「こ、この数値は!?」
何やら機械を見て驚いている。
いや、興奮しているのだろう。
徐々に顔が赤くなっていっている。
「ありえんぞ、こんな事は!」
こちらを見る困惑の瞳。
信じられないモノを見るような。
理解できないと慄くような。
ま、まさか。
「そ、それってどういう」
声に期待が滲み出る。
ひ、ひょっとして。
僕には途轍もない才能が───!?
「こんな低いトリオン量で戦闘員とか正気か、貴様!?
いや、戦闘員でなくとも!
普通なら入隊すら怪しいところだ!!
貴様にはボーダー隊員としての才能が致命的なまでに無いぞ!!!」
「ごぺっっ!!」
────いや、まぁ、知ってましたけどね、えぇ!!
◇
梁山泊で唐沢さんと出会って1週間後。
僕は三門市に居た。
「ここが、ボーダー本部」
昼の日差しに照らされる大きな建物。
僅かに気圧される。
たった3年程でこれほどの規模の基地を構えるなんて。
「どうだい?中々立派だろう?」
僕をここまで連れてきてくれた唐沢さんが楽しそうに話しかけてくる。
いや、師匠達と顔見知りのこの人が居る組織なんだ。
不思議ではないのかもしれない。
「はい、それに──」
「それに?」
「いえ、なんでもありません」
気、に近い?
いや、それにしてはあまりにも存在感を感じない。
まるで決して外れない分厚いベールで隠されているような──?
…いや、気のせいだろう。
少なくとも危険な感じはしない。
「さて、それじゃあ行こうか」
「はい!」
その後唐沢さんに連れられて大きな部屋に案内された。
部屋に居た7人の人がその視線を一斉に向けてきた。
入り口から見て左右に2人ずつ座っている。
──右の2人は間違いなく、強い。
正面に1人、明らかに立場の高い人が、真っ直ぐにこちらを向いている。
左目付近の大きな傷が目立つ。
厳しい、しかし、それだけではない何かを感じる視線だ。
まるで─
──最初に会った時の逆鬼師匠みたいだな。
その左右に大人の男性と子供が控えている。
何を考えているのか読み取れない、底知れない眼だ。
まるで何も考えてないかの様な、無心の眼。
それに対して子供の方は鋭い眼をしている。
僕の仕草等を観察している。
情報を集めようとしている、それも冷静に、だ。
かつて居たという小学生隊員なのかもしれない。
──この2人も強い。
これが界境防衛機関『ボーダー』の人達。
「さて、皆さんお揃いですので始めましょうか」
近くに居た唐沢さんが声を掛ける。
「こちら、白浜 兼一君。
今回知人のツテで紹介して貰いました」
「白浜 兼一です。よろしくお願いします!」
「さて、白浜君。今度はこちら側の紹介だ。
まずは城戸 政宗本部司令だ」
「よろしくお願いします!」
お辞儀をする。
─目礼で返される。
「続いて右手前から
林道 匠支部長。
忍田 真史本部長。
左手前から
根付 栄蔵メディア対策室長。
鬼怒田 本吉開発室長」
「よろしくお願いします!」
お辞儀をする。
「どーも」
「よろしく」
─フンっという音が聞こえた。
「城戸司令の右手に居るのが風間 蒼也隊長。
左手側が太刀川 慶隊長。
どちらもボーダーが誇るA級部隊長だ」
「よろしくお願いします!」
お辞儀をする。
─軽い会釈をされる。
「さて、紹介も終わったしまずは白浜君には以前話せなかったことを話そうか」
◇
そこから機密情報について聞いた。
トリオンの事。
その特性。
人が攫われる理由。
若い人が多い理由。
情報漏洩に対する記憶封印措置等。
──────。
トリオン以外での攻撃が有効にならない、か。
記憶を封印するのもやむを得ない、と思う。
「ここまで話を聞いて貰った。
…決心は変わらないかい?」
その問いへの回答は決まっている。
「はい、変わりません!僕も戦わせてください!」
─ひと時の静粛な間が訪れ。
「一つ聞かせて貰いたい」
どこか圧力を感じる声が響いた。
顔を上げ、正面を見据えた。
「確かに我々は共に戦ってくれる戦力を求めている。
君の申し出は嬉しい。
だが、何故我々と戦う決心をしたのか。
その理由を聞きたい」
「理不尽な目にあっている人達を守りたい。
それが僕の信念だからです」
先程より少し険しくなった視線と交わる。
「信念、か……。
その為になら自分の命は惜しくない、と?」
視線が語り掛ける。
─それは命を掛ける程のモノなのか?
