「ドク。
電源の入っていないカメラの前に鎮座して。
そう隣にいる多重レンズ付きの眼鏡を着用した白衣の男へと問いかけたのは小太りの男。
白衣の男と同じく眼鏡をかけているが、小太りの男のかけている眼鏡はレンズが一対の常識的なものである。
ただ、その体系のシルエットは対照的であったが。
「
ドクと呼ばれた白衣の男は、身振り手振りで怪しくない事を表現するが、むしろその行為が怪しさを助長させている。
「彼女に関する資料を読んだぞ。一般的に見れば絵空事、理論上不可能な描かれた餅だ」
「しかし、現に彼女は存在しています」
「そう! まさに奇跡! 薄っぺらい言葉かもしれんが、私にとって彼女を表現したりえる言葉はこれ以外にはない! 奇跡! 神のサイコロ遊びの産物! 化け物への冒涜と言っていい!」
興奮する少佐と呼ばれた男は、その興奮を隠すことなく言葉として発散し、何とか落ち着きを取り戻そうとしているようにも取れる。
「
堪えきれぬと腹を抱えて笑い出した少佐と呼ばれた男にとって、余程嬉しかったのだろう。
彼の言葉の対象となっている少女への感想が、いつまでたっても終わらない。
「聖遺物が重なった影響か、少々記憶が混濁している様子がありますが?」
「己で思考し、己で歩み。己で選択し己で行動し、己で食事をとって己で眠る。これを人間とせずしてどう表現する!? どこからどう見ても健常な人間だ! アーハッハッハ! これはたまらん!! 彼女があいつらの前に姿を現した時、一体どんな反応をするだろうなぁドク。鳩が豆鉄砲を喰らったような顔か!? それとも驚いて声すら出せぬか!?」
「探し出せなかった自分らを呪い、悔しがるというのはいかがでしょう?」
「最高だ! 酒とつまみが欲しいところだ!! 奴らの悔しがる顔を眺めながら飲む酒はきっと格別になるぞぉ!!」
その言葉を聞いて酒を取りに行こうとしたドクを、少佐は引き止める。
「いい。これから大事な素敵な宣戦布告だ。すべてが終わってからなら分かるが、途中で酒を飲むなどという興醒めな行為はせんよ」
それを受けて再び少佐の隣に移動したドクは、少佐の次の言葉を待つ。
「さて、そろそろ時間かね。シュレディンガー准尉がうまくやるだろう」
そう言って足を組み、腕を組んだ少佐の脇に置いてあるモニターに、突如として電源が入り。
画面の向こうには、何やら円卓を囲んだ集会が映し出された。
*
皆さまおはようございます。
【フリューア・アーデルハイト】軍医中尉であります。
いつものように孤児院でその日暮らしの生活をしていると、虫の様な眼鏡をかけた男性が来られまして。
最後の
そう声をかけられた瞬間、私の本能が叫びました。
少佐殿のお役に立たねば、と。
大隊にて活動するのが私の仕事だ、と。
その日の夜のうちにその方の手引きで孤児院を抜け出し、連れて来られたのは大きな飛行船。
その中で私を迎えたのは、少佐と呼ばれるやや小太りの男性でした。
……正直に言います。人違いかもしれません。
ですが、彼は確実に
であるならば、その役に立つことこそが私の本懐。
結局彼の傍に立ち、言われるがままに私の
そんなある日、
「シュレディンガー准尉と散歩してきてくれ」
と言われ、シュレディンガーと呼ばれた少年とも少女ともとれる人物と言われたとおりに散歩をしていましたら……。
気が付けば全く知らない場所で、全く知らない方々からの視線を浴びて、全く知らない状況の中、全く知らない宣戦布告を少佐が私たちの目の前にいる方々に向かって宣言するではありませんか。
突然の出来事にめまいを覚え、どうすればいいか分からない中で、隣にいたシュレディンガー准尉が誰か分からないうちの一人から頭を撃ち抜かれたではありませんか。
……私も危ないのでありましょうか? どこか物陰にでも隠れた方がいいので?
