どうして人間は理解し合えないのか。
どうして人間は受け入れることが出来ないのか。
どうして子は親を選ぶ事が出来ないのだろうか。
『神は二物を与えない』本当にそうであったなら、もっと違う家族と言う形であれたのではないか…
「う、動くな!? 良いか今からお前達ガールズバンドは俺の奴隷だ!! こ、この銃は本物だからな、抵抗したら容赦なんてしないからな!! 」
一人の小太りの男が鈍く光るそれを、煌びやかな衣装に身を包んだ少女達に突きつけ、同時に脅しをつける。
現実味をおびない情景に少女達はタチの悪い悪戯だと意に解さず再び作業を進める。そんな彼女達の状況に傍から見ていた一人の女性が少し困った顔をしながらも男に歩み寄り視界の真ん中に入り笑って見せた。
「すいませーん。お客様、まだライブの準備が整っていないんです。それとその様な彼女達を不安にさせるような悪質な悪戯はご遠慮くだ……さる…………と」
彼女は男を宥め退店させようと促したが、突如として首に当てがわれた一本のナイフに言葉を失ってしまう。
「お、お前には用は無いんだ黙っていろ!? 良いか、大人しく言う事を聞けないのならこの女の首を切り落とすからな」
男は女性を人質にとると少女達を一箇所に集めさせる。
「へ、へへへ……漸く僕の愛が報われるんだ。そうだよ最初からこうしておけば良かったんだ、いや、むしろあの子達は俺がこうしてくれるのを待っていたんだ」
男はねとりと音のたちそうな笑い方をすると人質からナイフを離しゆっくりと少女達の所へと近づいていく。
男の持つ欲に恐怖を覚えたのか女達は身を一層強張らせ身を寄せ合っていく。
「さぁ、みんな僕と一緒に愛を育もう。大丈夫、僕が振り撒いてきた愛の分君達も僕に愛を注いでくれれば良いからさ!? 」
男は欲望に塗れた笑みを火をに貼り付け彼女達に両腕を広げていく。
「巫山戯ないで……」
「は、今なんて言った? 」
「巫山戯ないでって言ったのよ! 」
灰被り姫を連想させる一人の少女が震える足を前に出し先頭に立ち。
「私たちは貴方一人の為に一度として演奏なんかした事ないわ。私たちが演奏するのは世界中に私たちの存在を認めてもらうためよ、勝手な勘違いを私たちに押し付けないで」
「友希那……」
友希那と言われた少女は自身の名前をよんだ幼馴染の顔を見ると一度だけ首を縦に小さく振る。
「友希那ちゃん、相変わらずクールで可愛らしいな。でもさー、ご主人様に対しての躾がなってないなっ!! 」
男は銃が握られている右手の甲を勢いよく彼女の頬に叩きつけ華奢な体を吹き飛ばした。
「友希那!? 」
咄嗟に幼馴染の少女が茶色のポーニーテールを振り乱しながら受け止めると気を失ってしまった友希那の顔を見て安堵し、代わりに男の顔を睨みつける。
「おいおい、リサちゃん。そんなに僕を睨まないでくれよ。怒った顔を素敵すぎて今にもその体を使わせて貰いたくなるじゃないか」
緊張がほぐれてきたのか、ただ単に支配欲が体を満たし出したのか分からないが彼の顔や声色には先程よりも躊躇いが無くなり今にも情欲に身を任せてしまいそうな風貌だった。
「元はと言うと君たちが悪いんだからね、僕を本気にさせといてからに。っと、それよりも見てよこれ」
「ひっ!? 」
男は自身の左手でズボンをずらすと下着越しだがハッキリとわかる逸物が脈を打つ。
薄水色の髪の少女が目元に大粒の涙を溜めながら一層体を小さくしてしまう。
男はより一層恐怖に染まっていく少女達に汚らしい笑みの皺を深くする。
「酷いな花音ちゃん。僕の大切な息子にそんな事言うなんて」
男はさらに下着に手をつけると見たくないと言わんばかりに目を伏せていく少女達に涎を垂らしてしまう。男に既にタガというものは存在せず、ただ支配者としてこの空間を楽しんでいた。
「まずは、誰から犯してやろ『おい、聞こえているのかアンタ』……っつ、だ、誰だお前は!? 」
