保育施設ピースの子供達による批判の声を受けたじゅんは一目散になって走り出て行った。
我武者羅のまま走り続け、人気の無い木々が生える場所の中にある石段に腰掛けそのまま俯いてしまう。
目を瞑っても脳裏に浮かぶのは自分の意思に関係なくゼファーに変身し対峙するエレキベムラーを相手にしながら、壊していく建造物、悲鳴、恐怖と絶望の表情で逃げ惑う人々、先の子供達の自分事ゼファーに対する怒りと憎しみの余りに涙する姿。
まるで自分を責める様に映し出される映像に、じゅんは俯くのを一旦辞め顔を上げたが。
「っ!?」
その拍子で自分の手の平を見るが、乾き切った血がベッタリと張り付く様に映ってしまう。
恐怖に駆られ思わず手に付く血を落とそうと自身の服装に擦り始めていた所に。
「「じゅん(くん)」」
聞き慣れた声が入りそちらに向けると、ゆんゆんとクリスそして少し遅れながらもカズマが到着した。
二人の呼び掛けで現実に戻った事で改めて自身の手が真っ白なのを認識し、あれは幻覚で最初から血が付いて無い事に気づくも、それでもじゅんの心は決して晴れずそのまま沈み続けていく。
「…ぼくが…あ、のこの…おや…きっと」
「違う!じゅんくんじゃないよ!」
「でも…ぼくが…あばれた…まき、ぞえ…した…かわ…らない」
即座に否定するゆんゆんの言葉も耳に入らず自虐するじゅん。
冒険稼業を行う以上、命のやり取りは絶対のルールであり皆が自覚し受け入れてるのだが、こればかりは訳が違う。
ましてや死なせた相手はモンスターでも冒険者でもない無関係の一般人。
罪悪感で押しつぶされるじゅんに、クリスは徐に思ったことを投げかける。
「じゅん…それならキミは、今後どうしたいの?」
「…もう…いやだ…たた、かい…ゼファー…なり、たくない」
返ってきた言葉は弱音だけでなくウルトラマンとして戦うことの放棄。
その様に吐くじゅんに無理もないと思い不安げな表情のゆんゆんとは対象的に、クリスは眉間にシワを寄せ目を細めながらじゅんを見つめる。
そんな中、二人の背後に居ながらやり取りを見守っていたカズマが口を開く。
「…なら、またあの時の…怪獣が現れたらどうすんだよ」
「…めぐみん…まほう…あれで…そ、れに…ウルトラマン…ほか、いる…その、ひとに」
「任せるってか?…そうかよ…」
それは完全なる他人任せのそれだった。
今のじゅんは良くも悪くも年相応の子供らしい答えでもあり、カズマ自身も魔王の討伐絡みで身に覚えがあり決して人の事が言えないのは重々分かっていた。
だが、じゅんのその言葉を聞いて自分の中の何かがピキッと言う音を立てたのを感じ取ると、佇む二人を横に退かして俯くじゅんに近づくと、湧き上がる激情に身を委ねるカズマはじゅんの胸ぐらを乱暴に掴み。
「バカヤロオオオ!!!」
「ひっ!」
アクアに対し行った怒鳴り声を今度はじゅんにも叩きつけた。
突然な事にじゅんは恐怖し、ゆんゆんは驚き、クリスに至っては一瞬だけ目を見開くも直ぐに無表情へと変え静観するように見つめる。
「なにヘタれて腑抜けた事を言ってんだよ!お前がやらないで誰がやるんだよ!」
「…で、でも」
「確かにめぐみんの爆裂魔法は凄まじいけどな、それで必ず倒せる保証なんて何処にもないんだよ!以前の怪獣がまさにそれだろ!」
「う…うぅ…」
「ウルトラマンのお前が今ここに居ない別のウルトラマンに縋ってどうすんだよ!そんな甘ったれた考えでアイツらと戦って行けるのかよ!?何よりもそんな風に泣いてばかりいて俺たちを…お前の大切なゆんゆんとクリスを守れるのかよ!!!」
「カズマさん!!!」
溢れる感情のまま容赦なく物申すカズマだったが、ずっと見守っていたゆんゆんは我慢できず声を荒げて静止した。
ハッとなって我に返るカズマに。
「カズマくん…もう十分だから…そのへんにしてあげてよ」
ゆんゆんに続いて宥めるように言うクリス。
その言葉を聞き頭に登った血が下がるように感じ、一定の冷静さを取り戻したカズマは未だにじゅんの胸ぐらを強く掴んでる自分の行為に気づき慌てて手を離す。
