非科学的な犯罪事件を解決するために必要なものは何ですか?   作:色付きカルテ

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それぞれの矜持

 

 

 

 人の意識外に対象物を落とし込み疑似的な死角を作る、なんて。

 話を聞くだけなら、なんて便利な力なんだと思うかもしれないが、敵なしの無敵な能力などではない。

 例えば、ある対象を気が付かれない状態にしたって、それが大きな音を発生させれば、あくまで誘導程度の私の力では誤魔化しきれず、周りはその存在に気が付いてしまう。

 そして、一度気付いたものを再び意識外に持っていくには、その対象への注意を無くさなくてはいけない、と言う面倒な手順が生まれる訳だ。

 

 今回の件で言うと、標的とした男を追いかけていた護衛の人達の意識外に持って行ったわけだが、標的としていた男が通りすがりの人を襲い、音を立ててしまっていた。

 だから、私の異能では誤魔化しきれず私の意思に反して死角は解除され、認識されてしまうと言う事態に陥った訳で、面倒なことに男達は合流してしまった。

 

 一人の時に襲撃を掛けると言う計画が狂ってしまった訳だが、別に異能を持っていない凡人程度何人増えたところで変わりない。

 護衛の人達は意識を奪い、標的だった男からは情報をあるだけ引き摺り出した。

 あとは悪人をそこらへんに放置しておくと周りに害を与えるため、彼らが周りに迷惑を掛けないように少し弄繰り回しておいた。

 

 こういうところでこまめに善行を為しておけば、きっと巡り巡って私に幸運が戻ってくるはずだ。

 具体的に言うと、友達が欲しい。

 

 ……ま、まあ、それはともかくとして。

 標的だった男は思っていたよりも事件に深く関わる人物のようで、予想以上に様々な情報を私にくれることとなった。

 

 例えば、私の予想通り“紫龍”と呼ばれる異能持ちを使い誘拐事件を起こしていること。

 そしてその誘拐事件を起こしている組織の母体は海外に本部を持つ組織で、連れ去った子供達は実験に使っている。

 実験の内容についてこの男は知らないものの、子供達の監禁場所については知っていて、本部からは、誘拐した子供の親に連絡を取り、犯罪を指示して日本国内を可能な限り混乱させろと言う指令が下っているらしい。

 

 ……なんだかややこしいが、とりあえず悪い奴らがいっぱいいることと、彼らの仲間には異能持ちが複数いることが分かれば十分だ。

 

 一般人相手ならどうとでもなる私でも、自分の同類とやり合えと言われて絶対に勝てる自信は存在しない。

 とりあえず私の国を混乱させているこの事件を解決するために尽力したいとは思うが、こいつらの本部組織とやり合うとかは考えたくない。

 せいぜい支部にいる組織の人達全員を洗脳して、二度とこの国に来ないよう誘導するしかないだろう。

 先のことは大体そんな感じでやっていくとしても、今は直接やり合わなければならない“紫龍”とやらについても頭を悩ませる必要がある。

 

 “紫龍”、その正体は煙を操る異能を持つ男。

 現場に残された甘い匂いは煙を出すために使用された煙草によるものであり、なんでも海外で作られる日本では珍しい品であるらしい。

 誘拐方法は、薄く引き伸ばした煙の中に紛れ家に入り込み、子供を煙に収納、誘拐すると言う手口。

 指紋も痕跡も何も残さないなんとも警察泣かせな異能だが、実際に対峙するとなるとその脅威は恐ろしいものだろう。

 これに精神に干渉するだけの異能を持つ私が勝つには、対峙する前から仕込みをする必要がある。

 つまり、奇襲か囮か、どちらかを使う必要が出てくるのだが。

 

 幸いなことにどちらも私には手段があった。

 

 

 

 

 ‐1‐

 

 

 

 

「本当にありがとうございますっ……! お嬢様が無事だったのは佐取さんのお陰でっ!! ああ、本当に無事でよかった……! 街中でこんな風に子供を痛めつけるような奴がいるなんて……!! 佐取さんが通りすがらなければ一体どうなっていたか……」

「ほ、本当ですよね。もう、物騒な世の中で嫌になっちゃいますね……」

 

