◼️
白浜君が慶に向かって歩いている。
余分な力が完全に抜けきった自然体。
ゆっくりとした足取り。
何も障害が無いかの如く。
一直線に向かっている。
『おいおい、マジかよお前!』
慶の猛攻。
孤月が白浜君に襲い掛かる。
先と変わらない展開。
変わったのはたった一点。
白浜君が孤月を受けなくなった。
先までは両手のレイガストで受け流したりしていたが。
それすら無くなっている。
白浜君の動きが早くなったわけではない。
むしろ先程より遅く感じる。
だと言うのに。
『お前も未来が見えるのか!?』
慶の攻撃が悉く白浜君からズレている。
旋空を絡めても。
グラスホッパーで位置を調整しても。
彼の薄皮を掠るのが精一杯。
ダメージは与えられていない。
「「…………」」
2人とも静かになっている。
慶の実力を知っているからこそ。
この光景は衝撃なのだろう。
──私ならどう対応する?
絶え間ない慶の猛攻。
木の葉の様に揺らめく白浜君。
『そんな大層なものは見えませんが』
静かに響く。
『貴方の流れに合わせ』
旋空を放つ態勢の慶
『その動きと一つになりました』
─その懐に
全く同じ態勢の白浜君─
──!?いつの間、──
『無拍子』
到底打撃に適している態勢ではない。
そんな態勢で放たれる肘打ち。
だと言うのに吹き飛ぶ慶。
壁にぶち当たる。
恐らく先程の蹴りより威力がある。
──あんな態勢で!?
疑問が湧く。
素手では考えられない威力。
間違いなく致命傷。
その疑問を裏切るように目立った傷が無い状態で慶が立ち上がる。
『─大したものだが、──』
慶の言葉。
だが、誰もそれを聞いていない。
表示されている情報に目を奪われている。
そして──
【戦闘体活動限界。太刀川 ダウン】
『──────は?』
──慶の敗北がアナウンスされた。
『いやいや、何で!?』
当然の質問だろう。しかし。
「……太刀川君。君のトリオン量が急激に低下した。
戦闘体を維持できなくなる位に、だ。
─何らかの、行動が、原因だろう──」
こちら側ですら到底信じられない事態。
慶は尚更だろう。
理解できてない感情が伝わる。
私達も何が起こったかはわかってない。
──だが、その原因はわかっている──
『お待たせしました』
慶のトリオン体に傷を付けずにトリオンのみを減らす。
そんなでたらめな現象を。
それを発生させたであろう少年を見る。
『準備できました』
□
ずっと気になっていた。
気とトリオンは明らかに違う。
なのに。
似て非なるものと感知している。
─そうであるなら。
─相手の気を吹き飛ばせるのなら!
───
相手を
─制空圏をトリオン体の少し外に纏い
──タチカワさんの放つ暴風に従い
───その中心に陣取る。
僕に反応するタチカワさん。
タチカワさんを覆うトリオン。
分厚いベール。
─その層を
──気の掌握と同じ要領で
「無拍子」
───気とトリオンを
タチカワさんが起き上がる。
見た目に傷は無い。
けれど
【戦闘体活動限界。太刀川 ダウン。】
その総量が減っている。
タチカワさんに傷はない。
だが、トリオンが無くなったのだろう。
これでわかった
相手を傷つけず。
相手のトリオンを減らすには。
─自身もトリオン体になり。
気とトリオンを用いて。
───気の掌握を行う事───。
…うん、難しい。
気の掌握なんて鍛冶摩さんとの戦いで偶然できたくらい。
今回は上手くいったが、次どうなるかはわからない。
けど
「お待たせしました」
自分は戦える。
活人拳の誇りを胸に。
──信念を貫ける。
「準備できました」
とは言え、そんなに上手くいかず。
完全な気の掌握は当然叶わず。
クリーンヒットした打撃で相手のトリオンを削る位が限界だった。
2勝9敗2分となったところで。
忍田本部長から終了命令が下った。
■
「こんなに遅くなってすまないね」
「いえ、大丈夫です」
「疲れてないのかい?」
「疲れてますけど、慣れてますから」
「…。もう少し待ってくれれば私が送るが?」
「ありがとうございます。
けど─」
遠い眼をする。
「直接見ておきたいんです、三門市を。
───この眼で」
「──────。
そう、か。
わかった」
……
「─入隊日にまた会えるだろう。
その日を楽しみにしているよ」
「はい!
