ウマ娘 The Amazing Ugly Duckling   作:ヤットキ 夕一

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第4R 奇跡への道筋

 ダイサンゲンの願掛けは上手くいったようだが、オレの願いは届かなかったらしい。

 確かに京都金杯という重賞制覇は最高の年明けだったし、その後も悪くないレースを重ねていたのだが……負傷してしまったのだ。これでは最高の年とは言い難いだろう。

 幸いなことにそれほど大きな怪我ではなく、秋のG1シリーズまでには復帰することができたのだが……

 そこで去年の秋の天皇賞に続いて2度目のG1に挑戦することとなった。

 マイルチャンピオンシップだ。

 しかしさすがにG1の壁は厚い。着順は5位。けっして悪くはない走りだったのだが……。

 ただ、ここで得られたものは大きかった。彼女の走り方について、道中は後方待機していた方が、結果が出せるのではないか、ということに気がついたのである。

 そして、オレはある計画を思いつき、水面下で密かに動き始めていた。

 年始の願い──今年が彼女にとって最高の年になるように──が現実になるように。

 

阪神のオープン?」

 次の出走レースについてのオレの説明を聞いて、ダイサンゲンは思わず眉をひそめていた。

 強気さを隠そうともしない彼女の顔は「なんでよ?」と如実に語っていた。

 今や、ダイサンゲンは戦いの場を重賞にしている。

 そして今、季節は秋。毎週のようにG1レースが開催されるほどに数多の重賞がひしめく時期なのだ。

 そんな中で、なんで今さらオープンのレースになんて出なければいけないのか、という思いはキッチリわかっている。

 でも、それでも──

「必要なことなんだ。これから年末にかけての戦いの中で……」

 そう言って頭を下げたオレの姿を睥睨したダイサンゲンだったが──「わかったわよ」と仕方なさそうに言って、引き下がった。

 そして、その理由を訊いてくることも無かった。

 無論レースは──圧倒的な強さでダイサンゲンは勝った。今の彼女ならオープンなら順当に勝てるくらいの実力はある。

 

 そしてついに──舞台が整ったのである。

 

 昨年は、今後も縁がないだろうと思って諦めていた、国内最高峰のレース。

 その年の最後を飾るレースであり、その年の有力ウマ娘たちが集う祭典。

 

 そう……有馬記念だ!!

 


 

 実際、ダイサンゲンが有馬記念に選ばれるにはハードルがあった。

 この有馬記念というレースは特殊でファンの投票で選ばれる。

 そのため、大きなレースで結果を残して注目されたウマ娘たちが出走することになる。

 しかし、そんな中で委員会による推薦というものがあった。

 無論、活躍していなければその推薦ももらえない。

 ダイサンゲンが今年残した結果といえば──ほとんど一年前のような中山金杯での優勝である。それ以外は結果を残したとは言い難かった。

 口の悪い者には「この程度のウマ娘を出走させては、レースの品格が下がる」とまで言われたそうだ。

 ブン殴りに行ってやろうかと思ったが、周囲に押さえ込まれて行くことができなかった。

 新聞記事を読んでいた彼女が隠すように顔を伏せ、耳をしゅんとさせていたのだから、当然の反応だったのだが──冷静になってみれば、トレーナー仲間に助けられたと思い知らされる。

 そんな風に散々に言われたダイサンゲンだったが──なんと、なんとか有馬記念への出走が決まったのだから。

 ──殴りに行かなくてよかった、とつくづく思った。

 みんな、止めてくれてありがとう。

 

 そんな決定だったが、幸運が味方したというのが大きい。

 ファン投票で間違いなく選ばれたであろう、無敗で重賞2冠を達成した、押しも押されぬトップアイドル、トウカイテイオーが骨折で出走できなかったことだ。

 テイオーのことを考えれば可哀想ではあるが、そのおかげでダイサンゲンが出走できる要因の一つにもなっていたのなら──本当に申し訳ないが──こちらとしてはラッキーだったと思ってしまった。

 

 そして──そんな状況で、今回の有馬記念はもはやメジロマックイーンの独壇場と言っても過言ではなかった。

 トウカイテイオーが不在で、その他のウマ娘も距離適正が明らかに違っている等、対抗できる存在が皆無という状況。

 メジロマックイーンのうっかりのおかげで秋の天皇賞がその手に転がり込んできたウマ娘も出走するが──そもそもそのレースでマックイーンが先着して、力の差を見せつけている。

 むしろそのマックイーンが雪辱を晴らすのに燃えているくらいだ。

 もちろん、滑り込みで入ったようなダイサンゲンは歯牙にもかけられていないので、どんなに新聞に目を凝らしても出走表くらいにしか名前が出ていないような有様だった。

 

 そうして大本命・メジロマックイーンという揺るぎない下馬評の中──その年の有馬記念は開催されようとしていた。

 


 

 ──その日、オレは夢を見た。

 

 夢だというのは一発でわかった。

 なにしろ、ウマ娘たちのレースが、競輪や競艇のように公営ギャンブルで金を賭けることができたからだ。

 そしてレースは有馬記念。我ながら、夢に見るまで気になってしまっているのは、もはや職業病だろうか。

 ともあれ、その夢では有馬記念に金を賭けることができたのだ。

 賭けるウマ娘は5枠のダイサンゲン。

 その倍率は単勝で137.9倍──オイオイ、オレの可愛いウマ娘をナメ過ぎじゃないですかね?

