ウルトラマントリガー、テンション上がって楽しみです。
感想・質問等が私のモチベーションに繋がります。
最後にウィズファンの皆様、すみません。
馬車の揺れに身を任せながら座り乗るクリス。
王都での一仕事を終え、じゅん達の居るアクセルに向かっていた。
「(明日からが大変だけど…さてどうしたものか)」
大変な事とは勿論、じゅんをしっかり育てあげる事だ。
冒険者としてだけでなく、じゅんの所持するメモリを己のものにする為に厳しくも鍛えてあげないといけない。
そう遠くない時の為にもと思いながら、クリスは自身の右手首を見る。
リストバンド製の腕輪をグローブの上から着けてるソレを見るクリスは、この腕輪を与えてくれた人物の言葉を脳裏に蘇らせた。
その人物の思い詰める表情を思い浮かべたクリスは、彼の思いを守らなきゃと決意を固め始めた。その直後。
「うわっととっ!」
突然馬車が急停止し思わず踏ん張るクリス。
一体何がと思い窓の外から顔を出すと、クリスの目に映ったのは薄っすらとだがアクセルの方から炎と同じ色が照らし出され、更にはすれ違う様に人々が駆け出す姿が目に映った。
「ち、ちょっと、一体何があったんだ?」
馭者の人が逃げ惑う人々の一人を捕まえ問うと、その者はこう答えた。
「あんたらアクセルに行くのかい!?だったら今すぐ引き返すんだ!今あの街にはそれはそれは巨大なモンスターと黒い巨人が現れて、俺達にお構い無しに暴れ回っているんだ!」
説明する男の言葉を聞いた瞬間、クリスに戦慄が走った。
「(コウのおじいちゃん…どうやらその時が来ちゃったみたいだよ)」
ここではない場所に居る“コウ”と言う人物に対して心の中で言い掛けると、クリスは数千エリスの金を馭者に渡し外へ飛び出るとそのままアクセルの方へと走り出した。
「ちょ!お客さん!?」
呼び止める様に声を掛ける馭者の声を振り払い、逃げ惑う人々とすれ違いながらも走り続ける
クリス。
わざわざ火中の中に飛び込む様な行為に走る理由は唯一、じゅんとゆんゆんの無事を確認する為。
既に逃げてる筈と言う考えを持っているのは事実、けれどもこれまで共に過ごした事が絆となり理屈では計れない感情がクリスを突き動かしていたのだ。
近づけば近づく度に、クリスの耳からは何かを破壊する轟音が入り、それは徐々に大きくなりつつある。
不安が心中に渦巻くのを押し殺しながら、クリスは二人の事を想いそして呟く。
「ガァアアアアア!」
猛攻なる巨人の攻撃に何度も倒れるエレキベムラーは、再び起き上がると“図に乗るな!”とでも言わぬ勢いで巨人に突進。
猛牛の様に体当たりを行いそれを受け止める巨人だが、直後に角を含めた体全体から強力な放電を発する。
『グガァッ!』
「ギェエアアアアア!」
放電をもろに喰らう巨人はここに来て痛みを感じるかの様なうめき声を上げる。
離れ様にもエレキベムラーの突進がそれを許さず、ずるずると後ろに追いやる形で押し込まれその都度に足元の家までもが壊されていく、だがここで。
『ンヌゥアアアアア!』
巨人はエレキベムラーが体中から発する放電の中から、二本の三日月型の角を強引に掴むと右・左・右・左と何度もの膝蹴りを顔目掛け打上げ。
『ダァアアアアア!!!』
一種怯んだ隙きに角の間の中心頭部をガシッ!と鷲掴むと、建物に叩きつけ壊しながらエレキベムラーを強引に地面に伏せ、そのまま顔を執着に殴りつけていく。
「ゼファープログラム、セカンドステージ…〔融合怪獣又は同等の巨大生物を確認した場合。ファーストステージ時に解除したゼットンメモリ以外の全てのメモリのプロテクトを解除。ゼファーへの
