非科学的な犯罪事件を解決するために必要なものは何ですか?   作:色付きカルテ

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こちらは書籍第一巻を記念してのSSとなります!
本文を読まれていない方は飛ばしてください!

書籍の第一巻は実はサイトによって購入特典がありまして、その購入特典のSSがどんな文字数で、どんな形の話が書かれるのか気になる方もいらっしゃると思うので、参考になるようなSSを書き上げました!
大体文字数は同程度ですので、こんなもんなんだと知っていただけたら幸いですー!


【書籍記念短編SS】
【第一巻発売記念SS】動物に触れる


 

 

 

 

 動物というのはどうにも人間が持たない危機管理能力があるらしい。

 鼠や鳥が地震の前に異常行動を取ることがあるのも、人間には無い、或いは発達した第六感があることを示唆しているとも言われている。

 そしてどうやら、そんな動物達の危機管理能力が察知するのは自然による天災のみならず、近付く人間にも当てはまるようなのだ。

 

 

「みぃー!」

「……子供の猫かぁ」

 

 

 ベースの白に茶色と黒色の毛が混じった小さな猫。

 一人立ち(一匹立ち?)して間も無いのか、それとも母猫からはぐれたのか、小さなその猫が道の端で幼い鳴き声で親を呼んでいる姿に私は思わず足を止めた。

 

 特段急いでいる訳でも無い私が思わず鳴いている子猫を見付けて足を止めたのは何も可哀想だとか、可愛いだとか、そんな一時の感情によるものではない。

 以前とは少し変わった自分を見て、幼いこの動物がどんな反応を示すのか少しだけ気になったからだった。

 

 

「……ちょ、ちょっとだけ様子を見てみようかな……」

「み゛……⁉」

 

 

 少し近付いて屈んだ私に対して、脇目も振らず必死に鳴いていた子猫が硬直した。

 さっきまで元気に鳴き声を上げていた猫が、まるで妙な生命体を見付けたように目を丸くして私を見ている。

 ピーンと手足や耳を伸ばした状態で、初めて宇宙を知ったかのような顔をして硬直する子猫の姿に私は自分の顔が引き攣るのを感じた。

 

 どうやら私の動物に警戒される体質は全くと言っていいほど変わっていないらしい。

 

 

(ううん……今もここまで露骨な態度を取られちゃうなら、やっぱり昔みたいに動物に対して印象操作の異能行使は必要かもしれないなぁ。変な注目を浴びるのは避けたいし……)

 

 

 動物は生き物だ。

 知性があるし好き嫌いもある。

 特別懐かれやすい人がいれば特別警戒される人もいるだろう。

 人が持つ雰囲気や見た目、声質、匂いなんかにも、好かれやすいものとそうでないものがあると思う。

 異能のあるなしがそれに大きく影響を及ぼす可能性も考えたが、私が異能で操った人を近付けてみてもこうはならなかったので、単純に私が持つ雰囲気によるものなのだろう。

 

 私は別に動物が好きな訳ではないので、動物に懐かれたいという欲求は無いが、私を前にして変な行動をとるのは、変に悪目立ちするから止めて欲しいのだ。

 

 昔から私は一部を除いた動物には異常に警戒される。

 原因もよく分からなかったので、昔は問答無用の異能行使で最初からある程度懐かせた状態になるよう操作して対応していたが、やっぱり今もその措置は必要らしい。

 

 取り敢えず知りたかったことは知れた。

 そう満足した私がポカンとしている子猫を放置して立ち上がりかけた瞬間、バサバサバサと羽音と共に黒い塊が目の前に降り立った。

 

 子猫の隣に降り立ち、その黒鳥は私に向けて小馬鹿にするような鳴き声をあげはじめる。

 

 

「カア!」

「……なんだよぅ」

 

 

 動物は基本的に私に対して異常な警戒感を示す。

 それが体質なのかなんなのかは分からないが、彼らが持つ防衛本能がそうさせているだろうことは何となく私も分かっている。

 だが、そんな警戒感を示す筈の動物達の中でも例外なのが、目の前に降り立ったこのカラスである。

 カラス自体他の動物に比べて私を好いていて、キラキラとした物(以前は虫や小動物の死体なんかもあった)を私の前に置いて行ったり、雛を見せに来たりということもある。

 特に目の前にいるこの個体は、以前クルミが割れずに困っていたのを石で割ってやってからは、ちょくちょく私を見付けてはこうして声を掛けてくる程度に積極的に関わってくるのだ。

 

 隣で未だに初めて宇宙を知ったような顔をしている子猫を嘲笑うようにチラ見して鳴き声を上げたカラスに、私は溜息混じりに話し掛ける。

 

 

「相も変わらず性格が悪いね……この子猫をどうにかしてくれる?」

「ガッ、ガッ、ガァ!」

 

 

 自信満々の返答、威勢のいい奴である。

 私が「じゃあ任せるね」と言うと、一際大きな声で鳴いたカラスは地に足を着けたままバサリと大きく羽を広げて子猫に近付いていく。

 ズンズンと近付いてくるカラスの翼で私が視界から隠れた子猫は正気を取り戻したが、目の前に迫った自分より大きな黒い鳥に逃げる事もせずプルプル体を震わせ始めてしまった。

 

 どう見ても捕食される寸前の小動物である。

 この光景だけを見れば流石の私も止めるが、状況を知っている私はカラスの意図を察してそのまま見守ることにした。

 

 

「ガァ! ガッガッガッ!」

「みっ……!」

 

 

 カラスが今から襲うぞと言うように鳴き声を上げたその瞬間、屋根上から慌てて飛び降りて来た大人の三毛猫がカラスと子猫の間に着地する。

 

 毛を逆立ててカラスに威嚇する大人の猫だったが、その後ろにいる私を一瞥した瞬間直ぐに子猫の首元を咥えて何処かへと逃げ出していく。

 すぐ近くまで探しに来ていた母猫が無事に子猫を見付けられたことに安心する。

 

 その事に私がホッとしていると、カラスが再び私の前に戻って来て、誇らしげに喉を鳴らし出す。

 

 手際も良いし、やり方も上手い。

 やっぱりコイツ、カラスにしては頭が良すぎる気がしてくる。

 

 

「お前、さては最初から親猫を見つけてたでしょ?」

「ガー?」

「今さらよく分からないみたいな態度を取っても遅いってば。でもまあ、ありがとう。子猫を無視してるのを動物好きの妹に見られたら後から何か言われそうだと思ってたし助かったよ」

「ガア!」

 

 

 また何かあれば呼べとでも言うように一鳴きしたカラスはそのまま私に背を向けて飛び立っていった。

 動物に何かをしてお礼をされる物語は昔からよくあるけど、こうして実際にお礼を返される経験をすると全てが空想の話では無かったのだろうなと思う。

 その事に少しだけ浪漫を感じた私は、後腐れなく気持ちの良い帰路に就くことが出来たのだった。

 

 

 

 

 

 




【書籍化に伴うリンク集】

〇 KADOKAWA公式サイトリンク

https://www.kadokawa.co.jp/product/322308000521/

〇 『非ななな』特設サイト(こちらにMV情報などがあります!)

https://famitsubunko.jp/special/hinanana/entry-12830.html

〇 公式Twitter(X)

https://twitter.com/fb_hinanana


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