 

 家事手伝いをしていると言う女性が、ホロホロと涙を流しながら病院のベッドに横たわる少女を見る。

 彼女は必死に感謝を伝えてくるが、私は素直に感謝を受け取れないどころか気まずさのあまり目をそらしてしまう。

 

 

「今、お嬢様のお父様も病院に向かっているそうなので、ぜひ事情を教えて差し上げてください。一人娘ですからきっと血相変えて飛んできている途中でしょうし」

「あっ、あっ、す、すいません急いでますので……無事が分かったので私はここで」

 

 

 情報を抜き出し終えた私は、得た情報の成果に一人ホヤホヤとしていたのだが、地面から聞こえる少女のうめき声に気が付いた。

 服はボロボロで、体のいたるところからは出血している一人の少女が倒れていた、しかも怪我は結構深刻なようで意識もない。

 血塗れで倒れている同年代くらいの少女を見て動揺した私は、そのまま慌てて救急車を呼んで何とか手当しようとその場に留まってしまい、結果こうして保護者が駆け付けてくるまで病院で付き添うことになってしまった。

 

 その後、病院に駆け込んできた保護者代わりと言う家事手伝いさんに倒れていた彼女を見つけた時の状況を簡単に説明すれば、地面に頭をこすりつけるのではないかと言う勢いで私に感謝を伝えてくる事態となった訳である。

 

 元はと言えば私がとっととあの男をボコボコにしておけば彼女に怪我はなかったし、襲われていた彼女を助ける意図を持って奴らを倒した訳でもない。

 正直、今回のこの一件は怪我もなく助けられるものだった。

 それなのに手放しに感謝されるのは居心地の良い物ではない。

 

 お手伝いさんからの感謝の言葉に気まずさを感じた私は、引き留めようとするお手伝いさんから逃げる様に病院を後にした。

 

 

「へ、変な汗かいた……。それにしてもあんな簡単に暴行事件を起こすなんて、誘拐事件の裏にある組織は相当アホの可能性が……」

 

 

 それならそれでこの事件を終わらせに掛かっている私としては楽だが、じゃあなんで警察の方々は尻尾を掴めないのかと言う話になってくる。

 内通者、協力者、癒着の可能性すら考えなくてはいけないとなると、本格的に警察組織への協力はありえない選択となるだろう。

 

 

(……まあ、あのおじさんは信頼できますけど)

 

 

 奇襲して終わらすと決めたのなら早い方が良い。

 自分と同じ異能持ちが動き出したと悟れば、この事件に関わっている“紫龍”とやらが警戒を始めてしまうだろう。

 その他もろもろの異能を持たない人達は警察にでも任せればいいのだから、そいつさえ倒してしまえばそれでいい。

 引き摺り出した情報には『誘拐した子供を引き渡す場所・次の予定日時』も含まれていた。

 そこを襲撃すれば一方的に殴り込みを掛けられることになる。

 

 ……とはいえ、私は家では多くの家事をこなしており、私1人抜けるだけで我が家は成り立たなくなってしまう。

 多くの時間を取れる訳でもないし、そのためにはちゃんとした予定の調整や準備が必要になる、すぐさま殴り込みを掛けられるわけではない。

 しばらくは様子見か、と結論付けた私はそのまま帰路に就こうと向きを変えて。

 

 

「あ、お姉」

「え、桐佳ちゃんのお姉さん?」

「!?」

 

 

 下校途中と思われる妹達が目の前に現れた。

 逃げられない。

 

 慌てて妹の心を読まないよう異能をオフにする。

 つい先ほどまで何か楽しい話をしていたのか、緩んでいた桐佳の顔が私と目が合う内にみるみるキツイものになってきた。

 ……反抗期の娘を持つ父親の気持ちはこんな感じなのだろう。

 

 あっと言う間に見慣れた不機嫌そうな顔になった妹の横にいる少女に、妹の友達だろうとあたりを付けて挨拶をする。

 

 

「あ、あわわっ……桐佳と、お友達? い、妹がお世話になってます、姉の燐香です」

「えっと、桐佳ちゃんの友達の遊里(ゆうり)です。私のほうこそ桐佳ちゃんにはお世話になっていて……」

 