その悪魔とも獣とも取れる戦いを、ソノモノはジーと眺めながら一人呟く。
「細胞の適応構成は問題なく順調…スペックに関しても設定通り…残り
場違いとも言える程、ソノモノはのんびりと穏やかな口調で右腕のガントレットから出てくる映像を見て呟き、再び2体の戦いを観戦し始める。
『イェエアアアアアア!』
何度も殴る巨人は、今度はエレキベムラーの喉元と足元を掴むとバーベルの如く持ち上げ、力強く放り投げる。
「うわっと!?」
地面に着地と同時に発生する振動は、走り彷徨うクリスの足元にも渡り思わずよろけ踏ん張ってしまう。
何とか倒れずに済んだクリスだったが、思わず顔を見上げ視線の先にある巨人の姿を見て立ち止まってしまう。
「あの姿は…まさかそんな!?」
驚愕するクリスを余所にズシンズシンと歩いてく巨人。
その一方でクリスは巨人の姿と同時に周りの光景を見ると、ブルブルと体を震え上がらせた。
それはこの世で生きるクリスとして、そして一人の神である“エリス”としての怒りが沸いてきた。
皆がのんびりと平和に暮らすこの
激しい表情を露にするクリスの口から出る言葉は、忿怒の籠もるものだった。
「ちくしょうっ…何でこんな事を!」
あれから逃げ惑うカズマ達であったが、最悪な事に放り投げたエレキベムラーが上空を通過し後を追うような形で巨人がこちらに迫ってきたのだった。
愚痴るカズマに続く様に残り二人も好き勝手に口を開く。
「ゔぅえあああああ!きたきたきたぁ!やばいよやばいよぉ!?来ちゃいますよぉカジュマさ〜ん!!!」
「いえ!これは絶好のチャンスかもしれません!あの黒い巨人はまず保留としますが、先に暴れていた巨大モンスターを我が爆裂魔法で塵一つ残さず消滅させることが!」
「やめろぉ!これ以上俺に借金を背負わせないでくれぇえええ!!!」
この混沌とした中でも何時もの様な大騒ぎのコントを醸し出す三人、だがその直後。
『ヌッ!?』
突如として巨人の足元が固まる音と共に氷漬けにされてしまった。
己の身に起こった出来事に初めて戸惑い慌てる様に動く巨人にカズマ達も同じ心境の中、ふと背後から凍り付く様な感覚を感じ取り思わずその方へ向けると、そこには俯きながら佇むウィズの姿があった。
「ウ、ウィズ?」
「どいて下さい…皆様」
戸惑うカズマを余所にウィズは呟く様に声を掛ける。
「ど、どうしちゃったのよ…ウィズ?」
「申し訳ありませんアクア様…今は貴方様に構う暇は無いのです」
流石のアクアも何時もの調子を捨て戸惑い気味に問いかけるも、ウィズの口から出る有無を言わせぬ威圧的な言葉は、普段ウィズをマウントにかけてばかりのアクアが文字道理黙ってしまう程の出来事だった。
その異常事態にウィズを除いた3人が押黙る中、ウィズは独り言の様に巨人に対して呟く。
「貴方が何者でどう言う意図があるのか存じません…ですが」
一歩一歩進むウィズの姿を間近で見る3人には、リッチーを通り越しもはや“死神”とさえ思える程の冷たさと威圧感を肌で感じとっていた。
「暴れるだけ暴れ…多くの人々を不幸に陥れ…挙げ句の果に…」
歩く度に、ウィズの足元だけでなく瓦礫となった建物すらも氷漬けとなっていく。
「私は言いましたよ…“店を壊さないで”と…大切な仲間達を迎え入れる為に建てたお店を…貴方は壊しました…」
ウィズは沸き上がる
ウィズが最も得意とする氷魔法の強化版“カースド・クリスタルプリズン”。
感情の爆発と共に発せられた氷の渦は巨人に命中し魔法陣が出現、開く右手をギュッと力強く握りしめると包み込むように収集し、物の見事に巨人を氷漬けにさせてしまう。
「ハァ…ハァ…ハァ…っ!」
