今現在、アクセルの街の中をカズマがじゅんの手を引く形で並び歩いていた。
と言うのもまとまって探すのは合理的でない事もあり3つに別れて探すこととなった。
因みに何故カズマがじゅんと同行してるのかと言うと、じゅんを悪魔と見なし毛嫌ってるアクアは勿論のこと、めぐみんと同行する事になればどの様な事を吹き込まれるのか、また未だにスキルを習得してないじゅんを言いくるめて爆裂魔法の道に引き込もうと言う魂胆が目に見えてしまった事もあって、なんやかんやありカズマが同行する事となった。
「(よくよく考えてみれば…俺ただいま危ない奴として見られてね?)」
今の状況、そして悪評のレッテルが貼られた自分を客観的に見た途端、周りの目が冷たい様に見えるのは気のせい…そう思いたいと願うカズマ。
何とも息苦しく感じ始め、それを誤魔化す様にじゅんに話題を振ることにした。
「あ〜ところでさじゅん、さっきお前の冒険者カードを見せてもらったらレベル1なのに1000ポイントもあって、けど1つもスキルを覚えてないよな、これってどういう事だ?」
「…きの、う…ギルド…ごは、ん…チャレンジ、した…せいこう…して…ポー…ション…もらった」
「ギルド…チャレンジ…ポーション…ま、まさかあのクエクエプレートを食ったってのか!?全部一人で!?」
そう言われコクリと頷くじゅんに驚愕するカズマ。
この世界に来てから日頃通ってるギルドの飲食店、ここ最近そのチャレンジメニューが載ってたのを軽く把握したカズマだが、即座に「うん、無理だ」と判断する。
挑む気などさらさら無く、それどころか某少年マンガキャラの様な食い意地と胃袋でなければ成功者なんて一人も出ないだろうと確信めいてもいた(因みにダクネスを除いたアクアとめぐみんは1000ポイントのポーションに惹かれ、方や金に変えようと、方や爆裂魔法の強化の為に危うくチャレンジしようとし、有り金が殆ど無いカズマは死にものぐるいで止めに入った)。
あんな馬鹿げたチャレンジをクリアしたとは…出会って間もないが、じゅんが嘘を付くとは思えないので本当の事と分かってもやはり困惑してしまう。
「おな、じの…おか、わり…むり、だから…ほかの…ごはん…た、のんだ」
「そ、そうなのか…(よし!この子を誘うのは得策じゃない事がわかった、仮に誘う様な事になっても金銭的計画を事前に且つ念入りに建てなきゃな!)」
──────────カズマ「ご利用は計画的に♪」──────────
「あと、スキルに関してあらかた知ってるとは思うけど、最初はどんなスキルにするんだ?」
「…まだ…きめ…てない」
所持するポイントが1000とは言え、他の職業や冒険者ならば多くのスキル習得や強化等できるが、じゅんがなってる“学習者”の場合は1000でようやく初級〜中級魔法をいくつか得られる程度。
職業を変えない限りは慎重に選ばなきゃならないだろうなと、悩む事を伴うであろうじゅんの今後を気の毒に思うカズマ。
そうこうしてる内に歩いたカズマ達が辿り着いた場所は冒険者ギルド。
闇雲に探しても無駄に時間を減らすと踏んだカズマは、自身が生前やり込んだゲームの知識等の応用で、本人が居れば良し、居なかったとしても受付係や他の冒険者からゆんゆんに関する情報を得られる事を考慮し、ギルドへと訪れたのである。
居れば即時解決となるが果たしてと思い扉を開き、中に入って周りをくまなく探すカズマ達。
けれど目に映るのはこの時間帯でも飲んで食って喋る冒険者達と、あちこち駆け回るギルドのスタッフ達ばかりで、肝心のゆんゆんの姿はない。
…まぁこれも予想の範囲内だと切り替えたカズマは、今度は受け付けスタッフ且つ自分が冒険者になろうとした際、最初に訪ねた女性のルナに声を掛けた。
「ようルナさん、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「あらカズマさん…と、じゅんさん?クリスさんとゆんゆんさん達は?」