 

 初めて見る妹の友達に動揺してしまう。

 い、いや、私以外に対しては別に反抗的な態度をとっていないのだから桐佳に友達が出来ることは普通なのだが……心のどこかで妹は私と同じように友達が少ないと思っていたから少し衝撃を受けている。

 

 

「……この人が桐佳ちゃんが前に言ってたお姉さんなの? 普段あんまり話してくれないけど、話の中で出てくるお姉さんとは少し違うみたいじゃ……」

「え? 今なんて言いました?」

「んんっ……!! そんなことよりお姉!! 今日ご飯いらない! 遊里ちゃんの家に泊まるから!」

「……は?」

 

 

 突然の妹の宣言に数秒呆けた私は、妹と遊里さんに視線で確認するがおずおずと頷かれ、話がだいぶ進んでいたことを知る。

 

 

「お父さんには言ってあるから」

「は、え、ちょっと、桐佳」

「じゃあね」

「し、失礼します」

 

 

 さっさと去っていった妹達に置いて行かれ、呆然と手を伸ばした状態で固まる。

 数秒経って、ノロノロと携帯を開けば、確かにお父さんからは妹が友達の家へ泊る旨の連絡通知と、夜遅くなるから食事はいらないと言う一文が入っている。

 そういえば妹が前々から予定していた映画鑑賞は明日だ、一緒に見に行く友達の家に泊まりこむくらい普通だろう。

 私はそういう友達が出来たことがないから、おそらく、だが。

 

 

「……」

 

 

 私の見落としだ、私以外誰も悪くないのだろう。

 手に持った食料品はまた明日以降消費することになる……。

 

 

「………………」

 

 

 予定が空いた。

 いきなりだが、今日一日暇になった。

 

 

「…………よし、今日やろう」

 

 

 突然暇になった時間を埋めるため、私は“紫龍”とやらが行う誘拐事件の解決を終わらせてしまおう。

 身に余る行き場のない怒りを全力でぶつけてやろうと思い、私は先ほどの暴行男から奪っておいた携帯電話を取り出した。

 

 

 

 

 -2-

 

 

 

 

 氷室署交通課に所属する神楽坂上矢は同僚からも煙たがられている警察官。

 ほんの数年前までは本部勤務で公安に所属していたエリートであったが、ある事件により彼の行動方針がガラリと変貌し、科学的にあり得ない様なものが存在すると公言し始めたのだ。

 きっかけとなった事件が事件だけに、当初こそ周囲の者達は神楽坂に同情し、親身になって諫めていたものの、半年が過ぎた辺りから考え方を変えない彼を狂人として扱い、距離を取り始めた。

 さらに時が過ぎても神楽坂は自分の態度を改めなかったため、能力としては充分以上に持ち合わせていた彼は本部から他所へと飛ばされ、凶悪な犯罪事件に関わりにくい交通課に配属されることとなったのだ。

 

 エリート街道からの転落。

 転属となった氷室署の同僚達からも狂人としての扱いから距離を取られ、勤務環境としても最悪に近い。

 そんな環境の中でも彼は交通課の多忙な仕事内容をこなし、氷室区で起きた様々な事件に首を突っ込み、持ち前の優秀さで事件担当の警察官よりも早く事件を解決に導いてきた。

 そして、関わった事件の中に“非科学的な要素”が隠れていないか探し続けてきたのだ。

 

 彼のそんな態度は刑事関係の警察官だけでなく、同じ交通課の警察官からも冷たい目を向けさせるのに時間は掛からなかった。

 “狂人”若しくは“転落した警察官僚”なんて陰口を叩かれるようになっていたのだ。

 

 

 ――――けれど、彼の芯は何も変わっていなかった。

 きっかけとなったと言われている事件の前から何も、実際のところは一つとして変わってなどいなかったのだ。

 

 

「…………次はここか」

 

 

 日も暮れ、灯りが無ければ碌に周囲の状況も分からない時刻。

 神楽坂は一人、廃棄された人気のない建物を虱潰しに歩き回っていた。

 

