ガールズバンドとヴァイオリニスト   作:アリアドロス

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あれ?
迷走してる気が……


密をなくした幾月の重ね方

 六年前まだ夏が抜けきれないあの時、私と征君は学校近くの河川敷で出会った。

 私がまだ中学一年生でクラスメイトでも無かった頃、偶々通りがかった河川敷でボロボロな制服を着てずっとヴァイオリンを弾いていた彼に私は目が離せなかった。

「あの……素敵な音色ですね」

 自分でも何を言っているのだろう、初対面の人に声をかけるなんてどうかしている。

「うん? あぁ、ありがとう」

 この時の征君はまだ自分にも光はあると信じている目だった。

 彼は私に声をかけられるとヴァイオリンの演奏を止め、こちらに微笑んでくれる。

()は丸山 彩だったか。ヴァイオリンが気に入ったのか? 」

「私の事知っているの? 」

 この時から私は既にアイドルは目指していたが、残念ながら学校は愚か、クラスでさえ知名度は薄かった。それなのに彼は私の事を知っていてくれたのが少し嬉しかった。

「あぁ、同学年にアイドルを目指してる可愛い子が居るって聞いてね。部活仲間と見に行った事があったんだ」

「そうなんだ。で本人を見た時どうだった? 」

「生憎と僕はアイドルの事をよく知らないんだ、他の連中達は可愛いなんて言っていてかなり好評だったのは確かだが」

 彼は私にそう言うとヴァイオリンを大事そうにケースにしまうとそのまま地に腰をつけた。

 私も彼に習い腰を下ろすと、彼の顔を見つめる。細く上がった目つき、それに合わさった端正な顔立ちに少し伸びたアンバランスな髪、顔は少し痩せて、やつれてはいるがそれでも女受けする顔立ちだった。

「君からの私はどうなの? 」

「さぁ? 僕は中学一年までのクラスメイトの女子以外知らないから君が綺麗なのか可愛いのか全く分からん」

 彼の発言に彩は少し疑問を持ったが、どことなく消えて無くなりそうな彼に儚げに感じてしまいどうでも良くなってしまう。

「じゃぁ、その中で私は何番目ぐらいにいるかな? 」

「一番、かな。上手く表現できないが彼女達の中で君が一番挿絵として入りやすい整った顔立ちをしていると思う」

 彼は少し歯痒さそうに照れると、自身の左側に置いたヴァイオリンケースの手持ちで少し遊んでしまう。

「そっか、ありがと」

 青年の独特な言葉の表現に彩は確かな意図を感じ取ると、彼女は花が咲いた様に笑ってみせる。

「ねぇ、良かったら名前教えてくれないかな? 私だけ知らないのはなんだか不公平に感じちゃって」

 当然と言えば当然である、彼にとっては知る人間で彩にとっては先程会った初対面の人でしかない。会話を重ねれば自ずと気になってしまう物である。

「征」

「……」

「…………」

 えっ、それだけなの。名前を聞いたら普通は自己紹介までするのが流れなんじゃないの!? 

「じ、自己紹介もして欲しいな、なんて」

「うん? あぁ、それは悪かった。二組の八潮征、吹奏楽部のドラムをしてる」

 征は右手を差し出すと彩も左手でそれに応じ、握手の形を取る。

「ヴァイオリンを持っているのにドラムもできるんだね、何でも出来るって羨ましいな! 」

 持ち上げる気持ちをなく征に称賛をすると、逆に征は彩に対し少し困った顔をする。

「そう言ってくれるのは有り難いが、できれば先輩達も含めて他のメンバーがいる時に褒めてくれると嬉しいかな」

「どうして他の人もいないといけないの? 」

 彩はそんな中で褒められたいのは分かるが、嫉妬を買わないのか心配になってしまう。

「僕はまだ補欠だ、先輩達の足元にも及ばない。確かに音楽は努力をすれば上達するそれを知っていると思う君が、先輩達の音楽を聴いたらきっと感動したって褒めてくれると思ったからさ、単純な考えだったかな? 」

