る。そしてある人に電話をしようするが誰かが教室に入ってきたのでやめる。神崎だ。
「まだ帰ってなかったのか?」
「綾小路君・・・私を庇ってくれたんですね。そのお礼を言いたくて」
そのためだけにここに来たということか。
「オレは何もしていない。むしろ潮田に言うべきじゃないのか?」
あいつは一度でも鷹岡に勝った。オレ達の仇を打ってくれたんだ。
「もちろん渚君にも感謝しています。ですが綾小路君にも感謝してるんです」
感謝をされることはしていないがこれ以上否定しても意味がないか。
「気持ちは受け取っておく、だが今日はもう帰ったほうがいい。いつ鷹岡が戻ってくるかわからないからな」
「ですが綾小路君も・・・」
「オレは少し用があるからな。」
そう言っておけば神崎も納得してくれるだろう。
「わかりました。それではまた明日」
神崎が頭を下げ教室から出る。それからしばらくすると外が騒がしくなる。何事かと思い外に出ると、鷹岡が神崎を捕まえていた。
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神崎視点
教室から出ると鷹岡先生がいた。
「なんだ?皆いないと思ったら、どうやら俺の授業を受けたくないようだ。・・・悪い子達だなぁ。そう思わないか?」
ニヤリとながらこちらを向いて、私に聞いてきた。
「もう皆さんはあなたの授業を受けるつもりはありません」
これは私達の本心。逃げずに言えばいつか伝わってくれるはず。逃げてはダメだと殺せんせーに教わりました。
「まだわからないのか?いいか、お前らの父ちゃんは俺だ。もう二度と身も心も逆らえないように、徹底的に教えてやるからさぁ」
しかし鷹岡先生には伝わらず、高らかに笑いながら私を捕まえ殴ろうとする。私は目を瞑った。しかし私が殴られることはなかった。
目を開けると綾小路君が鷹岡先生の腕を掴んでいたのだから。
「綾小路君!?」
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「あんた今全力で殴ろうとしただろ。彼女を離せ」
この男は今全力で神崎を殴ろうとした。それは前原やオレの時とはレベルが違った。止めなければどうなっていたか・・・。
「あ?なんだお前。お前も教育が足りないようだなぁ」
鷹岡は神崎を離してこちらに向く。
「まずはお前だ、先に教えてやるよ」
「逃げてください、綾小路君。私は大丈夫なので」
神崎はオレが危険だと判断した。そして自分を犠牲にしてまでオレを助けようとしてる。
だが・・・
「大丈夫だ神崎、心配されることは何もない。」
鷹岡が全力でオレを殴りにきた。オレはそれを難なく避ける。
「ん?」
鷹岡は避けられる事を想定していなかったようだ。そしてオレは言葉を出す。
「やっばり対したことないんですね、潮田に負けているからな」
「このっ!!」
オレの挑発が効いたようだ。
まあ実際そんな事はないんだけどな。鷹岡は強い、なにせ戦闘のプロだ。潮田も暗殺で勝てただけにすぎないからな。しかしオレはホワイトルームで大勢のプロと戦ってきた。そしてあっけなく勝てるほどの実力を手に入れた。オレから言わせれば鷹岡は今まで戦った中で中の下位だろう。
そしてこいつは今焦っている。鷹岡は暴力で恐怖させ支配する人間だ。しかし暴力で支配するなら常に相手の力量を上回らなければならない。鷹岡は潮田に負けた。それにより支配力が大幅に下がるのを何より恐れている。現にオレが潮田の名前を出した途端に鷹岡は明らかにイラついているのが何よりの証拠だ。
「あのガキのせいで・・・まずお前から教育してガキどもに力を見せつけてやる!!!」
そして鷹岡が叫びながら襲いかかる。こちらは遊ぶつもりなんてない、あまり長い時間をかけるのは得策じゃないからだ。オレは素早く鷹岡の間合いに入り、喉元を全力で手刃打ちをする。
「~~~!?」
鷹岡が声にならない声が漏れる。冷静なら避けれたはずなんだがな。
そして呼吸困難になった鷹岡に意識を刈り取るほどの威力で回し蹴りを顔面に叩き込んだ。鷹岡は崩れ落ち意識をなくした。
この異様な光景に神崎は言葉が出なかった。
「大丈夫か神崎、怪我はないか?」
「はい・・・それは大丈夫なんですが・・・この状況を飲み込めなくて・・・その・・・綾小路君の動きがいつもと違ったというか」
そう思っても仕方ないか。実際に今までの動きと違うしな。
「この事は皆に黙っておいてくれないか?なんと言うか、目立ちたくないんだ」
神崎が皆に話せば、オレの平穏の日々が終わってしまうだろう。
「そうですね人には隠したい事とかありますもんね、わかりました。その・・・ありがとうございました。綾小路君は何度も私を守ってくれました。」
神崎は納得し、感謝を述べる。
「例をいわれることはしていない、そんなことよりもう帰る時間だ。先に帰ってくれ、オレにはやる事がある」