「俺も聞いた事だけどクリスは野暮用で王都に一人、ゆんゆんの方は色々とあって逸れたから一緒に探してるってわけ」
「…ゆんゆん…いな、い?」
じゅんの問い掛けに、ルナは困った表情で答える。
「申し訳ありませんが、私の方ではゆんゆんさんを見かけていませんね」
「……」
「あ!でしたら町内アナウンスでお呼び立てすれば」
「いやいやいや!それは流石にやり過ぎだっての!何より呼ばれた方は溜まったもんじゃないだろうからさ」
じゅんを可哀想に思い善意として提案したそれをカズマが代わりに拒否した。
それならばと次の行動に移そうとした所を。
「ん?…おお!来たな我が
見た目は40代後半ながらも逞しい身体付きの男が愉快な笑顔を作りながらカズマとじゅんの元へ歩み寄る。
「あの、どちらさまっすか?」
初対面なのに馴れ馴れしく図々しいオッサンだなと思いながらも無難に何者か尋ねるカズマに、受付けのルナが代わりに答えた。
「この方は“ホリュー”さん。このギルドの厨房をお任せしている料理長なのですよ」
「料理長…えっと俺はカズマって言います。でも良いんすか?ここで油を売る様な事して」
「安心しろボウズ、オレ様は只今休憩中の身でな。それと変に畏まらんでもボウズの好きな様に喋って構わんぜ?」
自分を“オレ様”と如何にも偉そうではあるが、年の差に加え性格も決して見下す様な嫌な感じではなく、寧ろ気さくで堂々とした印象に好感が持てたカズマはお望み通りタメで話す事にした。
「そんじゃ遠慮なくそうさせてもらうぜ。ところでじゅんの事を我が
「良くぞ聞いてくれたな!な〜に簡単な話さ、あのチャレンジメニューを考え作ったのは他でもないこのオレ様だからな」
「アンタが!?…挑戦してない俺が言うのもなんだけど、クリアさせる気ないだろうアレって」
「そりゃ〜そうだ!何せ意地悪
「(うわ〜…ここにも居るよ大人気ない奴が)」
良い大人がそれはもう子供の様な笑みで言うものだから、ホリューに対しドン引きするカズマ。
そんなカズマの心境など露知らず、ホリューは更に話し続ける。
「まぁ商売の身である以上は儲けてなんぼだ。元々悪ふざけ同然で作った奴だし、“どうせ食い切る奴なんざ現れねぇ”と踏んで頃合いを付けたらヒッソリと消すつもりだったさ…そんな矢先だ!」
人差し指を作ったホリューは、ビシッ!とその指をじゅんに力強く向けた。
「お前さんが現れたのさ!じゅん坊!」
「…ぼく?」
「おうとも!最初は耳を疑ったぜ、14たぁ言え
「……」
「そんでいざ始まった時は陰ながらお前さんの事を見てたぜ、“失敗した時はせいぜい笑ってやろうか”と我ながらガキ相手に陰湿な事を考えたもんだ」
「…うちの駄女神みたいだな、アンタ」
ホリューの言葉に先程思った印象を撤回しよかとも考えるカズマだが、最後まで聞いてからでも遅くないと考え再び聞く耳を立てることにした。
「だがよ…時間が経てば経つほどアレだけたんまり乗っけてた奴が、じゅん坊の口ん中に消えていって…只でさえ食い切ったと言うのに制限時間内での成功と来たもんだ。そんでトドメ代わりの“おかわり”一言…完膚なきまでの完敗だったわ」
「(やっぱり本当だったか…食費代で散々だっただろうなクリス達)そりゃまあ是非とも見てみたかったな、因みにじゅんが食べきった時の感想は?」
意思してなかったとは言えホリューの思惑をじゅんが潰した以上はどうこう言う事は無いなと思ったカズマは、嫌味でなく純粋な興味で質問を投げた。
それに対してホリューはと言うと先程までの明るい笑顔とは反対の乾いた笑みを作りこう答えた。
「悔しさ感動両方あれど、一番に思ったことは…“自分が情けねぇな”って事だな」
そう言ったホリューは懐に手を入れて取り出した物、それは1枚の冒険者カードだった。
