非科学的な犯罪事件を解決するために必要なものは何ですか?   作:色付きカルテ

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歪んだ精神性

 

 

 

そこは日本ではない、どこか別の国。

 

人通りの少ない早朝、道路の端の公衆電話の近くにそれはいた。

 

 

 

 

 

「君の言い分も分かるがね。まさか、“千手”が捕まるとは想像もしていなかったんだ。我々としても想定外の事が起きた、あれほどの制圧能力を持つ彼がまともに正面から不覚を取られたとはどうしても思えない。これ以上貴重な異能持ちを無駄に浪費なんてできないからこそ、直接手を下す必要のない君に、こうしてお願いをしているんだ」

 

「だからぁ、僕が言っているのはそう言う話じゃなくて、異能の秘匿をしっかりとやってくれって話なんだよね。アンタらが人工異能を作り出す技術を確立させるのは勝手だけど、異能の認知が進んで僕らに良い事なんて1つも無いんだから。不用意に映像に残されるのも、異能の痕跡を盛大に残すのも、どっちも秘匿する意思があったらあり得ないだろう? 育てた子飼いの異能持ちくらいちゃんと管理してくれよ、まったく……お得意様じゃなければ敵と見なしてるよ」

 

 

 

 

 

初老の女性が、受話器がぶら下がった公衆電話の外に立って、受話器からの声と会話している。

 

杖を突いている老人とは思えないほど、張りのある声は侮蔑に満ちていて、電話先の誰かを嘲笑っている。

 

だが、それを気にした風も無く、電話先の相手の声に陰りは無く、むしろこの初老の女性に敬意を払っているようにも聞こえる。

 

 

 

 

 

「そうだな、確かに『異能持ちが支配する世界を構築する』……“千手”にはそう言っていたのだった。最終的に異能持ちが世界を支配すると言ってしまえば、今異能の存在が明るみに出ようが問題ないと誤解する可能性があるのを見過ごしていた。私のミスだ」

 

「まっ、どうせ後手後手の捜査ばかりのICPOと、超常的な力の存在を受け入れない日本政府なんて、僕の敵じゃないんだ。多少の擦れ違いはあったけれど、ミスを認めて次の報酬に色を付けてくれるなら、僕から言うことは特にないさ」

 

「流石は“顔の無い巨人”。国際警察と先進国である日本を相手にして敵じゃないとは、言うことが違うな……いや、今は“白き神”と呼んだ方が良いのか?」

 

「……そうだなぁ、僕としては後者が気に入ってるんだ。名乗っているのに中々浸透しないのは、流石に腹が立ってくる」

 

 

 

 

 

嘆息しながら初老の女性は子供のように、腹立たし気に杖で地面を叩く。

 

初老の女性の歳に見合わぬ行動に何を言う訳でもなく、電話先の相手は要件を告げる。

 

 

 

 

 

「ならば、“白き神”。無事私の依頼を成し遂げたなら、報酬はこれまでのものに桁を1つ追加しよう。今はICPOの異能担当が日本にいる筈だ。奴らよりも早く頼むぞ」

 

「ひゅー、随分豪勢だなぁ」

 

「異能持ちの価値はそれ以上と言うことだ。確実な成功を」

 

「まあ任せてよ。丁度あの国には面白い仕掛けも残してる。全部出し抜いて、アンタの依頼を成功させるさ」

 

 

 

 

 

そう意気込んでいた女性に、「……それと」と言って電話先の男は女性の出鼻を挫き告げる。

 

 

 

 

 

「日本にいるある存在を私は非常に危険視している。もしも、自分よりも格上だと感じる相手と出会った際は、その情報を持って帰ってきてくれるだけで良い。それだけで報酬を払おう。絶対に行き過ぎた行為をするな」

 

「……世界最悪の異能持ちと言われる僕にそれを言うの?」

 

「“顔の無い巨人”を名乗っている誰かを、その存在が許すのか分からない。絶対に下手な刺激をせずに終わらせろ。私としては、あの国の支配は諦めても良いんだ」

 

「僕がっ、嘘を言っているって言うのかっ……!?」

 

「君が優秀な『他人を掌握する力』を持っているのは理解している。君自身の力は認めている。話はそれだけだ、良い報告を待つ」

 

 

 

 

 

それだけを告げると、電話先の男は激昂する女性を無視して会話を打ち切る。

 

ブツリッ、と音がして、通話が切られた電話機を憎々し気に睨み付けた初老の女性は、凄まじい形相で歯軋りをして――――

 

 

 

 

 

「おばあちゃん?」

 

「――――」

 

 

 

 

 