 そして気が付けば、オレはそのダイサンゲンが絡むチケットを大量に手にしていた。

 いつ買ったのか、その購入資金はどうしたのか、全く覚えてないが……夢だし気にしても仕方がない。

 

 そして始まるレース。

 どんな展開だかは覚えていない。

 なにしろ夢だからな。その辺りはあやふやだ。

 しかし、結果だけは鮮明に覚えている。

 勝ったのは──5枠のダイサンゲン!

 その瞬間、オレの全財産はとんでもないことになった。

 なにしろ単勝でも137.9倍だったのだから。

 

 あまりの事態に頭が真っ白になるほど興奮したオレに──なぜかやってきたたづなさんが問いかけてくる。

「おめでとうございます。小切手にしますか? 現金にしますか?」

「億って単位の金を見たことがないので、現金で」

 ざっとしか計算していないが、間違いなく億は超える。

 即答したオレの言葉に従って、現金が用意され──持ちきれないほどの金を、その辺に停めてあったトラックみたいなデカい車に頼み込んで積んでもらい、帰ってきた。

 そう、この金は全部オレのもんだ!

 

 オレは文字通りの億万長者だああぁぁぁ!!

 

 ──そしては覚めた。

 ……これだからギャンブルは嫌いだ。

 


 

 有馬記念当日。

 場所はレース開催地である中山にオレは来ていた。

 

 その前に──すでに枠番は発表になっていた。それを聞いてオレは驚くことになった。

 ダイサンゲンの枠番は5枠8番

「マジか、オイ……」

 あの夢の後に決まったこの枠番を知った瞬間、オレは思わず呟いていたさ。

 そして──ダイサンゲンの仕上がりは、これ以上ないくらいに最高だった。

 もう一度この状態にしろといわれても不可能なくらいに、最上級の最高だった。

 だから確信した。「無様なレースになることはない」と。

 そして、だからこそオレは──

 

お前、なんでそんな格好してんだ?

 

 有馬当日に道中で出会ったのは、知り合いの先輩トレーナーだった。

 チームスピカを担当しており、今回の大本命・メジロマックイーンのトレーナーでもある。

 無精ひげを生やした彼は、オレの姿を見るなり、そんなことを言ってきたのだ。

「別に、変なことじゃないっすよね。担当しているウマ娘も出走するんだから……」

 それにオレは普段はほとんど締めたことがないネクタイを気にしながら答えた。

 オレの今日の服装は、目の前の男のようなラフなものではなく、キチッとした正装である。

 そんなオレの言葉に、相手はくわえていた飴を落とさんばかりに唖然とし、そして苦笑しながらオレの肩に腕を回してきた。

「ま、今まで苦労してきたもんな、お前……こんな大舞台で舞い上がる気持ちはわかるぞ」

 なにやら同情されているらしい。

 さすがにカチンとくる。

「さすが、メジロマックイーンを担当している御方は余裕ですね。それに他のチームメンバーも豪華で、まったくうらやましい限りだ。負傷こそしているが現在無敗で二冠のウマ娘トウカイテイオーに、サイレンススズカもそう。その他にもスペシャルウィーク、ダイワスカーレット、ウオッカ……」

 そこまで言って、オレは言葉を止めた。

 もう一人は実力はあるが完全な問題児だからな、うん。

 そう結論づけた直後──

 

「──ッ!?」

 

 オレの背中を強烈な衝撃が襲い、前にぶっ飛ぶことになった。

「なんだよ~! アタシを仲間外れにすんなよ~! 一番大事なゴルシちゃんの名前忘れてんだろ~!!」

 どうやらオレは後ろからドロップキックをかまされたらしい。

 うつ伏せに倒れ込んだオレは立ち上がり、汚れてしまった一張羅のホコリを払う。

 振り返れば、さっきのトレーナーが、「ふん」と鼻息荒いゴールドシップの隣で「スマン」と苦笑混じりに言ってきた。

 どう考えても様になっていないが、それでもオレは格好だけは付けた。

「……まぁ、マジですからね。この服も」

 オレはそう言って彼を振り返る。

「今日のダイサンゲンは最高に仕上がってますから。無様なことにはならないと思ったんで、こんな格好してんですよ」

「へぇ……」

 しかし、オレの言葉を聞く彼の様子は、どこか本気で答えていないような、真剣味に欠けているように思えた。

 

