非科学的な犯罪事件を解決するために必要なものは何ですか?   作:色付きカルテ

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家庭事情の変遷は

 

 

 

 

三人兄妹の末っ子として私は生まれた。

ちょっとだけ裕福な家庭で、とても優秀な兄と優しい姉に囲まれた生活。

どんな大人達からも褒められる兄と姉と違って、私は取り立てて何かできる訳ではなかったけれど、兄達の存在は当時の私にとって誇らしかったし、自分の事でなくても二人が褒められるのは嬉しかった。

 

けれど当時、兄妹の仲はあまり良くなかった。

兄は私達妹とは出来るだけ距離を置こうとしていたし、姉はそんな兄を酷く冷めた目で見ていたのを覚えている。

私は大好きな兄と姉のそんな関係が嫌で、一人黙々と机に向かう兄に対して一生懸命声を掛け続け、終いには兄に怒られてしまう私を見た姉が兄に激怒するなんて事は何回もあった。

幼い頃の私達兄妹の関係はそんなものだったのだ。

 

私がいくら間を取り持とうとしても兄と姉の関係は険悪だった。

兄と姉のその関係は母が亡くなった後もより酷くなっていった事で、二人の関係を改善しようとしていた私もすっかり諦めてしまった。

悪い言い方をすれば、毒にも薬にもなっていなかった悪い兄妹仲よりも、考えなくてはいけないことがいくつも出来たからだ。

 

考えなければならなかったのは、残された私達家族の事。

仕事や葬式の関係、片親になる父への社会的な風当たりと母の実家による干渉、何よりそれらを受け止めた父の精神的な問題。

半ば駆け落ちのように母を実家から連れ出した父が母を失った事と、訃報を伝えた母の実家から異常なまでに責め立てられた事により、父は一時的に会社に出社すら出来ないほど塞ぎ込んだのだ。

母が亡くなると言う不幸に合わせて様々な問題が私達家族を襲い、当時幼稚園生だった私を取り巻く環境は、悪い方向へ大きな変化を迎えていた。

 

……正直、今でもあの状態から家族としての生活を維持できたのは信じられない。

それくらい、あの時の私達家族はあらゆる面で追い詰められていた。

金銭面でも、社会的な面でも、父と私達兄妹を引き離そうとする母の実家からも、どれも子供だった私達兄妹では到底解決出来なくて、生きる気力すら失ってしまっていた父にも打開できる状況では無かった。

 

塞ぎ込む父も、関わろうとしない兄も、次々家にやって来る役所や施設、それから母の実家の代理人。

周囲に住む人や通っていた幼稚園で会う人達全てが何かしらの悪意を持っていたのは子供ながらに分かっていたけれど、その頃の私はただ守るように抱きしめてくれる姉に縋る事しか出来なかった。

 

そんな毎日が数週間続いて――――気が付けば、全部が解決していた。

 

それはまるでお伽噺の魔法のように、一夜にしてあらゆる問題が掻き消えた。

 

私達を取り巻いていた悪意が全て磨り潰された。

子供ながらにそのおかしさは気が付いていたけれど、元気を取り戻した父や干渉しなくなった母の実家、なによりも周囲の大人達の冷たい目が無くなったことへの喜びが勝った。

どうして、なんて考えるより日常を取り戻せたことの嬉しさがあったし、母を失った悲しさもまだ引き摺っていた私はその状況を深く考えようとはしなかった。

兄と姉の不仲こそ続いたけれど、母がいない以外は全て元通りになった我が家。

 

何もかも良い方向に転がったような我が家で、私はただ一つ。

 

優しかった姉の目に宿ったおぞましい光だけが、幼かった私の記憶に焼き付いた。

 

 

 

 

‐1‐

 

 

 

 

「実のところお前はどう思ってるんだ? 由美さんの事」

「は? 質問の要点が抜けてんだけど」

 

 

ある日の昼。

突然、リビングで勉強していた私に机を挟んだ離れた位置からお兄が声を掛けて来た。

 

いつも通り、相手に伝えようとする気遣いの無いお兄の言葉に、私はそれだけで少し苛立ち刺々しい口調で答えてしまう。

 

