こんなのクリス≒エリスじゃないと思われるかもしれません。
それでもお付き合い頂けたら幸いです。
静まり返った始まりの街アクセル。
冒険者を含む全ての人々が一致団結し、怪獣と巨人によって燃える街の消火に取り組み、鎮火させる事に成功。
壊れ尽くした家や建物を立て直す為にも明日に備え全ての人々が寝静まる中、一人だけ暗闇の中起床した人物がいた。
「………」
破壊から免れた宿屋のベッドに眠るじゅんを、見下ろす様に見つめるのはクリス。
傷口を防ぐ為の布が両頬に貼られた何とも痛々しい状態とは対象的に、すやすやと眠るその顔はとても愛くるしい物だ。
悲観に思うか微笑ましく思うか、2つの内のどちらかはたまた両方が沸き上がるだろうが、クリスのその表情と思いはどちらでも無く…一瞬で凍りつかせるのではと思わせる程の暗く冷たい目となってじゅんを見つめていた。
しかもクリスの右手には、得物であるマジックダガーが握られている。
「すぅ…すぅ…」
「……」
寝息を立てるじゅんを見つめていたクリスは、この部屋でない別の部屋に居るゆんゆんに向け心の中で語りかける。
「(あたしは言ったよゆんゆん…友達だからと言って…その人が必ずしも自分や周りに良い影響を与えるとは限らない…て)」
自分とじゅんを二人きりにする様に言い包めたのは他でもないクリス本人。
最初は渋るもクリスを信じて託したゆんゆんを何処か咎める様に、そしてその友達と言うのがじゅんと自分自身だと言い聞かせる様に思いながら、右手に握るダガーに力を加える。
最初に出会った時からじゅんから薄々と感じる邪悪な気配。
二人に接触し仲間となったのも…じゅんがこの世に悪影響を及ぼす者かどうかを見極める為。
そしてじゅんが巨人となって破壊の限りを尽くし、災いを齎す存在だった事が証明された…。
ダクネスと言う友が、カズマ達の様な賑やかに騒ぎを起こす人々が生きるこの世界が滅びるかもしれない…それだけは阻止しなければ。
それはクリスとしてでもあり…それ以上に女神であるエリスとしての意志でもある。
そんな自分の中の神としての本能が叫び訴える…“目の前の悪魔を殺せ!殺すんだ!”と。
…ゆんゆんは本当に優しい娘だ…危なっかしいほどに。
それ故に…今からあたしが行う事をしたらゆんゆんは絶望し…生きる気力を失うかも知れない。
ならあたしは悪人となって一生憎まれ役として居続ける事にしよう。
…反吐が出る程の身勝手な偽善だ…それも甘んじて受け入れる…全ての汚名と憎悪を背負うんだ。
覚悟を決めた様に、手に持つダガーに自身の神の力を纏わせるクリス。
薄っすらと刀身が光るのを確認すると、逆手に変えて刃を下向きにする。
後は心臓部目掛けてふりおろすだけだ…せめて苦しまない様に一突きで仕留めよう。
情けをかける思いを抱きながらダガーの柄を両手で握り、頭上より高く振り上げる。
そして勢いよく振り下ろそうとした直前に。
何か水の様な物がベッドのシーツに落ちて濡れるのを見た途端、クリスは自分の体に起こる異変に気付く。
「え…あ…あれ…あれ?」
落ちてきた水の正体…それはクリス自身が流す涙に他ならなかった。
一時中断し左腕で涙を拭う…だがそれでも止まる事なく、寧ろ拭う度に流れ出る涙の量が増えるばかりだった。
「(なんで…なんでなのさっ…あたしは決心した筈だ!殺らなきゃならないって!…それにもう忘れたの!?…じゅんがこの街で何をしでかしたのかを!)」
冷酷になりきれてない自分を咎める様に言い聞かせながら、巨人となって破壊するじゅんの姿を脳裏に浮かべ怒りと憎しみを引き起こそうとするクリス。
なのにその感情が沸き上がらず逆にズキズキとした胸の痛みに襲われてしまう。
「(じゅんのあの態度も喋りも性格も全部あたし達を欺く為の
激しく言い聞かせるクリスだが、過激な言葉を使えば使う程胸の痛みも激しくなるばかりか…流れる涙も止まらずとうとう身体さえもが震え始めたのだった。
「(…あたしは…わたしは…
「(
「(違う!