 まぁ、当然だろう。

 なにしろ今日のダイサンゲンは完全にノーマーク。もしもオッズがあるのならそれこそ夢と同じで単勝137.9倍になっていることだろう。

 それくらい世間が示すオレたちへの評価は低かったのだ。

 




◆解説◆
マイルチャンピオンシップ
・11月後半に開催されるG1。
・ダイユウサクが出走した史実の91年開催である第8回を制したのは、ウマ娘にもなっているダイタクヘリオス。
・逆に言うと、出走した15頭のうちでウマ娘になっているのはダイタクヘリオスしかいない。

阪神のオープン
・このときにダイユウサクが出走したのは「阪神競馬場新装記念」というレース。
・名前で分かる通り、この年のみの開催なので、当然、ウマ娘にはゲームも含めて出てこない。
・なので、名前をあえて書かずにあくまで「阪神のオープン」という表現にしました。
・ちなみにハンデ戦で、最重量のハンデを背負っても勝ちました。

委員会による推薦
・リアルでは、現在の有馬記念では推薦枠はなくなっているそうです。
・が、ダイユウサクはその推薦枠で出走に滑り込んでいるので、やむなく「推薦枠がある」ということで捻じ込みました。
・「ウマ娘の有馬記念では推薦枠が無い」と明言されてもいませんし。

秋の天皇賞がその手に転がり込んできたウマ娘
・91年秋に相当ということで、第104回天皇賞を制したのはプレクラスニー。
・このレースでメジロマックイーンは1位入線している。
・が、競走中に他馬の進路を妨害した「斜行」で18着に降着。2位だったプレクラスニーが賜杯をつかんだ。
・ちなみにゲーム版ではこの経緯がメインストーリー第1章で描かれ、山場の一つになっている。
・そんなプレクラスニーはウマ娘未実装。
・おまけにアニメではこの秋の天皇賞が有馬記念と違ってセリフだけですっ飛ばされたため、ダイサンゲンと違いモデルにしたウマ娘の名前はもちろん姿さえも判明しなかった。
・有馬記念にも出てきているはずなのだが、有馬記念もダイサンゲンにマックイーンが負けるワンシーンに姿はなく、後のゴールシーンでも該当する着順のウマ娘は白塗りで外見もわからない。
・同じように未実装ウマ娘なのにオリジナルとはいえウマ娘が設定され、次の話でセリフどころか単独でのアップまで用意されたダイユウサク──同じ年にG1を制しているのにこの違いは、アニメ製作陣にダイユウサクが愛されている証拠と思いたい。


・大量にダイユウサクが絡む馬券を手にし、ダイユウサクが勝って大金を手にする──という夢を有馬記念前に見たのは内藤調教師のエピソード。
・調教師は馬券を買えない→そもそもウマ娘のレースはギャンブルの対象ではない、ということで「ありえない賭博という夢」というところも再現。
・トラックみたいにでかい車というのは馬運車のこと。内藤調教師の夢では馬運車を現金輸送車代わりにして、大量の現金を積んでダイユウサクと共に帰ってきたそうな。
・『ウマ娘』の世界では馬が存在しないので馬運車ももちろん存在しません。かといってウマ娘を載せる車──ではサイズが違ってしまうので、同じ見た目ということで「トラックみたいにでかい車」という表現になりました。

5枠8番
・91年有馬記念でのダイユウサクは5枠8番。
・その馬番にあやかって、本作はアップされる時刻を5時08分にしています。
・ちなみに、前年の90年に復活優勝で有終の美を飾ったオグリキャップも馬番は8番。二年連続で奇跡を起こした8番。
・オグリの場合は同じ8番でも4枠。アニメ1期の13話でのウインタードリームトロフィーでは、それを意識してかオグリの枠番は4枠8番になっています。

お前、なんでそんな格好してんだ?
・これまた、内藤調教師のエピソードをもとにしたもの。
・上記の夢と同じ枠番になったダイユウサク。
・その完璧な仕上がりに自信を持った内藤調教師は「無様なレースにはならないだろうし、もしかすると……」と表彰式に出る準備でもしてきたかの如く正装してきた。
・結果、表彰式で内藤調教師だけ正装しているという光景に。

知り合いの先輩トレーナー
・アニメ版でチーム・スピカを担当していたトレーナーのこと。
・才能あるウマ娘をあれだけ集めて育てているんだから、かなり優秀なトレーナーであることが伺われる。

137.9
・1991年の年末に、数多くの人に悲鳴をあげさえ、ほんの少しの人に幸せをもたらした魔法の数字。
・具体的には有馬記念において初の万馬券をたたき出したオッズ。
・これは15頭中、14番人気であった。
・ちなみに一番人気のメジロマックイーンのオッズは単勝1.7倍。
・その人気は、二番人気(ナイスネイチャ)でさえ単勝8.7倍になってしまっていたほどに圧倒的であり、ほとんどの人が「まず間違いなくマックィーンが勝つだろう」と信じていたのがわかる。
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