不機嫌そうな私の言葉に対して少しも気圧される事も無く、お兄は考えるように顎に手を添え、周りを見渡しつつ言葉を変える。

 

 

「いや、だから……お前の友人の遊里さんは良い子だろ? 一緒の生活をしていても、付かず離れず適度に気を遣い、お前よりもずっと家事を手伝ったりして燐香からの評価も高い。それで、その母親の由美さんも、パートをこなして家にお金を入れてる上に率先して料理とか振舞ってくれるだろ? 二人ともすっかり我が家の一員になってると言っても、俺達誰も文句は言わない訳だ」

「……この前遊里に勉強教えてお礼言われたのがそんなに嬉しかったの? お兄、遊里に対する評価やけに高くない? 一応言っておくけど、遊里に手を出すのは絶対に許さないから」

「お前……最近燐香と俺の関係も邪推していたが、そういう思考しすぎじゃないか……? まあ、年頃だから少なからずそういう考えが頭を過るのは仕方ないかもしれないが、頭の中だけに留めて口にはしないように、だな……」

「うっさい糞お兄!!」

 

 

何を今さら常識人ぶっているんだと、怒りのまま声を張り上げる。

散々私達をいないものとして扱って、最終的には家を飛び出した薄情な兄になんて教わることは何一つだって無い。

この前はたまたま、私のそんな意地を下らないと一蹴できる問題があったから頼ったが、そんな状況でも無ければ私はこんな兄と会話するのすら嫌なのだ。

そもそも、お姉が今更になってこんな奴を許している事自体が気にくわない。

 

怒りを露わにする私に対して、お兄は何か言いたげな表情をした後、諦めたように肩を落とした。

呆れられているようで非常に腹立たしい。

 

 

「ともかくだな。現状あの二人に対する感情は、良いものはあっても悪いものは無い。この俺の考えに間違いはないな?」

「……そんなの当然だけど」

「じゃあ、彼女達が本当の家族になるかもしれないとなったらどうだ?」

「はぁ? 何言ってるの?」

「……やっぱり欠片も気が付いてないのか……疎いと言うか、何と言うか……」

 

 

小言はするし、下に見たような言葉は吐くし、相も変わらず色々と腹立つ兄だ。

私の顔が険しいものになっていくのに気が付いたのだろう、お兄は慌てたように手を振った。

 

 

「だ、だからな。その、一つ屋根の下に普通は全く知らない他人なんて住まわせない訳だ。どうしようもない事情があったとしても、その事情も峠を越えたら普通は家からなんて追い出すだろ? 何を盗られるか分かったもんじゃない訳だしな」

「なに、遊里達がそんなことするって言いたい訳?」

「一般的な考えとしてだ! 特定の人物を指した説明じゃない! 一々話の腰を折るな馬鹿!」

「なっ……!?」

 

 

声を張り上げたお兄に対してちょっとだけ驚いてしまう。

ほんの少し腰が引けた私と怒ったお兄の間に、何処からか現れたお姉が最近購入したロボット掃除機が掃除の傍ら割って入ってくる。

偶然にも私を守るように、目の前に現れた丸っこい掃除機の姿を見て動揺したお兄は視線を彷徨わせた。

 

 

「あー……だからな、憎からず思っている相手じゃなきゃ長い間家になんて住まわせない訳なんだよ」

「……それは、分かるけど」

「桐佳お前、父さんと由美さんの最近の会話姿見たことあるか? ああいや、答えなくていい、かなり親しい感じの会話なんだ。で、父さんも由美さんも各々事情があって独身になってる。二人ともまだ40代。となれば可能性の一つとして再婚だって考えられるだろ? だからあらかじめ桐佳はどう思うのかって聞いてるんだ」

「再婚? え……本当に?」

 

 

予想もしていなかった話に、先ほど怒鳴られた事など忘れて思わずそう聞き返す。

「勝手に考えてるだけの可能性の話だ」と前置きしたお兄は、視線を逸らしながら小さく溜息を吐いた。

 

 

