葦原先生の体調が無事な事を祈ります。
「ふふ、さーて、何を買おうかなー!」
独り言を言いながら店内を眺める。
今まで溜め込んだ感情を吐き出すかの如く。
目に映る色が部屋に与える彩りを夢想し、それを目移りする全てで行う。
「こんなにあると迷うなー!」
あぁ、見るだけでも、迷うだけでも癒される!
美羽さんが猫を追っかけるのも納得だ。
好きな事こそが荒んだ心を落ち着かせてくれる。
三門市にある生花店─Flower Shop 楓─。
僕は今そこに居る。部屋に癒しを飾る為だ。
「ユキダルマキング、僕の事をわかってくれるのは君だけだよ」
そう、今僕には精神的な負担が掛かっている。
香取さんとランク戦をしてここ数日。
ボーダー内で注目を集めてしまっている。
入隊したばかりの時とはまた違う視線の色。
『ほら、あいつだぜ』
『あぁ、例の』
『女性だからって手を抜くっていうやつ』
『フェミニスト気取りかよ』
剝き出しの嘲笑が聞こえる。
いや、それだけならまだ良いのだ。
問題は女性隊員達からの視線だ。
軽蔑の視線が増えていっている。
女性だからと手を抜く、という事を快く思ってないのだろう。
──手を抜く、なんて言ってないんだけどなー。
そんな失礼な事はしない。
やるのであれば自分にできる全力を尽くす。
話しかけてくれれば、その旨を伝える事ができるが。
──自分で宣言するのもなー。
話しかけてくれないのであれば、その誤解を解くのは難しい。
結果としてその誤解が広まるのを止められていないのだ。
「なーんで、僕は毎回こんな気持ちにさせられるんだ」
DオブDの時にもレイチェルさんにこんな感じで噂を広められてしまった。
思い返すと小学生の時も……。
僕は何もしてないのに…。
いや、今回に関してはそう言われるのも仕方ないのかな。
重い息が漏れる。
「ん、白浜君じゃないかね。」
気配の方を振り返る。
「えっと、根付メディア対策室長?」
「久しぶりだね」
「はい、お久しぶりです!」
入隊前にお会いして以来だ。
「それで、どうしてここに?」
「えっと、実は園芸が趣味でして」
「ほう!そうなのかね!?」
「えぇ。前の学校では園芸部に入っていましたし」
「格闘技をやってる位だから、興味ないのかと思ってたよ」
「いえいえ。むしろ武術の疲れを癒してもらってましたよ!」
「わかる、わかるね、その気持ち!!」
「では根付メディア対策室長も!?」
どうやら庭いじりが趣味らしい。
2人して花について語り合う。
周囲から少し奇妙な視線を感じるが、無視無視。
「む、そうだ、白浜君。この後時間あるかね?」
「?はい、大丈夫です」
「じゃあ、少し頼まれてほしいね」
◇
「すまないね、大きな荷物になって」
「気にしないでください、鍛えてますから!」
今根付さんと共にボーダー本部のメディア対策室に向かっている。
メディア対策室に観葉植物を増やしたい、との事だ。
どうやらここの所、職員が疲労しているらしい。
少しでもその気晴らしになれば、との事だ。
その為に鉢やプランター、苗、土、等を運んでいる。
何往復かは必要になりそうだ。
「そうか。しかし、本当に鍛えてるんだねぇ。正直あまりそう言う風に見えなくて」
見た目結構な量を抱えているからか、そう言われた。
重さはそうでもないが、量が嵩張って大変だ。
「よく言われますよ。正直花を育ててる方が性に合っていると思いますし」
「そうだね、その方が君には似合ってる気がするよ」
他愛のない会話をしながら通路を進む。
「根付対策室長!」
「ん?」
向こうから職員が話しかけてくる。
「すみません、少しお時間いただけますか?」
「全く、休む暇もないねぇ。すまないね、白浜君。少し行ってくるよ」
「はい、では僕の方で持って行きますね!」
「いや、君まだ道を──」
