史上最強の界境防衛隊員ケンイチ   作:みたけ

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コロナワクチン接種後に取得した休暇に執筆した分を投稿します。
勢いのみで書き上げました。
書き溜め?知らない単語ですねw
遅くても2週間に1回位のペースで投稿したいと思う、今日この頃です。


BATTLE9:忍田 瑠花

 

 

「着いたわよ、瑠花ちゃん」

「ご苦労様です、響子」

 

 車から降りる。

玉駒支部で陽太郎と充実した時間を過ごせた。

少し見ない間に身体が大きくなったように感じた。

あの小さかった陽太郎が今年の9月には5歳になる。

そう思うだけで幸運に感謝したくなる。

 

 本部の部屋に戻る途中響子と他愛ない話を続ける。

機嫌が良いこともあり、いつもより饒舌になっている自覚がある。

時刻が夕方近いということもあり、辺りは暗くなり始めている。

沈む夕陽に照らされた本部の外観を見て。

ふっと忍田との会話を思い出した。

 

「そう言えばですが、響子」

「ん?なぁに?」

「シラハマ ケンイチ、という少年はボーダーに入ったのですか?」

 

 数ヶ月前に忍田が期待していると言っていた少年だ。

確か少し前に入隊試験があったはずだ。

あの時の忍田の口振りからするに最短なら既に入隊しているはず。

 

「あー、入ってるわよ。珍しいね、瑠花ちゃんから特定の隊員の話がでるなんて」

「偶々ですよ。それで、どうなのですか?戦力になりそうですか?」

 

 忍田から聞いたということはぼかしておく。

 

「話聞く限りでは強いらしいよ。

トリオン量はとてもじゃないけど戦闘員になる人材じゃない程低いって」

「それほどなのですか?」

「少なくとも鬼怒田開発室長が心配する位には低いそうよ。

でも迅くんが戦闘員に推薦する位の人材なんだって」

「……あの迅が、ですか」

 

 あの暗躍が趣味のぼんち揚げ狂いが薦めるなら間違いはないのだろう。

その男に何を視たのやら。

 

「あ、でもでも実力は確かだって!

初トリガーで太刀川君に黒星与えて、入隊後早速影浦君と良い勝負をしたらしいし」

「それは凄いですね」

 

 太刀川は迅のライバルで 確か影浦、は小南も認める強さの隊員だったはずだ。

そんな男に勝てるなら、確かにケンイチは期待に値する人材なのだろう。

 

「うーん、実力はそうなんだけど……」

「?何か気になることでも?」

 

 響子が言いよどむのは珍しい。

何か言いにくいことでもあるのだろうか?

 

「うーん、その白浜くん。噂でしかないんだけど。

女性隊員に対して手を抜くって噂もあるんだよね」

「……そうなのですか?」

「噂でしかないけどねー。でも本当ならあまり良い気分じゃないよねー」

 

 そう言いながらブンブンと腕を振る様な仕草をする響子。

弧月でも持って振っている様を幻視してしまう。

その姿を見ると今でも現役の戦闘員と言われても納得してしまう凄みがある。

それにしても。

 

──女性に手を抜く、ですか。

 

 忍田が期待する人材にしてはなんとも甘い。

実際の戦闘を知らない甘ちゃんなのか、偽善者の類なのか。

それとも忍田の期待外れなのか。

 

「……そう、ですか」

 

 いずれにせよボーダーが求める人材では無さそうだ。

ただそれだけの話なのだろう。

覚えておく必要は無い、それだけだ。

 

 

 

 

 

 

 今本部を歩いている。

機嫌はよろしくない。

何故なら本日の陽太郎に会いに行く予定が無くなったからだ。

迅が忍田と林藤に今日は中止にした方が良いと言ったらしい。

理由は教えてくれない。

あの腹黒ぼんち男今度会ったら叩く。

 

──さて、何をしましょうかね。

 

 折角の休日の朝だというのに。

特にやることが無い、手持ち無沙汰だ。

本部内をぶらぶらしていると何やら楽しそうに花をいじっている見慣れない隊員が居た。

 

 

平凡な見た目に中肉中背。

特に目を惹くような雰囲気もない。

だがボーダー内では似つかわしくない、『普通』の雰囲気を纏っている。

直感で確信した。

 

 

この男がシラハマ ケンイチなのだ、と。

 

 

 特にやることも無いので暫くそいつの事を観察していた。 

忍田の期待とは異なるだろう男は何が楽しいのか。

花壇を弄り花を整えている。

 

 

 

 

一体何の為にボーダーにいるのか。

ボーダー戦闘員の自覚はあるのか。

そう思うほどに、楽しそうに花を弄るそいつの姿は。

それこそが本来の姿の様に。

 