こちらこそよろしくお願いします!」
そう言って市街地に向かっていった。
姿が見えなくなった頃。
「あら、忍田。何をしているのです?」
─声が掛けられる。
「珍しいな、ここまで来るなんて」
「気まぐれですよ」
─だろうな、と思う。
彼女らしい。
「それで」
「ん?」
「何をしているのですか?」
「いや、何も──」
「
「……君には噓はつけないな」
「えぇ、そうでしょうね」
「─はぁ。近々仲間になってくれる少年が居るからだ」
「その少年を気に入ったと?」
「まぁ、そうだな」
「……戦力になるのですか?」
「──わからない。
しかし、─」
─期待している。
「───。
そう、ですか」
「─さて、城戸司令に報告に向かうか」
「それで?」
「ん?」
「その人の名前は?」
「あぁ、彼の名前は──」
◇
夜空に星が瞬いている。
梁山泊の屋根で見るこの景色は僕のお気に入りの場所の一つだ。
「───ふぅ」
色々あった。
ボーダーに行った。
お偉いさんに会った。
未知の技術に触れた。
それを活用して戦った。
こうして聞くと凄い経験をしてるな、僕。
───今更、か。
「兼一さん」
「ん?」
振り向く先に。
黄金色の髪が舞う。
月の女神と見間違う。
憧れの女性。
──風林寺 美羽さん。
「どうしたんですの?」
「…………」
「…。受けた任務の事ですの?」
「……──はい」
美羽さんは僕の右隣に座り。
─そして、僕に言葉を促した。
「僕は」
「改めて」
「幸せ者だったんだなぁ、と」
あの後三門市を見て回った。
普通の人達が。
普通に生活していた。
ありふれた光景。
─ただ一点。
──その眼に
───悲しい光を携えた人が多かった。
初めて聞いた時に思った。
何故逃げない?
何故三門市に居る?
その疑問を解消する為に。
三門市を直接見てきた。
何か解るかな、と。
3年近く前の第1次近界民侵攻。
行方不明者400人以上の被害。
─家族の
そこに残る人達。
それを見て思う。
彼らは守っているんだ。
行方不明の家族のため。
戻ってきたときのために。
迷わない様に。
戻ってこれるように。
その目印を守るために耐え続けている。
───あそこは民間人の居る戦地なんだ。
「だからこそ」
─そういった人達を守る為にこそ!
「それを守りたい」
─僕は武術を学んできたんだ!!
「そう思いました」
◇
「なるほど、ですわ」
「美羽さん」
「相変わらず。
──他人本位ですのね」
そう笑われる。
「いや!違いますよ!!」
顔を向ける。
「これは僕の信念───」
「信念だから──、ですの?」
楽しそうに僕の台詞を横取りする。
その顔を見る。
至近距離で見つめ合う。
──くそぅ、可愛い!
惚れた弱みかもしれない。
この人に勝てる気がしない。
でも反論位してやる!
見惚れている自分の頭を振り、彼女の顔を再度見据える!
そこには。
「────」
何やら悲しそうな表情。
「美羽、さん?」
「──決めましたわ」
何かを決めたらしい。
「──兼一さん」
「は、はい!!」
「わたくしも、兼一さんと同じ様に、暫く梁山泊から離れますわ」
──え?
───何故?
────え?
言葉が出てこない。
何で?
「────え?」
言葉が出てきた。
いや、そうじゃない!
馬鹿か僕は!!
感じた事そのままじゃないか!!!
「どう、して、、?」
「───実は、────」
美羽さんの胸の内を聞いた。
近々砕牙さんが違う国に行くらしい。
そこに美羽さんも一緒に行かないか、と。
それを受けるつもりである、と。
「でも」
一瞬の間をおいて
「……わたくしは兼一さんと同じ任務を受けるのも良いと思ってますわ!」
一気に言い切った。
僕と三門市に行くか砕牙さんと同じ場所に行くか。
その事を迷っていたらしい。
どちらにせよ梁山泊を離れることを気にしているのだろう。
責任感の強い女性だ。
美羽さんの視線がこちらに向かう。
何かを言ってほしいかの様な表情。
─正直、美羽さんも三門市に一緒に来てほしい。
美羽さんが隣に居るのなら
だから、一緒にいて欲しい、と言えば良い!
─けど。
美羽さんの手をおもむろに掴む。
「美羽さん!!」
「─!は、はひぃ!!」
肩が飛び跳ねる美羽さん。
僕の想いは─
──家族と同じ場所に行くのも良い事だよ、な。
美羽さんにとって初めての父娘の思い出!
それは大切な思い出になる!!
美羽さんには幸せになってほしい!!!
是非一緒に行くべきだ!!!!
そんな旨を伝えた。
これで、良い。
僕は未熟だ。
僕の想いは、まだ伝えるべきでない!!
─兼一君、君ってやつは─
─兼ちゃん、それはないね─
「…流石兼一さん、ですわね」
「──え?」
「───いえ、今決心しました。
今度の遠征でわたくしももっとれべるあっぷしますわ!
──覚悟していて下さいまし!!」
なんか興奮し始めた。
なんの事?
急に立ち上がろうとする美羽さん。
立ち上がろうとした美羽さんを咎めるように。
美羽さんの体幹がぶれる。
何故か急に発生した突風に美羽さんが巻き込まれる。
美羽さんがバランスを崩す。
手を伸ばす。
美羽さんの手を握る。
あの美羽さんがバランスを崩すのだ。
よほど強い突風だったのだろう。
自然に発生したとは思えない。
──達人級の奇襲!!??
警戒を込めて美羽さんを抱き寄せる。
──────
何も、無い?
てっきり達人級の奇襲かと思ったが──?