「アンタも冒険者だったのか」
「“元”だがな、今は“料理スキル”を駆使して振る舞う料理人だ。勿論スキル頼りじゃなくしっかりと自分の腕をも磨き上げてるがな」
力こぶしを作りアピールしたホリューは改まり、自身の気持ちを語り出し始めた
「曲がりなりにも俺は料理人だ、やる事なんざ美味い料理を作り客の腹と心を満たしてやる事の一点張りよ…でもあのチャレンジメニューは大小関係なく意地悪という名の悪意で作った料理…それを無表情とは言え“おかわり”しようとする程じゅん坊は美味しく食ってくれたんだ…“オレは客を嘲笑う為に料理を作ってきたのか?”…それに気付いた時…悪ふざけをしていた自分が恥ずかしくてしょうがなかったわ」
「……」
「悪かったなじゅん坊…それとありがとうな、こんな俺の作った料理を全部平らげてよ」
「へい、き…おいし…かった」
「…へへ、そう言ってくれると助かるし…何よりも料理人
ガハハと笑い飛ばしいつもの調子に戻ったホリュー。
意地悪な所はあれど悪人ではなく、寧ろ料理人としての誇りを持ち且つ自身の行いを振り返って反省する等、人として在るべき姿勢を持っているのだと感心し、その様になったのもじゅんがチャレンジに成功したからだろうなと皮肉に思うが、結果オーライだなとカズマは“うんうん”と頷き納得した。
「ところでよ、2つ程質問があんだけど」
「…なぁに?」
「あん時お前さんおかわりしようとしたけどよ、実際何処まで食えれたところだ?」
「…わから、ない…たぶん…あと…いつ、つ?」
「(もうやめてぇ!クリス達のライフとおサイフがゼロになってしまうわ!)」
「な…なる〜ほどな……がしかし!それがかえって
流石はオレ様のライバルだ!作りがいと叩き潰しがいがあるぜぇ!!!」
背後からメラメラと燃える炎を幻視し、何だかゆんゆんの様な事を言うオッサンだなと呆れてしまうカズマ。
ホリューの存在が肝心のゆんゆん探しを忘れかけそうになりながらも、もう一つの質問が気になり尋ねる事にする。
「そんでホリューのオッチャン、2つ目の質問って何なんだ?」
「おぅ、まぁあれよ…じゅん坊の中でオレ様の作った料理は何番目に美味いかな?…と思ってよ。何せライバルにこれから勝つと同時にオレ様の料理で1番満足にさせたいもんだからよ」
オッサンの癖に何とも可愛らしい質問だこと…と茶化す様に思いながらも、カズマもまた少し興味が湧いたのでじゅんの口からでる返答に耳を向けた。
「…に…ばん、め…かな?」
「2番目!?…まぁそれでも充分だが一応は聞いておくぜ、1番は誰だい?」
一瞬動揺するもライバルの1番が何者か知る為に再び問うと、じゅんの口から出た人物の名は。
「ゆんゆん」
「「…え?」」
「ゆんゆん…の…りょ…うり」
探し人であるゆんゆんが1番だと言うじゅんに唖然とするカズマ達を余所に、じゅんはその理由を述べる。
「ぼく…ゆんゆん…の、で…たべ…もの…おい、しい…しった…だか、ら…ゆんゆん…つく、る…りょう…り…いち、ばん」
「…ンフフフ、ガッハハハハハ!なるほどそう来たか〜!…それじゃオレ様でも勝てるわきゃねえよな…じゅん坊にとってゆんゆん嬢ちゃんの料理はまさに…“
温かな笑みを浮かべ納得且つ満足した様子のホリュー。
それに釣られるかの様にカズマは勿論の事、ずっと聞き手に回っていたルナも同じ様に微笑んでいた。
「こいつぁ後で橋ん所に居るゆんゆん嬢ちゃんへの土産話にでもしておこうか」
すると、思わぬ情報がホリューの口から出てきたのをカズマ達は聞き逃さなかった。
「オッチャン、まさかゆんゆんを見たのか!?」
「なんだ、お前ら逸れちまったのか?嬢ちゃんならあっちの橋ん所でボーと川眺めてたからよ。見掛けたのは確か5分ほど前だから、まだ居るんじゃねーのか?」