愉悦に浸っていた男は、自身の背後に立っていた黒髪の青年に驚きを隠せず声を震えさせながら振り向き銃を構える。
「お、俺のた、大切な時間になにしに来たんだよ!? 」
『大切な時間? なんだ盛っている最中だったのか、それは悪いことをしたな』
青年は、日本人のみためをしながらも流暢に他国の言葉で答えていると会話が成立していなかったのか銃口を眉間に当てられる。
「なに言っているのか。わ、わからないんだよ」
『わからない? あぁ、ここはもうフランスじゃないんだったな』
青年は、向けられた銃口に顔色一つ変えることなく焦りを見せる男の現状に理解を示す。
「悪いことをした。此方も時間に焦っていてな、このチケットに書いてあった所と同じ名前の所に間違えて入ってしまったみたいなんだ」
青年は、男の視界にそれのみが映るように見せると辺りを見回すように首を左右に動かしていく。
「丁度いい、久方ぶりの日本で道が分からないんだ。良かったら教えてくれないか、このモルフォニカ? って言うバンドのライブ時間にはなんとしてでも間に合わなければいけないんだ」
男は、事の状況に一ミリも眉を動かさない青年に恐怖を思い出してしまう。
「死ぬかもしれないのに何でお前は冷静なんだよ、僕は本気なんだぞ」
男は脅しも兼ねているのか撃鉄ゆっくりと起こしバレットを回転させる。
青年もその動作で一瞬だけ眉を動かすと漸く、事の現状を理解したのか男の傍でナイフを突き立てられているスーツ姿の女性の方に目を向ける。
「災難ですね。てっきりそう言うプレイなのかと思ったら、唯の強盗だったなんて」
青年は、斜め上をいくセリフを吐くと男の顔を凝視する。
「それと。恐怖に打ち勝ったつもりでいるアンタじゃ、それで人を殺すのは無理だな」
「ふ、ふざけるな。ぼ、僕はお前達になんか怯えてなんかいない⁉︎ 」
青年は、震えのない声で淡々と理由を説明すると男はその姿に激情してしまう。
状況は明らかに青年の方が不利な筈なのに、青年はむしろ自分の方が有利であるかのように胸を張っており、逆に打てるのなら打ってみろと言わんばかりに威圧している。
そして銃は無慈悲に、引き金に力を込められ轟音を辺りに響かした。
少女達が短い悲鳴をあげ耳を塞ぐ。
「ふぇ…………? 」
だが、そこには先程と全く位置を変えていない青年の姿があった。
「アンタが殺せなかった理由は二つある。一つはアンタが弾薬の確認を怠った事だ。それは警察から盗んだ拳銃の筈だ」
「な、何でそれを、し、知ってるんだ⁉︎ 」
男は、再び拳銃を青年の眉間に向かって構えた。
「警察が扱う拳銃は一発目は必ず空砲だ。アンタはさっき目の前でハンマーを上げて弾倉を回転させていた、その時に運良くアンタの拳銃が次は空砲だって見えたんだ」
青年は相手の不意を突くかのように右手で銃口をすぐさま男の方向に向けると踏み込むと、同時に鳩尾に左拳を叩き込んだ。
「ゴフッ‼︎ 」
「二つ目、自分が圧倒的に有利だと思っている慢心」
男は、余りの威力の一撃に膝をつくと体を丸めてしまう。
青年はまるでムシを見るかのような目で男を見下ろすと、足を振り上げ男の後頭部を勢いよく踏みつけ、地面に鈍い音を奏でる。
「不相応の力を手にしてあたかも、自分の力だと思い込むのは人間の心理だ。だがその力はアンタ自身じゃなく、その物の威力によって出たまやかしだ。アンタ自身は何一つ進化してなんてない、ましてや人間が恐怖に打ち勝つ事なんて有りはしないんだ」
いや、聞いていないか。と青年は頭を起点に大の字に伸びていく男から足を退けると、ジャケットの胸ポケットから懐中時計を取り出し時間を確認すると踵を返すかのように女性の元に行き、先程と同じように一枚のチケットを見せる。
「此処の場所を知りたいん「ありがとう‼︎ 助けてくれてありがとう。本当に、本当にありがとう‼︎ 」…………」
青年は涙目になっている女性の勢いに負け言葉を潰えてしまうとなすがままに腕を握られ肩から上下に腕が揺らされる。