「じゅん…その…おれ…」
「えぐ…うぅ…!」
カズマの剣幕に呑まれ泣きじゃくってしまったじゅん。
弁明をしようと考えるもそれはそれで自分が惨めで情けなくも感じ、気まずい中でカズマは頭を掻きながら泣き続けるじゅんの隣に座る。
すすり泣く声だけが全員の耳に入る中、数十秒ほど経った頃にカズマは息を吐きながら呟く。
「ふぅ…今なら“セブン”の…“ダン”の気持ちがなんか分かるような気がしてきたな…」
「ぐすっ…セブン?…ダン?」
ウルトラ戦士を良く知るクリスを除いたじゅんとゆんゆんは、名前と思われる聞き慣れない言葉に首を傾げるが、カズマは落ち着かせる事も兼ねてその人物の事を説明した。
「“ウルトラセブン”はウルトラマンの次に活躍したウルトラ戦士で、人間の姿に変わって自身を“モロボシ・ダン”と名乗って防衛隊の仲間達と一緒に地球を守ったウルトラ兄弟の三男なんだ」
「えっとカズマさん、三男と言うことは他にも兄弟がいるんですか?」
「ああ、セブンも含めて11人程な。って言っても血の繋がらない義兄弟の間柄で、兄弟は言わば称号や肩書みたいなものだけどな」
そういう事かと思うと同時に、もしこの場にめぐみんが居たら目を輝かせて興奮するだろうなと1人納得するゆんゆんを他所に、カズマはセブン事ダンについて更に説明を続ける。
「セブンは…ダンは心の底から地球と人間を愛したんだ、自分の体が傷付いてボロボロになってまでも戦い続けるくらいに」
「(…分かるよ…あの御方の地球や人間に対しての愛がとても深く今も想い続けている事も)」
「それからもう一度地球を守るために向かったセブンだったけど、マグマ星人て言う侵略者とソイツが操る二体の怪獣に追い詰められた…けどそこに、“レオ”って言う別のウルトラマンが現れて助けてくれたんだ…けれど」
ここまで説明したカズマだったが、ここに来て思い詰めるような表情へと変わる。
「ダンはさっき戦ったヤツラのせいで片足を傷めて杖が無いと歩けない程の重症を負って…なによりセブンに変身することが出来なくなっちまったんだ」
「え…」
「そんな…!」
「……」
「それでダンは自分を助けたウルトラマンレオ…“おおとり・ゲン”に自分に変わって地球を守るように頼んだけど、セブンを始めたウルトラ兄弟は俺らの感覚で例えたらベテラン中のベテランの冒険者、或いはグラなんとかを持った魔剣の人みたいな勇者の肩書を持つ奴で、逆にレオは少し腕っぷしがあるだけの程度の低い冒険者くらいの実力しかなかったんだ」
その魔剣の人というのは恐らく有名になってるミツルギの事を指してるのだろうが、あからさまに覚えてないふりをする辺りカズマはミツルギの事を嫌ってたりどうでも良い存在と思ってるのだなとゆんゆんとクリスは察する。
尤も今重要なのはカズマの語るレオやセブンの事であり、魔剣の人には申し訳ないが蚊帳の外に置くことにした。
「そのレオ、ゲンさんと言う方は」
「勿論戦った…けどセブンと違って素人同然だから最初の頃は必ず敗北した。そして今度は負けないようにダンの指揮で特訓をしたんだ…けどアレは文字通り死んでも可笑しくない程の強烈な地獄の特訓だったさ」
そう言いながら、カズマはゲンが行った特訓の中で最も過酷且つ良し悪し含めた印象深い物2つを選り抜きした。
一つは、真冬の寒さの中で流れる滝を文字通り断ち切る為の特訓。
そして極めつけなのが相手の突進攻撃に対処する為に、ジープと呼ばれる馬が必要なく馬車以上に早く走れる乗り物を使ってダン自ら操りゲンに向かって突っ込むという殺人行為同然の特訓。
それを聞いたゆんゆんはその常軌を逸した特訓の内容に戦慄すると同時に、そのゲンに稽古を付けたであろうダンと言う人物には人の心がないのではと思わずにはいられなかった。
クリスに至ってはウルトラ兄弟に救われて以来、彼等に関することを本人から直接耳にする事もあれば天界で記録された戦歴等を閲覧した事もあって把握していた。
