今回の様に遅くなると思いますのであしからず。
ドラマパート的なので、戦闘は次回になります。
それと、コスモス20周年おめでとうございます。
「ん…うぅん…」
窓から刺す光を感じたじゅんは重たい眼を開け目を覚ました。
少し抜けた体の感覚と両頬の違和感…昨日から何があったのかと混乱する中、無意識にガーゼが付いてる頬にじゅんは手を当てる。
「じゅんくん、クリス、おきてるかな…て」
それと同時に二人の名を呼ぶ声が部屋に鳴り響くも、声の主のゆんゆんは目を覚ましてるじゅんの姿を見て思わず固まってしまう。
何せ今までエメラルドグリーンだった瞳が今は自身を含めた紅魔族とは異なる奇っ怪な真紅の瞳に変わってしまっていたのだから。
最も今のゆんゆんにとってそれは二の次な事でしかない。
生きて目を覚ました事以上の喜びは無く、涙をたらふくに浮かべながらこちらを見るじゅんに近寄る。
「…よかった…じゅんくん…じゅんくん!」
自分の温もりを送るのを含めて思いっ切り抱きしめようとするゆんゆん。
じゅんはそんなゆんゆんの、手を両方に広げる姿を目にした瞬間。
「…っ!」
「…えっ?」
近づくゆんゆんにじゅんは思わず身を引いてしまう。
「…あ…あれ?」
何時もなら甘んじて受け入れる筈…なのに今回に限っては、ゆんゆんのあの言葉と表情…そしてそこから繋がる夢で見たあの光景…その全てが鎖となってじゅんを雁字搦めにしてしまう。
状態をよく理解出来ず自分の手を見つめるじゅん…本人が自覚してるのか分からないが他者から見ても震えてるのがよく分かる光景にゆんゆんは黙る訳にもいかず一歩踏み入れようとした直後。
「あ、ゆんゆん…それにじゅんも!」
後ろからくる呼びかけにゆんゆんとじゅんは視線を向けると、外の空気に当たってたクリスがこの部屋に戻ってきた。
「クリス!丁度良かった、じゅんくんが目を覚ましたとこなのよ…ただ」
「そっか、体の具合は…じゅん?その目は」
少しおかしい状態のじゅんを言おうとするゆんゆんだったが、目を覚ました事と異変を起こしてる瞳を見た余り耳に入らなかったクリスは困惑しながらも徐に近づく。
そんなクリスの表情をじゅんが見た途端。
「ひっ!」
今度は明確な拒絶ばかりでなく、普段表情の薄いじゅんが強く表すほどの強張った表情に変わってしまう状態になってしまう。
「じ、じゅんくん!?」
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…!」
吸って吐く行為を荒々しくしながら、じゅんは両肩を掴んで己を守る様な体制をつくる。
尋常じゃないその姿に驚きを隠せない二人、そして。
「どうしたの!?何があったのじゅん!?」
クリスが思わずじゅんの肩に手を掛けた次の瞬間。
「ああああ!ああああああ!!!」
今まで発したことの無い悲鳴を上げたじゅんはクリスの手を乱暴に振り払うと、振り返る事なく一目散に駆け出し部屋から出る…否、逃げ出してしまう。
驚愕する二人だが、この中で最もショックを受けたのはクリスだった。
「(まさか…じゅんはあの時気付いてたの…それともあたしが撃った事に…!)」
寝込みに殺そうとした事なのかそれとも巨人となった時に撃った事なのか…いずれにせよ拒絶された事が想像以上にショックだったクリスは、弾かれた己の震える手を見つめながら沸き上がる罪悪感に苛まれていた。
「…リス…クリス!」
「はっ!」
そこへ横からゆんゆんの呼び掛けに気付き現実に戻される。
「…わたし、じゅんくんを探しに行くけど…クリスはどうする?」
ゆんゆんも昨日の事で話し合った身として今のクリスの心境が痛いほど伝わる。
無理せずこのままここに居たほうがと気遣うものの、クリスはゆっくり首を横に振り否定した。
「あたしも探すよ」
「クリス…」
「あんな事した手前だからこうなる事は覚悟してた…正直言って思った以上に結構キツイし…やっぱり怖い…また拒絶される事が…でも」
心配そうに見るゆんゆんにクリスはこう答える。
「ジッとココに居てもさ、どうにもなんないから…ね?」
空元気な笑顔を作る表情に、ゆんゆんは胸を痛める。
自分も含めお互いじゅんを傷つけてしまった…彼だって何も分からず振り回された身の筈。
あんな事されて怖がる訳が無い…本当はゆんゆん自身も拒絶されるのではと恐れている。
だが、自分達以外に誰がじゅんを信じたり受け入れる事が出来るか…代わりなどいない事を瞬時に理解してたゆんゆんはクリスの言葉を聞き入れ、決意を改めた。
「…わかったわ、なるべく早い内に見つけよう」
もし手間取ってたら最悪アクセルの外に出るのかもしれない、それだけは何としても避けるべく二人は急いで探しに向かった。
「ハァッ!ハァッ!ハァッ!ハァッ!」
じゅんは走る、只ひたすら走り続けた。
何故二人から逃げてしまったのか、じゅん自身にも分からなかった。
だが、無我夢中に走り続ける度にすれ違う周りの人々の声が耳に入る。
“店が…俺の店がぁ!”
