無様屈服ワンちゃんばかりのこの世界で俺は巨乳好き 作:飛び回る蜂
後日談1 東夕貴の不安
「ねぇ、僕ここにいていいの?」
狭いアパートの一室でカ-ドゲームに興じる二人に投げかけてみる。
盤面がいい感じに固まっているのか二人共むむむと言ったまま動かない。
そんな状況、お喋りがしたくて声をかけたんだけど、どうにも話題選びを間違えた。
そんな言葉に一ノ瀬先輩が振り向いて、志賀は手元を睨んだまま返事を返してくれた。
「エンド時粉砕機で捨てた魔法を回収。いていいって、まるでいちゃいけない理由があるみたいに言うじゃない」
「ターン貰います。ねぇだろそんなもん。来たい時に来りゃいいじゃねぇか。俺がいる時ならいつ来ても構わねぇし」
「いや……だって君ら付き合ってるじゃん。僕邪魔じゃん」
志賀から付き合い始めましたの報告を受けてから二週間。
今の所僕の、僕らの生活に大きな変化はなかった。
いつも通り志賀の家に集まってゲームしたりしなかったり、たまに外でお酒飲んだり。
先輩とは一緒におでかけするし、志賀の家にゲームだけしに来る日もしばしば。
そんな日常の中で、ひょっとして僕邪魔してるんじゃ?と思ったのは当然だろう。
「だからってお前友達やめることには繋がんねぇよ。今までと同じだ同じ。門とスノウコストに一滴で」
「それ右手光ってるって。そーそ、今まで通りよ。これからも一緒に遊ぼ?」
「二人がそう言ってくれるのは嬉しいけどさぁ……先輩はいやじゃないの?ほら、一応僕も女だしさ」
「あーね。全然嫌じゃない、むしろ気を遣わずこいつ足蹴にしていいのよ。そこ泡影で」
「終わったくせぇこれ……。まーなんだ、俺らも劇的に変わったってわけじゃないからな。いつも通りにしてくれっと助かる」
今もこうして僕は読書、二人はカードゲーム(曰く紙をしばいてる)に熱中している。
志賀の家で過ごす三人の時間は心地いい。
好きなものを見て、好きなことして、好きな話をするのはとても楽しい。それは間違いないよ。
その関係を崩したくはないし、でも二人っきりの時間だって欲しい筈。
二人に気を使わせてしまってるのではないのかと思うと、ちょっと心苦しい気がするんだよね。
「はい勝ち~!ジュース貰うわねぇ」
「あーくそっ、次は勝つ。東やるかー?」
「ううん、やめとく。今のカード分かんないし」
ちょっとだけ、二人の距離感が羨ましかった。
勝手に気遅れてるだけって分かってるのにね。
すると突然すくっと立ち上がった先輩が僕の隣に腰掛け、テーブルを挟んで志賀も向かい側に座った。
「というわけで、もう一度東ちゃんとの距離を詰める作戦会議をします」
「いえーい先輩流石だー」
「本人が目の前にいるのにっ!?あと志賀の棒読み酷いな!?」
本気で困惑するんだが!一体全体なんだってんだって話だよ!
先輩は僕の肩に頭を預け、猫なで声で喋り始めた。
「だってぇ、かわいいかわいい私の後輩が疎外感でナイーヴなんて見逃せないもーん♡」
「先輩肩に頭乗ってねぇぞ。それじゃ電車で寄っかかってくる人だ」
「うるせぇ!私的にはセクシーにしなだれかかってんのよぉっ!」
「セクシー(笑)」
「きぃーっ!生意気な後輩がよぉ!」
肘をついてニヤついた志賀と、キシャーッと猫のように威嚇する先輩。
突然始まった茶番についていけない僕。なんなんだこれは、どうするのが正解なんだ!?