傍から見れば非人道的と批判されても致し方ないかもしれないが、当時の彼等の状況を考えれば他の方法を模索する余裕などこれっぽっちも無かったのだから仕方なかったことだろう。
ただここで、ふと自身の親友であるダクネスがこの事を耳にしていたら…と言う考えが浮かび、そこから起こりうるであろう展開を想像し別の意味で眉間にシワを寄せてしまう。
「あークリスの言いたいことは分かるぜ。ダクネスがこの事を聞けば十中八九は羨ましがって興奮まったなしの発情期になることは間違いないだろうからよ」
「「(…確かに)」」
味わった本人や第三者からは地獄でも、ドMのアイツにとってはご褒美満天の天国と思われる。
ダンだけでなくウルトラ兄弟入りして貫禄がついた今のゲンがダクネスと遭遇してしまえば確実に困惑することだろう。
色んな意味で出会わせてはならないのではと思う中、少し脱線し始めた事に気づくカズマは改めるように戻していく。
「と、兎に角だな、ダンの活躍を見てた俺にとって鬼の様な変わりっぷりは結構ショックで苦手だった…でもこうして本物の怪獣を目の当たりにしたらさ…変身も出来ないし兄弟の援軍も期待できない崖っぷちの状況で唯一レオに任せる以外に方法が無かったんだろうなって思うし」
「……」
「なによりも…本当はダン自身がなんとかしたかった筈。自分が怪我だけじゃなくて変身も出来ていたら、一般人同然のレオを…ゲンを戦いの場に無理矢理入れる事なんてしなかったと俺は思うんだ、少なくとも無関係の人を好き好んで巻き込む様な人じゃないからさ」
本気で地球を愛したが故に非情の鬼となってゲンを痛めつける稽古をするも、彼の性格を踏まえれば戦えない自身の情けなさと自分以上に過酷な目に遭ったばかりのゲンを戦わせることへの罪悪感を人知れず常に抱き味わい続けていたことだろう。
そんな憧れの人の心境をカズマなりに察していると、ずっと聞き手だったじゅんが口を開き自分の心情を話す。
「…こわ…かった…あのこに…みん、なに…つぐ、なう…おかね、いがい…わからない…なに、より…ぼく…しなす…きず、つける…また…したら…おも、うと…すごく…こわい…」
目を強く瞑って両手を握りこぶしに変えるじゅん。
その姿を見て、三人は理解した。
家族を直接間接に関係なく奪ってしまったルーベルや他の子たちへの償いの仕方が分からず、何よりも今度からは自分の意志でゼファーに変身することが出来る以上、今後の全ての責任はじゅんの行動次第によるもの。
守りきれず被害を出してしまったら…そのせいで誰かを傷付けてしまったら…。
他者が悲しむことを良しとしない性格故に、その重圧が重くのしかかる。
そんなじゅんに対し、カズマは怒ることなく諭すようにあの人物の言った言葉を送る。
「じゅん…“ウルトラマンは決して神ではない。どんなに頑張ろうと救えない命もあれば、届かない想いもある”」
「…」
「これはな、一番最初に地球にやって来たウルトラマンの“ハヤタ”がメビウスって言う後輩ウルトラマン、“ヒビノ・ミライ”に送った言葉なんだ」
「え?」
「なぁじゅん、お前は他のウルトラマン達の事をどんな風に思ってた?」
「…つよくて…ぜったい…まけ、ない」
「確かにな…でもどんなに強くても決して“無敵”なんかじゃないし完璧じゃない、ウルトラマン達にだって沢山の苦痛や悲劇を味わったんだ…さっき言ったレオだって、生まれ故郷の星をマグマ星人達のせいで滅ぼされたから地球を第二の故郷として暮らしてたんだ」
カズマの語ったレオの境遇を聞き、クリスを除いたじゅんとゆんゆんは衝撃的な内容に目を見開く。
だがそれもレオが味わった悲劇のごく一部に過ぎなかった事を、カズマの語る内容を耳にし思い知ることとなる。
唯一の生き残りで且つ双子の弟である“アストラ”と再会するも、彼もまたマグマ星人に捕らえ救助されるまでに奴隷の日々を送っていた事。
そして最大の悲劇が、邪悪な者によって呼び出された怪獣によって防衛隊の仲間だけでなく家族同然に親しかった人達の内の一人を除き全員殺されてしまった事を話した。
「……」
