先生の体調が気になりますが、嬉しいことこの上ない!!
それぞれ
~~Side:梁山泊~~
「長老、ご一緒に如何ですか?」
縁側に座している長老にお猪口を渡しながら問う。
冬夜ということもあり辺りは静まり返っている。
……いや、今の梁山泊は昼であってもあまり活気は無いが。
兼一君が三門市に行ってから、梁山泊はいつもの活気さは失われている。
それに加えて美羽も離れている現状。つい数ヶ月前を懐かしむ位活気が無くなっている。
──こういう時に子供達2人の"大きさ"を感じるものだ。
「おぉ、秋雨君からのお誘いとはのぅ!これは珍しいものじゃ!」
「有名なものが手に入りましたので、偶には良いだろうと思いまして」
長老の持つお猪口に酒を注ぐ。
おつまみは逆鬼のストックを少し拝借した。
あまり食べなれないものだが、強い酒には味が会う、ような気がする。
時期を考えて熱燗にしておいて良かった。
日本酒特有の香りの強さが、温かさによってより強く感じる。
「それで、秋雨君は何を聞きたいんじゃ?」
「……敵いませんね」
どの様に話を切り出すか考えていたが、それを汲み取ってくれたのだろう。
長老から声を掛けてくださった。
「では率直に。何故兼一君を三門市に行かせたのですか?」
長老の眼がこちらを見据える。
「久遠の落日が未遂に終わった為、今兼一君が闇に狙われる可能性は低いと思い今回の任務に賛成しました。しかし、同時に今回の兼一君の参加に疑問を持っていたのも事実です」
「ほう、どういう疑問を持っていたのかね?」
「
長老は静かにお猪口を傾けている。
そのまま続けても良い、ということだろう。
「私も精通しているわけではないですが、トリオンという技術を戦闘で扱う際に最も大事な根幹はその量であると聞いてます。
ある意味トリオン量という才能が大きなウェイトを占めると言っても良いでしょう。
その才能が兼一君にあれば良いのですが、如何せん兼一君にそれは期待できないでしょう」
「ハッキリ言うのぅ。まぁ、事実じゃろうが」
「濁しても仕方ないですからね。
今まで兼一君が戦い抜いて来れた大きな要因の一つは、その信念と心の強さ。
どんなにボロボロになっても立ち上がることができる心こそが、兼一君を今まで生き延びさせてきたと言っても良いでしょう。
……しかし、それはトリオンでの戦闘には役に立たないでしょう。トリオンが尽きれば戦えないのですから」
そうなのだ。
どれだけ兼一君の心が折れなくても、トリオン量が尽きてしまうとトリオン体で無くなってしまう。
そうなればアウトだ。トリオン体でない以上、トリオン体を傷つけることは叶わないと聞いている。
そこに根性や信念等、心が介入する余地は、無い。
「ほっほ!まさか秋雨君の口から心の強さが役に立たないという言葉を聞けるとはのぅ!」
「はぐらかさないでください。それで、どう思っているのですか?」
長老の眼は何も変わっていない。
「確かにとりおんとやらでの戦闘は兼ちゃんにとっては不利な面が大きいのじゃろう。
しかし、それでも界境防衛隊員になる恩恵は大きいと睨んでいる」
「……どういった部分でしょうか?」
「勿論、彼の心をより強くする為じゃ」
静かにお猪口を傾けている長老。
「知っての通り兼ちゃん……いや、兼一君は平凡じゃ。
平凡な少年が信念を抱き、武術・戦に身を投じ、磨かれていっている。
梁山泊、友人、ライバル、そして闇。彼とは違う多種多様な立場から戦う覚悟を持った全ての者との出会いが、彼の心を強くしている。
大多数が何かしらの理由で武術に惹かれ、望んだ者達じゃ。
……しかし、だからこそ出会えていない者達もいる」
「……」
長老がお猪口を床に置いた。
静かな音が周りに響く。
ここからが本題の部分なのだろう。
「武や戦に関わる覚悟を持たざるを得なくなった、自分と同じ平凡な同年代の少年少女。
武に惹かれたわけでも武への責任があるわけでもなく、戦を選択した。
そう言った者達が持つ様々な境遇、想い。
それと相まみえた時に兼一君がどの様に想うか、何を感じるか。
自分の事をどの様に振り返るか。
……戦う、という事をどの様に捉えなおすのか」
「三門市での、界境防衛隊員での出会いは、間違いなく彼の心に大きな影響を与えるじゃろう」
──なるほど。
武に惹かれたわけでも、親族が武術関係者でもない、自分と同じ平凡な少年少女が戦う姿。
その姿を兼一君がどの様に思うのか、か。
彼がどの様な経験をし、どう想うかまでは我々はわからない。
しかし、自分と同じだが自分とは違う想いで戦う姿は。
兼一君の心を成長させる。そしてそれは白浜 兼一という武術家にとって最大の成長となる。
長老はそうお考えになったのだろう。
そう思い顔を見ると"正解"と言わんばかりの顔をしている長老がいる。
簡単に人の考えを読むのは勘弁してほしいものだが。
一息つくと長老が空のお猪口を差し出してきた。
少し冷えた徳利を傾け酒を注ぐ。
「それに少しの間兼一君が三門市にいてくれるのは助かるのじゃよ」
「……闇、ですか?」
「うむ」
それは私も気になっていた。
久遠の落日が未遂に終わった以上、暫く闇からの大掛かりな宣戦布告は無く静かな展開になるだろう。
そうなると闇はどうするか?