“私達の家がぁ!”
“何なんだよあいつらは!ちくしょう!”
“お父さん!お父さん!”
“うわぁあああああん!”
「うぅ!ぅううう!ううううう!」
入ってくるのは昨夜の出来事によって、家や店を壊され、家族が傷付いた人々の嘆き悲しむ声。
その声を聞くたびにじゅんの脳裏には自分が巨人となって勝手に暴れる光景が嫌でも映り込んでしまう。
これ以上耳にしたくない、見たくない一心でじゅんは両手で耳を塞ぎ頭を強く振って逃げる様によりいっそう走る速度を強めていた。その途端。
「うわぁっ!」
走る事に集中する余り誤って足を滑らせたじゅんは盛大に転んでしまう。
膝や顔等全体的に痛みが来る中、無意識に真横の壁に手を当て強引に立ち上がるじゅん。だが同時に。
「…っ!?」
その壁には透明な窓が貼られ、うっすらと自分の顔が映し出されており、そこでじゅんは自分の顔…特に目が異常な赤色に変わっている事にようやく気付く。
その禍々しい赤い目にじゅんは思わず目を擦って取ろうとするが、当然ながら取れる筈もなく依然として赤いままだった。
呆然とするじゅん、するとそこに。
「じゅん?」
自分の名前を呼ぶ声に思わず体を向けると、そこには声の主であるカズマに加えアクアとめぐみんの姿もあった。
「カ…ズマ?」
思いもよらぬ知り合いとの遭遇に名前を口にしながら硬直してしまうじゅん。
一方でカズマ達は、じゅんの目が紅魔族とは余りにも異なる異様な赤い目になってる事に気付き、無視する事など出来る筈なく話し掛ける。
「どうしたんだよその目は?」
「私達紅魔族のとは明らかに異なってますが…」
「わかったわ!さてはガキンチョ悪魔、それがアンタの正体なのね!」
困惑するカズマとめぐみんとは対象的に、女神であるアクアは只でさえじゅんの事を「悪魔」と見なしてる事もあり、神の本能のまま人差し指を向け敵意むき出しな態度で強気に言う。
「…あく、ま…ぼく…」
「悪魔」と言う存在が何なのかをアクセルに来る以前からゆんゆん達に聞かされ知ってたものの、何故アクアは自分の事を「悪魔」と呼ぶのかがいまいち理解できなかった。
だが、今のじゅんにはあの黒き巨人になって町を破壊する光景が未だに残っており…それがどれ程酷い行いなのかを理解してるが故に、自分がアクアの言う「悪魔」なのだと思い始める。
同時にじゅんの中で、自分の意思では無いが故にカズマ達と一緒に居たウィズを攻撃した場面が蘇ってしまう。
「う…うぅ…!」
「ど、どうしたんだじゅん!?」
知り合いに危害を与えた背けたい事実に再び蹲るじゅん。その苦しそうな姿にカズマは思わず駆け寄ったのだが、触れようとした直前にじゅんは再び立ち上がると彼等から逃げる様に背を向け、再び走り去って行った。
「いったいじゅんじゅんに何があったのでしょうか…」
「おいアクア!お前が毎度んな事言うからじゅんが逃げたじゃねえか!」
「な、なによ!だってしょうがないじゃない!私含めた神達は悪魔相手に本能で敵意剥き出しになっちゃう物なんだから!」
じゅんの姿が完全に見えなくなった後、その場に居たカズマ達はそれぞれ言いたい事を言い合っていた。
するとそこへ。
「めぐみん!それとカズマさんとアクアさんも!」
息を切らしながら走るゆんゆんが、カズマ達の姿を目にし此方に近寄っていく。
「ゆんゆん、貴方も無事だったようですね。ですが生憎と昨日の騒ぎもありますから貴方からの勝負はいつかの後日と言う事で」
また何時もの様に「勝負よ!」と言ってくるだろと思っためぐみんは、最もらしい理由で適当に断ろうとしたのだが。
「そんな事はどうでも良いのよ!」
「な、なんですって?」
まさかの勝負事ではなく、それどころかどうでも良いと言われる始末。
余りの予想外の返答にめぐみんは思わず固まってしまうが、そんなめぐみんを余所にゆんゆんは鬼気迫る勢いでカズマ達に尋ねた。
「じゅんくんを、じゅんくんを見ませんでしたか!?」
「じ、じゅんならさっき出会ったけど、何か血相をかえてあっちに走って行ったぞ」
「あっちにですね…ありがとうございます!」
その姿と勢いに困惑しながら、じゅんが走って行った方向に指を指したカズマに対し感謝の言葉を言ったゆんゆんは、再び走り出しカズマ達から去っていった。