上級魔法に加え相手が巨体と言う事もあり、ありったけの魔力を放出したウィズは次の魔法を出すどころか立つことすらままならない為に膝を付き荒い息遣いをする。
「グォオオオアアア!」
それを好機と言わんばかりに立ち上がるエレキベムラーは、口から雷を混じらせた“電撃熱光線”を氷漬けの巨人目掛け放射、寸分の狂い無く命中すると凄まじい爆発を引き起こした。
「すっご…ウィズったらあのウルトラマンを氷漬けにしちゃったわね…でも何かスカッとしたわ」
「あ〜…折角ペットにしようと思ってましたのにぃ」
「……」
呑気そうに方や嬉しく方や残念がる中、カズマだけは氷漬けとなって粉々になったであろう巨人に対し複雑な思いを馳せていた。
そんな光景を観ていたソノモノは、一切の動揺もせずに一人呟く。
「この
パチパチと愉快かつ穏やかな口調で拍手を送るソノモノは、氷漬けにしたウィズに語る様に話す。
「ただ、水を差す様で申し訳無いけれど…」
モクモクと立ち込める煙が徐々に薄れ始めたその時。
『…え』
全員の声がハモる。
ギラリと光る2つの赤と1つの青が現れ、そして煙が完全に無くなってしまうとそこには依然としてそびえ立つ黒い巨人の姿があった。
「うそ…」
この中で最も動揺してるのは氷漬けにしたウィズ本人に他ならなかった。
冒険者時代は“氷の魔女”として名を馳せ、とある理由からリッチーとなり、今は抜けて且つ“なんちゃって”呼ばわりながらも魔王幹部の一人として存在していた。
それ程までの実力を持つ自分の力に、確かなる自信があったのは事実。
ましてや先程放った魔法は自身が最も得意とする魔法の強化版に加えての全力全開、表面だけでなく細胞の一つ一つを氷漬けにしあの巨体モンスターの放った攻撃を受けた以上は粉々になって露と消える…その筈だった。
しかし現実はどうだ、原型を留めてるばかりでなく膝を付く自分とは対象的に堪えてる素振りが一切無く、巨人は不動のまま立っていた。
その圧倒的な頑丈さ、理不尽さ、不条理さにウィズの心中で駆け巡ってた筈の怒りと憎悪が薄れていき、代わりに支配され始めた感情…それは巨人に対する“恐怖”だった。
『ハァッ!』
「あ」
間の抜けた声を漏らしたウィズの目に映ったのは、こちらを見る巨人の手から放った黒い光弾。
「がはっ!」
ウィズの前方の地面に着弾したと同時に起こる爆発。
そこから発した爆風は弱ったウィズを軽々と吹き飛ばし、僅かに残ってた建物の壁に背中から打ち付けられるとうつ伏せ状態のまま倒れ気絶してしまう。
「ウィズぅ!!!」
「ちょ!?ウィズの魔法に全然耐え抜いちゃってるんですけどぉ!?あ〜もう!
これだからウルトラマンってだいっきらいなのよ〜!!!」
ウィズが吹き飛ばされる光景にめぐみんは悲痛に呼び掛け、アクアは喚き散らし始める。
地面に寝転ぶウィズの姿を見るカズマは目を大きく見開き眺めると、途端に顔を俯かせると同時に二人に話し掛ける。
「お前ら…ウィズを連れて逃げるぞ」
「何を言うのですカズマ!あの巨人はウィズを攻撃したのですよ!?いくら紅魔族としての感性がドンピシャな相手でも!ウィズに手を出した事を許せる筈がありません!ええ許せませんとも!」
静かに言うカズマの言葉をめぐみんは真っ向から否定する。
“売られた喧嘩は買う”のが紅魔族であり、めぐみんも例に及ばず頭に血が上りやすい性分に加え仲間意識も強い。
知り合いだけでなくデストロイヤー討伐時も共に協力し合ったウィズが、目の前で巨人に吹き飛ばされた事実に我慢する事など出来る筈も無かった
「落とし前として我が爆裂魔法を撃ち込まなくては!」
「気が済みません!」と感情の赴くままに訴えようとするめぐみん、だがそれを無言のままめぐみんの胸ぐらを乱暴に掴んだカズマによって強引に止められてしまう。
