無様屈服ワンちゃんばかりのこの世界で俺は巨乳好き 作:飛び回る蜂
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「夏休みすげー暇なんだけどなんかしねぇ?」
「はーい、灼熱激辛鍋我慢大会っ!」
「さようなら。東は?」
「んーと……そうだ、父さんが別荘持っててさ。しばらく使ってないから掃除しに行くんだけど一緒に来るかい?」
「……別荘って単語をリアルで聞くの初めてかもしんねぇ」
「……東ちゃんちって、ひょっとしてお金持ちぃ?」
「ここまで来といて今更なんだけどよ」
「ん?なんだい?」
さて、二人を別荘に誘っておいてなんけど、とても大きな問題に直面した。
別荘近くには沢があるからそこで涼めるというのを予期して水着持ってきておいてーと言っておいたんだけど。
「なんでお前の水着買うのに俺がついてく必要があんだよ」
「しょうがないだろ、まともな水着持ってないんだよ」
そう、僕は水着を持っていない。
高校の頃に来ていたスクール水着以外にまともな水着が無いと知ったとき、ここ数年で初めて味わうほどの焦燥感だった……っ!
きっと二人はバッチリ決めてくるだろうことを考えると、僕だけスク水なのはひっじょーにマズい。というか絶対恥ずい。
「だからっつってなぁ、彼氏でもねぇ男連れてくのはどうなんだよ。そもそも女の水着選んだことなんかねぇぞ」
「うるさいなぁ、君は黙って僕が選んだ水着をグッドかバッドかで評価すればいいんだよ、機械のように」
「ネットのレビューと何が違ぇんだよそれ……」
うるさいジト目やめろ。
くっ、もう水着売り場近いって言うのに焦る素振りすら見せやがらないぞこいつっ。
普通男子って女性もの売り場とかって忌避するもんなんじゃないのかっ!?
それともさっきの発言はブラフで実は選び慣れているのかっ!?
「休みの日のモールは人が多くていいな」
「人が多くて……って、普通逆じゃないか?人がいない方が落ち着いて選びやすいし」
「ん、あぁ、いや。賑わってる方が出かけてるって感じがして俺は好きなんだよ」
「そういうもんかなぁ……?」
確かに今日のモールは人が多い。
家族連れから友人同士、学生や老若男女問わず人で賑わっている。
休日だし当然と言えば当然かな。
「人は多いほどいいんだよ。隠れる場所がない程な」
「隠れる必要もないのにぃ?」
「人目に付かない場所がないことが重要なんだよ」
「意味わかんないよ」
「……俺も意味わかんねぇよ」
志賀が何を言ってるか分からない件について。
「これとこれなら?」
「右。タンキニはともかくオフショルはいまいち合ってねぇ気がする」
「じゃあこれとこれなら?」
「そっちだな。水色のセパレート。東のイメージに合うな」
「やっぱそっか。んー、でもなぁー」
「露出……って言っていいもんか。気になんならラッシュガードも合わせて買っていんじゃねぇか?」
「その辺は予算とも相談しないと。んー、悩ましいね」
実際目にしてちょっと驚いた。こいつ女性用水着売り場にいるのに意外と物怖じしない。
少女漫画とかだと男は居心地悪そうにしたり、真っ赤になってまともに水着選べないとかあるから志賀もそうだと思ってたのになぁ。
……女慣れしてる?いやそんな話は聞いたことないな。
「ひょっとしてこういうの慣れてるのかい?」
「いや?水着選ぶどころかこういう売り場に来んのも初めてだぞ。つかさっきも言ったろ」
「む、確かに。いや、にしても物怖じしないなーって思ってね」
志賀は自分でも気づいてなかったのか、一瞬ぽかんとした後、話し出す。
「……そうだな、そういや周りの視線とか気にしたことはあんまりねぇかも」
「普通気になるもんじゃない?ほら、男が女性物のとこにいていいのかぁ?とか」
「おめーが連れてきたんだろ。それに別に人からどう見られてるかは気にしねぇよ。東に似合うかどうか考える方が重要だ」
「お、おぉっ!?い、いやまぁそうなんだけど……」
「その為に連れてきたんだろ。そこ驚くとこか?」
なんっ、こいつっ、平気でそういうことをぉ……!!