「あ、おいゆんゆん!」
呼び止めようとするカズマだったが既に後ろ姿が小さくなってた為に、ゆんゆんの耳に入ることはなかった。
「まさかあのゆんゆんが勝負を“どうでも良い”等と…」
「そんなに珍しいのか?」
「珍しいなんてものじゃありません!私にとって“ゆんゆん=勝負の持ち込み”と言う方程式になってるのですが、これまで出会い頭に勝負事を持ち掛けなかったことなど一つもありませんでしたから」
どんな方程式なんだよ…と心の中で突っ込むカズマ。
じゅんのあの目と言いゆんゆんの焦る態度と言い、正直なところ気にならないといえば嘘になるのだが。
「それよりもカズマ、一先ずあのガキンチョ悪魔とゆんゆんの事は置いといてギルドへ向かいましょう。あの騒ぎで壊れてないと良いんだけど」
「あ…ああ、そうだな」
こちらはこちらの用事が有る以上は詮索する余裕はそんなにない。
少し心苦しいが一通り落ち着いたら何があったのか後で聞いてみることにしよう、そう割り切ったカズマはギルドのある方へと向かっていった。
じゅんが逃げてかれこれ数時間が経過した。
盗賊のスキルを使っても中々見つけられない事に、クリスは焦り始めていた。
いくら何でも手こずるのはどうも可笑しい…強いて可能性を上げるならじゅんの身体能力が自分が考えてる以上に向上しているからか?
でも特訓などさせた覚えはない…もしや一度メモリを使ったあの時から…それとも巨人になった影響からか?等と思考を巡らせたものの“外に出た”と言う最悪な展開をいよいよ持って考えなきゃならないかと、クリスは顔をしかめ始める。
そうして走っていると、一軒の人気のない店の前で体育座りをして蹲る人の姿を目にする。
「(あれは…じゅん!)」
上着は寝所の宿屋に置いてしまってたが、背格好に加え特徴的な白色の髪…決して見間違うはずがなかった。
とりあえずアクセルにまだいる内に見つけひと安心したクリスは早速声を掛けようとする…しかし。
「じ………」
ただ呼び掛ける、それだけの筈なのにそれ以上声を出す事ができなかった。それどころか。
「っ『潜伏!』」
気配を感じたのか、じゅんがクリスの居る方に顔を向ける直前に盗賊スキル“潜伏”を思わず発動させてしまう。
誰も居ない事に気のせいかと思ったのか再び俯くじゅんに対し、クリスはじゅんの隣に空いてある隙間の壁に入り込み同じ様に座り込んでしまう。
「(…なにやってんのさ…あたしは…)」
自虐気味に心の中で呟くクリス、その理由は本人も自覚していた。
見つけたのは良いものの今のじゅんの精神状態と、何よりクリス自身が二度に渡ってじゅんを殺そうとした事が重い足枷になっていた。
特に二回目の際はじゅんの正体が分かった上で且つ寝込み中と言う傍から見れば卑怯な行い…“今更どの面下げて会うというのだ”…探すと言っておきながら自身の行いと拒絶されると言う恐怖の余りスキルを使って逃げた自分への自己嫌悪が渦巻きクリスも同じく体育座りのまま顔を俯かせてしまう。
お互いがすっかり塞ぎ込んでしまい動かなくなってから約数十分程経過した、その時だった。
「じゅんくん?」
自分の名を呼ぶ声に思わず勢いよく顔を上げると、目の前にはゆんゆんが立ってじゅんを見下ろしていた。。
「(ゆんゆん?)」
「っ!」
まさか自分と同じく見つけるとは思っても見なかったクリスだったが、ゆんゆんの顔を見た途端にカズマ達の時同様に血相を変えたじゅんは直ぐに逃げようと立ち上がったのだが。
「ま、待って!」
もう逃がさないように、何より1人きりにさせないように、ゆんゆんはじゅんの背後からがっしりとしがみつく。
「うぅ!うううう!」
「お願い、もう逃げないで!何も酷いことしないから…ね?」
暴れるじゅんを力強く抱き締めながら落ち着くように促すゆんゆん。
すると通じたのかじゅんは暴れる事を止め変わりにふるふると体を震わせながら、閉じていた口を開きゆんゆんに問いかけ始める。
「ゆ…ゆんゆん」
「大丈夫だよ、ゆっくり話してみて」
「……この…か、んじ…なに?」
「え?」
質問の内容を上手く把握することができず困惑するゆんゆんだが、じゅんは更に続ける。