「黙れ」
「ひっ」
カズマの口からは本人とは思えぬ程の冷たく威圧的な一言に加え、これまでの付き合いで見たこともない…それこそ鬼や悪魔を連想するかの様な凄まじい表情に変貌しており、めぐみんは思わず小さな悲鳴を上げた。
「思い上がってんじゃねえぞクソガキ…ノリや勢いで倒せるものならウィズが負けて倒れる筈がねぇんだよ…大体相手は2体もいるんだ…百歩譲って片方倒せても、もう片方相手に倒せる勝算なんて思いつく暇もありゃしねぇんだよ…!」
「な、なんか今のカズマ…滅茶苦茶怖いんですけど…」
「で…ですが!」
同じくカズマと共にしてきたアクアでさえも、彼から発する静かな激情に押され引いてしまう程困惑してしまう。
だがそれでも尚も駄々っ子の様に渋るめぐみんに、カズマは顔を俯かせて静かに押し殺す様にして呟く。
「頼む…せめて今回だけは素直に聞いてくれ…今の俺には…お前の
その言葉を聞いたと同時にめぐみんは気付いた、カズマが今も尚も自分の胸ぐらを掴む手がプルプルと震えている事に。
そして悟ってしまった、カズマの心境は自分と何ら変わらない事…そして唯一違う事は、感情を制御しない自分とは違い今の現状を把握し相手と自分達の技量を見極め、なお且つ感情を押さえ自分達が取るべき選択を見誤らない様にしているのだ。
何時ものノリで爆裂魔法を放ってウィズの仇を撃ちたい…けどあのカズマがこれ程まで真剣になっているのだ…今回ばかりは自重しなければならない。
沸き上がる悔しさを押さえ込みながら、胸ぐらを掴むカズマの手の上に自身の手を乗せる。
「………わかりました」
静かにそう言っためぐみんの言葉を聞いたカズマは、掴んだ手をゆっくり離すと一目散に倒れてるウィズに近づき自身の背中に乗せた。
「…くそったれ!!!」
倒したウィズだけでなく残りの自分達の存在に、全く気にする素振りも見せないままエレキベムラーの方へ向かう巨人に、捨て台詞を吐き捨てる様に出すとこれ以上長いは無用と言わんばかりにその場を全力疾走で駆け出して行った。
「氷漬けの影響で一時的に手元が狂ったのか…けれども、おかげでまた彼女の力を観察する機会が得られたようだ…さて」
ウィズを抱え走り去って行くカズマ達を眺めたソノモノは、視線を自身の腕に嵌めたガントレットに移し表示された画面を見始めた。
「フュージョンロード以降の戦闘時間並びにダメージレベル…エネルギー残量から考慮して…」
「ガァアアアオオオ!!!」
立ち上がると同時に雄叫びを上げるエレキベムラーは、降臨した際の青い球体に変貌。
更にバチバチと電撃を発生させながら宙に浮かび、そのまま巨人に突進をかました。
『ウゥオアッ!』
腹部に直撃し後方へと吹き飛ぶ巨人、だが。
『ガァアアアアア!』
吹き飛ばされながらも悪足掻きの様に両腕を前に突き出し、赤黒く太い一本筋の光線が発射され球体状態のエレキベムラーに命中。
「ギギェア!」
火花を散らしダブルノックアウト状態で巨人は仰向けに、エレキベムラーは横へと倒れてしまう。
その直後、巨人の胸のコアが青から赤へと変わり点滅を始めた。
命の危険を表すかの様に点滅と同時に鳴り響く音、けれども巨人は何の慌てる素振りも無く機械の様に上半身を起こしそのまま立ち上がろうとした、その時だった。
何者かの叫び声と共に放たれた光の刃が、巨人の右頬をかすめ火花を散らす。
突然背後からの攻撃に巨人は放って来た右方向に首だけをグルッと向け自分に刃を向ける人物を見た、それは。
「く…うぅ…っ!」
歯を食いしばり恐怖から来る涙を必死に堪えながら、ワンドを向けキッと睨み付けるゆんゆんの姿がそこに居た。
