無様屈服ワンちゃんばかりのこの世界で俺は巨乳好き   作:飛び回る蜂

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吉夢も悪夢もいずれ醒めるもの

 

 

 

 以前『メスガキ物同人展開になるきっかけ』について考察したが一つ疑問が残る。

 この世界が『大人(雑魚)』になるトリガーが発生しやすい世界だとして、何故俺に対してメスガキによるアプローチが発生するのだろうか?

 

 そもそも俺に年下趣味は無い。犯罪者になりたくない。

 未成年相手に致しましたとあっては、二度とお天道様を拝めない程の社会的制裁が待ち受けることは想像に難くない。

 これは至極当然の話だ。

 

 だが、俺自身がメスガキ、ひいては『同人物展開』のターゲットにされたことは嫌という程ある。

 今でこそ関わらないように行動範囲や時間を変えたりすることで接触を抑えているが、以前はそうではなかった。

 

 

 カラオケやゲーセンに行けば。

 

 大学に通えば。

 

 ちょっと近道しようと路地裏を通れば。 

 

 休日に電車を使えば。

 

 何と無しに公園に寄れば。 

 

 道を歩けば。

 

 

 それらのどれか一つでもしようものなら、そこには超高確率で大人を敗北させようとするメスガキがいる。

 

 この恐怖が分かるだろうか。

 

 彼女達が防犯ブザーの一つでも持っていようものなら、接触=負け(社会的敗北)は免れ得ないという恐怖が。

 そのエンカウント率と危険度は、ロンダルキアのブリザードみたいだと言えば分かりやすいだろうか。

 

 子供に話しかけただけで、朝の挨拶をしただけで通報されるようなこのご時世。

 彼女達の指先とご機嫌一つで地獄に落とされるそれを恐怖と言わずしてなんと言うか。

 

 そしてそれが『猫撫で声で向こうから話しかけてくる』んだ。

 

 

『ねぇ♡おにーさん♡見て見てぇ♡』

 

 

 第二の爆弾か?

 

 そういう時は決して見てはならない。

 なぜならかなりの高確率で薄着の子供がいるからだ。

 見た時点で社会的死はほぼ確定なので、無視して通り過ぎるのが最善だ。

 

 

『……ちぇっ』

 

 

 このような声が背後から聞こえてきたら離脱はほぼ成功すると言っていい。

 だが稀に泣き真似をする狡猾なメスガキもいる。

 

 

『なんでぇ……なんで見てくれないのぉ……?』

 

 

 これも無視でいい。

 なぜなら、メスガキに絡まれている時点で既に『同人物展開』は始まっており、周囲から人影が消えていることが殆どだからだ。

 世間体を気にする必要はない。全て振り切れ。

 

 子供の泣き声を無視する屑と笑わば笑え。

 そんなこと言ってられない程に、俺の中で『女児』という存在が恐怖の対象になりつつある。

 

 どうしても見捨てられないのなら、何故か同じタイミングで近場にポップする大人(へこ犬候補)の傍を通るように歩こう。

 理屈は分からないが、基本的にメスガキと大人はニコイチであることが多い。

 そうすれば勝手にそっちに流れることがほとんどだ。

 

 

『! ……面白そうなの見つけちゃった♡』

 

 

 ハンター試験で品定めしてそうなセリフが聞ければもう問題はない。

 背後で腰へこマゾ犬が一匹増えるがそんなことはどうでもいいんだ、重要な事じゃない。

 

 

 

 何故俺に対してこういったアプローチが発生するのか、そのプロセスは結局わからないままだ。

 それでも俺はこの世界を生きていかなくてはならない。

 

 そう、結局の所一番大切なのは『関わらない、関わりを持とうとしない』ことだ。

 

 そうすれば少なくとも、安全に生きることは出来るのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 じゃあ今俺がしていることは一体なんなのだろうか。

 

 

「はいおゆ~~~!!これで私の3連勝~~~!!」

 

「クソがぁーっ!!ロケラン湧き位置陣取ってんじゃねぇーっ!!」

 

 

 メスガキ先輩と自宅でゲームやってる。

 なんで?