「いえ、惜しいです。
ですが、この信念は僕そのもの。
自分自身を見殺しにはできません。
僕は僕の為にも戦います!」
─そして生き延びて見せます。
◇
耳鳴りがするような間が流れる。
不意にドアの外に人の気配を感じる。
「失礼します。
迅 悠一、参上しましたー」
「ご苦労」
「お、おつかれー」
そこには一人の男性が右手を上げて敬礼していた。
茶色の髪色に、サングラスを首にかけた姿だ。
飄々とした態度、とでも言うのだろうか。この部屋の重圧を少しも気にしてないようだ。
それだけではない、
空気を変える
「さてさて、ボスに呼ばれて来ましたが、何事ですか?」
「実はそこに居る白浜君についてだ」
ちらり、と視線を感じる
「珍しく唐沢さんが推薦をして来てねぇ」
「しかも通常のスカウトとはまた違った手順、ときたもんだ」
「んで、お前さんの出番、というわけだ」
「なるほど、なるほど。唐沢さんの、ねぇ」
左側に視線を向ける男性。
目を向けるといつの間にかキヌタさんの手前側に移動している唐沢さんが居た。
「それで、どうだ。迅」
その言葉と共に向けられる透き通った青空の様な瞳。
浮かぶ感情が瞬く間に変化していく。
この人は、僕を通して僕意外のなにかを見ている。
そう確信する位流れていく瞳の光。
驚き、納得、喜び、失望、様々な感情が浮かんでは沈み、そして──
「うん。
是非入隊してもらった方がいいね。
それも戦闘員にするべきだね」
唐突にそう言い放った。
「─戦闘員の方が良いのか?」
「うん。間違いなくその方がいいよ。
おれの
またわからない単語が出てきた。
さいどえふぇくと?英語で副作用、だったかな?
そのジンさんの言葉を飲み込む様に
「良いだろう」
キド司令が告げる。
「白浜君を戦闘員としてボーダーに入隊する事を許可する」
「ありがとうございます!」
これって入隊断られるとかもあったのかな?
そんな事を考えていた。
「では、早速必要な処理を進めよう。
鬼怒田開発室長どの位かかる?」
「今日は雷蔵が居るから殆ど終わらせられるでしょうな」
「わかった。
今回は
その後仮想戦闘まで進めてほしい。
唐沢くん」
「かしこまりました。
白浜君に関しては任せてください。
ひょっとしたら根付さんの力も借りるかもしれません」
「わかってますよ」
「忍田本部長、太刀川隊長、風間隊長はそのまま残っててくれ」
「はい」
「りょーかい」
「承知しました」
とんとん拍子に話が進んでいく。
これまでの肩が凝る雰囲気が霧散していく。
左から気配を感じる
「と、言う訳だ。
俺は迅 悠一。
実力派エリートだ。
よろしく、白浜君!」
差し出される右手。
「あ、どうも。
白浜 兼一です。
よろしくお願いします!」
握り返す。
目を合わせる。
より伝わってくる。
変わらなく残る、最後に浮かんだ光が。
「あの」
「ん?」
思わず聞いてしまった。
どうしても気になる
「僕に何があっても、貴方の責任じゃないですよ?」
────あの罪悪感にも近い責任感を放つ、鈍い眼差しが。
◇
耳鳴りが起きていると錯覚するような沈黙。
微動だにしないジンさん。
その静かさに。
ゆっくりと目を瞬くその姿に。
「いやー、ぶっこんでくるねー」
またやってしまったのか!!???
己の悪癖を思い出す。
「…君、気を付けないと友達無くすよ?」
「ふびゃっ!!」
気にしていた事を言われる。
かつて武田さんにも言われた。
いい加減この他人の逆鱗に触れる才能はどうにかしたい、と切実に思う。
「まぁ、いいや。
それじゃあ、これからよろしく、白浜
ボス、もう行ってもいいですか?」
「っ、あぁ、いいぞ」
楽しそうな声。
出ていくジンさん。
頭を抱える僕。
─あぁ、どうして僕はいつもいつも、こう──。
「おいコラ、バンソーコー!」
頭に軽い衝撃が走る。
「時間もそんなにない、さっさと行くぞ!