「むね…くる、しい…ほか…ひと、たち…かお…みる…す、ごく…くるしい…ぼく…あ、れに…なって…こ、わす…へん、になる…から、だ…ふる、える…これ、なに…わからない…わからない」
じゅんの言葉を聞いたゆんゆんは無論の事、潜伏で身を隠し聞いてたクリスも同じように言葉を失っていた。
それはじゅんに肝心な事を教え足りてない事である。
そもそもじゅんは他の人達に比べ感情の起伏が低くいだけでなく自覚症状も非常に薄い。
特に最初の頃なんかはこちらから行動を起こしても無反応が殆どで、心臓が動いてるだけの“生き人形”同然の状態であった。
それでも彼女達…特にゆんゆんの懸命なコミュニケーションの甲斐もあり、今現在も薄いのだがそれでもちゃんとした感情を生み出す事ができた。
しかし、全てが揃った訳じゃなくまだ自覚してない感情がいくつかありそれを教える事を怠ってしまったばかりに、じゅんは自分の中で暴れる感情の1つが理解出来ずに振り回され苦しんでいた。
それに気付いた二人はちゃんと教えて上げなかった事への申し訳なさと同時に、今じゅんを掴んでるゆんゆんは教えてやらねばと思い口を開けゆっくりと語りだす。
「それはね…“恐怖”…“こわい”って言うんだよ」
「…きょ…うふ…こわ、い?」
「…誰かに怒られたり傷つけられる事もそうだけど…他の人達に苦しい事、辛い事、嫌な事をしてしまって傷付ける事も…すごく怖い事なんだよ」
「…じゃあ…こ、れが…きょうふ…こ、わい…こわい…こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい!!!」
ゆんゆん自身まだ若く未熟ながらも出来る限り分かる様に説明をした。
すると、自身の感情…恐怖を彼なりに自覚し向き合ったのか、その瞬間壊れたかの様に“こわい”と言う言葉を何度も発する事により強く体を震え上がらせてしまう。
「…じゅんくん!」
そんな痛々しい姿に何もする訳にいかなかったゆんゆんはじゅんを強引にこちらに向けさせると、開けた自身の胸に埋めさせながら抱きしめ、同時に右手を頭に乗せゆっくりと上下に動かし優しく撫で始める。
「…ゆん…ゆん?」
「…こわかったよね…辛かったよね…痛かったよね…苦しかったよね…私がいるから…ここにいるから…大丈夫だから安心して…ね?」
そう言うゆんゆんもじゅんの様に体や声を震わせながら話しかける、それは決してじゅんが怖いからでなく、彼の心境を理解したから故にである。
いきなりあんな巨人に変身するだけでなく巨大モンスターを相手に戦い、更に加え足元に建つ建物を躊躇い無く壊していった。
それがじゅんの意思でないことは彼の今の姿からでもわかり、寧ろ操られていた可能性が非常に高い。
そんな訳の分からない事に振り回されて怖い思いをしない筈がない…じゅんの心を汲み取ったゆんゆんは何故この子が苦しまなければならないのか…理不尽な現状を恨めしく思いながらもせめて少しでも安心させなければと、涙を流しながら止めること無く頭を撫で続けた。
「…ゆんゆん…うぅ…ひっく…あうぅ…えっぐ…」
今まで逃げたのも全ては恐怖心からだった。
拒絶される事…責められる事…再び殺意を向けられる事…そして自分が悪魔かもしれない事。
けれどもゆんゆんは、自分が想像した事を何一つせず、逆に受け入れてくれた。
心細かった事もあり、ゆんゆんの包み込む優しさと温もりに涙と共にすすり泣き、すがるように強く抱き締めた。
「(じゅん……っ!)」
二人の会話を聞いていたクリスもまた、同じように涙を流す。
じゅんはただ何者かに振り回され、それ故にこんなにも苦しい思いをしてしまったのだ。
殺そうとした事実が消えるわけではないが、あの時神の本能に支配されていれば自分は取り返しのつかない過ちを犯すところだった。
方や無力な事に…方や多くの人々を傷付けてしまった事に…方や過ちを犯そうとした事…それぞれ違えども同じ言葉を直接口に又は心の中で呟いた。
お互いがしばらく泣きあった事で落ち着く事ができ、じゅんは自身の身に起こった事を分かる範囲で説明する。