 

 

「知らなぁーい♡勝手に隅に逃げ込んだのはあんたでしょぉー?ざぁこざぁこ♡黄金銃持っても何もできず死ぬのはどんな気持ちぃ?♡」

 

「こんの……っ!!年の功もいい加減にしろよ……っ」

 

「は?キレそう」

 

 

 こうなった経緯は覚えている。

 情けないことに完全に俺の不手際だ。

 

 

 

 

 

 

 あれは昨晩先輩に飲み行くから付いてこいと言われサシで飲んでいた時のことだ。

 自宅からそう遠くない場所であったため徒歩で到着、合流することになったはずだ。

 

 

『すみません、今の時間は未成年の方は入店をお断りしてまして……』

 

『免許証です』

 

『えっ……しっ、失礼いたしました!お席ご案内しますっ!』

 

『……おい何笑ってんのよ』

 

『ぷっ……いえ、手慣れてんなぁって』

 

『ぶっ飛ばすわよマジで??』

 

 

 これが嫌で俺を誘ったらしいが、こんなん笑わない方が無理だろ。

 周りの客も(マジで!?)みたいな顔してんだぞ。

 むしろ笑わなきゃ不作法だろ常識的に考えて。

 

 

『何飲む?私ハイボール』

 

『オレンジサワーで』

 

『女子か』

 

『度数高いの飲めないだけっす』

 

 

 レポート手伝ってくれたわけだし、飲みに行くくらいはいいかと絆されていた自覚はある。

 容姿はどう考えてもメスガキのそれだが、なんだかんだ面倒見のいい先輩といった感じで、俺の警戒心はかなり低くなっていたのだろう。

 

 だが問題はここからだ。

 

 

『先輩の酒が飲めないってのぉ?ほら♡飲め♡飲め♡』

 

『ちょマジやめ……やめろォ!』

 

 

 このメスガキ先輩、絡み酒な上にビックリするほど酒癖が悪い。

 身長差もあって無理に振りほどけば怪我をさせかねず、かと言って頼んだ酒を無駄にするのも行儀が悪い。

 

 だが、どうせ明日は休みだし構やしないと馬鹿な飲み方をしてしまったのは自分だ。

 急性アル中にならない程度ではあっただろうが、それでも記憶飛ばす程飲んでしまったのはあまりに後先考えなさすぎた。

 

 

『……ばっ……ちょ……うぶ……すぎた……?』

 

 

 実際そこから前後の記憶がかなり朧気だ。

 なにか大事なことを話したような気もするが、酔いでぐらつく視界と遠い耳、霞んだ記憶には何も残ってはいなかった。

 

 

 

 

 気が付いた時には家に帰ってきていて、俺はベッドに寝かされていた。

 カーテンからは日差しが漏れており、つまり起きた時には既に朝だったことがうかがえる。

 酷い頭痛の中必死に記憶の糸を辿ろうとし、寝室を出て自室に向かうと……

 

 

『……あっ、起きたぁ?もう10時よぉ?』

 

 

 うわ出た。

 

 なんでスト2やってんだこの幼女。

 

 

『勝手に借りてるわよぉ。あんた懐かしーハード持ってるのねぇ。64とかスーファミなんて実家にしかないわ』

 

『……昨日、なにがありました』

 

『悪いと思ったけどあんたが酔いつぶれたから担いで送ったのよ。案内できない程潰れてなくてよかったわぁホント。感謝しなさいねぇ』

 

 

 ケラケラ笑いながら昇竜を決める先輩。

 今思い返すとなんだこの空間、マジで意味わかんね……

 

 

『……酔い潰したの先輩でしょ……頭痛ぇ……』

 

『悪かったわね、久しぶりでペース考えてなかったわ。それと材料あったから味噌汁作っといたわよ。にしてもあんた、意外と冷蔵庫キチッとしてんのね……』

 

 

 そこから目が覚めるまで俺は休み、その間先輩は淡々とガン待ちソニブしていた。

 CPU相手にそれ楽しい?

 

 

『すいません、先輩。随分ご迷惑をおかけしたみたいで……』

 

『私も勝手に家上がっちゃって悪かったわね。だからお互い様ってことで。それよかなんか対戦しましょ。勘取り戻したらやりたくなってきちゃった』

 

『いいっすね。言っときますけど俺強いっすよ』

 

『ふぅん、楽しみぃ♡』

 

 

 そんな流れでゲームに興じているわけだが……

 

 

 

 

 

 

 

「空下上スマ空上落下空上空上空上ジャンB落下ジャン空上B……」

 

「あぁ゛ー!即死コン完走させやがったッ!!あんたさてはルイージ使い慣れてんな!?」

 

「答える必要はなぁい♡」

 

 

 というかとんでもなくゲーム強いなこの人!?