眺めてると言う事は少なくともまだ行動を起こす素振りはまず無く、そして今から互いに行動を移してもコチラから走れば出会う可能性は極めて高い。
自身の幸運値の高さがここでも生きてるのかもと思うカズマは、ホリューの指し示す橋の方へ向かおうとじゅんに呼び掛けた。
「聞いたよなじゅん!早速」
「カズ、マ…ちょっと…まって」
ゆんゆんに1番会いたがってる筈の本人が何故かカズマを止めると、今度はホリューの前へと近づき自身の冒険者カードを取り出した。
「どうしたじゅん坊?」
──────────じゅん「…おね、がい…ある、の」──────────
冒険者ギルドから少し離れた所にある一つの橋。
「……はぁ」
大理石でできたこの橋の欄干部分に腕を置きながら、流れる川を眺めると同時に短いため息を吐くゆんゆん。
めぐみんの言葉を真に受け勢いのまま店を飛び出し、落ち着きを取り戻した時にはじゅんを置き去りにしてしまった事に気付いた挙げ句、沸き上がる罪悪感に押し潰され途方に暮れていた。
クリスには格好良い事を言っといてこのザマ…今更どの面下げてじゅんに会えば良いのかとめぐみんが分析した通りの足踏み状態に陥ってしまう。
「私…なにやってるんだろう…」
まだ雪がちらほら周りに残って肌寒く自身の体温が少しずつ下がる中、それすら気にする余裕が無い程まで追い詰めてられてしまうゆんゆん。
惨めで情けない思いのあまりポツリと呟いた、その直後。
「ゆんゆん」
自分の耳から最も会いたくそして最も会い辛い人の声が入り思わず身体ごと向けると、そこには声の主であるじゅんと、付き添いのカズマが立っていた。
「じゅ、じゅんくん…それにカズマさんも」
「ゆんゆん、本題に入る前にまずはめぐみんのバカが言った事について弁明させてもらうぜ」
有無を言わせない勢いのまま、カズマは口を開き語りだした。
曰く、昨日の勝負事の後、住んでる屋敷に帰る途中で余計な事を言ったばかりに自身も粘液の餌食となり、挙げ句どちらが先に風呂に入るかと意地の張り合いを行い、その結果二人で入る事になってしまったと言う。
「そう言う訳だから、ゆんゆんの思ってるような事は何一つ俺はして無いからな」
カズマの説明を聞いたゆんゆんはこれでもかと言う程顔を真っ赤にしていた。
昨日クリスからあれだけ言われた後だというのに全くもって進歩してない…情けなさと恥ずかしさから思わず勢いよく頭を下げて謝罪した。
「ごごごごめんなさいカズマさん!私ったらとんでもない思い込みをしちゃって!」
「まぁ誤解が解けたのなら俺は気にしねぇよ…ただここからは本題に入らせてもらうぜ」
謝罪を受け取ったカズマは改まるように真剣な表情に変え、それに気づいたゆんゆんも目を逸らさず聞き受けの体制に入る。
「めぐみんの肩を持つ訳じゃないが…ゆんゆんの行動は流石の俺でもいただけ無いと思うぞ」
「……」
「冒険者になったとは言え、じゅんは初心者で…なによりまだ子供だ。クリスが居ない今、じゅんが頼れる相手はゆんゆんしか居ない、なのに肝心のお前がめぐみん…いや、めぐみん以外の誰かにでも振り回されてじゅんを放ったらかしにしたら世話ねぇだろ」
全くもってその通りだ…カズマの語る正論にゆんゆんは言い訳も拒絶もせず、ただ素直に甘んじて受け止めていた。
「俺の仲間の場合は何だかんだで自分の事は自分で出来る…けどじゅんは誰かが付き添う必要がまだあると思う。責任重大だから勝手は許されない…違うか?」
「…はい…カズマさんの仰る通りです」
「…ま!偉そうな事言えない俺のお説教はこの辺にして最後に言いたいことはだな…“うじうじしてないで真正面からじゅんと向き合え”って事だ」
そう言うと先程から黙ったままのじゅんに視線を変えたカズマは、じゅんの背中を軽く叩いて前に出させた。
「行ってこい、じゅん」
「…うん」
振り向いて軽く頷くとそのままトコトコ歩き、ゆんゆんの前で立ち止まるじゅん。