金髪の、どこか初老の女性に似た面影を持つ幼い女の子に声を掛けられて、ピタリと体を制止させた。

 

振り返り、まるでゴミを見るような目で幼い女の子を視界に収めた初老の女性は能面のような無表情を作る。

 

普段の優しい初老の女性なら絶対に作らない表情に、幼い少女は怯えて身を竦ませた。

 

 

 

 

 

「お、おばあちゃん、誰かと喋ってたの……?」

 

「――――誰とも喋ってないよ。こんな朝早くにどうしたの、お母さんかお父さんは付き添ってないのかい?」

 

 

 

 

 

くしゃり、と無表情だった初老の女性の表情が優し気に崩れる。

 

これまで電話していた初老の女性とは別人の様な彼女の様子は、幼い少女にとっては見慣れたものだったのか、ぱぁっ、と顔を輝かせた彼女はいつも通りの祖母の手を取って、一緒にいる母親の元へと引っ張っていく。

 

 

 

その場に残ったのは、受話器が落ちた公衆電話だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

‐1‐

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拍子抜け。

 

今の私の心情を表すならそんなものだろうか。

 

ぼんやりと私が見る先にいるのは、助けを求めた神楽坂さん達と、見たこともないスーツ姿の男女が向かい合う姿。

 

友好的、とまでは行かなくとも敵意をぶつけることも無く話を続けている様子を見れば、そこまで緊張感あふれる場面ではないことはすぐ分かった。

 

 

 

あれ、と思ったのも束の間。

 

話の途中だったため前後は分からないが、彼らがこの街に来ている異能持ちについて話している事に気が付いた。

 

前に遭遇した同系統の異能持ちについて、だと思われる。

 

その話は私もとっても興味があった。

 

 

 

意識外に自分を持って行っているから気が付かれることは無いものの。

 

盗み聞きするなんて……とは思いながら、私は神楽坂さん達の話し相手の背後でこっそり、しっかりと聞き耳を立てる。

 

 

 

 

 

「――――協力関係にはなれませんでしたが、貴方がたも充分気を付けてください。隣にいる人間が、昨日までと同じだとは思わないように」

 

 

 

(……あれ、もう話が終わった?)

 

 

 

 

 

見ると、それではと言って神楽坂さん達に背を向けて去っていく見知らぬ人達の姿がある。

 

 

 

 

 

(“白き神”の事を話してそうだったけど、全然状況がつかめなかった…あの人達から無理やり情報を絞り出すべきだったり……いや、流石に……)

 

 

 

 

 

そうやって、少しだけ立ち去っていく話し相手達から情報を奪うべきか迷ったが、止めておいた。

 

彼らは見たところ、何か悪いことをやっている犯罪者ではない。

 

神楽坂さん達がそこまで敵対関係になかったのだ、私が変に介入して関係を悪化させるのは避けたいし、きっと神楽坂さん達もそれは望まないだろう。

 

何があったのか神楽坂さん達に聞いてからでも遅くはない。

 

 

 

私がそう結論付けていると、神楽坂さん達の視線が私で固定された。

 

異能の除外対象に彼らを入れていたのだと気が付いて、気まずさを隠すように手を振っておく。

 

 

 

 

 

「…………佐取、ビックリするからそういうの止めてくれ」

 

「そ、そういうのって、神楽坂さんが非常時だって私を呼んだんじゃないですかっ」

 

 

 

 

 

話し相手だった人達が完全にこの場を去ったのを確認して、神楽坂さんが脱力しながらそんなことを言ってくる。

 

 

 

「私本気で心配してたんです!」なんて言ってみるが、神楽坂さんどころか、飛禅さんも変な顔をして私を見ている。

 

おかしい、私が“顔の無い巨人”とかの変な名称で呼ばれていた存在だったかもしれないなんて彼らには言っていないし、おかしな事も特にやっていないのにこの反応は何なのだろう。

 

 

 

 

 

「あー……すまん。さっきの奴らはICPO、つまり国際警察だ。なんでも、異能を専門に取り扱う部署の人間らしいんだが、“千手”の確認とかをするためにここに来たらしい」

 

「ていうか、メールしてから来るの早すぎない? 学生の癖にどんだけ暇なの? 友達とかちゃんと作った方が良いんじゃない?」

 

 

 

「私の心配返してもらえます!?」

 

 

 

 

 

図星を突かれた私の悲鳴のような叫びが響く。

 

 

 

いや、分かる。

 

確かに目的も分からない世界的な組織の人が来たら連絡の1つも入れておくのが普通だし、私が考案したあの暗号に当て嵌めるなら、敵味方不明で緊急を要する状態なのだからパイナップルで正しい。