あの巨大モンスターを見た途端に奇妙な感覚に襲われその後の記憶は曖昧となっていたが、ゆんゆんの泣き顔を見た途端に自分が巨人になっているのに気づき、モンスターの攻撃からゆんゆんを守ろうと体を動かしたと。
それを黙って聞いてるゆんゆんと未だに隠れてるクリス、するとじゅんはこんな事を言い出す。
「…ゆんゆん…」
「なぁに、じゅんくん?」
「…ぼく…あ、くま…だよ」
「え?」
「アクア…さま…いって、る…ぼく…ガキ、ンチョ…あくまって…」
「(アクア先輩めぇ~…て、あたしもどうこう言える立場じゃないよね…)」
ゆんゆんから自分が帰ってくるまでにあったことを一通り聞いてたが、相変わらずなアクアの姿勢に他の悪魔やアンデッドならともかく仲間のじゅんは例外なので恨めしく思うクリス。
尤も人(?)の事を言えるもんじゃないと自覚してるので、ひとまず置いとくとし更に続けるじゅんの言葉に耳を向ける。
「ぼく…アク、セル…いえ…おみせ…こ、わした…ウィズ…カズマ…アクアさま…めぐみん…たく、さん…ひと…きず、つけた…こわ、がら…せた…だから…ぼく、は…」
“悪魔”…もう一度自分やゆんゆんに言い聞かせようとした、その直前に。
「違う!」
ゆんゆんの否定する声が遮る。
「じゅんくんは悪魔なんかじゃない!アクアさんの言ってる事なんて真に受けなくて良いんだよ!」
「(…まぁ確かに、先輩に関してはそんなに…ね…)」
「…じゃあ…ぼく…だれ…なん、だろう…」
悪魔で無いのならば自分はいったい…そう考えるじゅんに、ゆんゆんは迷うことなく即答した。
「決まってるよ…“じゅんくんはじゅんくんだよ”」
「ぼくは…ぼく?」
返ってきた返答に対し徐に言うじゅんに、ゆんゆんはじゅんに対する想いを告白する。
「もし…もしも本当に悪魔だったとしても…それ以外だったとしても…私には関係ないもの、だってじゅんくんは…ホへーとしててびっくりする程沢山食べて…でも一緒に居ると凄く安心して心がポカポカする…私の大好きなじゅんくんに変わりないんだから」
子恥ずかしい思いはあれど育んできた関係もあり、素直に伝え再び安心させようとするゆんゆん。
「…ゆんゆん…でも…やっぱり…こわい…ぼく、が…こ、わい」
それでもじゅんから不安の色は消えない、その理由は他ならぬ自分自身によるものだった。
「あ、の…かいぶつ…またで、たら…ぼく…また…こ、わす…みんな…きず、つける…」
「(…じゅん…)」
再び甦る巨人となった時の記憶。
何故こんなにもくっきり覚えてるのか未だ分からないが、いずれにしろ
また再び恐怖の心が支配されようとするじゅんを案じるクリス。
だがそんなじゅんの恐怖心を阻止したのはゆんゆんの言葉に他ならなかった。
「…大丈夫。今のじゅんくんなら、きっと大丈夫だよ」
「…どう、して…わか…るの?」
なぜ自信を持って言えるのか分からずに首を傾げ問い掛けると、ゆんゆんは笑顔を作りながらじゅんを再び抱きしめ開けた胸に埋め込ませる。
「私がこうして生きてることが証拠だよ」
「しょ…うこ?」
「あの時、私の事を助けようとしてくれたんだよね?それは他でもないじゅんくんの意思だったんだよ?…私がこうして生きているのはじゅんくんのお陰なんだよ…ありがとう、守ってくれて」
感謝の言葉を送られてくすぐったい感覚を覚えるじゅんは、これが“嬉しい”事なのだと一人思いながらゆんゆんの話を聞き続ける。
「だからかな…今のじゅんくんなら、きっと大丈夫だって思うの。勿論そうしない様に私が守ってあげるからね」
そう言うゆんゆんに対し、守ってくれる事に嬉しさも確かにあったが、それ以上に1つの疑問が浮かぶ。
「ゆんゆん…どう、して…ぼく…しん、じて…くれ、るの?」
ゆんゆんも怖い思いをし、ましてや巨人が自分であるのにも関わらずこうして受け入れ信じてくれる。
嬉しさはあれどこんな自分を信じる根拠が掴めずにいるじゅんは問いかけた。
そんなじゅんに対しゆんゆんは、目を瞑りながら独白するかの様に語り始める。
「私は昔から、紅魔族の皆みたいな感性がそんなにないから、変わり者で見られて…それが余計に皆の輪に入る事が出来なくて…めぐみんにだって本当は笑い合う友達で居たいけど…“魔力で負けたくない”…“超えたい”…“勝ちたい”ってライバル心が優先しちゃってあんな風にしか接する事が出来なくて…そんなんじゃどう言う態度を取られるか分かってる筈なのに毎回同じようにやって勝手に傷ついて…ボッチでいることが殆どで…凄く寂しくて…辛くて…そんな自分が正直言ってね…大嫌いだったの」