「あの二人、特に由美さんは子供が第一なところがあるからな。誰かしらの反発を受けたらその話は無かったことになりかねない。だからあらかじめお前達にどう考えているのか話を聞いておきたかったんだ。杞憂だったとしても……長い間散々苦労を掛けた父さんが再婚したいのなら、俺としても幸せになれるよう最低限の保険は掛けておきたかったからな」

「再婚……私は正直、お母さんの事はほとんど覚えてないし、二人がしたいと思ってるなら良いと思うけど……お兄はそれでいいの?」

「俺は、何よりも父さんがそうしたいと思えるようになったのなら歓迎するべきだと思っている」

「それなら、別にいいけど……」

 

 

返答に困りながらも、その仮定を考える。

 

もしもの話だが、自分の友人である遊里とお母さんである由美さんが本当の家族になると考えてみても、自分でも驚くほど抵抗はなかった。

それどころか、親しい友人が家族になると考えると嬉しさだってある。

遊里や由美さんが良い人だからというのは勿論前提としてあるが、小さな時に母を亡くしていて、何よりもずっとお姉が母親代わりでいてくれたからというのが大きな要因の一つだと思う。

過度に居ない母親の影を追うことが無かったからだ。

 

だから、お父さん達がそういう関係になるのに嫌と言う気持ちは無い。

それは間違いなく私の本心だった。

 

 

「……大人の事情とか、色んなしがらみとか、そう言う難しいのは分からないけど。今のところ反対する気も無いかな」

 

 

今現在、実際に同居して生活しているのだ。

色々配慮してくれる由美さんも、同居人としての遊里も、悪いところを探す方が難しい。

例え二人が結婚したとしても、今の生活から大きく変わることは無いだろうという安心感だってある。

 

そこまで考えて、私は「でもね」と口にした。

 

 

「……もし、もしもお姉が嫌だって言ったら、私はお姉の味方をするからね」

「いや、お前それは……大きな問題なんだから燐香じゃなくてお前の意思での方が……」

「私はお姉が嫌なことは絶対にやらない。それは譲れないから」

 

 

はっきりと、私のその意思を言葉にして口にする。

 

ずっと気になっていた、少し前、お姉が家で見せたあの表情。

病院生活から戻ってきた時のあの表情を、私は忘れた時は無かった。

理由は正確には分からない、けれど、私の為に遊里達を助けてくれたお姉がお父さんの許可を得て家に住んでもらうようになって、それでお姉に何かしらのストレスを掛けたかもしれない。

そんな可能性を考えると、酷く心苦しい気持ちになった。

 

ただでさえ最近は物騒な事件にお姉が巻き込まれることが多いのだ。

そのせいで、少し前は昔のように恐ろしい空気を漂わせていた。

きっと私以上に今のお姉に余裕なんてない。

だから、もしもどちらかを選ばないといけないとしたら……そんなことを考える私にお兄はまだ何かを言いたそうにする。

 

けれど私の心は既に決まっていた。

 

 

「お兄は大人で、色々考えて、皆が幸せになれるよう手配してるのかもしれないけど。これまでずっとお姉の方が頑張ってきた。私達に無関心だったお兄が全部悪いとは言わないけど、家の事とかをずっとやって来たお姉の考えの方が私は優先されるべきだと思う」

「……」

「たとえ、それがお父さん達の幸せに繋がらないとしても、私はそんなのは度外視する。私は何よりもお姉を尊重する。お姉が家から出ていくなら、私も出ていく」

「……ああ……そうだよな。桐佳はそうだよな……分かってる」

 

 

悲しそうに、後悔を噛み締めるようにそう言ったお兄に、私はもう一度釘を刺すように言う。

 

 

「……お兄、私はね、昔の怖い頃のお姉も本当は――――」

 

 

そこまで言い掛けた時、ガチャリと玄関の扉が開いた音がした。

二人分の足音と共に、誰かが家の中に入って来る。

 

買い物に行っていたお姉と遊里の話声だ。

 

 