 

神楽坂さんの対応に間違いはない、改めるべき点はもっと状況が分かりやすい暗号を作らなかった私の落ち度だ。

 

 

 

でもそれとこれは別である。

 

私だって私生活を放り出してここまで来たのだ、感謝はされても貶されるのは許せない。

 

と言うか、よりにもよって友達を作れとか言ってくる奴を許したくない。

 

特に、飛禅とか言う女は絶対に許さない。

 

 

 

 

 

「わ、私だって家事とかその他もろもろ投げうってここまで来たのにっ、もうっ、帰ります! 何事も無くて良かったですね!」

 

「あ、ちょっと待って。お見舞いの果物とかは持ってきてない? 病院食じゃ物足りなくて」

 

「面の皮厚すぎませんっ!? 何ですか飛禅さん貴方、腹ペコキャラなんですか!?」

 

 

 

 

 

一応持ってきておいた林檎を飛禅さんに投げ付ければ、彼女は目を輝かせてそれをキャッチし、いそいそと懐に仕舞い込んだ。

 

ここまで食い意地を張った奴は初めて見た、食べ盛りの妹でももう少し品がある。

 

 

 

怒り心頭の私の様子を見た神楽坂さんはバツの悪そうな顔で頬を掻く。

 

 

 

 

 

「いや、本当に。駆け付けてくれてありがたかった。これでもし彼らと敵対していたら、間違いなく俺達だけだとどうにもならなかったからな。結果的には何もなかったが、佐取が居てくれたと言うだけで安心感が違う」

 

「……そ、そんな誤魔化しで通用すると思わないでくださいね」

 

「誤魔化している訳じゃないさ。それにメールを入れてからここまで来るのも早かった。よっぽど気にしてくれたんだろう、ありがとな。それに、ここまで来るのに階段を使う必要がある。これだけ早かったと言うことは、俺が言ったトレーニングもしているんだろ?」

 

「……時間がある時に、ランニングとか筋トレとかはしてます」

 

「口先だけじゃなくちゃんと行動に移せるのは立派だ、継続すれば結果は付いてくる。これからも頑張れよ」

 

「えへへへ」

 

 

 

「……盲目的なのはお互いでしたか。私の心配は杞憂かな、これ」

 

 

 

 

 

腹ペコキャラが何か言っているが、そんな言葉が耳に入らないくらい気分が良い。

 

努力を誉められるのは良いものだ。

 

最近は1キロくらいの軽いランニングならなんとかやれるし、筋トレの回数も最初に比べれば10回以上増えた。

 

全て私の努力の成果である、素晴らしい頑張りだ私。

 

家事をやりながら、勉強もして、それでいて運動もするなんて普通出来るものでは無い。

 

 

 

 

 

「……ところで、いくつか確認したいことがあるんだが、いいか?」

 

「へ? あ、はい」

 

 

 

 

 

どうやら褒め褒めタイムは終わってしまったらしい。

 

 

 

 

 

「その、佐取は他人の精神に干渉できる力を持っているが……同時に干渉できるのは何人だ?」

 

「と、突然ですね。えっと……?」

 

 

 

 

 

私的にはもう少し褒めて欲しかったが、神楽坂さん的にはこっちの話も重要なようで、難しい顔で私の返答を待っている。

 

先ほどの三人組と争う事態になった時の前準備として欲しい情報なのだろうか。

 

神楽坂さんが抱いているのは、期待と不安と緊張感……?

 

よく分からないが、相手が神楽坂さんなので正直に答えておく。

 

 

 

 

 

「んー、と。私の異能は半径500m範囲を円状に広がっていて、その範囲なら読心や思考の誘導は可能です。対象の特定は目視が確実ですが、まあ見えなくても知っている人物なら判別は可能です。同時干渉は程度に寄りますけど……神楽坂さんに見せた“千手”の末期状態程となると、同時だと出来て5人ですかね……あ、制限を掛ける程度ならもっと行けますよ。そんな感じですけど……欲しい情報はこれで大丈夫ですか?」

 

「だよ、な。普通はそんなものだよな……10億なんて数字馬鹿げてる」

 

「10億? 何の数字ですかそれ」

 

「……今この国で活動を再開し始めている異能持ちによる被害者の数らしいんだが……俺が知る限り一番異能の扱いが上手い佐取でその数なら、きっとこの情報は間違いだろう。悪いな、変なこと聞いて」

 

「……ふむ」

 

 

 

 

 

色んな意味で温まっていた思考を冷やして考える。

 

もしも本当にそれだけの数の被害者がいる異能持ちとなると、私が探知出来ていないことを考えればおそらく活動の中心はこの国ではないのだろう。

 