 

 目を覚ました時はもう終わりだァ!と思っていたが、杞憂だったようだ。

 普段の俺なら

 

 

 (メスガキに助けられた……?そんなことが本当にあるのか……?)

 

 

 と疑心暗鬼になっていたことだろう。 

 だがそうするには今の状況はあまりに楽しすぎた。

 

 

「ぷぷぷ、俺強いっすよ(笑)。とんだ雑魚じゃなぁい♡雑ぁ魚♡」

 

「くそっ、さっきまでバタ足コン決められて半泣きだったくせに……!」

 

「あーあー覚えてなーい!今感じている勝利こそが私の全てっ!!」

 

「更年期ですか?心配になります」

 

「ぶっ殺すわよ」

 

「すみませんでした」

 

 

 情けないことに、昨晩からこの人の世話になりすぎた。

 先輩は言動こそメスガキのそれだが、非常に面倒見のいい先輩だということがこの数日間でよくわかった。

 

 最近俺の友人達の言動が怪しかったこともあり、距離を置きがちになっていたことも拍車をかけていたのかもしれない。

 

 誰を信じればいいのかも分からず、ただ逃げに徹していた日々にこうして訪れた安息。

 多分ではあるが、俺はずっと気を張りつめていたのだろう。

 

 

「あれ、ホーミング弾ってどこに落ちてたっけ。なんか通れる壁みたいなのがこの辺に……」

 

「チャンキーでホーミング弾使うのはルールで禁止スよね」

 

「DK64はルール無用でしょ」

 

 

 気の緩みも相まってか、ある疑念が俺の頭を過ぎる。

 

 

 

 

 

 ひょっとして……先輩は……

 

 『メスガキじゃ、ないのでは……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひっっっっっさしぶりに64とかGC触ったわぁ!

 いやこれめっちゃ楽しいわね!懐かしさ補正も相まって超テンション上がるぅ!

 

 

「あぁ゛ー!!ちょっとメテオフリッカー使うのやめなさいよっ!近づけないでしょうがっ!」

 

「ラグナロク3rdなんか使ってるやつ近づける訳ねーでしょうが。恨むなら違法パーツ1つありとか言った自分を恨んでくだっさーい」

 

「それを使わないのが暗黙の了解ってもんでしょうが……!」

 

 

 会って数度の後輩ではあるが、こいつが中々にゲームが強くて楽しい。

 置いてるハードも最高に私好みだしチョー最高!

 

 

「あったまきた……アール3rd出すわ」

 

「ふざけんな……ッ!それを出したら……戦争だろうが……ッ!お互いにダウン取れないクソゲーしてぇんですか……ッ!!」

 

「したい」

 

「んじゃ俺も2nd使お」

 

 

 やってみるとこれが勝ったり負けたり、若干私が勝ち越し?くらい。

 やっぱりゲームはこれくらいの接戦が最高に楽しいとこあるわねっ!

 

 

「いやー!楽しいっ!地元のゲーセンで近所のガキ共泣かしてたこと思い出すわねぇ」

 

「なんてことを……」

 

「絡まれたの私。アイム被害者。返り討ちにしてあげただけよ」

 

 

 イキり散らしたガキ共を鉄拳でボコボコにするの最高に気持ちよかったけど。

 多分あれが私にゲームの楽しさを目覚めさせた。

 今はむしろ感謝していると言ってもいいわね。

 

 

「それに対戦ゲームは力こそが全て。たとえ身内でも私は全力で勝つわ」

 

「違いねぇっすね」

 

 

 私の友達こういうゲーマー少ないのよねぇ。いや多くても困るんだけどね?