「お姉さん、本当に重くないんですか? 私よりずっとお姉さんの方が荷物多いように見えるんですけど……」

「全然大丈夫だよ! えへへ、遊里ちゃんは優しいねぇ。よく気が付くし、視野が広い。今年受験だから勉強も大変な筈なのにこんな買い物に付き合ってくれてありがとう」

「そんな、いつもお世話してくれるお姉さんの手伝いくらいいつでもやります! ……それに、凄く個人的な事なんですけど、お姉ちゃんとこういう事するの夢だったので……」

「うへへへ、そんな嬉しい事言って……遊里ちゃんは将来男たらし、いや人たらしだよ。もうっ、まったくもうっ、遊里ちゃんはもう私の妹なんだから、いつでも一緒に買い物行こうね! 内緒でお菓子も買ってあげちゃうからね!」

 

「――――は?」

 

 

玄関からの話声を聴いて、酷く冷たい声が出た。

正面にいるお兄の顔から血の気が引く。

グルグルと私達の周りを走り回っていたロボット掃除機が、まるで修羅場に遭遇した子供のようにその場でオロオロとし始める。

 

いけない、冷静にならないと……。

自分の頭に血が上り始めている事を自覚して、深呼吸する。

いつもこうだ、こうして頭に血が上ってお姉に攻撃的になってしまう。

自分のこんな子供染みた行動が積み重なってお姉と距離が出来てしまっているのだ。

お姉と遊里の仲が良好なのは良い事なのだからと、自分を落ち着かせるように考えた。

 

 

「桐佳もね、可愛くていい子なんだけどね。最近はほら、ツンケンした態度になっちゃったから、うん。反抗期って奴かなぁ……一気に嫌われちゃった気がするんだよねー……」

「え、お姉さんの話、同居させてもらう前はしてくれませんでしたけど、今は学校でほぼ毎日のようにしてますよ。あ、でも私だけにですからあまりクラスの人にはしたくないのかも……? と、ともかく、お姉さんの事、絶対桐佳ちゃん大好きですから、その、お姉さんからちょっと歩み寄ってあげれば多分……」

「ほ、本当!? なら桐佳への接し方をもっと激しくしてみようかな、なんて! えへー!」

 

 

今度は別の意味で顔に熱が集まるのを自覚する。

確かに口止めなんてしてなかったけれど、遊里の奴なんてこと、よりにもよって一番言ってほしくなかった相手に言っているんだ、なんて悪態が頭を過った。

 

蒼白な顔から呆れるような変な顔になったお兄の百面相なんて気にもしてられない。

私は湧き上がる恥ずかしさを誤魔化すようにソファに置かれていたクッションを拾い上げ、リビングに入って来る相手に向けて全力で振り被る。

 

 

「ただいまー! あ、桐佳、寂しかった? 桐佳の好きな甘いものも買ってきたからぶッ!?」

「おかえり!! 私、部屋で勉強してるから!!!」

 

 

お姉の顔が投擲したクッションに沈んだのを見届けて、足早に階段を駆け上がる。

呆れたような視線を向けて来るお兄と遊里の視線から逃げるように、誰とも視線を合わせず自分の部屋へと飛び込んだ。

 

……もう、しばらく部屋から出たくなかった。

 

 

 

 

‐2‐

 

 

 

 

「……なんでぇ……?」

「お、お姉さん大丈夫ですか!?」

 

 

ポトリと顔からクッションが落ちて、私はそんな弱音を口にする。

と言うか、心は既にぽっきりと折れている。

 

何も悪い事をしていない筈なのに突然行われた桐佳からの攻撃。

止めて欲しい、私のメンタルはそんなに強くないのだ。

 

私の惨状を突っ立ったまま見届けていたお兄ちゃんに視線をやり、それから右往左往しているマキナ(ロボット掃除機ボディ)を確認して、さてはと思い至る。

 

 

「……お兄ちゃん変な事言ったでしょ? 桐佳は突然あんな暴力的なことしないもん」

「おまっ、お前っ、俺への信用無くないか!?」

「違うの?」

「……まったく違うとは言えないけども」

 

 

正直な男である。

私は正直な人は好きだ。

だがお兄ちゃんは許さない。

 

 

「お兄ちゃん! 桐佳のストレスは全部私に飛んでくるんだからそういうのよく考えて行動してよ! あとあと、桐佳も遊里さんも今年受験生! 自分だって受験の年はあんだけピリピリしてたんだから、妹の受験の年くらい気を遣って! 変にストレス掛けるようなことを言ったら承知しないんだからね!!」