 音楽は世界を変える、彼にはそれが一番似合うと感じた。音楽を心から愛して、仲間の音楽も心から信頼している。こんな人がプロになるんだろうな。

「ううん、そんな事はないよ。私もアイドルを目指してるからーー」

 ほんの何気ない出会いだった、一目惚れと言われれば否定できてしまう小さいもの、お互いが共通する価値観と境遇を持った友人、それが私達の最初の関係だった。

 人は支え合って生きていき、切磋琢磨しあうもの。努力をすれば長い年月を重ねる事で必ず報われる。

 征君があの日を迎えるまでは……

 帰ってきた征君はあの日と一緒だった。

 誰も信用しない、自分を裏切らない者と判断した人だけ側に置いてお互いの価値観を押し付けず、侵蝕せず、距離感を許す場所のみ開き、害悪となすもの裏切った者は排除する。

 あの日の私はそうなった征君を止められなかった。いや、怖くて逃げたんだ。

「駄目、もう駄目だよ!! 」

 あの日から吹奏楽部の子達は音楽を辞めた。二度と音楽はしないと言って引退組のみならず一、二年生も全員退部してしまい、事実上吹奏楽部は廃部になった。

 顧問だった先生も責任を取って辞職した。

「征君、征君!! 」

 彩は観客に目もくれる事なくステージへ目掛けて駆けて行く。

 本来ならイラギュラーな存在に視線が集まる。しかし、観客達は彼の元へ駆ける少女には気付く事は無い、彼の演奏で心を奪われてしまい、彼の音色以外に意識が向かなくなってしまっているのだ。

「そこまでよ彩ちゃん、彼のコンサートをの邪魔はよして 」 

 ある一人を除いては

「何で、千聖ちゃんがここに居るのーー!? 」

「その言葉悪いのだけれど、そのまま返してあげるわ」

 その場に立ちはだかる千聖に彩は驚いてしまい足を止めてしまう。

「彩ちゃん、大人しく元の座席に戻って頂戴。さもなくば、私もお仕置きじゃ済まないわよ」

「!? 」

 千聖発言は常識を知る人間の当然な発言である。だが彩にはそれが何より恐ろしく感じた。

 お仕置きが怖いわけでは無い、怖いのは千聖本人である。自身が知る千聖では無い感覚、そこに居るのはあの日、自身が背を向けてしまった征に見えた。

「嫌だよ、ここで私がまた逃げちゃったら、征君を一人にしちゃう!! 」

 あの日には戻れない、自分はこの三年間ずっと後悔して生きてきた。だから救えるのならとずっと機会を伺ってきた、引き下がるわけにはいかない、好きな人には笑っていて欲しいから。

「そう、なら私にも考えがあるわよ」

 千聖は手に持っていたポーチを開けると中から二つの黒い物体を取り出す。

「もう一度警告するわ、お願いだから征の邪魔をしないで。いくら彼の幼馴染である彩ちゃんでもやっていい事と悪い事があるわよ」

 そう言った千聖は彩に対して身構えると片方の物体の赤いスイッチを押し、先端部分に青い電流を流す。

「海外製のスタンガンだから当たったら、タダじゃ済まないわよ」

 お互いに引き下がれない、対面しているのは良く知った中の友人。

「千聖ちゃんはおかしいとは思わないの? 音楽は夢と希望を与える物なのに、この音楽で苦しんでいる人が何人もいるんだよ! 」

「それでも私は征の音楽を肯定するわ。この世は実力主義、弱い者が死んで強い者が生きる。征の苦しみを与えるのは消えてなくなるべきよ」

 征の音楽も間もなく終わるだろう、スタンガンの電音も征の音楽にとっては飾りとして存在を消され、観客達のアクセントになる。

 二人は同時に駆ける。

 片方は好いた人間の過ちを止めるために、片方は大切な人の歩みを止めさせないために。

 彩はフェイントで千聖を抜き去ろうと身体を斜めに向ける。

 瞬間、千聖は身体を傾けた彩に対し、もう一つの黒い物体を彩に向け突き出すと、眩い光を彼女の目に向けた。

「きゃっ!!? 」

 彩の視界は一瞬にして奪われた。千聖にとっての好気、勢いのままスタンガンを彼女に突き出す。

「もういい、それ以上はやり過ぎだ千聖」




豆腐

豆腐?

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