「あのね、もし君が良かったらなんだけど一番良い席でライブ見て行かないかな? 」
「ライブ……ですか。じゃぁ、ここでモルフォニカ? のライブは行われるんですか? 」
「そうだけど。それにしても今日が初ライブのバンドの名前なんてよく知ってるねー」
女性が顎に指をつけ考える仕草をすると、青年はあまり知られたくないのか、すぐに客席に案内をして欲しい頼み込み中断させると詮索はしない主義なのか女性も二言返事で了承すると彼を連れて奥の会場へと姿を消したのだった。
「凄い人だったな。色んな意味で」
「でも、すっごくキラキラしていた」
取り残された少女達は今はもういない青年の事で口をポカンと開けていた。気づいたら後ろにいて気づいたら犯罪者を無傷で返り討ちにしてた。
「取り敢えず、この人が起きる前に警察に身柄を引き取って貰いましょう。また人質にされるのはごめんね」
ブロンドの髪を腰まで伸ばした少女が少し足を震えさせながら気丈に振る舞い指示を与えていく。
だが、流石にすぐに動くの事のできる子達は少なく一部の少女達で役割分担をしていく。
「千聖ちゃん。この二つ預かっといて貰っていいかな流石に怖くて」
フロンドの少女は、警察に事の事情を伝え終わり通話を切ると名前を呼ばれたのか振り向くと、蒼髪をショートに切り揃えた少女に男が所持していた凶器を差し出される
「日菜、それは私が預かるわ。これ以上白鷺さんに負担を押し付けるのは良くないわ」
日菜と呼ばれた少女は自身と瓜二つの髪の長い少女に、お姉ちゃん良いの? と聞くと少女は無言で腕を伸ばし頷いてみせる。
「なら、紗夜ちゃんお願いするわね。なら残る仕事としたら」
千聖は同じく人質とされていたメンバーの中から純白の衣装を身に纏った五人グループの元へといくと今しがた自身らを助けてくれた人物の知り合いはいないかと尋ねる。
三人の少女達は一同に首を振るったが奥で何か思い詰めた顔ような表情をしている少女達に全員が視線を集中させた。
「瑠唯ちゃん、やっぱりあの人ってーーーー」
薄桃色の髪を二つ括りにした少女が青年と同じ髪色をした少女に同意の言葉を投げかると瑠衣は頷いて見せた。
「兄さんだと思うわ。三年ぶりに会うからはっきりとは分からないのだけれど広町さんもそう思ったのなら、きっと」
瑠唯は手に握られているヴァイオリンを悲しい目で見つめる。
「ならその彼の名前を聞いても良いかしら」
「それは……」
瑠唯は、何か後ろめたく言い淀んでしまう。
「征、八潮征君だよ」
瑠唯が口を開く前に、ピンクの髪をした少女が千里のそばに歩み寄るとそう言った。
「彩ちゃん、彼のこと知ってるの? 」
「うん、フランスで有名なヴァイオリニストなんだ」
その言葉に一同の視線が彩に集中する。
「ねぇ、千聖ちゃんは覚えてる? 私達が中学三年生の時、吹奏楽部が部長を不参加でしたラストコンクールの話」
「えぇ、確か当時の顧問が部員と部長の技術が余りにも離れているからって舞台裏に待機させてラストコンクールに参加させなかった話よね。あの後、吹奏楽部の人から聞いた話だと部長以外の全員がその方針に賛成したって言ってたわ」
千聖にとっても三年前の話だと言うのに事件性が事件性だったのか鮮明に覚えておりすんなりと話題性に厚みが増す。
「でも、あれって教育委員会から指摘を受けて別で演奏会を行うことで収まった筈よね」
「そうだよ、あの時の演奏は本当に凄かったんだーー」
自分語りの様に征の事を話していく彩に千聖もまた無知よりも少しは理解しておこうと彩の言葉に唯、笑顔で相槌を打っていった。
それからと言う物は延々と話し続ける彩を他の少女達が代わり代わりで到着した警察官の事情聴取とともに聞いていき、ライブ開催時間の十五分前まで続くのだった。
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