 普段であれば勤務外の時間。

 私服で、武器だって碌に持っていない装備で彼は自身の身も顧みず、危険であろう場所の調査を行う。

 彼の目的はただ、誘拐事件の関係者を見つけ出し攫われた子供達を無事親達の元に届けることだ。

 そのためなら警察官として褒められないような行為でも、犯罪行為に近いことでもやるつもりであった。

 

 

「ここは広いな……以前は物流の拠点にもなっていた倉庫か」

 

 

 小さなライトを口にくわえ、埃の被ったブルーシートを捲る。

 目立ったものはなにもなく、ただただ放置されている木材。

 これまで多くの場所を巡ってきたが、成果はほとんど得られていない。

 

 ため息を吐いて、懐から地図を取り出してバツ印を付けていく。

 これで今日だけで五つ目の場所だ。

 家からも遠く、帰るのに一時間は掛かるだろう。

 別の場所を探しに行くのは無理かと判断し、神楽坂は暗がりの中口にくわえたライトを消して、倉庫を出る。

 

 

(……人がいたような跡はあるんだが、事件に繋がりそうな痕跡はない。せいぜい近所の悪ガキのたまり場の可能性が高いか。……とは言え、事件で使われた場所の可能性はある。この場所は慎重な判断が必要……くそ、全然候補から外せねぇ。こんな効率が悪いことに本当に意味があるのか!?)

 

 

 苛立ち混じりにガシガシと頭を掻き、もう何度目かも分からない欠伸を噛み殺す。

 全く成果の無い廃棄場所巡りを放り出したくなるが、その度に子供を誘拐された親達の泣き顔を思い出して歯を食いしばる。

 

 警察に力がないから捜査が進まない。

 警察に信用がないから被害者達が脅され、罪を犯す。

 そんな今の状況をただ指を咥えて見ているだけなんて、神楽坂にはできやしなかった。

 どんなに小さな一歩でも、たとえ1ミリも進めていなくても、事件が解決するなら何だって良い。

 

 根っからの善人で、馬鹿みたいに愚直なこの男は、そんな自分の芯を折ることはない。

 だから彼は歩みを止めず、捜査を進め続けている。

 

 

(っ……やべぇ、流石に二徹はキツイか……一瞬意識が飛びかけた)

 

 

 そんな、フラフラとした足取りで帰路に向いていた神楽坂の足が止まったのは、倉庫を出てすぐだった。

 

 

 ――――最初に感じたのは、甘い匂い。

 

 入る時は感じなかったその香りに思わず足を止めたのは、一度、事件発生直後の誘拐現場に入ることが出来た時、嗅いだ香りに酷似していたから。

 

 

(甘い匂いっ……あの時はうっすらとしか感じ取れなくて何の香りか分からなかったが、これは、煙草か……!?)

 

 

 香りの発生源を探るために周囲を見渡せば、すぐに見つかった。

 倉庫の壁に背を預けながら、男が一人電話をしながら煙草を吸っている。

 

 線が細い中年くらいの男。

 到底子供を連れまわせるような筋力を持っているようにも見えず、これまで対峙してきた凶悪犯罪の犯人のような悪意を持っている雰囲気もない。

 見るからに一般人、たまたまここで煙草を吸って電話をしているだけにしか見えない、ただの男性だ。

 

 事件との関係性は、煙草が発する匂いのみ。

 こんなものでは普通の警察官は疑いすらしないだろう。

 

 

「クルアーン社が作る、グリーンアップルですか……輸入煙草とは珍しいものを吸っていますね」

「――――!? あ、ああ、なんだいきなり?」

 

 

 けれど、それを見つけたのは普通の警察官などではない。

 身内にすら“狂人”と呼ばれる、物差しの壊れた優秀過ぎる警察官。

 匂いを嗅ぐだけで銘柄を言い当て、男の服と携帯電話から金回りが良い男だと判断。

 声を掛けられた時の態度から小心者であると予測を立て、少ない手札を補うためにカマを掛けることにする。

 

 

「同じものを使って事件を起こすなんてよほど自信があったんだろうが、馬鹿なことをしたな。匂いが同じだ。お前の仕事仲間が我が身可愛さにベラベラ喋ったよ、お前の手段と裏にある組織をな」