一瞬心の準備がと躊躇うも、カズマが居る事やなによりも弱腰になる自分に“それではダメよ!”と喝を入れたゆんゆんはその勢いでじゅんに謝ろうとした。
「じゅんくん!一人にさせて本当にご」
「ゆんゆん」
“ごめんなさい”…その一言を今まさに言おうとしたのだが、じゅんからの呼びかけに遮られると同時にじゅんの方から先に話し始めた。
「きの、う…ぼく…ゆんゆん…くさ、い…いった」
「「え?」」
何を言ってるのだと一瞬困惑したゆんゆんとカズマだったが、“昨日”・“臭い”の言葉からしてめぐみんとの勝負の後の事を言ってるのだなと悟る。
「それ、で…ゆんゆん…ない、た…ウィズ…おみ…せ…すい、しょう…みつ、けた…ぼく…みつけ、ない…した、ら…ゆんゆん…なかな…かった…ごめん…なさい」
「(…なるほど、そういう事か)」
片言で途切れながらもじゅんの言いたい事をカズマは理解した。
要は、ゆんゆんを2度も泣かしてしまったのを気にしてこうして謝ってると言う事か…感心とも呆れとも取れる複雑な気持ちがうずくまる中、カズマは二人のやり取りを最後まで見守る事にした。
「それ、と…これ」
懐から冒険者カードを取り出したじゅんは徐に差し出し、それを見るゆんゆんはスキル項目に今まで何も無かった筈が1つだけあるスキル名が刻み込まれていた。
「“料理…スキル”」
そう、ゆんゆんの元へ向かう前にじゅんはホリューから“料理スキル”を学び、初めてのスキルとして習得したのである。
「なか…した…お、わび…りょ、うり…つくる…ぼく…てつ、だう…ね」
…たったそれだけだった。
料理スキルは料理人のみで使われる事が殆どで冒険者や他の者が覚える事はまず無いに等しく、日常やら料理スキルが必要等の条件を除けば大抵のクエストで役立つ事はまずなく、精々がクエストの最中で料理を作るなどをした場合、より上手く作れる程度でありそれ以上の効果は無い。
それなのに最初に覚えたのはよりにもよって料理スキル。
しかもその理由は…“ゆんゆんへのお詫びと恩返しの為”。
それに気付いた瞬間、ゆんゆんの起こす行動はただ一つしかなかった
ぎゅっ…
「ゆんゆん?」
屈んだ瞬間手を伸ばし、そして柔らかく包み込む様にじゅんを抱きしめる。
「…ばか…わざわざこんなスキル…私なんかの為に…取らなくったって…いいのにぃ…ひくっ…
ごめんねぇ…ぐすっ…ありがとねぇじゅんくぅん…」
余りにも儚くそして痛々しいまでの純粋な想いに、優しい心を持つゆんゆんには到底耐える事など出来なかった。
それは申し訳なさから来る悲しみと、それと同じくらいにこんなにも想ってくれる事への喜びの2つが合わさった感情であり、ゆんゆんは沸き上がる感情に身を任せながら涙を流し続けた。
「ゆんゆん…ぼく…わ、るい…こと…し、た?」
薄い表情だが心配そうに尋ねるじゅんの顔を見るゆんゆんは、涙を溜め込みながら微笑んで答える。
「ううん…じゅんくんは何にも悪い事してないよ」
「でも…ない、てる…つめ、たい…から?」
「違うよ、これは悲しいだけじゃない…嬉しいから泣いちゃったの」
「うれ…しい?」
「それに」
頭に?マークを浮かべるじゅんを余所に、先程よりも強めにじゅんを抱きしめて満面の笑顔を作るゆんゆん。
「心がスゴく暖かいから冷たいのだってへっちゃらだよ♪」
「ここ…ろ?」
スリスリと頭を擦るゆんゆんの言葉をよく理解できないじゅんだが、それでも目の前の人が笑顔でいる事に何か思う所があるのか、それ以上問い掛けることなくゆんゆんに身を委ねる事にした。
「(これで万事解決だな。貸しやら繋がりやらで色々出来そうだが…無粋だから今回は無しにしとくか…)」
そんな二人のやり取りを最後まで見届けたカズマは、心の中で呟く内容とは裏腹にえも言われぬ充実感で満たされてるのを感じていた。
何とも不思議な感じだな〜と他人事の様に考えてると、唐突ながら昔の記憶の一部が脳裏に映し出され始めた。