「友達のやることに正解もクソもねぇだろ。つーか好き好き言ってる先輩から距離置く方が無理だと思うぜ俺は」
「そうよぉ?私こーんなに東ちゃんのこと好きなのに、東ちゃんは私からのラァヴを受け取ってくれないなんて……私悲しい!」
「ラヴの発音がファスティバのそれなんだよな。まぁなんつーの、俺達はもっと東と遊びたいって話。大学生活まだまだ長ぇし、これから面白いこと山ほどあんだろ」
「このコウハァイとの時間はそれこそ卒業後でも作れると思うの。でも東ちゃんと遊べる時間は在学期間中だけ。だからさ、もっと一緒に遊ぼ?ね?」
まるで断られるとは思ってない程ニコニコな先輩に、それを見て言外に「諦めろよ」と言いたげな志賀。
二人はいっつもそうだ。自信満々に、こっちにの気遣いとかそういうのも分かってて僕の手を引っ張っていくんだ。
そういう所が……
「……ふふっ、後輩の発音キモいよ。二度としないでね」
僕は大好きなんだよな。
「返事が強火過ぎない!?」
「いーや今のはキモかった。発音がコークハイのそれだったよ」
「俺もそう思う。コウハァイってなんだよ、普通に名前で言えや雑魚が!」
「言ったなテメー!!上等だそこ座ってなさい今から桃鉄引っ張り出してボコボコにするから覚悟しなっ!」
「上等だよ!言っとくけど僕強いかんね?鍛えた僕の収益計算能力と物件把握術、勝てると思わないことだねっ」
「この家でゲーム上手い発言は普通にフラグなんだよな」
「あーっ!!牛歩使うのやめてよぉーっ!!」
「あーっはっはっはっは!私の前で隙を見せるのが悪いのよぉっ!ボンビー変化に怯えなさぁい!!」
「だから言ったのに……安心しろ、借金までいったら徳政令使ってやるよ。まぁ借金になるまではなんもしねぇけどな、へへへ」
やっぱり君達の事嫌いかもしれない!
「ただいまー」
「おかえり。今日はこっちなんだね」
「明日から連休だからね。色々準備もあるから」
激闘の桃鉄20年を過ごしてたらすっかり日が落ちちゃった。
まさか最終手段泣き落としを使う程になるとは思ってもみなかったけど、最終的な収支は僕が勝ったからよしとする!
二人の苦笑いを極力無視して着いた帰路、家に帰るとソファに座った兄さんが出迎えてくれた。
スーツ姿だがジャケットは脱いでいてネクタイも緩い、ついさっき帰ってきたみたいだ。
「母さんはなんて?」
「今日は女子会だから遅くなるってさ。父さんは帰ってきてる」
「めずらし。まぁいいけど」
若くして重役らしい父さんがこの時間に帰ってきてるなんて珍しいな?
まぁなんでもいっか。それよりお風呂とご飯にしないと。
そんな風に考えてたら座ってた兄さんが首だけコチラに向けてきた。
「夕貴、帰りが遅くなるのはいいけどちゃんと連絡してね?迎え行くから」
「大丈夫だよ、こことアパート近いし。それに兄さんも疲れてるでしょ」
「家族の安全の為ならなんてことはない。むしろ頼ってほしいんだけどね、夕貴はちょっと手がかからなさすぎるよ」
「それは兄さんもでしょ」
「だからこそ、ね。いやぁ自分で言っててなんだけど、可愛くない子供だったろうねぇ僕達は」
変に『大人』びてるところがあった僕達は、昔から周りの人気が極端な子供だった。
大人びたその雰囲気がいいという子もいれば、子供らしくない変な子供だっていう人もいる。
ちょっとだけ周りを見てて、ちょっとだけ気を使いがちな僕達は変なところで生きづらかった。
兄さんは女性関係で、それも本人が望まない形で酷く苦労したらしいし、僕も次第に性別を誤魔化すようになった。
志賀に関しては面白そうだったからだけど、元々どっちに取られても適当に返せるようにしてる。
男だと、女だと思ったと言われるのがとても面倒だったから。
「ところで友達とは上手くやれてる?
「心配ない、今日も遊んで帰ってきたよ。明日はバーベキューする予定」
「おっ、大学生してるね。にしてもバーベキューかぁ、いいなぁー僕も行きたい。お邪魔しちゃダメ?」
「ダメでしょ、友達の兄が来るとか普通に気まずいよ……と言いたいけど兄さん普通に馴染みそうで嫌だな」
「嫌はひどくない?傷つくよ僕も。……冗談、楽しんで来てね」
コミュ力高いからな兄さんは……と言っても志賀と一ノ瀬先輩相手にどうなるかは想像がつかない。
あれで初対面に対してかなり警戒心の高い志賀と、自分に近づく男は志賀以外全員下心有りきだと思ってる先輩だ。
そんな中兄さんがどれだけやれるのか、正直に言えばちょっと見てみたい。
とはいえ流石に、今から飛び入りで兄が参加するよ!とは言いづらい。今回は無し!