……え、待って、というかなんで僕は。
「なんで僕、君を連れてきたの……?」
「知らねぇよっ!むしろ俺が聞きてぇよっ!」
いやだって、一人で買いに行くのもなんかなーって。
でも先輩とは知り合ったばっかだし、いきなり誘っても困惑するかもだったし。
で最初に友達の中から声かけようと思ったのが君で……
「……っ!?」
なんとなしに視線を感じて周りを見れば、店員やお客さんが僕を横目で見ていた。
まるで『彼氏に水着選んで貰ってるのね』とでも言いたげな視線が……っ!!
「ちっ、違うからなぁっ!?君っ、君はあれだっ、そういうんじゃないぞっ!?勘違いするなっ!?」
「何の話だよっ!?さっきからお前意味わかんねぇぞっ!?」
くそぉ!最近のコイツなんか変だっ!
距離感っていうか、その辺がなんか変っ!
「うっ、うるさいなぁ!これがいいんだろっ!?いいよこれに決めたっ!!」
「待て待て待て色々見たいんじゃねぇのかっ!?あと俺はいいなんて一言も言ってねぇぞっ!」
「さっき合うっていったろっ!ならこれにするっ!はい意見締めきったっ。もう聞かないぞっ」
「子供かよ……」
変だ変だ、なんか変だ。
顔が熱い、頭が熱い、心なしか目元も熱い!
感情の整理がつかなくってわけわかんなくなってきた!
「……ハァ、決めたんなら構わねぇけど」
「けどなに?お生憎様、もう変更はしないぞ僕はぁ!」
「変えろなんて言わねえよ。でもよ」
だからその困ったように笑うのをやめてくれ。
それを見ていると。
「それ着てるとこは見てみてぇとは、確かに思った」
「~~~~~~~っ!!変態っ!!」
「おいそのセリフここで言うな洒落になんねぇだろうが東ァ!!違いますこいつがテンパってるだけっで深い意味はありませんほんとにぃ!!」
友達より、ちょっとだけ近い距離な感じ。
なんだかすごく、むず痒いんだよぉ……!
「さっきはひでぇ目にあったぞ。なぁオイ聞いてんのかコラ」
「ご、ごめんよ……」
お昼はせっかくだし外で取ろうと、モール内のフードコート。
対面する僕らの表情は怒りと反省で対照的だ。
「ただでさえ場所が水着売り場でよぉ、しかもお前謝ろうとしてあの後なんて言ったか覚えてっか?」
「テンパってて覚えてない……」
「『この後のお金は全部僕が出すから!』つったんだよ。何にだよ、なぁ。俺は何を払わせようとしてんだよ」
「お昼ご飯くらいはお詫びに出そうと思って……」
「だろうな、そういう意味だったんだろうな。でもそこ言わなかったから俺が最低最悪のクソ野郎に成り下がってんだよ」
怒ってる、あの志賀が怒っている。
怖くて顔見れないけど分かる、絶対に怒ってる。
うぅ、嫌われてしまったのかもしれない。
友達、やめようとか言われたらどうしよう、ごめんなさいって言う以外に僕にできることってあるのだろうか。
「……くっ、くっくっ、お前、なんでそんなこの世の終わりみたいな顔してんだよ」
「だ、だってぇ……うぇ……」
「あぁもう俺が悪かったって。意地悪だったよ」
恐る恐る顔を上げればまた、困り笑顔で志賀が僕を見ていた。
怒ってるかと思ったのに、どうして?
「もう怒っちゃいねぇよ。ごめんな」
「……うぅん、僕こそごめん」
僕の悪い癖。
昔から焦ったり慌てたりすると、途端に周りが見えなくなって、自分でも何を言ってるか分からなくなってしまう。
それを治す為にいつも冷静でいるよう心掛けているのに、どうしてか志賀といる時はうまくできない。
志賀は僕にとって『友達』の一人でしかない。
なのにこいつは他の『友達』にはないなにかがあって、僕はそれに調子を狂わせられている。
「なんで君は、そうなのかなぁ……」
「あ?なにが?」
「なんでもなぁい」
やめやめ、考えるとまたドツボにはまりそうだ。
だいたい今はその友達と遊びに来ている最中だぞ、失礼にもほどがある。
……さっき特大の失礼かました身で言う言葉じゃないな!?