そんなゆんゆん自身も自分が如何に馬鹿な行いをしてるのかなど百も承知だった。
倒せる等これっぽっちも思っちゃいない…逃げるべきの筈だ…けれど。
これ以上奴等の好き勝手にさせておけば…未だ見つからないじゅんをも巻き添えに…否、もうなってるのかもしれない。
だがそんな
「これ以上…これ以上あなた達の好きにさせないんだからぁ!!!」
ゆんゆんが巨人に向け啖呵を切ったと同時に、離れた場所にいたクリスは思わず立ち止まる。
「今の魔法って…まさかゆんゆん!?」
この街であれ程の上級魔法を撃てる相手などゆんゆん以外に思い付かないクリス。
例え本人じゃなかったとしてもこのままではあの場にいる誰かが巨人に殺される、瞬時に考えたクリスは右腕に巻かれた腕輪を掴むと同時に淡い光を出し始める。
機械音声が発すると腕輪は3つの光となってクリスに纏う。
左脇、両太もも外側に夫々異なる銃が装備されており、クリスは素早く抜くとカチャカチャと組み立て始める。
連結させた結果、両手持ちの大型銃砲へと変える。
クリスは左手で前方のグリップを、右手を引き金の付いたグリップそれぞれ握り、右目で照準スコープを覗き目標を巨人に向けた。
「あたしの目の前でゆんゆんを殺ってみなよ…撃ち殺してやるんだからさぁ!!!」
ピピピと溜まっていく音が鳴る中、クリスは殺意と憎悪に塗れた眼で睨み叫んだ。
「流石は紅魔族、魔力と呼ばれるエネルギーは中々のモノだな…そして」
称賛の言葉をゆんゆんに向けたソノモノは、視線をクリスの方へと変える。
「あのアクアと言う少女と過去のデータサンプルからのエネルギー性質適合率は90%前後…なるほど。1体かと思いきや2体もの
顎に手を当てながらぶつぶつと呟き思考の海へと泳ぐソノモノ。
三者三様が蔓延るこの空間、だが異変を起こし始めたのは他の誰でもなかった。
見つめる様に顔を向けたままの巨人であったが、ゆんゆんが起こしたある行いを見て変化が起き始める。
「ひっく…ゔぐぅ…!」
限界が来てしまったのか、ゆんゆんは溜まりに溜めた涙を体を震わせながら次々と流れ落として行く。
『「………っ」』
止まる事なく滝の様に流すゆんゆんの涙を見たその瞬間、巨人…否…巨人になったじゅん自身の耳に奇妙なノイズ音が迸り、次の瞬間にこれまでの出来事が映像の様に映し出され始めた。
『「…ゆん…ゆん?」』
じゅんの口から出るのは機械の様な口ぶりでなく、何時もの片言で途切れ途切れの口調だった。
途端に周りを見る様にゆっくりと左の方へと動かすじゅんだったが、ある所で再び止まってしまう。
『「…あ」』
見慣れぬ物を抱えながら今までに見せた事のない顔で自分を見るクリスを見た瞬間、ゆんゆんの時と同じ現象が起こり始める。
『「…クリ…ス?」』
今日帰ってくるクリスがそこに居て睨みつけている。
一体何がどうなっているのか…よく理解できなかったじゅんは、今度は正面の方へとゆっくり向けた。
「コォアアアアア…!」
青白い光がエレキベムラーの開けた口の中で輝きを増していき。
『「はっ!」』
それを見た瞬間、じゅんの中で目の前の生物がこれから何をするのかを瞬時に理解した。
巨人となったじゅんが行動を起こしたその直後、クリスは引き金を引くと銃口から銀色に光る巨大なエネルギー光弾が発射。
迫る光弾はゆんゆんの方へ顔を再び向けたと同時に、じゅんの左頬をかすめ火花を散らした。
『「ぐぅっ!」』
切り裂かれる様な鋭い痛みが来るがそんな事なと眼中にもなかった。
「キャアアアアア!!!」
こちらに迫ってきた巨人に、ゆんゆんは悲鳴を上げ押し潰される痛みに身構える様に目を瞑る。