そして、10億なんて死傷者が出ていればおのずと大々的にニュースに取り上げられる筈で、それがないと言うことは、私と同じ精神干渉系の異能の可能性が高い。

 

なによりも、今神楽坂さんからこの話が出てきたことを考えると、ICPOと話していた“白き神”を名乗る異能持ちの話であると思われる。

 

 

 

以前私が奴と遭遇した時。

 

異能の操り人形ならぬ操り人間を通した形での接触だったため、相手の出力は測り切れなかったが、確かに国を跨いで干渉できるなら危険度は高そうだ。

 

しかしそれだけの出力を持つ奴が今までこの国で活動してこなかったのは少しおかしい。

 

異能の出力が国を跨いで効果を及ぼすのなら、もっと大々的で、もっと凶悪なことをやれてないとおかしいのだ。

 

 

 

つまり。

 

 

 

 

 

(……何かカラクリがありますね)

 

 

 

 

 

何も馬鹿正直に出力を放出するだけが効果を及ぼす方法ではない。

 

もっと効率的なやり方はあるし、工夫1つで効果を増大させるやり方もある。

 

与えられた異能と言う手札をそのまま鈍器として使うのなら、猿にだって出来るのだ。

 

 

 

 

 

「もう1つ、ここ最近周囲で異能を感知することは無かったか?」

 

「…………ありましたね。恐らくアレは、私と同じ精神干渉系の異能だと思います」

 

「……ICPOの情報は正しいのか、くそっ……」

 

 

 

 

 

焦りと憎悪が孕んだ神楽坂さんの言葉に、私は思わず目を剥いた。

 

あの神楽坂さんが、あの善人を形にしたような神楽坂さんが隠し切れない憎悪を抱いていることに驚愕した。

 

……いや、もしもあの異能持ちが過去に神楽坂さんの先輩と恋人を手に掛けているなら、その情報をICPOにもたらされたのなら、当然か。

 

 

 

 

 

「ま、待って下さいっ」

 

 

 

 

 

どこか焦りを含んだ声で私達の会話に割って入ったのは腹ペコさんだ。

 

 

 

 

 

「あの人はっ、神楽坂先輩の先輩や恋人を意味も無く手に掛けるような人ではありませんっ……! あの人はそんな非道なことをする人じゃ……」

 

 

 

 

 

無いんです……、なんて、最後は聞こえないくらい小さな声でそう言った飛禅さんの様子に、私も神楽坂さんも驚いてしまう。

 

あの不遜で我儘で自己中心的を形にしたような飛禅さんが、こんなに弱弱しい態度になってしまうのは想像もしていなかった。

 

 

 

 

 

「きっと何かの間違いで……あの人達の情報が間違っていて……」

 

 

 

 

 

縋るようにそんな仮定を口にする飛禅さんに困ってしまう。

 

よく状況が分からないが、飛禅さんが前に話していた自分を救ってくれていた存在について言っているようだ。

 

 

 

……なるほど、今話題に出ていた、あの“白き神”を名乗っていた奴が“顔の無い巨人”でもあると言う情報を与えられたのだろう。

 

 

 

恐らく私の暗黒時代にやらかしたことの1つだと思っていたのだが、異能を通して見たせいで人相とかは何も分かっていない為全く確証がない。

 

しかも、子供時代の彼女を救ったのが本当に私だったとしても、彼女が抱いている物騒な感情を思えば、自分が助けた存在だとは非常に言い出しにくいため、彼女と事実確認もできやしない。

 

 

 

『顔の無い巨人』とやらが私だと確定した訳ではないのだ。

 

それに、飛禅さんを助けたのが『顔の無い巨人』だとも確定していない。

 

不安定かつ不安要素ばかりのこの状況で、変に石を投げ込みたくない。

 

つまり、ここで私が取るべき行動は無言で傍観することになる。

 

 

神楽坂さんに視線を送れば、任せろと頷きを返してくれた。

 

 

 

 

 

「飛禅。お前を助けたそいつがどんな奴だったのか俺達には分からない。顔の無い巨人とやらがどんな存在なのかも俺はまだよく分かっちゃいないし、ICPOの情報が全部正しいわけじゃないとも思う。けど、今この地域に悪意を持って異能を扱う奴がいるかもしれないって言うことは確定している。色々と思うところはあるだろうが、被害者が出ないようICPOの捜査が上手くいくことを祈ろう」

 

「……」

 

「それに、俺はともかく、お前の怪我だって軽いものじゃないんだ。大人しくしておくのは苦痛かもしれないが、いざと言う時に怪我が再発なんて笑えないだろ?」

 

