ガールズバンドとヴァイオリニスト   作:アリアドロス

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なんか、難しいな考えるのって


優しき表紙

「じゃぁ、僕は瑠唯と同じヴァイオリンのパートを演じるから君達は今日引いたオリジナルの楽曲をどれか一曲決めて演奏してくれるかい」

「えっ、でも私たち今日初ライブでいくらプロでもぶっつけ本番じゃーー」

 黒髪を後ろにツインテールでまとめた少女は自身の体格とは反対にリーダーらしく、征の言葉に異議を唱える。他二人も自分達の曲に今回のライブで自信が持てたのかその異に賛同する。

「大丈夫、お兄ちゃんは常に君達の見本でいないといけないからね」

 征はそう言うとバイオリンを構えると目を見張る速度でモルフォニカが行ったライブ曲の前奏を奏でていく。

「うっそー」

「流石、瑠唯さんのお兄さんって感じがしちゃうね……」

 驚愕の声を上げる一部の中、苦虫を噛み締めたような顔をしてしまう瑠唯は一度深呼吸を行い、普段通りの落ち着きある顔を作り口を動かす。

「Daylight でお願いするわ」

「いいよ、妹の頼みを聞くのがお兄ちゃんの務めだからね」

 瑠唯の言葉に心地良く承諾すると征は他のモルフォニカのメンバーに視線を向けた。

「しっかり瑠唯の音を追いかけるんだよ」

 征の意味深な言葉にステージに立っていない一同も疑問に感じながら、ドラムであるリーダーがリズムを取り始める。

『さて、楽しむとしようか」

 征はそう言うと瑠唯と同時タイミングで音を流れるように重ね合わせる。他の少女達も呆気に取られながらも自身のタイミングでどんどんと合流し始めていく。

「ーーーつ!? 」

「凄いわ、聴いているだけで踊りたくなっちゃう!! 」

「あぁ、なんて儚いバイオリンなんだ」

 彼の演奏レベルの高さに外野は各々舌を巻いてしまう。

 たった一度聴いた曲を弾き間違えなく完璧なタイミングで弾いてみせ、尚且つまだ余裕が有るのか所々で歌詞を口ずさんでいる

 外野も盛り上がりが最高潮になりうる曲のサビとなる中盤に差し迫る頃、征はメンバーの顔色をぐるりと体を軸に回りながら確認するとそろそろかと心の中で呟くと、自身に必死に喰らい付こうとしている瑠唯を傍目に征は譜面通りの音と譜面には存在しない音を重ねあわせながら弾き始める。

「くつ!?」

「あ、あれ? 」

 モルフォニカのメンバーは思い掛けない音にリズムを崩されながらも思い通りの演奏を奏でていく。だがその直後、ボーカルで有る少女が全身から力が抜けたかのように口を押さえながら膝をつく。

「ましろ!? 」

 倒れるメンバーに驚き、ベースで有る今時の金髪の少女が近づこうと試みると、その瞬間少女は何が起きたのか分からないような顔で頭から受け身を取らず転倒してしまう。

「えっ、うそっ!? な、何がどうなってるの? 」

 そう言った少女は自身の両手に握られていたステッキは根本から折れてしまい、息も絶え絶えになってしまっている。

「これは一体ーー」

「単なる息切れだよ。この子達は勘違いして瑠唯の音ではない物で演奏していたんだよ」

 紗夜の言葉に割って入った征は倒れ込んでしまった少女を優しく抱き上げると頭をポンポンと撫でながら謝罪する。

「息切れ、ですか? 」

 あぁ、と返事した征は次に白髪の子とリーダーの子に、何処からか未開封の水のボトルや折れたステッキ代を手渡す。

「何も難しい事じゃない、彼女達が聞いていた本来の音より幾らか上の音色をアップテンポとアドリブを入れてリズムを崩してやっただけだ」

 征はする事は完全に終わったと壇上から降りるとテキパキとヴァイオリンをケースにしまい体を伸ばす。体を限界まで伸ばし切った征はそのままヴァイオリンケースを片手にスタジオの出口へと行き、瑠唯達に一瞥もくれる事もなく、その場を後にした。

 静寂の空気に包まれていく中、煌びやかな衣装を纏った一人の金髪の少女が射殺すかのような目で出口をただ見つめているのだった。

 ライブハウスを出れば日は既に沈み込んでおり、家路へと足を忙しなく動かす大人達が遠目から見える。征も彼らに習ってゆっくりと足を動かしながらそこに合流し、波に流されていくと一つの小さな公園が目に映った。

 目が何故か離せなかった征は波から抜け出し、その公園へと入っていくと二つある遊具を通り越し、二人がけのベンチの真ん中に腰を下ろす。

「随分と慣れた演技だったわね。貴方俳優にでもなったらどうかしら? 」

「ーー誰だ、アンタ」

「白鷺千聖、パスパレのベースをしていて現役の女優よ。さっき会ったはずよ」

 征は思い出す素振りをするとダメだったのか知らないと首を振り、目の前の千聖も、でしょうねと肩をすくめる。

「早速で悪いのだけれど単刀直入に聞くわ。貴方、今日会った人の名前覚えているかしら? 」

「当たり前だろ」

 千聖の質問に何を言っているんだと言わんばかりの口調で話すと口角を少し上げた。

「なら答えてくれるかしら、ロゼリアのキーボードの名前の子は誰」

 征はその言葉に先程の笑みが一瞬にして崩れ真顔になると体をベンチの左端に寄せるとズボンのポケットからハンカチを取り出し、右に引くと座るように促す。

 千聖も征の意図が理解できたのかハンカチの上に腰を落とすと彼の方へと向き直す。

「先に言うが彩には内緒にしてくれ、もし守れないのなら今からでもシラを切る」

 千聖はその言葉に首を縦に振ると二人にしか聞こえないせい声量で口を開く。

「あなたの演技は大したものだったわ。理想的な兄、理想的な性格そして理想的な人との関わり方……役者じゃなかったら絶対に気づかないと思うわ」

 最初は私もわからなかった。だけど彼が友希那ちゃん達と話している時に鳥肌が立ってしまった、彼は考える素振りをしていたが答えはその逆で鼻から彼女達の音楽なんてどうでも良くて、口から出まかせを言っただけ。彼は正真正銘、妹達の音楽を聴きに来ただけで最初から彼の内にはRoseliaメンバーなんて眼中になかった、いえ興味なんてなかった。

「アンタは何処まで瑠唯から聞いたんだ」

「瑠唯ちゃんは何も話してないわ。彩ちゃんが話してくれたの」

「なら、生い立ちから話すべきだろうな。彩もこの事は知っているから知りたい奴には言いふらして貰っても良い」

 征の言葉に千聖はお言葉に甘えてと言い自身のスマートフォンを録音機能にして二人の間に置いた。

「端的に言うと僕は生まれてこの方、親の愛情なんて物を知らずに育ったんだーー」

 その日、征の初めて使う一人称に事の重大さを理解した千聖はその日、ただ無言で聴き続けることを心に誓った。




また二週間以上空いた。

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