だが、巨人であるじゅんはゆんゆんの頭上を自身の体で覆い隠す様に跪き…そして。
「ゴォオオオオオ!!!」
エレキベムラーの放つ電撃熱光線が無防備となっている巨人…じゅんの背中に直撃、激しい火花を散らしたのだった。
『ガハァッ!!!』
「え?」
「なにっ?」
家を建物を巻き添えにし獣の如く暴れた巨人が、全く異なる行為をするその姿にクリスだけでなく、ソノモノさえもここに来て初めて困惑する
『ウ…グゥ…!』
「キエエエアアアオ!!!」
うめき声を上げても尚も動こうとしない巨人に対し、エレキベムラーはこれまでのお返しと言わんばかりの電撃を頭部の角そして腕から放出し無抵抗の巨人に当て続けた。
『グハァッ!!!』
怒涛の電撃を浴び続ける巨人…否、じゅんは背中を通して駆け巡る痛みを体中で味わうが、それでも動かない…動く訳にいかなかった。
自分の下にいるゆんゆんが後ろの生物の餌食となってしまう事を阻止する為にも、体を張って守り通そうとする。
そして何時まで経っても痛みが来ない事に疑問を抱くゆんゆんは恐る恐る目を開くと、自分の真上で膝を付いて覆い被さる体勢をする巨人を目にする。
耳に響くはエレキベムラーの放つ電撃音とそれを受け止め火花が散る音。
「…な…なんで?」
瞬時に目の前の巨人が攻撃を受けてる事に気づくゆんゆん、だがその場から全く動かずそのままの姿勢でいる姿を見て理解に苦しみ、思わず疑問の声を呟く。
「………」
猛攻なるエレキベムラーの攻撃を甘んじて受ける巨人の姿を見ていたソノモノは、即座に右腕のガントレットをポチポチと叩き込んだ。
するとあれだけの放電を放つエレキベムラーの攻撃がピタリと止まり、直後に自身を青い球体に変え天高く飛び去り、光の粒子となってソノモノのガントレットに吸収されてしまう。
「なるほど…そう来てしまうか…ふふふ、ひとまずはお互い
どこか嬉しそうに呟くソノモノは、闇に染まった広大に広がる壁の外へその身を投げ消えてしまう。
『フゥ…フゥ…フゥ…』
それと同時に、攻撃を受け続けた巨人も息を切らし肩を上下に上げていると、突如として巨人の体全体が光の粒子へ変化し始める。
「こ、今度は何なのよ!?」
巨人の身に起こる異変に動揺を隠し切れないゆんゆんは、前方約5メートル程の距離で光が収束していく光景を目の当たりにし、得物であるワンドを向ける。
一体何が起こるのか、全く予測の付かないゆんゆんは体全体を震わせながら収束する光を見続けた…そして。
「…え?」
収束した光が人の姿を形作り、現れた者…それは。
「…じゅん…くん…」
命を賭けて探し回った、愛しい仲間で友達で弟分のじゅんじゅん。
何故彼が目の前に…いやそれよりも彼があの黒い巨人の正体?…だったらどうしてあんなにも暴れて…でもそれなら何故私の事を庇う様な真似を…。
余りの衝撃的過ぎる展開にゆんゆんは追いつける筈もなく、真っ白になっていく頭の中で次々と生まれる疑問に振り回されながらワンドを手に持つ力が抜け、カランッ!と言う金属音が鳴り響く。
それと同時に、ずっと顔を俯かせたまま立ち尽くしているじゅんが…重力に身を委ねるかの様に引っ張られ、バタッ!と言う音を立てながら前のめりに倒れ込んでしまった。
「じ、じゅんくん!?」
目の前で大切なじゅんが倒れた事に驚くゆんゆんは躊躇うことなく直ぐに駆け寄る、もう彼女の中には恐怖や戸惑い等が微塵も無く、只あるのはじゅんの身を案ずる想い全てだった。
「じゅんくん!しっかりしてじゅんくぅん!」
焼け焦げた背中の服を見たゆんゆんはその痛々しさに目を背けたくなる思いに囚われかけるが、彼が生きてるのか確認する為にも抱きかかえ、呼び掛けながらじゅんの顔を見たゆんゆんは再び戦慄する、左右の頬から大量の血が流れている事に。