「レオだけじゃない、他の兄弟達も辛い経験をして…その中でジャックとヒカリは凶悪な奴等のせいで大切な物を守れなかった事だってあったんだ」
クリスはまだ良いとして温厚な二人にこれ以上ショッキングな話をするのは忍びなく思うも、ウルトラマン絡みで関わる以上は避けては通れない道だと割り切るカズマは、ジャックとヒカリに起こった悲劇を語る。
ジャックは兄のような男性と恋人の女性を、“ナックル星人”と言う宇宙人によって男性ばかりか恋人の女性もジャック…“郷秀樹”に看取られる形で殺されてしまう。
ヒカリは“アーブ”と呼ばれる水晶の様な姿形の生命体を守ろうとするも、“ボガール”によってアーブの民達全員が食われ全滅し、絶望の余りにヒカリは復讐の鎧を纏って“ハンターナイトツルギ”になって復讐の鬼に変貌した。
各々のウルトラマン達が味わった苦しみを聞いたゆんゆんは、聞き慣れない言葉もあって全てを理解した訳じゃないが、もしそれが真実の下に物語として語られてるのだと思うと悲惨過ぎて胸を痛めてしまう。
一方でクリスは、カズマの語った内容が全て事実であることを知っていた。
「(あの御方達を深く知る事は抱える痛みや悲しみ、そして絶望を理解しなければならない。テラス様にそう言われた上で私は知ってしまった…ジャック様…郷秀樹さんの想い人が間近で息を引き取った時の深い悲しみと絶望…そしてレオ様の仲間と親しき人々がシルバーブルーメに…ヒカリ様が愛したアーブの民がボガールに…)」
追体験の形で見て聞いた彼等の食われ潰される際の断末魔の悲鳴。
当時は余りの悲惨な内容に思わず吐いてしまった程でもあり、今思い返しても身震いが来てしまう程。
「それでも彼等が戦えたのはな、悲劇を味わったからこそ今を生きてる人達に自分の様な目に遭って欲しくなかったり、一緒に生き残った弟分に強く生きてもらう為だったり、他のウルトラマンや人間と触れ合ったことで守るべき物を新しく見つけたからこそ立ち上がる事が出来たんだ…だからこそ、“ウルトラマン”て言う名前には一言じゃ言い表せない程の想いが沢山込められているんだ」
「…ぼく…ウルトラマン…てが、かり…しか…かんがえ、なかった…ぼくに…その、なまえ…な、のる…きっと…だめ…むか、ない」
自分とは違いまだ見ぬウルトラマン達の強い精神と心を感じ尊敬したが故に、今の自分にはウルトラマンを名乗る資格なんてないのではと思い詰めるじゅん。
そんなじゅんの考えを察するカズマは、じゅんのこれ迄の行いを思い出させるように優しく問う。
「なぁじゅん、お前がゼファーになって立ち向かったのは何でだ?」
「…ゆんゆん…クリス…みんな…アイツ…たべ、られる…いや、だから」
「そっか、じゃあ次にお前があの怪獣にやられて逆に俺らが襲われてた所を助けてくれた。アレだけ痛めつけられたのに無理してまで立ち上がったのは何でだ?」
「…しぬ…ころ、される…ぜったい、いやだ…だから…いたいの…がまん、した」
あの時抱いた気持ちを思い出しながら正直に言ったじゅんに、カズマはフッと笑みを浮かべながらじゅんの頭の上に手を置いた。
「それだよじゅん、ウルトラマンにとって一番必要なことは」
「カズマ?」
「ダンもミライに言ったんだ、“大切なのは最後まで諦めないことだ。どんなに辛い状況でも未来を信じる心の強さが不可能を可能にする。信じる力が、勇気になるんだ”ってさ」
「しんじる…ちから…ゆうき」
「お前が勇気を出して立ち向かって、そして最後まで諦めなかっただろ?お前が不可能を可能にしたから皆が助かって今があるんだ」
「……」
「分かってる、それでも居なくなった人がいる事実は変わらないって事も…じゅん。ウルトラマンヒカリが言った、“彼等の命はもう戻らない…しかしこれから守れる命はある”」
「これ…から」
「そうだ、償いだって一緒に遊んだりおいしい料理を振舞ったり小さくてもしてあげる事はちゃんとあるしそれしかないからこそ全力で取り組める事が出来る筈だ。それともお前の守りたい想いはその程度の小さいものなのか?」