「なっ……なんだとっ……? い、いや、なんのことか分からないな。お前が何を言ってるか分からねぇ……!」

「警察を甘く見たな。“そういう力”があれば無敵だとでも思ったか? 警察が本当に“そういう力”に対応する部署を作っていないとでも思ったか? 世間に公表されていない、超常を解決する部署は存在していて、お前の足取りはもうずいぶん前から追跡してたんだよ」

「な……くそっ、違うっ! 俺は何もしてねぇ! 俺は別にっ……!!」

 

 

 明らかに怪しい態度だが、まだ確実な証言がない。

 もう少し押せればと歯噛みするが、実際分かっていることはあまりに少ないのだ。

 これ以上押すのは無理だと判断した神楽坂は、別の切り口を探すことにした。

 

 

「……とはいえ、だ。お前の力を法に照らして裁くのは正直難しい。こうして深夜にお前に接触したのは、お前の協力を求めるためだ。お前のやったことは許されることじゃないが、お前が協力して後ろの組織への証拠を出してくれるなら考えてやる、こっちもあまりお前らの様な力は世間に公表したくないんでな」

「っっ……お、俺は…………は、ははは、ははははは!!」

 

 

 引き攣った顔で後退った男が言葉に詰まらせるが、何かに気が付いたのか笑い始める。

 

 

「―――――馬鹿が、お前は今馬鹿なことを言ったぞ! 世間に周知したくない!? てことはこういう力を知ってる奴は限られるってことだ! 何が部署だ、何が警察だ! 今さら法の土台を壊しかねない不都合な真実は世間に公表したくないなんて考えじゃ、もうこの国はお終いなんだよ!」

「ほう……この国、なんて随分大げさじゃないか」

「大げさなもんかよっ、お前らみたいな能無しがのさばる時代はもういらねえ。本当の才能がある奴だけが支配する世界がもう少しでやってくるんだからな! ――――つまり回答は! 沈むだけの船でしかないお前らに協力なんてする訳ねぇ! 今ここでお前の口を封じて警察へ圧力を掛けてもらえれば、それだけで誰もこの事件を解決なんてできないんだからよ!!」

 

 

 事態は悪いばかりじゃないと判断したのか、それとも観念したのか、先ほどとは打って変わりペラペラと喋り始める。

 こいつの後ろにある組織の目的は分からないが、コイツがどんな口車に乗せられたのかははっきりした。

 

 どうせこいつを誘拐の犯人として逮捕することは出来ない。

 何もかも証拠が足りないのだから当然だ。

 だから、もう、聞きたいことは聞きつくした。

 

 

「協力しない、か。そうなると、俺はお前をここで逮捕することになるな」

「ひ、ひひっ! そもそも俺がどうやってやったって証明するんだよ!? この国は科学なんてものを妄信する法治国家だ!! 手口が分かったとしても科学的に証明できなきゃどうにもならねぇ!! お前らは俺を罪になんて問えないっ!! 俺が誘拐事件に関わったなんて証拠はどこにもありゃしねぇんだよ!!」

 

「……何言ってんだ――――証拠なら今、お前が口にしたじゃねえか」

 

 

「……は?」と呆けた男がまんまと自分のカマ掛けに掛かった事に、神楽坂は嬉しさで震える体を抑えながら録音した音声を流す。

 神楽坂の声掛けから今までの会話が録音された音声が流れ、笑っていた男の顔はみるみる血の気が引いていった。

 

 

「俺は、一度たりとも、誘拐事件なんて言ってねぇ。この会話の音声が捜査の端緒、本格的な証拠はお前が持っている物からこれから出てくる。直接誘拐した犯人としては捕まえられないだろうが、関係者としてなら話は別だ」

「は……はは……、お、お前、騙したのか……? 警察がこんなことやって……」

 

 

 強靭な握力で男の肩を掴んだ神楽坂は凶悪に牙を剥いて笑う。

 

 

「ははは。おいおい、被害者が今も泣いてるのに犯罪者に優しくする警察官がどこにいるよ」

 

 

 “狂人”、神楽坂上矢は卑劣な犯罪者を絶対に許さない。

 それがたとえ非科学的な力を扱う者であっても変わらない。

 

 

 

 

 


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