 

とても似合っていた。

 

 

そして

 

 

「……」

 

 

その似合っている、という事実に。

イライラしている自分に気付いた。

 

 

 基地の外にあるゴミ捨て場に向かうそいつ。

ついつい後を付けてしまった。

こちらに気付く様子もない。

そのことにも機嫌が悪くなるのを感じる。

忍田はもとより、響子だってこんな素人の尾行など気付くと言うのに。

 

 

──この男に何を期待したのやら。

 

 

 負の感情が高まってついつい声を掛けてしまった。

 

 

「あなたがシラハマ ケンイチですか?」

 

 

 まず間違いないと思うが、念の為確認をする。

 

振り向くそいつは。

平凡な男は。

しかし眼だけは。

不思議な光を携えていた。

 

「?はい、僕は白浜 兼一ですが。貴方は?」

「私は忍田 瑠花と言います」

「忍田、さん、ですか。よ、よろしくお願いします?」

 

 困惑している雰囲気を感じる。

自分に何の様があるのか、といったところだろう。

 

……正直用は無い。

いや、あると言えばあるが。

しかし、これは用とは決して言わない。

 

「あなたはボーダーの戦闘員と聞いていますが」

「……はい、その通りですが」

「その割には楽しそうに花を弄ってましたね」

 

自覚がある。

只の八つ当たりだ、これは。

 

「知っていると思いますが、現在のボーダー戦闘員は侵略するネイバーと戦う役割です。

その双肩には非戦闘員、三門市の住民など、敵に何かしら奪われた人の想いを背負う立場です。

勿論諸事情により、戦いたくても戦うことが出来ない人も居ます。

戦闘員であるあなたは、ある意味その立場を選ぶ権利を持っていた恵まれた人、とも言えます」

 

自分のイライラを。

 

「恵まれたあなたが吞気に花を弄る姿を見て。

選択肢を与えられなかった人はどの様に思うのでしょうね?」

 

立場を自覚してないこの男に。

 

「あなたは三門市の外から来た人物と聞きました。

そんなあなたではボーダーの、三門市の人々の。

()()()()()を失った人々の想いや歯がゆさはあまり理解できませんか?」

 

ただ当たり散らしているだけ。

 

「そんなに花を弄るのが好きなら戦闘員など、辞めた方が良いでしょう。

戦闘員のあなたが能天気にしているだけで、失った人々はどう思うか」

 

ここ日本は玄界(ミデン)の中でも比較的に平和な国だと聞いている。

だからだろう、ついつい口走ってしまった。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()では理解出来ませんか?」

 

 

 

それを聞き目を大きく開くケンイチ。

浮かび上がる傷付く色を見て。

 

 

──失言だ。

 

 

 初対面の人に、何も知らないのに。

いくらイライラしているとは言え、一方的に罵るとは。

 

──何故こんなにイライラしているのか。

 

 頭の片隅で疑問に思いながら。

どうせあなたは失ったことなんて無いんだろう、と。

そう言ってしまったのも同然だ。

 

 息をつき目を閉じる。

少し冷静になり、そして失言を謝ろう。

そう思い目を開くと。

 

「確かに僕の大切な家族も家も健在です。

大切な人達も友人も、戦友も今は会えて無いですが、きっと無事でしょう」

 

 

真っ直ぐにこちらを見る眼があった。

 

 

「忍田さんが仰る通り花を弄る方が僕に似合っていると思います。

戦闘が好きで戦闘員になっているわけでもないですし。

避けることが出来るなら戦闘なんて避けたいのが本音です」

 

 

不思議な色を携えているその眼の光は。

 

 

「ですが、貴女が仰る通り僕は戦う道を選択しました。

それは僕の戦う理由が理不尽に遭遇する人を守りたい。

皆が大切にしている日常と普通を守りたい。

失った人達の気持ちがわかるなんて確かに言えません。

しかし、理不尽に奪われる悔しさはわかるつもりでいます」

 

 

失い、奪われる弱者特有の儚さと。

 

 

「皆さんの気持ちを背負いきれるとは断言しませんが。

それでも想いを背負い戦っていきたい、そう思ってます」

 

 

立ち向かい、戦う強者特有の強い輝きが混在していた。

 

 

 

 

「……まるで正義の味方の様なことを言うのですね」

「そうですね。そうなりたいです」

 

 

 真っ直ぐこちらを見て迷い無く告げる。

あぁ、成程。こういう男なのか。

 

 

──忍田の期待も外れてないようですね。

 

 

 そう思うと今までのイライラも吹き飛んだようだ。

 

「……そうですか」

 

 一度目を閉じ開く。

 

「お時間頂きありがとうございます。

それと、先程は失礼しました。

これからも頑張ってください。

それではこれで失礼します」

 