「まっ、女の子達の中に僕が行くのも流石にね。いや自意識が高いとかじゃなくてコンプライアンス的にね!?」
「誰もそんなこと思ってないよ、気にしすぎ。あと男女混合だから」
「ごめん、つい癖で……」
兄さんも僕も中性寄りな顔をしているせいか、時折そういうアプローチを受ける。
特に兄さんは家族としての贔屓目抜きで、顔立ちが整ってる。その苦労は僕の比ではないと思う。
多分僕の5倍くらい苦労してきたと思う。学生の頃は二週間に一回くらい校舎裏呼び出しがあったとか。
先輩後輩から絶えず届くそれに耐えきれず担任に泣きついて、ようやく改善されたと聞いた時は我が兄ながら魔性を感じずにはいられなかったよね。
「とりあえずお風呂入ってくる。それと今日は早めに寝るから」
「あぁ、うん。行ってらっしゃい……ちょっと待って」
「なに?僕明日の準備したいんだけど」
さっさとお風呂入ってご飯食べて準備に取り掛かろうと思ってた矢先、また呼び止められる。
こんなこともあろうかと準備しておいた家に眠るキャンプ用品の数々を纏めておこうと思ってたのに。
しかし兄さんの顔はさっきと違い、表情が無い。あの顔は知ってる、頭の中で何か凄い速さで考えてるときの癖だ。
「……男女混合?」
「うん。同級生の男と先輩の女子の三人」
「その同級生って、仲直りした子?」
「そうだよ。あれ、言ってなかったっけ。入学当初から交流してるのそいつだよ」
「……こんな質問してごめん、その人はいい人?兄として聞いておきたい」
そう言えば学年始まった当初から付き合いがあって、一年近く疎遠になった友達がいるとしか言ってないや。
やっちまったね。兄さんの心配そうな眼が心に痛い程突き刺さる。
本当に申し訳ない。
「心配要らないよ。あいつ二年間の間僕が女って気づかなかったから。しかも僕からカミングアウトするまで気づかなかった」
「えぇ……でも知った上で掌返したりしなかった?」
「ううん、全然変わんなかった。それに今は彼女いるし。あっ、僕もお世話になってる先輩だよ」
「そっか、ならいいんだ。いやまだちょっと心配だけど、夕貴がそう言うなら僕がこれ以上口を出すのは野暮だしね」
妹の男友達って言葉に強く警戒心を抱いてしまうのは、とても当たり前なことだと思う。
僕としては兄さんをこれ以上不安がらせたくはない。
というかここまで言いそびれてたせいで心労をかけてるから、むしろ罪悪感がある。
どうにかして兄さんを安心させたい……そうだ!
「兄さん明日休みだよね?なら一緒に行こうよ」
「えっ。いやいやいや、お友達からしたら嫌でしょ。友達の兄だよ?普通に気まずいって」
「大丈夫大丈夫、ちょっと待っててね。……もしもし志賀?先輩もそこにいるよね」
『いるぞ。ひょっとしてエスパータイプか?』
「これがメンタリズムさ。ウソ適当言った」
どうせ二人のことだ。今日も遅くまでゲームしながら帰るのがめんどくさくなって志賀の家に泊まるんだろう。という読みだ。
爆ぜろ。いや爆ぜたら困るな、程ほどになんか困れ。
兄さんに口を挟ませない為に手早く用件を片付けよう。
「急でごめんなんだけど、明日兄さんも連れてっていい?羨ましそうにしてたから連れていきたいんだ」
『いいぞ。いっすよね?先輩もいいって』
「ありがとー、じゃそういうことで。……いいって」
「スピード感っ!えっ、行くの決定!?だ、大丈夫なの?二人共嫌がってなかった!?」
流石兄さん、人としての良識やモラルが守れていてとても偉い。
けど今の僕には関係ないんだなこれが。少し強引かもしれないけど、兄さんの憂いを取っ払う為だ。
それに二人共乗り気だった。多分、僕が連れて来る人だから変な人は連れてこないって信頼してくれてるんだと思う。
二人のそういう所が、僕は好きなんだよなぁ。
「材料は各自持ち寄りだから、明日合流前に買い物済ませよう。いいよね?」
「……夕貴って、そんなに行動的だったっけ?」
「ふふん、二人に影響されてるかもね」
「東ちゃんのお兄さんかー。どんな人か知ってる?」
「東から聞いた程度っスけど、いい人そうですよ。ついでに苦労が多い人だと」
「へぇ~。面白い人だといいわねっ」
「先輩より面白い人そうそういないんじゃないすかね」
「どういう意味よコラ」
「なんでもねーッス。電気消しまーす、おやすみなさい」
「もうっ!……おやすみっ」
今後投稿する話は一ノ瀬愛佳を選んだ本史の後日談となります。
思いついたことやシチュエーション等書け次第投稿しようと思います。
完結してからもたくさんの感想、評価をしていただき誠にありがとうございます。
拙作は非常に思い入れの深い作品でもあります。登場するキャラクターもまた同様です。
そんな彼らの先を自分も見てみたいと思い、筆を取り直した次第です。
今後は平穏の中で生きていけるようになった志賀の、そしてその友人達との日常を描いていければなと思います。
不定期にはなりますが、なにとぞよろしくお願いします。