「…なにを今更…昔の事を思い出してんだろうな俺って…あの魔剣のハマザキじゃあるまいし…はぁ〜」
「ミツルギだぁ!」と言う声が聞こえた気もするが幻聴だなと断言するカズマ。
もうこれ以上関わる必要は無いなと判断し、クルリと背を向き歩き出す…冒険者カズマはクールにさるぜ。
「あの!待ってくださいカズマさん!」
「おっととと!?」
とカッコよく決めようとした所に、ゆんゆんの呼び止める声で思わずコケそうになったカズマ。
「(空気読んでくれよ頼むから〜!)ど、どうしたゆんゆん?」
「えっと…ご迷惑を掛けてすみませんでした、そして」
最初は申し訳無さそうな表情を作るが、直ぐに笑顔へと変える
「じゅんくんの事で大変お世話になりました、本当にありがとうございます!」
「…あり、がとう」
二人揃って深くお辞儀する姿に、こそばゆい感覚を覚えるカズマは少々戸惑いつつも笑顔で答える。
「あ〜その〜…元はめぐみん含めた俺らがまいた種だからそんなに気にすんなって、そんじゃ」
そう言って今度こそクールに去ろうとするカズマ、だが。
「あとそれから!」
「ま、まだなにか?」
再び呼び止められ少しウンザリするも、お次は何だと思い聞く耳を立てる。
「お詫びと言いますか…私達の方で料理をご馳走したいのですが」
ゆんゆんからの思いもよらぬ誘いに、カズマはここに来て初めて大きなリアクションを起こし始めた。
「いやいやいや!流石にそこまでされる筋合いは」
慌てて断ろうとするカズマだが、本心では今現在でも背負う借金に加えてセナ達による差し押さえ等から
けれど、それなりの良心に加えゆんゆんは勿論じゅんの人柄もある程度知れた事で、本心以上に理性が勝ってしまったのだ。
そんな心境を抱くカズマに、「ただ」と改める様に一言言うとゆんゆんは再び話す。
「なにもお詫びの為だけじゃないんです」
そう言いながら、側にいるじゅんに視線を落とした。
「私も手伝う上ですが…じゅんくんが初めて作る手料理を、是非カズマさん達に味わって貰いたくて」
自分達が試食者第1号と言うことか、聞き方によっては良い印象では無いにしてもゆんゆんが付添である以上は不味くは作らないだろうと確信している、なにせめぐみんが学生時代の頃から勝負に託けて弁当を頂き平らげる程だからだ。
ただ一つ、カズマの中である懸念が生まれた。
「あのよじゅん…俺達なんかで良いのか?」
こう言うのはお世話になってるゆんゆんが最初であるべきの筈…それなのに出会って間もないどころか今回の事態を引き起こした側でもあると言うのに。
申し訳なく思う気持ちを顔に表しながら問うカズマに。
「…いい…カズマ…が、いい」
相変わらず無表情だがハッキリと答えるじゅん。
全く二人揃ってとことんお人好しだな…。
そう呆れつつも悪い心地がしないカズマは、短めのため息を吐くと同時に苦笑いを作りながらじゅん達に答える。
「しょ〜がね〜な〜…そこまで言われて断っちゃ男が廃るってもんだ。分かった、喜んで御馳走させてもらうわ」
「あ、ありがとうございます!」
「ただし、流石にタダって訳にもいかねぇからな…出来る限りの金は払うつもりだ」
「で、でも」
「良いからそうさせてくれよ、何せじゅんが初めて作る手料理なんだから気持ち代として…な?」
「…分かりました、早速ギルドの厨房を借りてもらうよう頼んできますね。行こうじゅんくん!」
「うん…カズマ…ま、たね」
別れの言葉を言いながら、ゆんゆんに連れられギルドのある方角へと走る。
後ろ姿が見えなくなるまで居たカズマはこれから来る手料理に胸を踊らされていたが、直後にある事に気が付く。
「あ…そういや
─────────カズマ・じゅん・ゆんゆん「「「このすば!(…)」」」─────────
夜を迎えた事で本格的な騒ぎになる冒険者ギルドの店内。