「(ゆんゆん…)」
「……」
粗方想像してたがまさかこんなにも思い詰めてたとは…ゆんゆんの悩みを聞いたクリスは複雑そうに顔をしかめていた。
「何も変わらないまま…変えられないまま嫌いな自分でい続けるのかなって…そう思ってた…でも」
そこで一区切りをつけたのか、暗い表情だったゆんゆんがやんわりとした笑顔に変える。
「じゅんくんが、それを変えてくれたの」
「ぼく?」
胸の谷間から見上げるじゅんにゆんゆんはコクリと頷く。
「ルミさんの時だって、じゅんくんが居なかったらきっと私は恥ずかしさと不安で逃げてたと思う…でもじゅんくんが進んで手伝おうとしたから私も一緒にする事が出来だ。じゅんくんが、私に“勇気”を出させてくれたの」
「ゆう…き?」
「そう、じゅんくんを信じる事は同時に私自身を信じる事でもあるんだって思うの。それには凄く勇気が必要になるし同時に不安や怖い思いがいっぱい沸いてくるの…でも、じゅんくんがこうしてここに居るから私は…ほんの少しだけど“私”の事が好きになって、勇気を持って不安や恐怖に立ち向かって信じられるの…じゅんくんを…そして私自身を」
「…ぼく…にも…ゆ、うき…ある…かな」
「もちろんよ!私に勇気を出させてくれたじゅんくんが無い筈がないもの、だから信じて欲しいかな…私やクリス…そして私達を信じる自分の心に。そしたらきっと出せるよ…“勇気”を」
「…あり、がとう…ゆんゆん」
感情が希薄故に何時もの無表情であるが、感謝の言葉を送ってくれるだけでも今のゆんゆんには十分に満足であり嬉しさから少しだけ抱きしめる力を強める。
「取り敢えず宿に戻ろうか、立てる?」
「…いっぱい…はしって…つか、れた…けど」
大丈夫と言おうとしたじゅんだが、その前にゆんゆんが徐に屈むと少し強引にじゅんを自身の背中に乗せた。
「無理しなくていいんだよ、私がおぶってあげるね」
「…うん」
そうしていざ歩こうとする直前に。
「ねぇ…ゆんゆん」
「ん?」
じゅんに呼び止められ顔だけを向けると、彼はこんな事を言い出す。
「クリス…ぼく…のこと…きら、いに…なら、ない?」
「(…っ!)」
ここに来て自分の話題が来るとは思ってなかったクリスは驚く。
その一方でゆんゆんは、質問を質問で返す形でじゅんに問う。
「…じゅんくんはどう思う?」
「…ほん、とは…こわい…でも」
おんぶされながら自分の本心を言うじゅん。怖い思いはあれどそれ以上にこうしたいと言う思いが勝り、ゆんゆんの服を少し力を入れて握りながら答える。
「ずっと…なか、よく…し、たい」
「そっか…その気持ちを持っていれば、きっと大丈夫だよ」
自分もそうだがあんな目に遭っても仲良くしようとするなんて…本当に誰に似たのやら。
少々自虐的に思うものの、じゅんの優しさに笑みを浮かべながら答えたゆんゆんは、今度こそ宿屋に向けて歩きだす(尚、後になって我ながらなんとも恥ずかしい行為に及んだものだと悶絶する)。
そして、その場で一人となったクリスは目をつぶる。
じゅんと言いゆんゆんと言い人が良すぎるにも程があるよ…でも、そんな二人だからあたしは好きで居たいんだ。
クリスは自分の心に素直に向き合いながら、宿屋に二人が着き少し時間を置いて戻れば自然だろうと考え暫く離れる事にした。
そして、時刻は七時前後と暗くなっていく時間どき。
アクセルから遠く離れた森の中にソノモノが歩いていた。
「ゼファーのメモリは十二時間で既にチャージ済み…休み時間も与え…前回は直接だったが今回はゼファーは勿論だが街の住人、冒険者達の実力も少し調べておきたい…ここで起きたデュラハンとデストロイヤー時の様に集まってもらう為にも………ここらへんならば程良く集められる時間も得る事だろう」
ぶつぶつと独り言を呟いていたソノモノは歩みを止めると、右腕に装着された篭手
“サモンガントレット(略SG)”を展開させ、左腰のホルダーから再びメモリを取り出す。
「ベムラー」
