手をワキワキさせて近づいてくる。
───気持ち悪い!!!!!
近づかせない様に振るスコーピオン。
器用に手首を掴み、投げられる。
着地するが崩れる態勢。
そこに放たれる右拳。
少し気の抜けている様な速度。
躱し、今度はこちらから攻める。
左手のスコーピオンを振るう。
レイガストで受けられる。
右足からスコーピオンを生やし蹴り上げる。
半歩下がり躱される。
足を振り切った硬直をグラスホッパーでフォローする。
追撃が来るかと備えたが相手は構えている。
余裕のつもりか?
それともアタシ程度本気を出すまでもないとでも?
コイツの動きは見た事がある。
その時の動きに比べて明らかに鈍い。
まるで手を抜いているかの様な緩慢さ。
──ムカつく。
浮かぶ感情が言葉に変わる。
本当はその程度の実力?
唯我と同じ。
所詮はコネ入隊。
それともアタシ程度には本気になるまでもない?
大した自信だ、と。
それに対して。
こちらの言葉に全く動じていないように。
静かな目をしたそいつは──。
「いえ。実は僕、女性と戦うのが苦手なんです。」
──────。
─────────。
────────…………。
「ふ、ふざけぇるなぁぁあああーーーー!!!!!」
◇
「くぁあ~、負けた~~!」
ブースを出ると同時に聞こえるぼやき。
「いや、白浜さん、本当避けるの上手いっすね!
何であんなに避けれるんすか!?」
そう話しかけてくるのは出水 公平君。
A級部隊 太刀川隊のメンバー。
この前太刀川さんに紹介された。
明るくて気さくな性格をしている。
その上トリオン量が多く、ボーダー有数の射手らしい。
さっきの戦闘中でも僕の動きを封じるような展開を念頭に置いてるように感じた。
実力も才能も高水準の凄い子。
シャツに書かれてる『千発百中』の文字はどうか、と思うが。
「うーん、、、勘?」
「勘っすか!?」
「うん。
出水君の眼をみて何となーく」
後は制空圏の反応に任せる感じ。
とは言え、荒船君から貰ったデータを見てなかったら
本当に助かっている。
「目かー。
それでわかるもんなんっすねー」
「まぁ、格闘技やってるらしいし、なんか通じるものがあるんじゃね?」
出水君に話しかけているのは米屋 陽介君。
A級部隊 三輪隊のメンバー。
上がった前髪とカチューシャが特徴的な見た目。
さっき出水君と話している時に加わって来た子だ。
初対面ではあったが、サバサバした性格なのか話しやすい。
「あぁ見えて何かの達人かもしれないぞ」
「!?目瞑ってても攻撃避けれるとか!?」
「トラトラ波ーってできるかもしれないぞ!!?」
少し話したら楽しそうに勝負を挑んできた。
戦闘狂──、とまではいかないが好戦的なのだろう。
実力はかなり強い。
弧月、刀の形状のトリガー、の槍バージョンを使っている。
最近使用し始めたらしい。
間合いの保ち方などはまだまだこれからと言ったところ。
ただ、判断が早く正確だった。
すぐに強くなるだろう、そう確信する。
それにしても大分ランク戦を経験してきた。
お陰でトリオンと気を混ぜての掌握に少しずつ慣れてきた。
まだまだ完璧ではないけど、相手のトリオンを減らせる量が増えてきた。
いずれは投げや組技でもできるようにならないと。
「白浜さん!!」
「ん?」
「力入れて服を破るとかできたりしますか!!??」
「もしくは水の上を走ったりとかは!!!??」
「……いや、できないよ?」
できる人達は知ってるけど。
ちぇーっと口を尖らせる。
二人とも楽しそうだ。
こう見れば只の高校生にしか見えない。
「そう言えば白浜さんって結構トリオン量低いんですか?」
いきなりトリオンの話になった。
「足止め用の
「確かに。
もうちょいで落とせるかなーって思ってたらトリオン切れになってたのもあったな」
「そうそう、ちょくちょく違和感があったなー」
よく見ている。
まぁ、別に隠す事でも無いか。
「うん、僕のトリオン量は滅茶苦茶低いらしい。
鬼怒田開発室長曰く『戦場に出せない』位低いって」
「あ、やっぱそうなんですか?」
「てかそこまで言われる位なのに、なんで戦闘員になれたんですか?」
「うーん、僕もよくわからないけど、迅さんって人が戦闘員にした方が良いって言ってそれで───」
「「迅さん!?」」
驚かれた。
それと同時になんか納得し始めた。
今更だが。
「そう言えば、迅さんって一体どんな人?」
僕その迅さんって人の事全然知らないや。
「迅さんはボーダーでも2人しかいないS級隊員です」
「昔からボーダーに居る古株の1人っすよ」
「それに有名なサイドエフェクト持ちですし」
S級?A級のもっと上ってあるのか?
それにサイドエフェクト。
あの眼の光───
「少しいいかしら」
声が掛けられる。
きつい目つきの女性が居た。
髪は少し伸びていて、毛先が跳ねている。
「お、香取じゃーん」
「おっす、香取ちゃん」
「…どうも」
どうやら知り合いらしい。
「えっと、初めまして、だよね。
僕の名前は白浜 兼一。
高校2年生です」
「…香取 葉子。
中学3年生です」
渋々っと言った様子。
?何なんだ、一体??
「え、っと、それで──」
「ランク戦」
話を遮られる。
「アタシとランク戦しませんか?」
えぇ…?
「おいおい」
「いきなり過ぎない、その言い方。
太刀川さんでも、もうすこっ、いや、どうだろう?」
こちらを見据える暗い瞳。
怒り?いや、無念、未練、か?