選択肢の一つは人員の拡充だ。
その矛先は世界各地に散らばるだろう。
無論日本もその対象のはずだ。
……そうなった場合三門市という戦場に目を向けない理由は無い。
戦場でこそ闇の求める資質持つ者が生まれる可能性が高いから、だ。
「……兼一君で大丈夫でしょうか」
「なぁに、達人クラスが直接行くのは考えにくい。
平時であればあるほど弟子の育成に力を注ぐのはワシ達と変わらんよ。
ただ、その弟子の育成に三門市を利用する可能性はある。
ならその場所に気の扱いのみは妙手でも上手側の兼一君がいるのは好都合じゃ。
同じ弟子から妙手クラスに対してなら、今の兼一君の感覚は鋭いからのう」
「なるほど。それも含めての──」
「そう、彼の修行じゃ」
すっかり冷えた自分のお猪口。
中にある酒を一気に煽る。
「……心配なのは変わりませんが、納得は出来ました」
「そうか、そうか」
「──と、言う訳だ、皆。そろそろ姿を出しなさい」
その言葉を聞き次々出てくる逆鬼、剣星、アパチャイ、しぐれ。
全く気になるなら自分で聞けば良いのに。
「まぁ、長老が考えあってのことならおいちゃんは何も言わないね」
「…………不安、は変わらない、ぞ」
「全くだぜ!ひょっとしたらこれ幸いと基礎をサボってるかもしれないしな!」
「ほっほっほ!なら定期的に姿を見に行ってあげればいいじゃろう!」
「アパパパパ!アパチャイが見に行くよ!!ついでにケンイチと組み手してくるよ!!!」
「待て待て、君が行ったら収拾が──」
その後夜が更けるまで皆で酒を飲んだ。
兼一君の様子を見に行く、行かない、心配事等々。
例えその姿は無くても。
梁山泊の話題の中心にいる我らが一番弟子、白浜 兼一君。
願わくば。
一回りも二回りも大きくなることを信じて。
~~Side:ボーダー~~
「唐沢さん」
「迅君か、どうかしたのかい?こんな人気が無い場所を狙ったかのように」
「何故白浜隊員を呼んだのですか?」
「何か思うところでも?」
「三門市出身でもない、ボーダーの活動にそこまで興味をもつでもない」
「……」
「
「……なるほど」
「?」
「君が白浜君を苦手な理由がそれかな?いずれ居なくなるのに、と」
「……それとは違います。話を逸らさないでください」
煙草の煙を吐き出す唐沢。
言葉を待つ迅。
「率直に言うと本当は彼の師匠を頼ったんだ。
もしくはその秘蔵っ子だね。彼女なら戦力として間違いなく役に立つ、そう思ったからね」
「……」
「しかし彼等が推薦したのはあの少年だった。
それだけでも驚いたのに、決して弟子を取ろうとしないあの人達の一番弟子というじゃないか。
強い興味を持ったよ。
何より決定的だったのは、彼の信念。
『理不尽な目にあう人達を救う為に立ち向かう』、と。
そう言い切った彼の眼には強い光があった。まるで正義の味方のような、ね」
「……。
救う為に、ですか……。
綺麗事ですね」
「そう、綺麗事だ。
実際の戦場を知っているのに、綺麗事を言い切る。
理不尽を知っているのに、それに立ち向かうと断言する。
ボーダーの様な若い組織にこそ、彼の様な心の強さは必要だと思うよ」
「……」
「俺の意見はこんなものだけれど、何か他にあるかい?」
「……いえ、別に」
「そうか。それよりも何とかなりそうかい?」
「……ふぅ。
いえ、なんとも言えないですね、今の時点では」
「……そうか、難しいね」
煙草を消し背を向けて歩き始める唐沢。
「何処に居るんだかね、
去っていく唐沢。
1人残った迅は天井を見つめながら呟く。
「……本当ですね」
~~Side:?? ??~~
ボーダーを跡にして家路につく。
今日もユズルに協力してもらって
……結果活用できないだろう、とだけ判明した。
協力してもらったにも関わらずこの有様だ。
申し訳ない気持ちだが、諦めるわけにはいかない。
今のチームの調子は最高だ。
A級の上位3チームのあの牙城を崩せるかもしれない。
それくらい調子が良い。
今季の遠征への切符を手に入れることができるかもしれない。
……自分の我儘にチームの皆が協力してくれている。
自分が人を撃てたならこのチームはもっと上に行けているかもしれないのに。
──そんなこと気にする人達じゃないけど。
脳裏に浮かぶ。
仏頂面の隊長。
賑やかな同級生。
美人なのに慌てると可愛いオペレーター。
クールなのに女性が苦手な後輩。
──そう言えば、白浜君も女性と戦えない、とか。
先日見た転入生の白浜君を思い出す。
入隊したばかりとは思えない実力だった。
……辻君がなんか衝撃受けてたけど。
人を撃てない私に変な目を向けるわけでもない。
むしろ共感を示すような態度だった。
なんの変哲もない見た目だったのが。
あの目の光──
「すみません、ちょっとよろしいでしょうか?」
急に声を掛けられた。
驚いて凄い速さで振り返る。
そこには大学生位の男性が居た。
──知らない人、だよね?……私に用?
周りを見渡すが人は居ない。
間違いなく私に声を掛けてきている。
「鳩原さん、ですね。初めまして」
「雨取 麟児と言います。少しお時間頂けますか?」