「エレキング」
二本のメモリを差し込み、再び閉じる。
「さぁ、第2幕の時間だ!」
着けられたSGを右腕ごと天に向け、ガチャリと引き金を引き光弾を発射した。
ルナの声がスピーカーを通してアクセル全体に鳴り響く。
昨日の悪夢が再び訪れるのを恐れる人々は我先にと逃げ出し、一方で呼び出された冒険者達も恐怖はあれどこの街を守るために(一部、特に男性冒険者は不純な理由ではあるが)一丸となって立ち向かおうと正門に向かった。
一方で人気の無い宿屋に戻っていたじゅんとゆんゆん、夕食にしようとゆんゆんと共に作った料理を全てテーブルの上に並べてたが、ルナの呼び掛けが二人の耳に入るとじゅんは体を強く震え上がらせていた。
「あ、いつ…きた…!」
「………」
また巨人になってしまう…恐怖心がじゅんの全てを支配しようとしたが、黙っていたゆんゆんはじゅんの前へ屈むと両手を肩に乗せて促し始める。
「じゅんくん…アナタは街の皆と一緒に南の裏門から逃げて、その間に私達で食い止めるから」
「ゆんゆん…は?」
「きっとめぐみん達も集まって来ると思うから、冒険者として私だけ逃げる訳にはいかないの…それに」
そう言うと、再びじゅんを抱き締める。
ゆんゆんとて本当は恐怖心でいっぱいだった…けれども自分以上に怖がってる子が目の前にいる。
自分の方が冒険者としても年齢の方も上、そして何よりも愛しいこの子をなんとしてでも守りたい…ゆんゆんの中の恐怖心は強い“愛情”によって抑え込まれた。
「この街と…何よりもじゅんくんを守りたい…だから私は、勇気を出すの。大丈夫、無事に戻ってくるからね」
安心させるように背中を優しく擦るゆんゆん。
すると、ドアが開く音が入りお互い顔を向けるとこちらに駆け込むクリスの姿が目に写った。
「クリス!」
「…クリス」
「ゆんゆん、じゅん、ここにいて良かった。それと聞いた?さっきの放送」
「ええ、今から私だけ向かう所よ…じゅんくんには裏門に逃げるように言ったわ」
そう言われるクリスは一瞬だけ目線をじゅんに向けると、再びゆんゆんに戻す。
「ゆんゆん、あたしも後から向かうからじゅんと二人っきりで話がしたいの…お願い」
この様な事態に普通なら悠長な事などしてられないと否定するだろうが、クリスの真剣な眼差しに断ることが出来ずゆんゆんはじゅんに問い掛けるように名前を呼ぶ。
「…じゅんくん」
「…ぼく…いい、よ」
静かに頷きながら言うじゅんを見たゆんゆんは、「先に言ってるね」と伝えると一目散に駆け出して宿屋から出て行き、残ったのはじゅんとクリスの2名だけになる。
向き合うクリスに対しじゅんは恐れる気持ちはあれど、ゆんゆんとのやり取りもあり“ちゃんと言わなくては、ずっと仲良くしていたい”と自分の想いを伝える事を決めると、いざ喋ろうと口を開こうとした直前に。
ギュッ…
突然クリスが膝を曲げ屈むと、じゅんを抱きしめ始めた。
「クリ…ス?」
いきなりの行動に目を見開くじゅんを他所に、クリスは静かな口調で話し始める。
「分かってるよ、じゅんの言いたい事…あたしも聞いてたから」
「………」
「あたしね、悪魔やアンデッドの様な悪い奴達なんて皆居なくなれば良いって強く思ってた…昔程じゃ無いけど…今でも残ってるの…“悪魔達はいなくなれ”って本能が…うんうん、もう“呪い”だねこれは」
「………」
「あたしの中にはね、そんな消えない呪いがあるんだよ…またじゅんを傷付けるかもしれないよ…それでも…こんなあたしと…仲良くしたい?…仲間でいたい?」
抱き締めるのを止め一旦顔を離すクリスは、真っ直ぐにじゅんを見つめる。
未だに禍々しい赤い目であるが、恐れる事も気味悪がることも無くじゅんの返事を待つ。
そして、口を閉じてたじゅんは重々しくも口を開き答えた。
「…なか、よく…したい…クリス…ゆんゆん…いっしょ…がいい」
「そっか…」
遠回しにじゅんを悪魔だと言ってる様なものなのに、それでも仲良くしたいと言ってくれた。
その瞬間、罪悪感と愛しさが混ざり合った様な感情に突き動かされたクリスは、ガーゼが着けてある両頬に手を付けながらじゅんのおでこに自身のおでこをくっつける。
「ゴメン…ゴメンねじゅん…キミを傷付けて…怖い思いも…苦しい思いも味あわせちゃって…」