 ただ、たまーにこう、フラストレーションぶちまけながらやるゲームは格別というか……禁酒明けの飲酒的なね、良さがあるわけよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしこの後輩、二日間接してみて思ったけど解せない所がある。

 

 あれは昨晩の飲みの時のこと。

 ある程度酒も進んだ折、ふと気になって聞いたことがある。

 

 

『ねぇ、あんたさ、私の存在がダメって言ってたわよね。あれどういう意味?』

 

 

 その時、焼き魚を摘まんでいた後輩の目の色が変わったのを覚えてる。

 酷く気分の悪そうな、まるで私を咎めるようなそんな目だった。

 

 

『なっ、なに?やっぱ私なんかしてたっ?』

 

『……いえ、違います。すんません、ほんとに先輩は悪くないんです』

 

 

 気にしないで忘れてください、とだけ言って後輩はまた魚を摘まみだした。

 私はその時のこいつの目が忘れられなくて……

 

 

 

 

(よし、飲まして全部吐かせるか)

 

 

 酒に任せることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……うぐぅ……ねむ、い……』

 

『……やばっ、ちょっと大丈夫?飲ませすぎたかも……?』

 

 

 ぐでんぐでんにしてしまった。

 マズいわね、これちゃんと帰れるかしら……?

 

 

『起きてるぅ?……ちょっとペース早すぎちゃったか』

 

『うぅん……』

 

 

 しかし、そんな時だったの。

 こいつの本音がちょっとだけ見えたのは。

 

 

『たまぁに……思うんすよ……。イカれてるのは、俺なんじゃねーかって……』

 

『……え?』

 

『でもさ……受け入れるのだけはできねぇんだよ……。それだけは……ダメで……』

 

 

 さっきまで私を責めるような目だったのに、今は藁にも縋る様な目で、それがあまりに印象深かった。

 

 

『俺、将来は、せんせーになりてぇって、思ってて……』

 

『……今じゃ、もうなんにも、わかんなくて……』

 

 

 

 

 

『……助けて、くれ』

 

 

 それだけ言い残したらうつぶせになって酔い潰れちゃった。

 

 ……後輩、思ってたよりなんか抱え込んでるっぽい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺ここ好きなんですよね。レゲェっぽいラップ」

 

「カエル先生、リズム取んの楽しいわよねぇ」

 

「こことラストめっちゃ楽しいっす」

 

僕ならできるさ(I gotta believe)!っていい言葉よねぇ」

 

 

 横に並んでゲームやってるこいつが、あんな深刻そうな顔したのが未だに信じられないわ。

 でもよくよく見てみれば、今もこいつは私と話す時は目を合わせようとしない。

 それに昨日担いで帰ってきたと言ったけど、驚くほど軽い身体だったのも気がかりね。

 

 教師を目指してたこと、私と距離を取ろうとすること、異様に軽い身体。

 一体なんの関係があるのかしらねぇ……。

 

 そんな時ふと唐突にゲームを止め、後輩がこちらを見やる。

 

 

「そういや先輩、名前何て言うんですか」

 

「あれ、言ってなかったっけ?……言ってないわぁ」

 

 

 えっ、名前も言わずに連絡先だけ交換して飲みに行ってゲームしてたの私達っ!?

 ちょーっと我ながら関係構築が早すぎた感あるわね!?

 

 

「……まぁいっか。『一ノ瀬 (いちのせ) 愛佳(まなか)』よ。漢数字の一にノ、瀬戸際の瀬で一ノ瀬。愛するに佳境の佳で一ノ瀬 愛佳、よ」

 

「素敵な名前っすね」

 

「ん、ありがと。私もこの名前好きだから嬉しいわ」

 

 

 特に理由はないけど、私はこの名前が好き。

 本当に深い理由は無いんだけどね。

 

 

「あんたは?私もあんたの名前知らないわよ?」

 

「あっ……そっすね。俺は……」

 

 

 ……一瞬躊躇ったわね。

 やっぱり何か、思う所でもあるのかしら。

 

 

「……志賀です、『志賀(しが) (たくみ)』。志に加賀岬の賀、技巧の巧で、志賀 巧」

 

「志賀、志賀ね。覚えたわ。いい名前じゃない」

 

「あざす」

 

「……ふふっ」

 

「……ははっ」

 

 

 なんだかお互いにおかしくなっちゃったみたい。

 レポート手伝ったり、飲みに行ったり、楽しくゲームしたりしてるのに、お互いの名字すら知らなかったなんて。

 

 

「これからよろしくねぇ」

 

「……こちらこそ」

 

 

 それでも間違いなく、いい出会いだった。

 そう思っていいわよね?

 

 

 

 


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