 踵を返し来た道を戻ろうとする。

 

「え、あ、忍田さん、途中まで送りますよ!」

「いえ、本部に住んでいるのでお気になさらずに。

それと今後は苗字ではなく、瑠花とでも読んで下さい」

 

 自分の名前、好きなのです。

そう告げてケンイチと別れる。

 

 

 

~~~~~

 

 

「や、瑠花ちゃん」

「……迅、ですか。どうしましたか?」

 

 自分の部屋に戻る途中迅に会った。

心なしかニヤニヤしている眼をしている。

ひょっとして──

 

「いや、なに。白浜隊員はどうだった?」

「……やっぱりそれでしたか」

 

 恐らく私とケンイチを出会わせる為に今回の玉駒支部行を止めたのだろう。

相変わらずの暗躍っぷりだ。

そんなんだから小南に色々言われるのだ。

 

()()()とは良い趣味ですね」

「まぁまぁ。それで、どう思った?」

「……そうですね」

 

「忍田が期待するのも頷ける人でしたね。

頑固で真っ直ぐでそして何より不思議な光を携えた人物と見受けました」

 

 後唐沢の好みにも近そうですね。

 

「そっかそっか、よかったよかった」

 

 ニヤニヤしてこちらを見ている。

 

「……なんですか?」

「いやいや、思いの外高評価のようで。

画策した身としては嬉しいだけだよ」

「そうですね、どこかの腹黒なんかよりは断然」

「うーわ、ひでぇ!」

 

 そう言いながら変わらずニヤニヤしている。

何だ、コイツと思うが。

同時にやられっぱなしは気に食わない。

 

「そういうあなたこそどうなんですか?」

「ん?何が?」

「あまりケンイチと直接会いたくない、という眼をしてますよ」

 

 一瞬表情が固まる。

図星なのだろう、少し胸がスカッとした。

 

「……彼から何か視えたのですか?」

 

 基本善人の迅があまり会いたくないのなら。

ひょっとしたら彼の未来をあまり見たくないのだろうか?

 

「……いや、未来はあまり関係ないよ」

「あら?そうなのですか?」

「うん、ただ単純に」

 

 

「苦手なだけさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみません、少し遅れました」

「お疲れ様です。白浜先輩」

「お疲れさまでーす。忘れちゃったかと思いましたよー」

「ごめんなさい」

 

 訓練室に入ると黒江さんと熊谷さん、そして知らない男の子が居た。

 

「初めまして、白浜先輩。巴 虎太郎と言います。

柿崎さんから紹介して貰い、来ました。

今日はお願いします」

「初めまして、虎太郎君。白浜 兼一です。

柿崎さんにはお世話になったからね。今日は力になれるよう頑張るよ」

 

 今日はこの3人に武器を操る基礎の基礎を教える。

 

「さて、では早速始めましょうか。

とは言っても僕も専門ではないですし、理論を修めているわけではないので実際に身体を動かす方法ですが、良いですか?」

「りょうかーい」

「はい、むしろ助かります」

「よろしくお願いします!」

「うん、じゃあまずは武器を振る際の身体の使い方なんだけど──」

 

 

~~~~

 

 

3人に教えながら頭の片隅では先程の瑠花さんとの会話を思い出している。

あの眼と雰囲気。

ティダード王国のロナ姫を彷彿とさせる、あの姿は。

失ってしまった者特有の雰囲気。

 

何を失ったのかはわからない。

けど瑠花さんが言うように。

ボーダーの人も三門市民も。

何らかの形で日常と普通を失ってしまった人が多いのだ。

 

改めて思う。

自分は本当に幸運なのだ、と。

家族や家を失うことなく。

戦うことも自分で選ぶことが出来て。

それを導いてくれる人達に出会い。

大切な人達に多く出会えた。

そんな大切な人達を守れる力を手に入れるまで、決して逃げ出さないと誓った。

 

そして今も。

現在進行形で大切な人がドンドン増えている。

ボーダーの人も今では僕の大切な人になってきている。

 

新島にも言われたっけ。

筋金入りの苦労人だ、と。

 

多分そうなのだろう。

 

そして長老にも言われた。

敵を必要以上に傷つけずに大切な者を必ず守り抜く力とは、すなわち史上最強レベルの力が必要なのだ、と。

 

 

 

──ならば。

それならば。

 

 

手に入れよう、史上最強の力を。

 

 

それが大切な人を。

自分の信念を守り。

人の想いを背負うのに必要というのなら。

 

 

 

 

僕は、史上最強の男になる!

 

 

 




瑠花ちゃんは王族の器と感情に流される若さを備えているタイプだと思います。
陽太郎と遊ぶ瑠花ちゃん可愛い。

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