色々な光が渦巻いている。
……はぁ。
本当は。
ホントーーーは。
嫌だけど。
「わかりました。
受けましょう」
「……」
無言でブースに入る香取さん。
本当は嫌だけど。
組手だと思おう。
うん。
「すみません、白浜さん」
「後で俺達から一言言っておきますので」
「僕は大丈夫だよ」
これは組手。
これは組手。
「それじゃあ、行ってくるよ」
これは組手。
これは組手。
これは組手。
これは組手──。
そして始まるランク戦。
香取さんの動きは滅茶苦茶だが鋭い。
武術、とかは習ってない動きだが。
流れを無視した動き。
本能に従って動く感覚派。
バーサーカーさんに少し似ている、かも。
それにしてもどう対応しようかな?
スコーピオン苦手なんだよなー、組技とか出来ないから。
一回影浦君相手に組技を掛けたら、肩から突き出たスコーピオンに倒されるし。
あの時の影浦君の呆れた表情は忘れられない。
───仕方、ない。
もう2度と使用しないと決めていた。
使用後、美羽さんから猛烈に批判されたあの動きを。
今、解禁する!
「ちょわーーーーーっ!!!」
馬 師父 エロモード!!
掴むのではなく、只々触る事に特化した動き!!!
これにより近づき、触ると同時に、投げる!!!!
対女性戦に特化した梁山泊二極の術!!!!!
いや、まぁ、これでトリオンを減らせないから態勢崩すのが精一杯なんだけど。
一連の攻防が済む。
全然元気そうな香取さん。
うーん、どうしようか?
「影浦先輩とかと良い勝負してたけどさ」
うん?話しかけてきた?
「所詮その程度の実力なわけ?」
「コネ入隊なんてして」
「所詮どっかのA級1位様と同じで大した実力も無いんじゃない?」
「それとも?」
「アタシ程度に本気出すまででもない?」
「大した余裕だこと!」
うーん、なんか凄いイライラしてる?
時間が経てば経つほど敵意が増えていってるなー。
──さて。
「そう言う訳ではないのですが」
「なに、なんか言い訳でもあるの!?」
鋭い眼差しを向ける香取さんに話しかける。
僕だってあほじゃない。
いい加減この先の展開は慣れてきた。
正直に自分の主義を伝える必要はない。
だから言葉を変える。
幸いにもボーダーのランク戦は実際には傷付かない。
ならば!
少しマイルドな表現にしたら!!
わかってくれるはずさ!!!
「いえ。実は僕、女性と戦うのが苦手なんです。」
「ふ」
あ、ヤバい!
「ふざけぇるなぁぁあああーーーー!!!!!」
さっきまでの比でないほどの怒りが爆発した───!
■
『最近入隊した隊員が影浦先輩を倒した』
そんな信じられない話を聞いた。
影浦先輩はボーダーでも数人しか居ない個人ポイント10,000超え。
そんな人に勝つ?新人が?
興味が湧いてログを見た。
そいつはヘンテコな動きをしながら。
それでもあの全てを吹き飛ばす攻撃に耐えきっていた。
確かに、強かった。
ほぼ互角の戦い。
その戦いを見て、尚更思う。
アタシは、まだ──。
最近ポイントが伸び悩んでいる。
どうすれば解決するのかわからない。
大きな壁が邪魔をしてくる。
わからない。
◆
個人ブースにそいつが居るのが見えた。
米屋先輩と出水先輩と話してる。
ランク戦でもしてみたら。
何かきっかけが掴めるだろうか。
そう思い近づく。
聞こえてくる言葉。
『戦場に出せない位トリオンが低い』
『迅さんが言ったから戦闘員になった』
は?
何それ?
脳裏に浮かぶ人物。
彼女は戦闘員になれず。
コイツは戦闘員になった。
華は戦闘ができない、と判断されて。
この男は戦闘ができる、と判断された?
途端に湧く怒り。
ぶっきらぼうになりながら
ランク戦に誘う。
そして告げられる。
『女性と戦うのが苦手』
─────アタシらが組めば─────
戦いたくても──
戦えない人もいるのに!!
コイツはーー!!!
その言葉を聞いた瞬間。
我を忘れて襲い掛かる。
■
結局。
アタシの攻撃の悉くは。
まるで柳の様に受け流され。
惨敗した。
ブースを出る。
米屋先輩と出水先輩が何か話しかけてくる。
けど、殆ど耳に入ってこない。
ブースから出てくる男を睨む。
ポカンとしている表情。
これに負けたという事実。
それにもイライラしてくる。
つい、言ってしまった。
「女性だからと手を抜いてくれて、ありがとうございました!!」
結構大きな声で言った。
周囲も含めてポカンとしている。
早足で立ち去る。
隊室が近づいてきた。
「あら?」
親友の顔が見える。
「…何をイライラしているの?」
「べっつに!イライラしてないし!」
ため息を吐く華。
…少し落ち着いた。
あの人のせいではない、と言うのに。
八つ当たりをしてしまった。
しかも最後の台詞。
悪意しかなかった。
……流石に悪い事をした。
いずれ謝ろう。
その前にリベンジしよう、うん。
リベンジした後に謝る事にしよう、うん。
華と2人で隊室に入る。
麓郎と雄太が居る。
その為にも。
「
今度は」
「はぁ!!!????」
──あの気持ち悪い動きにはもう近づきたくない!
この日より香取 葉子はガンナーの練習を始めた。
「実は僕、女性と戦うのが苦手なんです。」
黒江「ムカつく」
香取「ムカつく!」
木虎「ムカつく!!」
華「もぎゃぁああああ!!!!」
三人「「「!!???」」」