カズマ達だけでなくゆんゆんやじゅん、更にはウィズとちょむすけも加わり沢山の料理が並べられたテーブルを囲うように座りながら、ペチャクチャと主にアクアとめぐみんが文句話を行う。
「なによカズマったら!あの受付けの子を使って私達の呼び出しなんかするなんて!」
「全くですよ!お陰手様で周りの人達に奇っ怪な目で見られて物凄く恥ずかしい思いをしたのですからね!」
「いやまぁよ〜…いちいち駆けずりまわって探すのも面倒だったし〜」
「「そこはしっかり探しなさいよ(てください)!」」
怠そうに答えるカズマにプンスカプンスカと怒り散らす2名だったが、そこへ料理長であるフリューが訪れ仲裁をし始める。
「まぁまぁお嬢ちゃんたちよ、ギャーギャー言ってっと、我がライバルのじゅん坊の初手料理が不味くなっちまうじゃねえか。コイツはツケにしておくから機嫌治そうや」
そう言いながらアクアの前に置いた物は大好物のシュワシュワだった。
「シュワシュワ!…ま〜今日のところは出血大サービスで多めに見てあげるわ、寛大なる慈悲深い神の心を有り難く思いなさいカズマ!」
「へ〜いへ〜い」
アクアの何時もの口調に右から左へ流すカズマ、一方めぐみんは自分にも念願のシュワシュワが来るのかと期待の眼差しをフリューに送る。
「あのあの!私にもその〜…」
「おう!そっちのお嬢ちゃんにもあるぞ、こいつだ」
コトンっとめぐみんの前に置かれた物は…可愛らしくデコレーションされたプリンだった。
「…これはど〜もありがとう!お礼に特大の
「うぉおおおい!?こんな所で披露しようとすんじゃねええええ!」
「ガッハハハ!悪かったってめぐみんの嬢ちゃん、けど生憎とそこのカズマのボウズに止められててな、仮にボウズ抜きにしてもオレ様個人としては出すわけにも行かねぇ、時間と経験をしっかり積むまではソイツで我慢してくれや」
「むむむ〜…ならばその為にも明日からは高難易度のクエストのみを受けましょうカズマ!」
「お前頭良いくせに極端過ぎんだよ!この爆裂狂がぁ!」
相変わらずなバカ騒ぎを起こす二人に苦笑いを作るウィズとゆんゆん、その内ウィズから目の前に並ぶ数々の料理についてじゅんに話を振った
「あはは…と、所で凄い数の料理ですね、これ全部じゅんさんが?」
「ぜん、ぶ…ち、がう…すこし…だけ」
「私もじゅんくんの手伝いをしながら自分で作ったりしてましたが、殆どはホリューさんの料理なんですよね」
ゆんゆんの説明により道理で多い訳だど納得するウィズ。
そんな中、じゅんがポツリとある人物の名前を口に出す。
「クリス…い、て…たべ、て…ほし…かった」
「「じゅんくん(さん)…」」
「なぁ〜お…」
この場に居ないクリスの事を思ったじゅんの言葉を聞いて気にかけるゆんゆんとウィズそしてちょむすけ、そこにホリューが近づきじゅんの背中を軽く叩いて活を入れてあげた。
「しっかりしろよじゅん坊、オレ様のライバルで今回の主役のお前さんがそんなくよくよしてどうすんだ?ちゃんと帰ってくる見てぇだし、そん時にまた振る舞ってやりゃ良いのさ」
そう言って元気付けるホリューの後に続く様にカズマも話し掛ける。
「そうだぜじゅん、俺の所にも今はダクネスが居ないけどちゃんと帰ってくるんだ。もし出来たらその時はクリスと一緒に飯を御馳走してあげて欲しいなと思ってるけど…良いか?」
「…うん…いい…よ」
「へへ、ありがとな♪」
「うっし!丁度良く締まったところで、じゅん坊の初手料理記念でお前らしっかり食いな!」
ホリューの言葉が合図となり「いただきます」と声を合わせた一同は、それぞれの食べたい料理を手に取り食し始めた。
「あむあむ…うめぇ〜!これってじゅんが作った奴か?」
「いんや残念、それはオレ様の自信作よ」
「な〜んだ…でもまぁ美味いから俺は一向に構わん!」
「んぐんぐ…この味付け、さてはゆんゆんですね?」
