対極札   作:瀧音静

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クッソお待たせしました(小声)


相反する存在

「諸君、私は戦争が好きだ。諸君、私は戦争が好きだ。諸君、私は戦争が大好きだ」

 

 心が躍る少佐殿の演説。

 それを耳に聞きながらも、何やら一つ違和感が……。

 

「この地上で行われるありとあらゆる戦争行動が大好きだ」

 

 ……そう、()()です。

 私の記憶にある少佐殿は――朧げな記憶の中の少佐殿は、戦争という行為を好きだったのでしょうか?

 確証はありません。ですが、何故でしょう? いつも辟易としていたような覚えが……。

 それに、

 

「必死に守るはずだった村々が蹂躙され 女子供が犯され殺されていく様は とてもとても悲しいものだ」

 

 こんな事を演説するような方だったでしょうか?

 ……違ったような覚えがあります。

 とはいえそんな違和感は口に出せる訳もなく、他の方々に倣い黙って聞いている訳でありますが。

 

「さぁ、諸君。――地獄を作るぞ」

 

 演説を終え、士気を高揚し。

 我々の下へと降りてきた少佐殿はふと目を見やり。

 

「? どうしたのだねシュレディンガー准尉。怪我をしてるじゃないか」

 

 シュレディンガー准尉の膝を指差して。

 そこには、確かに擦り傷のような傷が見て取れて。

 

「あっれー? ほんとだ。……あ、さっき急いでる時に転んでしまって、きっとその時の傷ですね」

「困ったなぁ。これから戦争だというのに怪我をしていちゃあ。いやぁ困った困った。すまない、アーデルハイト軍医中尉。シュレディンガー准尉に手当を」

「かしこまりました」

 

 擦り傷……。こんなもの、手をかざせば瞬時に治ります。

 というか、治す必要はあったのでありましょうか? 頭を撃ち抜かれたはずなのに、平然と今も存在している彼を?

 

「わぁ! 凄い! 本当に手をかざしただけで治りましたよ!」

「当然だ。彼女は優秀な軍医だからな。彼女のお陰で我々は、我々大隊は不滅だ。四肢がもげ、頭が吹き飛び、命の灯が強風に吹かれようと、彼女のお陰で全てが生き永らえる」

 

 そう言ってわしゃわしゃと私の頭を撫でる少佐殿。

 不思議と嫌な感じはしませんが、それでも気恥ずかしさはあります。

 その手から逃げるように頭を動かし、敬礼して命令(オーダー)を待っていると、

 

「軍医。これから忙しくなる。一旦体を休ませておきなさい」

 

 とのことで。

 それに頷き、再度敬礼をし直して。

 私は、部屋へと戻るのでありました。

 

 

 皆さまおはようございます。

 フリューア・アーデルハイト軍医中尉であります。

 我々は今、この間私に銃弾を撃ち込んだ吸血鬼、アーカードなる存在と。

 我々の部隊に居るリップヴァーン中尉との戦闘を観戦中。

 ……いえ、果たしてそれが戦闘と呼べる代物だったかは議論の余地がありますが。

 あまりに一方的すぎるアーカードの、アーカードによる蹂躙。

 そう表現した方が正確なものでありました。

 

「中尉、よくやった。作戦は成功だよ。……完全に」

 

 という少佐からの言葉を聞き、ならばと彼女の下へと向かい、治療しようと動くと。

 

「いい。それはそういうものなのだ」

 

 と、少佐殿の手が肩に置かれ。

 

「それは生も死も全てがペテンだ。何とも不死身で、無敵で、不敗で、最強で、馬鹿馬鹿しい。だが我々は打倒する。君の未帰還を持って、我々はアーカードを打倒する」

 

 モニターの向こうでアーカードに吸われるリップヴァーン中尉へ、最後の言葉を投げかけて。

 

「ドク、彼女は任務を果たした。完全に、完全にだ。焼くことは許さん」

 

 スイッチを操作し、どうやらリップヴァーン中尉を燃やそうとしていたらしい方を制します。

 

「さようなら中尉。いずれヴァルハラで会おう」

 

 別れの言葉を呟けば、あちこちでリップヴァーン中尉への別れが聞こえてきます。

 ……私の役目は彼女を――彼女を含めた大隊の隊員を死なせない様にするというものだったはずでありますが、どうしてその役目を与えた少佐殿自身によって止められたのでありましょうか?

 少佐殿に何か考えが?

 確かに今までも少佐殿に、少佐殿の考えに及ばぬ事など日常茶飯事でありましたが、流石にこれは考えが及ばないというよりは理解不能であります。

 少佐殿は私に何をさせたいのでありましょうか?

 

「軍医中尉。アーデルハイト軍医中尉」

 

 私の考えが伝わったのか、少佐殿から声を掛けられました。

 

「はい。何でありましょうか?」

「すまないね。彼女を見捨てることは、きっと君の本意ではないだろう?」

「……はい、いいえ。何よりの少佐殿の命令であります。私には、それを疑うという行為は――」

「隠さなくていい。だがね、軍医中尉。一つ覚えておきなさい」

「何でありましょうか?」

「あいつに、あのアーカードに取り込まれた存在は、蘇生しても無駄ということだ」

 

 何を言い出すかと思えば、少佐殿の口からは正直信じたくない話が語られまして。

 

「無駄、でありますか?」

「そう、無駄だ。あいつは文字通り魂を吸う。血ではない。血だけじゃあ無い。あいつが吸うのはもっとどうしようもない、精神、能力、思考……そして、命だ。奴に吸われれば、吸いつくされれば、そこに残るのは中身の無くなった肉体のみ。たとえそれにいくら命を吹き込んだとしても、もう元には戻らない。元の存在は全て奴の中だ」

「信じられないであります」

「じきに分かる。いや、案外すぐかもしれない。だがしかし、確実に私の言っている事が、言葉の意味が分かる時が来る」

「了解であります」

「そしてその時は、きっと我々が奴を打倒している時だ。それまでに軍医中尉には大層働いて貰わねばならん。覚悟しておくように」

「元より」

 

 そうして我々の乗った飛行船は、ロンドン上空へと到着したのでありました。

 

 

「ドク」

「何でしょう少佐」

「一つ確認だ。彼女の中には何人いる? 何人入っている?」

「さぁ? どれほどの数が存在するか、計る術も、確認する手段もございません」

「ふむ。ではさらに問おう。彼女の中の総数は、アーカードの中の総数よりも多いかね?」

「少佐、奴は悠久を生きる化け物ですぞ? そんな化け物よりも数が多いはずがございません」

「そうだ。そうだろうな。だが何故だ? 何故彼女はアーカードに恐怖しない? あのアーカードの姿を見て、アーカードの能力を聞いて、何故恐怖が産まれない?」

「もしや少佐、彼女は自分の中身を戻せるのでは? 蘇生させるのと同時に、自分の中に取り込んだ存在を吐き出せるのでは?」

「……有り得るな。十分にあり得る。だがそれは確認する術がない。彼女に治癒させ、アーカードに吸わせ。さらにそのアーカードに吸われた死体を用意しなければ、この事は確認が取れない」

「こちらで手配致しましょうか?」

「出来るのか?」

「やってみましょう」




こっからひっそりと行進できたらいいなぁ(願望)
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