最後らへんは自身のパーティーにも向けた発破を押さえ気味ながらもハッキリと口にする。
我の強い彼女達ならギャアギャアと吠えてわちゃくちゃになる所だが、温厚なじゅんはそうせず素直に受け止め、首を横に振りながら自身の想いを伝える。
「カズマ…いった…おお、いなる…ちから、には…おおい、なる…せき、にんが…ともなう…ぼく…こわくて…にげる…しようと…した」
「…そっか…」
「でも…ほかの…ウルトラマン…たたかう…ぼく、だけ…しない…だめ…おもった」
「…そうだな」
「まだ、こわい…ある…でも…あのこ…みんな…まもりたい…きもち、ある…だから…つぐなって…まもる…ぼく、たたかう…ウルトラマン、なる」
「よく言ったぜじゅん、でも一つだけ約束してくれよ。ゾフィーがヒカリに言った事だけどお前の命はお前だけの物じゃないからな。ゆんゆんやクリス、俺やめぐみんにダクネス、そんでアクア…は置いとくとして、兎に角お前を想ってくれる人がちゃんといるから無茶もそうだけど、何よりも生きて帰ってこいよ。俺も俺なにりやれる範囲でサポートするからな」
「…うん…カズマ…あり、がとう…それと…めい、わく…かけて…ごめん、なさい」
「気にすんなよ、俺の方こそあんな風に怒鳴って怖がらせてゴメンな」
「カズマ…わるく、ない…ぼくが…にげ、ようと…」
「いやいや、じゅんがそうなっちまうのは無理もないから悪くはって、ああもうヤメヤメ!こうしてたって気落ちするだけだからここまでだ!」
「う、うん」
強引に終わらせられ戸惑い気味のじゅんにそれまで聞き手だったゆんゆんとクリスは、落ち着き再び立ち上がる様になった様子でもう大丈夫と判断し二人に近づく。
「ゆんゆん…クリス…ぼく」
「良いんだよじゅんくん、謝らなくても」
「うん、キミは本当に強い子だよ」
そう言って二人は安心させる様にじゅんの頭を優しくなでる。
「そんじゃ改まったことだし戻るとすっか…と言いたいとこだけど、俺はもう少しだけここに居るわ」
「…それじゃアタシもここに居ようかな、ゆんゆんも出来れば残ってくれて欲しいんだけど?」
「え?…でも、じゅんくんが」
「ぼく…ピース…もどる…みち…わかる、から…だいじょうぶ」
「だってさゆんゆん、これも成長に必要な経験だと思って一人で行かせてあげようよ」
人一倍じゅんへの庇護や保護意識が強いゆんゆんだが本人やクリスの後押しもあり“気を付けてね”と言うと、コクリと頷きじゅんはその場を一人去って行った。
後ろ姿が見えなくなり三人だけその場に居る中、先に口を開いたのはクリスだった。
「ねぇカズマくん」
「ん?どしたクリス」
「キミに2つ言いたことがあるの、ありがとう…それとゴメン」
「は?」
「クリス?」
感謝は良いとして謝る様な行為などしてない筈なのに。
突然の事で拍子抜けする二人に対し、クリスはその理由を話す。
「遅かれ早かれメモリを使う時が来るってあの人も言ってた…挫けて放棄しそうになったあの子を咎めて厳しく叱ろうとした、ゆんゆんには無理な行いだと思ったからアタシがやるつもりだった…たとえ嫌われてもね」
「………」
「ゆんゆん、アタシはキミの性格を決して批判してる訳じゃないよ…ただ」
「いいの…クリスの言う様に私には抵抗があるしきっと出来なかったと思う…」
あの時必要なのは慰めることではなく立ち上がらせること。
そこまで頭が回らなかった故に、代わりの人が一種の憎まれ役を被る事となった。
その人物であるカズマにゆんゆんは思わず謝ろうとした。
「カズマさん」
「別に謝らなくても気負わなくてもいいぜゆんゆん。俺はただ自分が死にたくないから愚図るアイツが使い物にならない様に口でシバイてやっただけだ、まったくアイツも見た目通りチョロいもんだよな、俺も俺で古臭い熱血キャラなんて柄でもない演技をしちまったけど、ガキンチョ相手には充分だったみたいだな」
そんな風にニヤついた顔で言うカズマはアクセルの住人に言われてるクズやらカスのそれであった。
