ガールズバンドとヴァイオリニスト   作:アリアドロス

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お待たせしました。
生きてます。
少々、紗夜さんには申し訳ないことをします。


悪魔の狂奏曲

 ステージに上がればスイッチが入るなんて言葉が一部の人間にはあるらしいが、そんな人間めいた感覚は持ち合わせていない。

『さぁ、楽しもうか』

 自身が手に入れた音楽に対する究極の答え。

 他者を頼らず、他者を信じない。

 一人でのみ構成された重奏。

「凄い集中力ですね」

「ふぇぇ、何だかこっちが緊張しちゃいます」

「……そうね」

 彼女達から見れば対となる存在、常にカバーする事を意識した音楽ではなく、ミス一つ許されない機械的な音楽の延長線。

 色はいらない、匂いもいらない。

 音楽は生き残る為の戦場だ、構えた時点で自身は人を殺す一つの機関銃だ。

「構えたわね」

「そうですね」

「うん、かっこいいねーー」

 赤いヴァイオリン、血を彷彿とさせる深紅の色。瑠衣ちゃんが言うにはあのヴァイオリンは征君がフランスに行ってから手に入れたと言っていた。

 悪魔の奏者ーー彼の音楽はネットで少し調べれば簡単に上がっているほど有名だった。誰よりも美しく、誰より力強く、誰よりも気高く、そして誰よりも孤高。

「千聖ちゃんは、征くんの音楽を聴いた事があるんだったよね。どう言う感じだったの? 」

「どうって言われると難しいわね。感覚的な話で良いのならーーそうね、何も無い宇宙空間に一人放り出される感覚、かしら?」

 花音の言葉に千聖はイメージしやすいように表現すると、紗夜にはイメージしにくかったのか眉を少し寄せ考える仕草を取る。千聖も流石にこれ以上の表現の仕方が無かったのか、後は聞いてから想像してと付け加える。

 彼女達とは裏腹に純粋に音楽を楽しみにしていた人々が拍手をしていく。間としては数秒だったが彼女達には十分に切り替わったのか音楽に集中する体勢を整え自身らも拍手する。