「せっかくだしこの後どっかで遊ぼうぜ。行きたいとこあっか?」
「午後ぽっかり空いちゃったしね。あっ、映画見たいかも」
「……そういや東お前、普段どんな映画見てんだ?」
「そんな見る方じゃないけど雑食だよ。邦画、洋画、アニメで興味があったら見てるね。サメも見るよ」
「俺もそんな感じだな。サメは見ねぇけど。せっかくだしあれだな、現地に行って気になる奴あったら見てみようぜ。前情報なしで」
「おっ、チャレンジャーだ。いいね、乗った。あとサメを見ろ、日本人の心だぞ」
「そこにあるのは心じゃなくてチェーンソーだろ」
穏やかなお昼ご飯の時間。
友達と過ごすお昼ご飯は、凄く心地よくて落ち着く。
(楽しいなぁ)
好きな友達と、好きなものを食べて、好きなものの話をする。
これ以上に心満たされることはないと思うな、僕。
「……ここまで、一回も遭遇してないのは間違いない。モールだからか?いや試着室なんて格好の餌場の筈。てことは東がいるからなのか……いや決めつけるのは早計だ。映画館でどうなるか、それを見てからでも遅くねぇはず……」
「そろそろいい時間だね。解散しよっか」
「……もうそんなに経つのか」
あの後僕らは映画を見て、お茶を飲みながらその感想まで言い合った。
そんなことをしていたら時間はあっという間に過ぎて、そろそろカラスが鳴く時間になってしまった。
「いやぁ楽しかったよ。今日は付き合ってくれてありがとね」
「あ、あぁ。いや、こちらこそ」
なんだぁ?志賀がさっきから妙にそわそわしている。
まるで当てが外れたような、期待しているかのような感じ。
ははぁん、さてはあれだね?
「おいおい、勘弁してくれないか?君だって子供じゃないんだからね、あまりわがままを言うものじゃないよ?」
「は?」
「顔を見れば分かるよ、遊び足りないんだろう?ダメダメ、明日は講義もあるんだからね」
流石は男子、夕方まで遊んだくらいじゃまだ遊び足りないんだろう。
でもこの後は僕も帰ってご飯の支度をしなきゃだし、それは志賀だって同じだろう。
ならここは心を鬼にして帰宅を促すのが友人というものじゃあないか?
「明日、明日、か。……なぁ東」
「なんだい?」
「明日ってさぁ。ほんとに来るのかな」
何を言ってるんだね君は。
テンションがおかしくなってるのかな、普段絶対言わないようなポエムみたいなこと言いだしたぞ。
……よくわかんないけど真面目に答えてあげるか。
「そりゃあそうさ。僕らには必ず明日が来る。面倒な講義も、課題の提出期限もさ。必ず来る」
「課題はちゃんとやれよ」
「やってるわいっ!たまに出てること忘れるだけっ!……とにかくっ、そんな心配なんて必要ないよ」
まるで空が落っこちてくる心配をしているみたいなことを言うなぁ。
明日なんて、ご飯食べて寝たら誰にだって来るもんじゃないか。
「心配することはないよ、志賀。また明日、だよ」
「……ははっ、明日か。そうだな、明日もまた、会えるもんな」
なんとなく、志賀の目に光が戻ってきたような気がする。
いつもの気だるげな、苦笑いや呆れ顔が似合う優しい目になった。
「そりゃそうだろう?だから今日はおとなしく帰ることだねっ」
「ああ、そうする。……ありがとな、東」
「?……よくわかんないけど、まぁお礼なら貰ってあげなくもないかなぁ!」
「図々しいぞ調子乗んな」
「つれないなぁ」
なんか知らないけど恩を売ったっぽい。
明日なんでもいいからせびってみようかな。
お菓子の一つくらい奢ってくれるかもしれないからね!
「今日一日、メスガキに会わなかった」
「東と何か関係があるのか、それとも……」
「……明日から、忙しくなりそうだな。はっ、やってやろうじゃねぇかクソ世界がよ」
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