「…ぼく、も…クリス…ゆんゆん…みん、な…きずつけ、た…ごめん、なさい」
「…じゅんは悪くない…何も悪くないから…」
喜怒哀楽の中で、落ち込むと言う“哀”の部分を表情としてはっきりと顔に出すじゅん。
その表情を見て更に胸を痛めるクリスは、“悪くない”と優しく言い聞かせながら一番に伝えたかった事を語りだす。
「あたし頑張るから…あたしの中の“呪い”に負けない様に頑張るからさ…これからあたしの言う事を…どうか信じて欲しいんだ」
「………」
「例え悪魔だったとしても…それ以外の何者かだったとしても…“じゅんはじゅんだよ”。私達の仲間で友達で…大好きなじゅんだからね」
「…だい…すき…」
ゆんゆんと同じ事を曇りない笑顔で答えるクリス。
オウム返しに“大好き”とじゅんが呟くと、手を離したクリスは「気を付けて逃げるんだよ」と言い残し、正門に集まってるゆんゆんを含めた冒険者たちの元へと駆け出し去って行った。
「………」
一人残ったじゅんはその場で佇む。
ゆんゆんとクリスの言う通りにして逃げるべきなのに、何故か直ぐに行動を移すことが出来なかった。
それは恐怖からではなく、“このまま逃げて良いのか”と言う疑問が足枷となってじゅんを動かなくしていた。
その理由はアクセルに来る前にゆんゆんとクリス同様に、教え育ててくれた一人の老人“コウ”とのやり取りが脳裏で蘇っていたからだった。
一通り思い出し、じゅんは考える。
僕はゆんゆんが、クリスが好き…一緒に居ると僕も胸がポカポカして心地が良い…それに最近出会ったウィズ、カズマ、めぐみん、アクア様、ホリュー…二人程でないが好き嫌いを付けるなら好きな方になる。
皆で一緒に冒険…ご飯を食べる…色んな事を話す…今なら分かる気がする…これが“楽しい”と言う事。
でも、
僕の事を信じてくれたゆんゆん。
呪いに負けない様に頑張ると言ったクリス…そんな二人が同じ事を言ってくれた。
巨人となって暴れてしまった僕を…ありのままの僕を笑顔で受け入れてくれた。
そんな二人が他の
けれど、巨人になったじゅんだから薄々と勘付いていた…恐らく皆で挑んでも勝てないかも知れない。
もし思った通りになってしまったら、カズマ達が…なによりも…ゆんゆんとクリスが…“死ぬ”。
燃やされる…踏み潰される…食べられてしまう…様々な死の光景を思わず想像してしまい身震いするじゅん…だが。
その言葉を再び思い出した瞬間、じゅんに1つの
ゆんゆんは僕が巨人になっても大丈夫だって言ってくれた…クリスは以前から悪魔が嫌いな筈なのに悪魔かも知れない僕を受け入れてくれた…そんな二人が他の人達のように
「…イヤだ…!」
あんな
それならやる事はたった一つだけ…答えを掴み取った瞬間のじゅんの行動は速かった。
両頬に貼られたガーゼを無理矢理剥がし残ってしまった横一線の傷痕を剥き出しにしながらも、じゅんはテーブルに並んだ全ての料理を貪り始める。
「アグッ!ハムハムグムグッ!ガツガツグムグムッ!」
野獣の如し食べっぷりだが、じゅんとてこんな食べ方は本意ではなかった。
ましてやゆんゆんと共に作った料理だ、本当なら味わって食べたい所…けれども今の状況がそれを許さなかった。
「ムグムグッ!…ごちそう、さまでした」
あるだけの料理を詰め込み最低限の感謝の言葉を送ったじゅんは、すかさず今度は自分が寝ていた部屋へと向う。
ずかずかと進み乱暴に開けたじゅんは、最初に目に映る自身の青い上着を手に取り着込む。
次に注目した物は、ある意味自分の何もかもを狂わせたメモリが入った二つの箱とペンダントだった。
最初は成行きで所持してたが、そのせいで散々な目に遭った事もありその道具達を忌々しく思い始めるじゅん。
けれども…目の前の道具無くして
なにより育て主の一人であるコウは言っていた。
何をしたいのか、考え決めた事はなにか…今この瞬間に生きるじゅんはそれを見つけていた。
二つの箱を鷲掴んで両腰に付け込み、ペンダントを再び首に巻き付けたじゅんは、決意を固めた様な表情を作り外へ向かうのだった。
次回、じゅんが自らの意思で変身し戦います。
同時に困難にも直面致します。
それでは。