「ぐっ……俺がちょっと前に言っていた事だな……わ、悪かった……」

「分かったなら良いけどさぁ! これからは桐佳とか遊里さんとかで疑問に思ったことがあったら私に一言言ってよね! 私ならまだしも、デリカシーが無いお兄ちゃんの言動に純粋な二人は振り回されやすいんだから! 私は心配だよ全くもうっ!」

 

 

そう言いながら、私は桐佳の部屋があるだろう方向に視線をやって、そのまま寄って来たマキナを見下ろした。

お願いしていた通り、リビングの掃除は無事に終わったようだ。

ちゃんと言う事を聞いて、素直に応えてくれるマキナが何だかとんでも無く可愛く見えてくる。

 

 

「……でも本当に何で私に桐佳のストレスが飛んでくるんだろ? 私悪くないのに……もしかして私、桐佳にサンドバッグとか思われてたりして」

 

 

冗談交じりの私のその発言に、お兄ちゃんはそっと目を逸らし、遊里さんは誤魔化すような微笑みを浮かべた。

二人とも何か含みのありそうな態度だ。

……何か言いたいことがあるなら口にすればいいのに。

家族以外には遠慮なく読心するだけに、家族にこうして含みを持たされると気になってやきもきしてしまう。

 

 

「なんて言うか、そうだな。これまで事件とかに巻き込まれて心配させた積み重ねが表に出て来てるんじゃないか?」

「うぐっ……し、仕方ないじゃん。私から危ないところに飛び込んでた訳じゃないし……」

「でも桐佳ちゃん、お姉さんが入院した時とか学校で焦燥としてましたよ。……お姉さんに事情はあっても、桐佳ちゃんに我慢しろとは言えないですし……」

「……おっしゃる通りです……」

 

 

私が悪かった。

全部が全部、私が悪い訳じゃ無いだろうけども、私が原因になっていたのは紛れも無い事実。

お兄ちゃんに言った、「受験期なんだから負担にならないよう配慮しろ」は全部私に返って来る言葉だったようだ。

なんなら異性ばかりが家にいる環境で、仲の良くなかった妹達と暮らす生活をしているお兄ちゃんの立場の方が同情の余地がある。

 

二人の指摘にしょんぼりと肩を落とした私に遊里さんは動揺するが、まだ私のそんな態度に慣れないお兄ちゃんは気味の悪いものを見るような目で見て来る。

 

 

(……方針が定まり切ってなかったけど、やっぱり国外や県外に出てまで『UNN』とかの悪い奴らや危ない事件に関わるのは止めよう。前に私を捕まえられなかったとは言ったって、正式に異能が認知され始めた今なら、異能が関わる事件にまったく対応できないなんてこと無い筈だもんね)

 

 

これから増えていくだろう個人型の異能犯罪に対しての対応をどうするべきか考えていた私に出たそんな結論。

少なくとも、桐佳の状態が落ち着くまでは、神楽坂さんの恋人の昏睡をどうにかする事だけに注力するようにして、危ない事に首を突っ込まないようにするのが最善だと思う。

 

 

「……取り敢えず、もう危ない事に巻き込まれることは無いようにするよ」

「そうだな。それが何よりだと思うし、燐香も勉強頑張らないとだもんな。夏休みの間、燐香が学校からの課題をやっているの見たことない気もするし」

「あー……まあ、うん。それはね。ちゃんとやるから」

 

 

お兄ちゃんの指摘で現実を思い出させられ、歯切れ悪く返答する。

休み明けにテストもあるだろうし、なんて考え始めるとやらないといけない事は山ほどあった。

 

点けっぱなしにしているテレビからは今だって、非科学的な現象への専門家なんていうのを自称する者が訳知り顔でこれからの異能に対する自衛方法なんて言うものを語っていて、ニュースや報道、ネット情報からは連日世間の不安をあおるような情報ばかり流れて来る。

 

これからの世界の均衡問題を些事だなんて言うつもりは無いけれど、まず何よりも、私は自分の近くに気を配らないといけない。

中学時代の失敗で得たそんな教訓を思い出し、私はそう決意した。

 

 

 

 

 


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