「すっごい!よく分かったわねめぐみん」
「まぁ、伊達にボッチのアナタから弁当を勝ち取ってきた訳ではありませんからねぇ」
「何時も私の不利な勝負事ばかり決める癖に!て言うかもうボッチじゃないわよ!」
等などとそれぞれが食べてる料理の回答をしあう中、ウィズが食してるのはオムライス。
理由は単純に猫のちょむすけに分けやすく自分も食べやすい物だと思ったからだ。
「んにゃ〜お♪」
「ええ、本当に美味しいですね。はむ…卵はトロトロでライスの味加減も申し分ないですし」
「…それ…ぼく…つくった…の」
「まぁそうなのですか!何とお上手にできてる事でしょう♪ねぇちょむすけさん」
「うんにゃ〜♪」
どうやら最初に当たりを引いたのはウィズとちょむすけのコンビであり、お世辞抜きに本当に良くできたオムライスを惜しみなく褒めた。
そんなやり取りをするじゅん達に対して、約1名だけ空気を全く読まない
「ぷ〜くすくすくすくす〜♪商売だけじゃなくて味覚までポンコツなのね〜♪まぁアンタみたいなポンコツ店主はお子ちゃま坊主の作ったポンコツ料理で満足するのがお似合いでしょうねぇ〜♪」
「ひ、ひどいアクア様ぁ〜」
自分だけならまだしも一生懸命作ったじゅんまでバカにするとはと涙目のウィズを無視し、
「その点この私の味覚は天下一品!なにせ神の舌を持ち合わせてるのだからね!…ハグ!…もぐもぐ…ん〜!素材の肉の良さは勿論、それを最大に引き出してるこの味付け…更に加えて肉汁が逃げない様ギリギリかつ絶妙な揚げ具合…そんな揚げ物に…グビグビグビ…ぷはぁ〜!シュワシュワが合わない筈がないっての〜!こんな神に勝るとも劣らない芸術的な料理が出来るのなんて!」
長ったらしくも最もな食レポをするアクアは、更にこの唐揚げを作った相手を褒め称えようとした…のだが。
「…それ、も…ぼく…つくった」
「ん"?」
曲がりなりにもキレイな顔が、じゅんの一言で崩れてしまう。
「言っておくがなアクアの嬢ちゃん、味付けも揚げもぜ〜んぶじゅん坊一人がしたからな」
「…ん"ん"!?」
追撃の様にホリューの言葉がアクアを更に追い詰め。
「おんやぁ〜アクア様ぁ〜きめ細かい食事レポートお見事でございましたよ〜ねぇどんな気持ちぃ?お子ちゃまと馬鹿にしたじゅんの手料理を食べて今ど〜んな気持ちなのぉ〜???」
トドメとなるカズマのゲス極まりない顔による悪意全開の質問攻め。
そしてダメ出しの如く、めぐみんやゆんゆん達のクスクスと微かに聞こえる笑いを堪える声。
「…すん…ふすん…ふぅうん…っ!」
泣きわめきながら完全なる八つ当たりでじゅんの頬をこれでもかと引っ張るアクア。
それを止めるカズマとゆんゆんの参加もあり、ギルド内は今日もどんちゃん騒ぎとなりましたとさ。
「とまぁコメディタッチの
白と黒を混じらせたローブを頭に羽織るソノモノの目に映るのは、ギルド内で未だ騒ぎに巻き込まれるじゅんと、じゅんを取り巻くカズマ達。
だがソノモノがいる場所、それはアクセルの街全体を覆う数十㍍以上に及ぶ壁の天辺に立ち尽くしていた。
先の言葉を呟いたソノモノは右腕に装着された機械で出来たガントレットの様な物を前に出した。
すると映像画面が現れその画面に空いた左手で素早く叩く様に数十回殆どタッチする。
機械音声が鳴ると同時に地上から数百㌔以上の上空にある“宇宙空間”から、無数の光がこの
「
何処か愉快そうに一人自己完結し納得するソノモノ。
「これから大いに関わる身だ、しっかりとした挨拶…
そう言いながら、ソノモノは自身の両腕を横に広げ十字架の様な形に作ると、今いる場所と人気の無い夜にも関わらず届かせる様に大きな声を上げた。
─────???「本当の物語は…ここから始まる」─────
ゆんゆんがじゅんを抱きしめる所は仮面ライダーZOの音楽、特にあのオルゴールを聴きながら書いてました。
次回でようやく現れます。