普通ならそんな不愉快な言葉と態度に怒りを抱くところだが、カズマの人柄をある程度把握してる二人から見れば、彼が無理いて悪ぶってる事は見抜いていた。
「カズマくん…今更ゲスっぽくしても演技が下手すぎるよ」
「なに言ってんだよクリス、オレは別に」
「ダクネスも言ってじゃないか、自分を責めるのは止めるんだって…キミがじゅんに対して心を痛めてるのは分かってる…だからそうやって悪ぶらないと自分が潰れてしまいそうなんだって事もさ」
「……」
「だけど、自分を責めても何にもならないし悪くなる一方だよ…パーテイーは違っても同じ冒険者でじゅんを思ってるあたし達は仲間なんだから…自分を偽るのはもうやめなよ…」
「……はぁ〜」
そうクリスに諭されまるで観念したかの様に深いため息を吐くカズマ。
唐突に立ち上って数歩ほど離れた場所に立つ大木に近寄り、数秒ほど中心部分を見つめた次の瞬間。
「カ、カズマさん!?」
「……」
カズマは目の前の木に渾身の力を込めた右ストレートを打ち付けた。
突然の行動に驚くゆんゆんと静かに見つめるクリス。
鍛えてるわけでもなく右手から少量の血が流れ、同時にズキズキとした痛みも広がるが、それが気にならない程にカズマは様々な思いに苛まれていた。
「なにがセブンの気持ちが分かるだよ…なに無責任なことばっか吐いてんだよ俺は…!」
「「…」」
「冒険者でもウルトラマンでもじゅんは子供に変わらねぇってのに…ただでさえ重苦しいもんばっか背負わされてるアイツに追い詰めるような事をしちまって…!」
カズマは今ほど自分自身を恥じ、責め立てるにはいられなかった。
自分も冬将軍によって死んだことがあるが、その時はアクアの能力によって生き返りまた何時もの騒がしいやり取りで終えていた…だが本来ならそこで自分の人生は終わりなのが当たり前であり恐ろしい事の筈だった。
この異世界の在り方やメンバーのノリと雰囲気で忘れかけた死の恐怖を再び思い出したが故に、生き死に敏感なじゅんの心境を理解した。
ましてや人の命を奪う若しくは失う切っ掛けを作ったと言う罪を心優しいじゅんが背負う羽目になってしまった。
唯でさえ理不尽な物を背負うばかりか、聞こえの良い事を言っても追い詰められてるじゅんに戦うよう強制した事実は変わらない。
ダンやゲンの様な人物ならまだしも言い出しっぺの自分はどうなんだ?…彼等のような御大層な行いを自ら進んでやって来たか?…そのどれも殆どが成行きやトラブルやらで仕方なく対処してきただけで、本当なら巻き込まれたくないし楽していたいぐうたら人間。
最弱職業の冒険者でレベルも低い自分がなにをもって彼等の言葉を借りて偉そうな事が言えるのか…分不相応な事を言った自分が情けなく自責の念が渦巻くばかりだった。
「…あんな言葉を言う資格はないってのに…俺なんかの言葉を無理に受け止めちまってさ…」
「大丈夫ですよ」
そんなカズマを励ましたのはゆんゆんだった。
「じゅんくんはきっと嫌々や無理をしたんじゃない、カズマさんの語った事をじゅんくんなりに素直に受け止めた…受け止める程あの子は強い子なんです、私には分かりますから」
一体どこら自信を持って言えるのか、そう疑問に思うカズマの思考を察したのか、ゆんゆんはその根拠となる過去の出来事を語り始める。
あれはアクセルに来る前の、じゅんくんが落ちて来た雪山の付近にある村でのことでした。
じゅんくんを拾ってクリスや名付け親の人と暮らしてたある日。
その頃は春を迎え始めたのでクリスと3人でピクニックに出掛けたのです。
川沿いのある場所を見つけそこでランチを嗜むことにしました。
クリスは飲み物を買ってくると言って離れた売店に向かって、それなりの時間が経った頃に私は…その…用足が起こったので、じゅんくんに此処から動かないでねと言い聞かせてから離れて一人にさせてしまいました。
用を終えてから途中でクリスと再会した私は一緒に戻りました…けれどそこで目にしたのは川の中で必死に藻掻いてるじゅんくんの姿でした。
一瞬頭の中が真っ白になりました…ですが気付いた時には身体が勝手に動いて、私は一目散に川へと飛び込むと、溺れそうなじゅんくんを救助しました。