「…ゆ…ん…ゆん?」
片方の傷は自分が付けたものなのか…罪悪感が沸き上がろうとする中、小さくも自分の名を呼ぶじゅんの声が耳に入る。
「そうだよ!私だよ…ゆんゆんだよ!」
生きてる事が分かり安堵と喜びの思いで呼び掛けるゆんゆん…だが。
「…だ…い…じ…ょ…う…ぶ…」
ポツポツと口に出すも、本人からの「大丈夫だよ」と言う言葉を聞く前にじゅんは目を瞑ってしまう。
巨大モンスターの事…巨人の事…じゅんが何者なのか…今のゆんゆんにはもはやどうでも良い事ばかりだった。
ただ生きてさえいれば良い…また一緒に入られるならばこれ以上何も望まない。
けれどもそんなゆんゆんの願いを粉々に砕くかの様に、力無く項垂れ動かなくなってしまったじゅん。
「あ…や…やだぁ…こんなのいやだよぉ…ねぇおきてよぉ…お願いだからぁ…!」
揺れ動かしても反応しないじゅんに…沸き上がる深い悲しみと絶望が…悲痛な叫び声となって木霊した…。
当たり前の様に今日が終わる筈だったアクセルは、突如として現れた怪獣と巨人によって地獄へと変えられてしまった。
何時もあったお店、家、噴水広場等が瓦礫と炎に変貌し人々の心に大きな爪痕が残されてしまう。
一方カズマ達はあの場を何とか逃げ切る事に成功。そして幸いな事にも自分達の住む屋敷は健在だった為に、そのままウィズも招き入れ一息の安心を得ていた。
巨人の攻撃を受けたウィズは、カズマのドレインタッチでめぐみんの魔力を移し与えた事により消滅は免れたものの、未だ目を覚まさずベッドの上で眠り続けていた。
「カズマ…先程の件ですが…その…すみませんでした」
「…いや、こうして屋敷含めて全員無事に済んだんだ…気にすんなよ」
いつもならば文句を言って口論に発展する所なのだが、今まで見せたことの無いカズマの剣幕に今回ばかりは自分の非を素直に認め謝罪の言葉を送るめぐみん。
対するカズマもめぐみんの謝罪が嘘偽りでない事を感じ、同じく素直に受け止め逆に気遣った。
「相変わらず差押の札が気になるけども、屋敷が無事で本当によかったわ〜…それにしても」
安息するアクアはそう言いながら、窓の外で淡い赤色を発する街とベッドで眠るウィズ双方を見比べていた。
「怪獣は現れるわ…ウルトラマンは現れるわ…私程じゃないけどウィズがやられるわ…挙げ句に街は壊されるわ…まったく、一体全体何がどうなってるってのよ」
「…んな事俺にだってわかんねぇよ…ただ」
愚痴るアクアに対して、椅子に腰掛けたまま顔を伏せぶっきらぼうに返すと同時に、カズマは改まって語りかける。
「一つだけ…ハッキリと分かった事がある」
「分かった事…ですか?」
「何よ、もったいぶらずに言いなさいよカズマ」
首を傾げるめぐみんと急かすアクアに対し、二人に向けないままゆっくりと顔を上げ前方を見るカズマ。
眉間にしわを寄せ敵意剥き出しの目を作り、自分の中の思いに対して決別するかの様に、そして二人に宣言するかの様にカズマは呟く。
皆様が夫々好きな音楽を聴いてその場のシーンに合わせて頂けたらなと思ってます。
因みに私は、今回のゼファーの戦闘はテイルズオブイノセンス(以下TOI)から
「剣を以って打ち砕け」を。
ゆんゆん達を見て思い出す所は、同じくTOIから
「オルゴールの思い出」をイメージソングにしてます。
ウィズが呆気ない、ゼファー強過ぎは承知の上です。
ネタバレになりますが、なにせ超新星爆発に耐えた暗黒破壊神と関わりがありますからこれぐらいでなければと思ってます。
じゅんはまだ生きてますのでご安心を、それでは。