ついてこい!!」
「は、はい!お願いします!!」
気持ちを切り替えて付いて行く。
向かった先は開発室。
色々な調査をし始めた。
初めてトリオン体とやらになり、身体測定を行った。
戦闘員に大事なトリオン量とやらを測り始めた。
………そして冒頭のリアクションに繋がる。
「トリオン量は最低中の最低。
トリオン体に換装してからの身体能力には目を見張るものがあるが、それにしても───」
自分の世界に入り始めた。
トリオン体に換装し身体測定を行った際には
「初めてでこれなら凄いぞ!」と褒めてくれていた。
ひょっとしたらトリオン量も多いかも、となにやら期待していたようだが、結果はご覧の通りだ。
いや、鬼怒田さんには申し訳ないがこの結果はわかっていた。
何故ならトリオン体での身体能力は
まるで呼吸のできる水の中に居るかの様な感覚。
今の身体能力は、そう、まるで長老に無理矢理ビルの屋上で修業をさせられた時の─
「─ぃ!バンソーコー!!聞こえとるのか!!?」
「は、はい、すみません、聞いてませんでした!!」
「ったく、しっかりせんか!!
とにかく、貴様はトリオン体の操作能力は高いがトリオン量が足らん!!
迅が戦闘員、と言わなければ確実に戦場に出せんレベルだ!!!」
怒鳴られる。
心配をかけてしまっているようだ。
「すみません」
「─ッッ!!─ッ!…っ。はぁ、しょうがない!
おい、雷蔵!」
「聞こえてますよ」
少しふくよかな体型の男性が奥から出てきた。
少し期待している眼の光。
何故だろう?よくわからない。
─でもこの人も強い、はず。
「この白浜に戦闘員としての基本を教えつつ、いくつかトリガーを見繕ってやれ!
城戸司令の許可もある!!」
「りょーかい」
「わしは少し仕事に戻る、後は頼んだぞ!!」
足早に外に出ていく鬼怒田さん。
室長という位だし、相当忙しいのだろう。
「と、言う訳でよろしく。
俺は寺島。ここのチーフエンジニアだ」
「初めまして。
白浜 兼一です。
よろしくお願いします!」
「うん、よろしく。
んで、早速だけど君は動きは悪くない、むしろ良いんだ。
でもトリオン量が低いのは戦闘員としては致命的欠点なんだ」
そして教えてもらった。
トリオン量が多ければ大半の攻撃用トリガーの性能が強化される。
シールドという防御用トリガーの性能も向上する。
何より戦闘継続能力が違う。
トリオン量が全てでは無いが、かなりウェイトが高いそうだ。
そんな大事な要素が低いと言われる。
僕才能なさすぎじゃない?
いや、もう慣れてるけどさ。
それにしても寺島さんが楽しそうなのは何故だろう?
「さて、そんな君に!
トリオン体の動きが良い君に!
ピッタリのトリガーがあるんだ!!」
「と、言いますと?」
「トリオンが低くても
攻撃力に優れ!
防御力に優れ!!
機動力に優れる!!!
画期的なトリガーが!!!!」
「!!そ、そんな夢のようなモノが!!??」
「そう!その名も────」
■
──もうこんな時間か。
陽が落ち始めている。
一度身体を伸ばし、息を吐く。
その後開発室に向かう。
「忍田さん」
「慶」
「俺も付いて行きますよ」
何処に向かうのかわかっているかの様な口振り。
いや、わかっているのだろう。
「好きにしろ」
「了解。風間さんは一度隊室に戻ってから向かうってさ」
「…そうか」
やはり興味があるのだろう。
あの少年に。
強そうにはお世辞にも見えない。
この判断に言葉に出せない引っ掛かりがある、が。
なのに目に強い信念を持つ少年。
確信が持てない。
だが確実に何かがある。
修羅場を経験したことがある者特有の、何か。
◆
「お、風間さん!」
「お疲れ様です。
雷蔵に連絡を取ってみました。
今、2人で開発室の仮想戦闘室に居るそうです」
「そうか、ありがとう」
3人で部屋に入ると。
「よし!よし!!
もういい!それでいい!!
よくやった、大丈夫だ、問題ない!!