「…………はい」

 

 

 

 

 

微妙に錯乱状態にあった飛禅さんをそう諫めて、神楽坂さんは何かを悩む様に視線を彷徨わせつつ私を見た。

 

 

 

 

 

「……すまん佐取。頼みがある」

 

「はい」

 

 

 

 

 

真面目な様子。

 

後輩をしっかりと抑えて見せた神楽坂さんに感心しながら、神楽坂さんの頼みを聞くために、しっかりと体の向きを整えた。

 

 

 

 

 

「……前に、俺の過去の境遇について、佐取には少し話したと思う。非科学的な力があるとか、魔法や呪術があるとかそんなことを言って、警察内での俺の立場は良くないと言う話をしたと思う」

 

「そうですね、そういう話は聞いたと思います。発端となった事件とかは、後回しにされて聞いてなかったですけど」

 

「そうだ。それで、さっきICPOの人達と話して、発端となった事件を起こしたのが“白き神”と言う異能持ちだと知ったんだ……確証を俺が持っている訳じゃないが、ICPOの人達は断言していた」

 

「……なるほど。“白き神”ですか」

 

 

 

 

 

この前の、遊里さん達を巻き込んだ宗教組織に深く関わっていた人物。

 

出力元を辿った結果、海外にいるとは分かったが仕留めきれなかったそいつの情報を、神楽坂さんも手に入れていたらしい。

 

 

 

実は私が手に入れた神楽坂さんの過去に関係しそうな異能持ちの情報は、まだ彼に話していなかった。

 

だって、私はまだ神楽坂さんに過去の事件について話をされていないし、偶々こういう情報を手に入れたと神楽坂さんに言っても、彼からすれば私が勝手に神楽坂さんから情報を抜き取ったと思われかねない。

 

信頼関係を続けるためにも、それは避けたかった。

 

 

 

だから、神楽坂さんから過去の話を聞くまでは保留としていた訳だが、どうやら事情が変わったようだ。

 

 

 

 

 

「俺の先輩と恋人に手を掛けた奴を俺は許せない……だが、見境なしに動けるほど、俺に力がある訳じゃないのはもう何度も思い知った。万全の状態でもそれなら、この怪我の状態じゃどうにもならない。だから、再びこの国で活動を開始している“白き神”とやらの逮捕の協力願いを断ったんだが……」

 

 

 

 

 

そこまで言って口を噤んだ神楽坂さんの意思を読み取って、私は頷く。

 

 

 

 

 

「またこの国で活動を開始したその犯人を野放しには出来ない。ICPOの実力も分からない。だから、彼らICPOの補助、若しくは様子を私に見て欲しい。そういう感じですか」

 

「…………そうだ。今俺と飛禅は怪我でまともに動けない。だから、どうしても佐取に頼らざるを得なくなる。もちろん嫌なら断ってもらっていいし、無理に逮捕まで持って行かなくても軽く様子を見るだけでも良い。今回の相手もICPOが動くほどの大物で、過去にとんでもないことをやらかしている可能性もある。碌にサポートも出来ず、相手の情報も分からない状態で佐取に頼るなんて間違っているなんて分かってる。だから――――」

 

 

 

「まったく、神楽坂さんは心配性ですね」

 

 

 

 

 

本当なら自分の大切な人達を弄んだ犯人を自分が捕まえたいのにそれが出来ない。

 

それでも自分の感情のままに動くことなんて出来ない、それで色んな大切なものを失ってきた経験があるから、今更そんなことは出来ないのだ。

 

苦しくて、苦しくて、それでも、必死に最善を探す神楽坂さん。

 

その結果、年下で、非力な女子で、守るべき立場の子供に頼るしかない。

 

私を頼るしかないのだ。

 

 

 

少し前の私なら、こんなお願いされても物凄く嫌な顔をして断ったかもしれない。

 

そんなことを思うような頼みだけれど、なぜだか今の私は無性に嬉しくて仕方なかった。

 

 

 

 

 

「“顔の無い巨人”? “白き神”? 随分大層な名前ですね」

 

 

 

 

 

 

 

我ながら性格が悪いと思う、これまでないほどやる気が湧いてくる。

 

キラキラと目が輝いているのではと思う程高ぶっている感情がそのまま顔に出ていたのだろう、神楽坂さんと飛禅さんは私の顔を見て表情を引き攣らせた。

 

 

 

 

 

「驕り高ぶったその異能持ちの自尊心を、私が足から掬ってやりますとも」

 

 

 

 

 

だから安心していてください、なんて。

 

柄にもない事を私は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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