此処から動かないでねと言った筈なのになんで溺れていたのか問いただそうとしましたが、じゅんくんの腕に抱えてるソレを見て瞬時に理解しました…それはじゅんくんと同じくびしょ濡れの小さな子犬でした。
「もしかして、その子犬を助けるために?」…率直に尋ねる私にじゅんくんはコクリと頷きました。
途端に私は「バカぁ!!!」と声を荒げてしまいました。
そこから私がじゅんくんに何を言ったのかはうろ覚え程度になります。
やれ何で無茶な事をしたのとか、やれ私達が来てなかったら溺れてたのよ…なんて事を言った気がしましたが、兎に角必死に叱ってたと思います…そんな私に“ごめんなさい”とじゅんくんは謝って…私は思わず抱きしめ泣きじゃくりながら何度も謝ったのは覚えてます。
私が目を離したせいでこの子は危うい目に遭ってしまった…同時にそうまでしてでも腕に抱える小さな命を助けようとする程、この子は優しく確かな強さを持っている事を知りました。
「そんな事があったのか…」
「あの時はビックリしたよ、じゅんが溺れてた事もそうだけど盗賊のあたしより先に飛び込んで行ったゆんゆんの行動力はさ」
苦笑い気味に当時の事を思い出すクリス。
その様な出来事があったからじゅんをあそこまで気遣えてたのかと納得するカズマに、ゆんゆんは話す。
「名付け親の人はこうも言いました、私達にできる事はじゅんくんを導いて支えてあげる事だって…カズマさんがウルトラマンの事を語ってくれたおかげでじゅんくんはもう一度立ち上がることが出来ました…だから、カズマさんの行いは間違っていないと私は思います」
「もしそれでも気に病んでるならカズマくんの出来ることは唯一、カズマくんなりのやり方でも良いからあたし達と一緒にじゅんを精一杯支えてあげることだよ」
「…はぁ〜、改めてオレはとんでもない事に関わっちまったもんだぜ…けどしょうがねぇよな。此処で中途半端になって逃げちまったら…今度こそオレはダメ人間になって後戻りが出来なくなっちまうし…オレなりにだけど腹を括っていくか」
二人の言葉を聞いたカズマは、自分なりながらもじゅんが中心となるウルトラマンや怪獣関係に向き合っていく事を決心するのだった。
「ところでよ、一つ言いたいことがあるんだ」
改まる様に話し掛けたカズマに何なのだろうと首を傾げる二人。
するとカズマは鼻から目一杯空気を吸い込むと。
「イッデェエエエエエエエエエ!!!折れてる、これ絶対折れてる!うぉあああああしぬぅうううううう!!!」
大木に打ち付け負傷した右手の痛みが今頃になって感じ始めてしまい、その激痛の余り見えも恥もかなぐり捨て見るも無様にゴロゴロと転げのたうち回る。
「カ、カズマさん…」
「あ、あはは…」
なんともカズマらしい締まらないオチに只々苦笑いをする二人だった。
因みにその後、ピースに戻ってアクアに転んでぶつけた等の適当な理由で浄化魔法を頼むカズマだったが。
「プッ!あの幸運値“だけ”は高いカズマさんが、たかだかすっ転んでケガしちゃうだなんて〜!とうとうご自慢の幸運も尽きちゃったのかしら〜?プークスクスクス〜超ウケるんですけど〜♪」
所変わり、アクセルから離れた場所にある森林。
そこでは魔王軍所属のゴブリン数体が茂みの中を彷徨い歩いていた。
なぜ彼等がこの場に居るのか、理由は調査のためである。
低レベルの駆け出し冒険者しかいな事もあって今まで眼中になかったのだが、幹部であるベルディアやバニル並びにデストロイヤーがあのアクセルの冒険者達によって討伐された情報が入り、極めつけはそのアクセルに突如として現れた怪獣と呼ばれる巨大モンスターとウルトラマンゼファーなる人を模した様な漆黒の巨人。
双方の存在は魔王やその幹部達にも知れ渡り、そしてゼファーを除いて至る各地で目撃される多種多様の怪獣達。
危ない橋を渡ることになるが奴等はなんとしても戦力に加えたい事もあって、最初に出現したアクセルの近辺に怪獣やゼファーの何かしらの手がかりを探すよう魔王からの命令の下で探索をしていたのだ。