「特使を撃つとは……まぁいい。ただ、その隣にいる少女に関しては、撃つことはお勧めしない。仮にアーカード、君に影響が無くとも、他に影響がある連中がそこには詰まっているぞ?」
「ほう。脅しか? 試してみるか?」
なんてやり取りの後でした。
私が動く暇などなく、引き金が引かれた拳銃は、私の脳天目掛けて弾丸を射出。
頭に重い衝撃が伝わり、視界は赤と黒に塗りつぶされて。
ただ、それだけでした。
「バカな!!?」
衝撃だったのでしょうか?
いえ、普通に考えれば少女が頭を撃ち抜かれるという絵面は衝撃的なのでしょうが。
それよりも、
「なんだ。貴様も化け物か」
「違うね。アーカード君。だから言ったじゃあないか。君に影響なくとも、他に影響をうける者が居ると。後ろを見てみたまえ」
少佐の言葉に振り返る私を撃ち抜いたアーカードという人物は、
「これは……」
自分の後ろで、まるで神にでも祈るように十字架を握りしめて震えている他の方々を目にします。
たしか、ヴァチカン
その彼以外の皆さんがそうして祈っておられるようで。
「まさか、貴様!! 聖遺物を小娘に――」
「私じゃあない。私達ではない。考えても見たまえ。我々がそんな事をするかね? 神を冒涜し、散々に笑って否定しておきながら、今更神に
「ならば……」
「そう。君の思う通りだアーカード。この子を作り出したのは紛れもなくヴァチカン。しかもあろうことか、途中で逃げ出される
心の底から楽しむ様に。まるで、大成功した手品のタネをひけらかすように。
笑いをかみ殺しながらそう言った少佐へ、
「あり得ない……。奴は……奴は捕らえた筈だ!」
顔を青ざめさせながら叫ぶ、イスカリオテと呼ばれた方ですが、
「くっくっく。
「何だと!?」
「彼女は
「バカな!?」
「ほら。何も理解できていない。神を信じるのであればそこは四の五の言わずに納得する場面だぞ?」
少佐から弄ばれているだけです。
……そう言えば、このイスカリオテとか言う存在は、神罰の地上代行者を名乗っているとか?
神が人間一人一人、一個人に神罰を与えると思っているのでしょうか?
神にとって、人間とは一種族に過ぎず、神罰を与える場合は平等に、分け隔てなくお与えになる事でしょうに。
そこからも理解が及んでいないと察せますね。
「……狂っている」
「それは我々がかね? それとも、君たちの神がかね?」
先ほどの問答を繰り返すように口を開いた少佐は、もはや笑みを隠そうともせずに、
「戦場での再会が楽しみだ。それでは、ご機嫌よう」
そう言って、一方的にモニターの電源を切られたのでした。
……ええと、私はどうすればいいのでしょうか?
*
「お帰り、シュレディンガー准尉。お帰り、アーデルハイト軍医中尉」
気が付けば撃ち抜かれた筈のシュレディンガー准尉の死体は無く。
さらに気が付けば、私はいつの間にか少佐のいる飛行船の中に居ました。
「散歩ご苦労だった。アーデルハイト軍医中尉。ゆっくり休むといい」
そう言われ、どうやら私が今日やるべきことは終えたようです。
戦争もなければ争いもない。そんな時に軍医に出来ることはありません。
大人しく、少佐の言う通りに、平穏な休みを謳歌することにしましょうか。
*
「祈るだけで怪我や病気が治る? からかうな、ドク。漫画やアニメじゃないんだぞ?」
「いえいえ少佐。私は至って真面目でございます」
「それが彼女というのか? あんな小娘が?」
「どころか、何度も彼女が死ぬような目に遭うのを孤児院の子供たちが目撃しておりました。落雷に撃たれ、崖に落ち、川で溺れた。しかし、その悉くから生還しています」
「……アーカードと対極にあると? 血を啜り、自らの糧として同化するあのアーカードと? それはつまり、彼女によって救われた者の命が彼女の中で同化している、と?」
「私はそのように考えます」
「なるほど。……なるほどなるほど。ところでドク」
「何でございましょう少佐」
「あのアーカードはジョーカー。これは確定で否定できない周知の事実だ」
「はい」
「では、
とにかくやりたいことやらせて書きたいこと書いたらさっさとまとめる予定なので、多分そこまで時間かからないと思います(フラグ)。
誤字修正とか、原作と矛盾しまくってる描写を見つけたら教えてください。
あと、少佐の口調とか、ヒラコー節は真似できるはずがないのでそこは期待しないでください。