 拍手が止むと、征は数拍タイミングを置き、掴み程度の音楽を辺り全体に鳴り響かせ始めた。

 重音の無い軽やか演奏、はっきりとした音を立てる事なく静寂で掴みどころの無い音で、流れる川を彷彿させるメロディーを奏でる。

 硬い表情をした者は居なくなった、掴みは完璧だ。

 心の中でそう頭に理解させると征は、演奏をピタリと止める。

「何で止めちゃうんだろう? 」

 花音は微睡の中にいる様な心地良かった演奏が急遽止まったことに疑問を抱く、他の観客達も同様だったようで少しざわつき始める。

 だがその瞬間、会場全てが揺れた。

「「!!? 」」

「……」

 音が鳴り響いた瞬間、足元から伸びた黒い手に心臓が鷲掴みにされ、握り潰された。

 否、正確にはそう錯覚した。足元には何も無い、しかし心臓は漸く身体に戻ってきたと言わんばかりに激しく鼓動を打ち、呼吸も慌てて再開している。

「ーーーー」

 シューベルトより『魔王』 

 誰もが教科書で一度は目にした事がある彼の代表作であり、世界的にも人気のある名曲である。本来この曲はピアノと歌声部によって完成させられる。

 編曲によってヴァイオリン用に大幅に書き換えられているが本質である、迫り来る魔王を重音と僅かながらの軽音を使い多重演奏で表し、疾走感も消さない様に表現している。

「……私の時と違って随分と手抜きなのね。演出目的で選曲したって言っていたけど力を入れたのは一節目だけじゃない」

「千聖ちゃんは何ともないのーー」

「えぇ、個人的に色々あったから」

 額に汗を浮かべ、息を僅かに乱れさせている花音に千聖はそう答えると自身が持っているハンカチを差し出す。

「青と黒、金のタータンチェック、ですか? 」

 花音がそれを受け取ると、ハンカチの柄に目が入った紗夜は少し疲れた顔をしながらも彼女に問いかける。

「私らしくないと言われたら否定できないんだけど、惚れた女の弱みってものかしらね」

「ーー人は、簡単に染まっていくものなんですね、自分もそっち側に行こうとしているので余り強くは言えませんが」

 会話をしている内に曲は終盤に入っていく、魔王は元々がそんなに長くなく四分半で終了する。だが、僅かなその時間で彼は満員のホール全てを魅了した。

「終了しましたね、これが悪魔の奏者と言われている彼の実力ですか……本領を発揮していないのに此処まで頭の中で余韻が残るとは」

 まさに悪魔と言って差し支え無いと紗夜は心の底からそう思った。

「………………」

 一曲目は滞りなく演奏終了。次は何を演奏するかはーー特に考えてなかったんだが……少し今回のことで千聖達に詫びを込めて何か彼女達のPR演奏をしてやろうか。余り彼女達からしたら気の良いものでも無いかもしれないが音楽は実力の世界、売れなければ消え、技術あるものだけが生き残る。

『うん、少々コンサートには不向きの曲だがアンタ達の持ち曲を選定がてらに演奏しよう』

 征はフランス語でそう呟くと先程の重みのある軽音と深みのある重音とは違い、まるで翼が生えたかの様な軽音と重音を奏で始める。

「Sprechchor!? 」

「えぇっ!? でもこの曲ってヴァイオリンでの譜面はーー」

「勿論ありません。この曲は私達のオリジナルですし、Roselia のメンバー以外に楽譜なんて見せた事はありません。つまりは、ーー」

 つまりは、彼は一度聴いた曲を一音一節、音として暗譜し、変換できると言う事。

「白鷺さん、彼はこの曲をいつ練習していたのですか? 」

 彼女なら知っている筈だ、いくらモルフォニカの演奏を聞いてから妹と共にヴァイオリンで演奏していたとは言え、今回の難易度は前回の物より比べられない程に遥か上である。

 紗夜は再び心臓を掴み込まれた気分に陥った。

「ーーしていないわ。確かに彼の練習風景は何度も観てはいるけど、クラシック以外は仕事では使わないから譜面を忘れかけた時以外に弾く理由がないって……」

「譜面を忘れかけた時、だけ……」

 人の脳内は約二千万冊分の本が入るとされているが、主に音楽などは短期記憶に部類され保存できるのはごく数日でいつ忘れたか何て把握できない、ましてや一度のみ聴いた曲など欠け放題も良いところのはず。なのに彼は一音一節間違いなく弾いて見せている。

 その時、不意に私の首筋が冷たくなった。

 誰かが耳元で笑った。私の背後で私の何かを見定めるかの様に、触り、舐め、そして視姦する。何故かそれがはっきりとわかった。

 悪魔だ、悪魔が私を殺そうとしている。

「ーーちゃん、さーーちゃん、紗夜ちゃん!! 」

「っつ!? 」

 花音の言葉に紗夜は現実世界に引き戻された。

「気をしっかり持って! 」

 花音は青ざめ消えていこうとする彼女を必死に繋ぎ止める。

「自分の音楽を捨てちゃ駄目だよ!! 」

 多分、この光景は征くんからすればその程度の人間には興味を持つだけ無駄であり、此処で消えるなら物教えるに値しないのかもしれないと思ってるのだろう。

 止めないといけないのは心では解っている。千聖ちゃんもそう思っているだろうが、それをしないのは私と同じで何か訳があるから。

 私は唯、征くんを見つめ続けることしかできない、今の征くんは無くした感情を探し求め続けて、悪魔の三叉を振り回す存在に見えたから。

(紗夜、アンタはこの程度で心を揺るがすのなら、アンタは教えを乞うべきじゃ無い)

 潰れるなら勝手に潰れてしまえ、癒えぬ傷となるなら一生その傷を抱えて漠然と生き続けろ。他者を蹴落とし、殺し、死体を踏み、それを積み上げる。音楽は常に非情であり、無情の世界だ。

 まるで呪いが暴走したかの様に止めどなく溢れ出る形容し難い黒い液体が、自身の思考と体を支配していく。征は何かを諦めたかの様に壊れゆく紗夜の姿を目に入れながら音楽に身を委ねていく。

 曲は既にサビを通り過ぎ、ラストに駆け上がっている。

「征君」

 観客席の中で誰かが彼の名前をこぼした。

「駄目だよ、征君。それ以上はーー」

 無意識の内に体が動く。あの河川敷での思い出がそうさせるかの様に。

「征君!! 」




漸く、四人目が出せました。
ギャルゲーとかならありえないレベルでしょうね
ところで評価ってどうやって付くんだ?

豆腐?

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