「とは言ってもよ、その怪獣とゼファーって巨人か?オレらで何とかできると思うか?」
「さぁな、巨人の方は分かんねぇけどあの怪獣って奴は図体がデカイだけのモンスターと対して変わらねぇ筈だ」
「躾や調教で物にできりゃ良いが、4〜50メートルもあるって話だからこりゃ骨が折れまくりそうだぜ」
そう愚痴りながら草木が生える中を歩き回る中、一体のゴブリンの目にキラリと光る何かを見つけそれを手に持った。
「どうしたモブA」
「モブ言うんじゃね!てめぇだってモブBのくせによ!」
「やめろ!モブC言われてる俺にとっちゃ“モブ”は禁句だっての!…んな事より、何を見つけたんだ?」
しょうもない言い争いをしながらも仲間のゴブリンが訪ねたことで発見した物を見せた。
それは手の平に収まる程しかない、スイッチらしき物が付いた四角形の何かだった。
「なんつーか、如何にも自然に出来たものじゃないって感じだな」
「見たことねぇ代物だな、マジックアイテムのそれか?」
「どうだろうな、試しにいっちょ押してみるか」
「「ちょ、おま!?」」
明らかに怪しいソレのスイッチを押すことにしたAに対し止めようとしたBとCだったが間に合わずカチッと言う音が響いた。
聞いたことのない言葉が発せられると同時にその四角い物が粉々になると、現れた光の粒子が形を形成し始める。
三本の爪を生やす両腕の内側に飛膜の様な物が付き、鋭いくちばしの両頬に丸い袋をぶら下げた、頭部から背中までトサカらしき突起物を生やした鳥を彷彿とさせた怪獣…“火山怪鳥バードン”となって姿を現した。
「エェエエアアアア!!!」
「アイエエエ!?怪獣!?怪獣ナンデ!?」
「いやお前が押したのが原因だろうが!」
「つうか何をどうしたらこんなバカでかい奴をアレに入れれんだよ!?」
まさかあの様な小さい物から怪獣が出てくるなど考えもしなかった三体はパニックを起こしていた。
それ故に逃げ出さずオロオロしていたことが彼等の命取りになってしまう。
「グエェェアアアアア!!!」
「「「ひっ!?うぎゃあああああ!!!」」」
今のバードンは空腹状態であったため、足元に居るゴブリンに狙いを定めると自身のくちばしを使って生きたまま捕食した。
肉を潰し小さな骨を軽々と砕いたバードンだったが食った相手は言わば米粒程度の大きさ。
当然ながら満腹にはならず、この空腹を満たすにはケムジラの様なもっと大きい存在でなければならない。
体を使いキョロキョロ見回すバードン、するとその目に映る前方にケムジラには及ばなくとも先のゴブリン共よりマシな獲物を発見し、腕をブンブン振って羽ばたかせ中に浮かび標的目掛け飛んでいく。
その光景を、アクセルを囲む壁の上に居るソノモノが眺めていた。
「怪獣墓場や現地で捕らえたサンプル達を粒子レベルにしてモンスメモリに収納しこの星全体にバラ撒いたが、偶発しかり人為的しかりで奴もまた解き放たれたようだな」
そう言いながらジャイアントトード討伐に狩り出た冒険者達の目の前でバードンが降り、その姿を見て一目散に逃げる冒険者達を無視し周りにいるジャイアントトード達を次々に捕食する光景を見物しているソノモノ。
バードンの存在を放送で呼び掛けるルナの声を聞いたソノモノは、口を吊上げ笑みを浮かべながら右腕のSGをアクセルの頭上に目掛け何かを放つ。
一方でバードンは、周りにいた数匹のジャイアントトードを捕食し終えていた。
ある程度は満たされたがそれでも半分程度でまだまだ喰い足りないバードンだったが、ふと頭上に小さな光を目にすると同時に壁が聳え立つ場所、即ちアクセルの存在に気付いた。
あそこにならもっと多くの生き物がいるかもしれない…野生の本能でそう感じたのか、バードンは飛び立ちアクセルへと向かって行った。
ゲンがダクネスと出会ったらどんな反応をするんだろうか。
戸惑いや困惑気味ならまだ良いとして、下手したらダクネスの事をごっこ遊びとか騎士を名乗る資格はないと言って全面否定してきそう。
次回はバードン戦になります。