脳裏に響くはゆんゆんの言葉…それを聞くたび動揺し、クリスとエリスそれぞれ使い分けてる一人称が混ざる程の支離滅裂となって混乱してしまう。その時だった。
「ん…んん…」
「っ!?」
突如として出てきたじゅんの声。
目を覚ましたのか…暴れる心臓を必死になだめ様子を見るクリス、直後にじゅんの口から出た言葉は。
「…ゆん…ゆん…クリ…ス…」
「はっ…!」
起床する気配も無く目を瞑ったままである以上は寝言なのは間違いなかった、だがじゅんのその寝言はクリスに凄まじい衝撃を与える事となった。
先程まで自分が殺されそうだと言うのに呑気に眠り続け…あろう事かゆんゆんのみならず殺そうとする自分の事まで呟くのだから。
こっちの気も知らないで…呆れる気持ちも確かにあるがそれ以上に支配したのは、とてつもない虚しさと切なさだった。
そして同時に、自分とアクアの上司である一人の女神の言葉をクリスは思い出す。
クリスの脳裏に数時間前の事が蘇る。
黒い巨人が消滅しその場へと向かい着いたクリスの眼に映った光景。
「じゅんくぅん…やだよぉ…ひっく…死なないでよぉ…ねぇ…!」
目を瞑るじゅんを泣きじゃくりながら必死に起こそうとするゆんゆん。
「(やっぱりゆんゆんだ…でも何でじゅんが…まさか…じゅんがあの巨人…!?)」
その状況を見た事で、あの巨人の正体がじゅんである事を瞬時に見抜き理解するクリス。
だが同時にクリスの中で溢れんばかりの感情が押し寄せて来た。
「(じゃあ…あたしはじゅんを…この手で殺そうと…あたしが…あたしが!)」
神としての本能も確かにあったがそれを遥かに上回る感情…じゅんを知らずに殺そうとした事への恐怖と罪悪感。
「ハァッ…ハァッ…ハァッ…ハァッ…!」
その事実に気付いた途端、呼吸を荒げると膝を曲げ自分を抱きしめながらうずくまるクリス。
先の自分の行いがフラッシュバックとなって映し出され、震える体を益々強くさせた。
「ハァッ…ハァッ…グッ!」
だが、僅かに残る理性を震え上がらせ荒れる心を押し止めたクリスは、自分の心境を悟られない様この状況に相応しい態度を表しながらゆんゆんへと近づく。
「ゆんゆん!」
「ク…クリスゥ!…じゅんくんが…じゅんくんがぁ…!」
何故ここにと言う疑問を抱く余裕が無い程まで追い詰められたゆんゆんは、クリスに助けを乞う様にすがる。
落ち着いてとなだめながら抱きしめられてるじゅんを見るクリス、左右の頬から流れる血を見てゆんゆんと同じ罪悪感に襲われるが、それを何とか抑え脈等を図りながらくまなく調べた。
「………大丈夫、気を失ってるだけたよ。でも傷の手当が必要だ…宿屋でも何でもいいから一先ず休める所をさがそう、そしたら何があったかも聞いてあげるからさ」
こうして気絶したじゅんを連れ空き家となってる宿屋に駆け込んだクリス達は、じゅんの手当と同時に経緯を聞く事になった。
…けれどもそうじゃない、聞かれたからじゃない、それ以前からクリス自身本当は分かっていた。
「(…そうだよ…あたしはじゅんが好きだよ…普段ぼ〜としてて危なっかしくてこっちの懐がヤバイ程沢山食べるくせにさ…でもとても穏やかで凄く優しい心を持ってて…だから怖かったんだ…今まで一緒に居た時間が…全部嘘っぱちになる事が…何より自分の手で殺そうとした事が…)」
「(それにまだ全部が分かった訳じゃない…あたし達の知らない存在がまだいるのかも知れないんだ…そいつがじゅんに何かしたのかも知れない)」
「(…分かってるよ…起きてからじゃもう遅い事くらいちゃんと分かってる…それでも)」
「(それでもあたしは…信じたい…あの時体を貼ってゆんゆんを守った…じゅんのあの行いを………あたしは信じたいんだ!!!)」
「(だから怖がらないで…怯えないで…振り回されないで…
自分の本当の気持ちに素直に向き合う度に、神の本能が囁いてくのを感じるクリス。
だがその本能を振り払い逆に言い聞かす様に語ると、耳元で囁き続けた声が無くなり聞こえるのは未だ眠るじゅんの寝息音のみだった。
そしてクリスは気付く、窓の外が薄っすらと明るくなり始めた事に。
少し外の空気に当たろう…何とか抑え割り切れても火照った身体と頭は未だ熱を帯びており、それを冷やし更に落ち着かせる為にもと考えたクリスは握り締めてたダガーをゆっくりと鞘に戻す。
「すぅ…くぅ…」
「まったく…こっちの苦労も知らないで呑気に寝ちゃっててさ…このガキンチョめ」
苦笑いで軽く悪態をつきながらも、起こさない程度の力加減でじゅんの頭を優しく撫でるクリス。
神の本能が決して消えた訳ではない…けれども、抗うに値する程の絆が芽生えてる事に目を逸らさず受け入れるクリス。
それが吉と出るか凶とでるかはそれこそ神ですら分からない、でも今だけは信じる様に努める事にしよう…目の前で眠るじゅんに…自分とじゅんを信じるお節介なゆんゆんに…そして二人を好きに思ってる自分自身の為にも。
一通り撫で終えたクリスは部屋を出ようと忍び足で歩きドアを開け、そして完全に閉める前に隙間から除くじゅんの寝顔を見ながら小さく呟いた。
心の葛藤を何とか書いたのですがかなり手こずりました。
次回の話の内容予定。
「じゅん、ウルトラ戦士としての第一歩を踏み出す」