神崎が笑顔でオレの方に向ける。
「わかりました。くれぐれも気をつけてくださいね」
そう言って神崎は帰っていく。オレはその背中を見ながら心の声を出す。
神崎、本当にオレは例を言われるような事はしていないんだよ。
オレはある人に電話をかける。
「綾小路です、理事長との交渉はどうてすか?」
そう、オレがかけた人は鳥間先生だ。
「それはまだだ、あと1時間後に始める予定だ」
そうか、まだ始まっていなかったか。仮に始まったとしてもこちら側が不利なのは明確だ。
「そうですか、すみませんがE組の教室に来ていただけませんか?」
「なぜそこにいる。帰れと言ったはずだ」
「来たらわかりますよ」
そう言って電話を切る。10分後鳥間先生が来た。
「こんな時にどうしたんだ、綾小路君」
鳥間先生はオレに訪ねる。オレは視線を誘導して気絶している鷹岡を見せる。
それを見た鳥間先生が驚愕する。
「これは!?君が?」
オレは否定せず話を切り出す。
「先に言います。オレに防衛省や殺し屋の情報を定期的に渡してください」
いきなりオレの要求に鳥間先生は戸惑う。そして不気味にしか見えないだろう。いきなり教室に呼び出され、鷹岡が気絶している中そんな話をされるのだ。
「な、何を言っているんだ綾小路君、今はそんな事を言っている場合じゃない。一刻も早く鷹岡を辞めさせなければならない」
確かに鳥間先生の言うとおりだ。
「わかっています。ですが権限は理事長が握っています。不利なのは承知なのでは?」
オレの言葉に対して鳥間先生は迷いがなかった。
「不利だろうが関係ない。生徒を守るためなら暗殺に使うお金だって払うさ」
本当に鳥間先生は生徒思いでいい人だ。だがこちらが損をする事に変わりはない。
「ではそちらの情報をもらう代わりにあんたと理事長との交渉をより簡単に成功させましょうか?」
オレの提案に鳥間先生は驚いた表情をする。
「何を・・・言っているんだ?君がただ者ではないのはわかったがとてもできるとは思えない」
鳥間先生がそう言うのは当然だろう。たが・・・
「本当にそうでしょうか?」
オレはスマホに電源を入れ、ある動画を見せる。
「ッ!!これは!?しかしこれを撮れるということは最初から鷹岡を疑っていたということだが・・・」
オレが見せた動画は鷹岡が前原を殴った所だ。鷹岡は前々から怪しかったから証拠に残せると思い授業の最初から録画しておいた。こんなに上手くいくとは思っていなかったけどな。
「この動画の中に殺せんせーはいません。これだけ見ればただの体罰教師にしか見えない、これを広めればこの学校に大きなダメージが入る。」
理事長はそれを避けたいはずだ。自分の教育を妨害されるのだからな。
これで脅せば鷹岡を辞めさせることができる。理事長は鷹岡を切り捨てるしかないということだ。
「そこまで考えていたのか!?」
「さあ、どうしますか?オレに情報を渡し、暗殺の可能性を上げるか、それとも暗殺に使う資金を失うか」
「・・・わかった。君の提案を受け入れよう」
「ありがとうございます」
鳥間先生の表情はいまだに困惑している。
「君は今までの君と同じ人には見えない。いったい何者なんだ?鷹岡を倒すほどの戦闘力、それに洞察力や思考力、中学生の枠を遥かに超えている。俺からしたら不気味でしかない。」
「オレの事はどうでもいいんですよ、オレはただあの怪物を殺したいだけなんですから」
「ではなぜ手を抜く、君が全力でやれば殺せる可能性は上がるはずだ」
鳥間先生の言うことは正しい。だが・・・
「確かに鳥間先生の言うことは正しいです。しかしあなたは今日までオレの実力を知らなかった。それは殺せんせーも同じでしょう。オレは向こうの警戒を上回る一撃を狙うつもりです」
鳥間先生はある程度納得し、これ以上何も言わなかった。
「オレはこれからも目立つつもりはありません。では失礼します。」
オレは教室から出る。
予定より早かったが今回オレのやることは決まっていた。それは鳥間先生との情報の取引だ。オレは生徒、普通に考えれば無理な話。しかし鷹岡のおかげでそれを可能にすることができた。
まあ、神崎が来たのは想定外だったが、わざわざリスクを取ってまで鷹岡を倒したのも、交渉を有利に進めるための過程でしかなかったんだ。
オレは家に帰った。
次の日・・・
「鷹岡の件についてだが、なんとか辞めさせることに成功した。今日からは俺がいつも通りに体育の授業をすることになる」
鷹岡はもうここに来ることはないらしい。どうやら上手くいったようだ。
「ってことは!鷹岡クビ!?」
「「やったー」」
クラスの皆が喜ぶ中、鳥間先生と神崎はこちらを見てきた。オレはそれに対して目を逸らす。
鷹岡についてはこれで終わり、いいことじゃないか。これでオレ達の平穏が戻ってきたというわけだ。
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