「───っ!」
気配は感じない。
自然発生な突風なら、まだ良い。
だが、もしも、達人級の仕業なら──?
──どうする、どうする、どうする!!
その発生源が判別つかない。
相手は超A級の達人か?
せめて美羽さんだけでも───
「兼一さん!!!
落ち着いて下さいましっ!!!!」
その言葉と頬への衝撃に。
我に返る。
腕の中の美羽さんを見る。
こっちを見据える翠色の瞳。
落ち着いた。
「美羽さん」
「大丈夫です、支障はないです」
「わかりました。右は僕が見ます」
「では、わたくしが反対を見ます」
───何も、無い?
少し気を抜いて、美羽さんの方を見ると。
「美羽さ、ーん!?」
「えぇ、何も──っ!!」
目の前に女神の顔があった。
いや、そりゃ腕の中に美羽さん居るからな。
近いはずだよね、うん。
─大きく開かれた瞳。
──少し朱色に染まった頬。
───少し、近づけたら、触れそうな、唇。
─ちぃ!もう突破したのか!?
─まずいね、このままだと妨害が成功してしまうね!!
変な声も気配も。
全て今の僕には響かない。
目の前の女性に。
最愛の女性に。
「美羽さん」
「兼一さん」
僕のすべてが─
彼女に惹きよせられ──
─長老、いい加減認めてあげても!
─えぇい、どけ!秋雨くん!!
─梁山泊…の、武人、が─。大人、げ……ない、ぞ!!
─父よ、加勢します!
─いい加減にするね、2人とも!
─アパ!二人ともお馬さんに蹴られて地獄に落ちるよ!
─正しくはねぇが、間違っては無いな!おい、いい加減に───
「「……」」
─今の儂は我流Xじゃあ!
─ならば!私は我流X2号だ!
─頭狂っているのか、オメェー達!
─砕牙、君は良い友人だったよ!
─止めるね!それ死亡フラグってやつね!!
─あぱ、我流エックスが、、
─目を覚ませ、アパチャイ。あれは…偽物、だ。
響く、いつもの、声。
美羽さんと改めて顔を見合わせる。
先程の雰囲気は既にない。
苦笑が漏れる。
美羽さんが立ち上がる。
ぷるぷる震えている。
「何を、しているん、ですかーーーーー!!!!!!」
本当に、あの人達は──。
◇
そして入隊日になった。
あれから──、色々あった。
荒涼高校と家族への説得は唐沢さんが行った。
名目は1年の交換留学。
あの威厳のある、でも優しい父への説得も唐沢さんがやっている。
克己君、元次さん、って呼び始めたときはびっくりした。
何なの、あの人。もはやあの人に任せておけば何も問題ないのでは、と思い始めている。
新白連合のメンバーには適当に話しておいた。
─悪魔と、谷本君は三門、と言う言葉に反応していたが。
──閑話休題──
入隊の挨拶を忍田さ─、忍田本部長から受けている。
その後、谷本君に劣らない顔面偏差値の人から訓練内容について説明を受ける。
─自分達はC級隊員である事。
─B級隊員にならないと防衛任務には出れない事。
─B級隊員になるには各自設定のポイントを4,000まで上げる必要がある事。
─そのポイントは基本1,000ポイントからスタートする事。
─仮入隊などでその
そんな説明を経て。
最初に案内される、戦闘訓練場。
訓練内容はトリオン兵との戦闘訓練。
制限時間5分以内にトリオン兵を倒す訓練。
早く倒した方が高い評価との事だ。
多くの人が苦戦している。
倒すのに3分以上かかる人が殆ど。
皆が苦戦している中──
『3号室、終了。記録、1分2秒』
ニット帽を被った茶野君と
『2号室、終了。記録、1分00秒』
もさっとした髪の藤沢君が。
───おぉーーー!!
高い記録を出していた。
間違いなく同期で優れている。
その事実に得意気になる二人。
同期の最高記録である1分台。
『1号室、終了。記録、11秒』
──それを覆す、才能の煌めき。
黒江 双葉さん。
それでも自身に満足していないであろう様子。
気の強い少女。
間違いなく同期トップクラスの人材。
見るだけで伝わる、才能の原石達。
ただただ凄いと思う。
『4号室用意』
気が付いたら僕の出番だ。
現れるトリオン兵。
自然体で構える。
─未だに怖い。
だから相手が動くのを待つ。
その方が楽だ。
動き始める相手。
振り下ろされる右足。
─それを
─最小限の動きで躱し
─振り下ろした隙を見逃さずに
──下顎ごと殴り上げる──
吹き飛ぶトリオン兵。
動く気配は無い。
『き、記録、4秒』
これなら良い成績を取れた、かな?。
白浜 兼一。
所持トリガー:レイガスト
ポイント:3700
白浜 兼一のボーダー生活が始まった。
最後まで悩みましたが、美羽は不参加としました。
当初は美羽に感化された照屋ちゃんが動の気を開放して
史上最強の押しかけ女房として柿崎隊をA級に押し上げるつもりでした。