「お、根付さんじゃないですか。どうしたんですか?」
声のした方に顔を向ける根付さん。
「柿崎君!丁度良い所に!」
根付さんが話しかける。
その先には短い髪で柿色の隊服を身に着けてる、しっかりとした体型の男性隊員が居た。
落ち着いた雰囲気を感じる。
「何してるんですか、こんな所で」
「すまないが、少し急用ができてね。彼をメディア対策室まで案内してくれないかね?」
こちらに向けられる視線。
「了解っす」
「すまないね、それじゃあ頼んだよ!」
根付さんは早足で廊下を進んでいく。
「それにしても凄い荷物だな」
「あ、はい。メディア対策室に観葉植物をいくつか飾りたい、との事です」
「ん?これ以外にも荷物ってあるのか?」
「はい。車に積んでます」
「そうなのか。よし、俺も手伝うぜ!」
「え、いや、いいですよ!ちょっとの往復で済みますし」
「だったら尚更2人でやった方が早いだろ!」
爽やかな笑顔。
「すみません、ありがとうございます。」
そう言えば
「僕は白浜 兼一と言います、高校2年生です。よろしくお願いします」
少し目を開き
「俺は柿崎 国治、高3だ。よろしくな、白浜!」
─────────
それから柿崎さんと話をしながら荷物を運ぶ。
話していて分かった。この人滅茶苦茶良い人だ。
「そう言えば高校の入学祝いの花として、なんか良いのってある?」
「えーっと、男性ですか?それとも女性ですか?」
「女性だな。2人とも隊の一員なんだ」
「あ、でしたら────」
「結構力あるのな。何かスポーツでもしてたのか?」
「いえ、武術を少々」
「へー!格闘技かー!空手とか?」
「はい、それに加えて中国拳法、柔術、ムエタイですね」
「多すぎだろ!!なんか理由でもあるのか?」
「そもそも対人の模擬戦って怖いんですよ、僕!」
「あぁ、わかる。俺も最初は何でネイバーと戦うのに対人戦するんだって思ったし」
「そう、そうなんですよ!」
「…なぁ、なんでボーダーに入ったんだ?」
「街の人を守りたい、そう思ったからです」
「!!そう、か。そうだよな!」
─────────
全ての荷物を運び終わった。
とりあえず今できるのはこれ位かな?
一息をつくと同時に。
後ろから何かが近づく。
「うん?」
急に振り返るとそこにはジュース片手の柿崎さんが居た。
「格闘技やってるって本当なんだな!?漫画みてーな反応だったぜ!」
どうやら驚かそうとしたのだろう。
「悪い悪い。ほら、おつかれさん!」
「あ、ありがとうございます!」
ソファに座りながら貰ったジュースを飲む。
「……なぁ、白浜」
隣を見る。
真っ直ぐな視線。
「噂でおまえが女性だからと手を抜く隊員、って聞いたんだが」
「…それは」
片手で遮られる。
「あぁ、待て待て。おまえがそういうやつじゃないってのはよーくわかった。おまえは良い奴だ」
微かな笑み。
少し確信の色が浮かんでいる。
「だからこそ、何でそんな話になってるのか気になってな」
変わらない視線。
「実は──」
「なるほど、ね。香取がねー」
「そうなんですよ!それ以来女性隊員の視線が厳しくて厳しくて!!」
ついつい項垂れる頭。
泣き言の様に愚痴を言ってしまう。
「すまないな、香取も悪い奴じゃないんだが」
そう苦笑交じりに言われる。
別に柿崎さんが謝る事じゃないだろうに。
「いえ、まぁ、良いんですけどね。人の噂も七十五日って言いますし」
まぁ、その間が少し憂鬱なのだが。
「いや、そこは大丈夫だろ」
聞こえる強い断定。
顔を上げる。
訝しげな僕の視線に気付いたのだろう。
「なんたって」
強い確信の色を帯びながら。
「ボーダーには良い奴が多いからな!」
春光を思わせる笑顔があった。
照屋「ワートリ23巻に柿崎さんの良い所が詰まりすぎてて2万回見ました!」
隠岐「ウソつ、、いや、あり得るか」