これで君も戦闘員だ!!!完璧だ!!!!」
「「「…………」」」
徹夜明けの様な寺島君が居た。
「おい、雷蔵」
「んぁ!─、なんだ風間、と。
し、忍田本部長!!」
お疲れ様です、と慌てて頭を下げてくる。
「いや、急に来てすまない」
俺も居るよー。
「どうしたんだ、そんなに興奮して」
「いえ、それがですね」
あれ!?
「まぁ、見てもらう方が早いか」
仮想戦闘室内の白浜君の姿が映し出される。
「おーい、聞こえるかい!?
次の段階に進むよ!
今からトリオン兵と仮想戦闘してもらう。
さっき練習した要領で行けば大丈夫だ!」
今からトリオン兵と?
随分ゆっくりだな。
白浜君はポカンとした表情をしている。
大丈夫か?
『??あ、はい。わかりました』
「よし!バムスター転送!」
転送されるバムスター。
トリオン体に換装する白浜君。
両手に展開される──『レイガスト』。
「─おい、雷蔵」
「しょうがないだろ!
あの子信じられない程トリオン低いんだ!!」
これを見ろ、と映し出される数値。
こ、これは!?
うーわ。こりゃ酷いわ。
「俺だって最初は期待したよ!!!!
あのトリオン体操作能力で低トリオン!!!
レイガストを持っても、尚高い機動力!!
ついにレイガストを使いこなせる人材が、とね!
でも、駄目だった──」
疲れが滲み出ている声。
「
切り替えようとしたら誤ってレイガストを消す。
スラスターを使えば盛大にすっぽ抜ける。
そもそもブレードを持ちたがらない。
こりゃ駄目だと思って『弧月』や『スコーピオン』を薦めても頑なに首を縦に振らない。
最終的にレイジの使い方を見せ、それで行く事になったよ……」
「─そうか。頑張ったな」
「うるさいよ」
何で皆レイガストを変な使い方するんだよ、とブツブツ言い始めた。
「で、では今からが本格的な仮想訓練になるのか」
「あ、はい。そうです」
少し立ち直った。
「あれだけのトリオン体操作能力です。
手段さえ決まればある程度は大丈夫でしょう」
それほどか。
「よし!じゃあ戦闘訓練開始!!」
突進してくるバムスター。
自然体で構える白浜君。
バムスターが振り下ろした右足を───。
『ぎゃぁああああ~~~~!!!!
怖い怖い怖い!!!!』
見事、に、避け、た。
「「「「…………。」」」」
『怖い!早い!でかい!何なのコイツ!!!』
バムスターの猛攻。
それを全て躱し切る。
凄まじい速さだ。
確かに初めてのトリオン体であれだけ動けるのなら期待するだろう。
あの悲鳴と見るからに怯えている表情を見なければ、だ。
「……確かに、速い、な」
「……だろ?
あの馬鹿高い身体能力をコントロールできてる。
信じられない能力だ」
確かに。
バムスターの攻撃を完全に見切ってる。
見切った上で、無駄に大きく躱している、が。
「身体の動かし方に慣れてるのか?」
「そんな感じだな。リアルで何かやってんじゃないの?」
確か唐沢さんの知り合いの
それならあの動きも納得だ。
恐らく得物でなく、素手が得意なのだろう。
そこまで考えて
─この程度、か。
あの怯えた表情を冷たい目で見てしまう。
何度も攻撃を加えるチャンスがあるのに。
会議室で感じたあの輝きは───。
頭を振る。
「確かに凄いがこれでは彼の実力は測れないな」
先程から完全な鬼ごっこ状態だ。
これでは───
「少し酷かもしれないが、モールモッドを──」
「その必要は無いですよ、忍田さん」
静かな、しかし力強い声が響く。
「ある程度動けるのはわかった。
後はその底を図るだけ。
─それならモールモッドなんて要らない」
いつもの気怠そうな雰囲気はなりを潜め。
「俺が戦いますよ」
太刀川 慶。
ボーダーA級1位部隊 太刀川隊隊長。
アタッカーランキング 1位。
紛れもなくボーダー戦力最高峰の一角。
その口元を歪めながら
「その方が面白そうだ」
──このやんちゃ小僧め。
レイガスト
「スラスターは置いてきた。
あいつは付いて来れないからな。」
スラスター
「!!??」