日本に帰ってきて早一ヶ月半、彼女はほぼ毎日来ている。無論オートロックの指紋認証で部屋が開く様になっているが、初めて入った人間の家の物に指紋登録してくるのは盲点だった。
「千聖、今日も泊まっていくのか? 」
呼ばれた本人はこちらを振り向くと首を横に振るう。
「流石に今日はご飯を作ったら帰るわ、明日は花音と一緒にホールへ向かうつもりだから」
彼女はそう言うと、エプロンを身につけ冷蔵庫から食材を取り出していく。
「なら車を用意させておく」
「そうして頂戴」
征は傍目で彼女が包丁を動かしていくのを見ると、ソファに沈めていた自身の腰を上げ、玄関まで向かい備え付けの電話の受話器を取る。
数秒もせずに呼び出しに応じた電話越しの存在といくつか言葉を交わすと征は受話器を置き、再びリビングのソファへと身を沈めていく。殺風景な部屋に唯一ある征の個人的に選んだ所有物、基本は寝泊まりにしか使わないと思っていた為、家具は備え付けので十分と判断し、安眠さえできればとわざわざフランスから取り寄せた一級品だ。
「…… ……」
微睡が深くなる。こうして誰かと物を囲って食事するのは一種の憧れであり遠いものだった、きっとあの時に決断できずにいたなら、もっと最悪のことになっていたのだろう。
そう考えていると、意識がぷつりと切れた。
「征ーー?」
あれから一時間近く経った千聖は料理をテーブルに並べていくと、何処か安心した表情でソファで寝息を立てている征に目が行った。
彼の家に居付いてから一ヶ月経って初めて見る。離してしまえば何処か遠くへ飛んで行ってしまいそうな彼を、繋ぎ止めておきたくて我ながら大胆な行動に出たと思う。
「……彩ちゃんに見つかったら口論じゃ済まないわね」
千聖は溜息を一つ吐くと何も知らない本人の体を優しく揺り起こそうと手を伸ばす。
「っ!?」
だがその瞬間、征はまるで怯えるかの様に彼女の腕を掴んだ。
「きゃぁっ!? 」
「ご、ごめん!! 」
征は腕の主人が千聖である事が分かるとすぐ様に手を離す。
「悪気はないんだ。僕を許してください」
「悪気があったら、それこそ問題でしょ」
千聖は掴まれた腕を
「話したくなったら話してちょうだい。それより先にご飯にしましょ」
千聖は立ち上がると、震える征の手を引いて食事の並んだテーブルの椅子に座らせると、台所に入り棚からグラスを取り出し氷と水を入れ戻ってくる。
征は千聖からグラスを受け取ると、それでゆっくりと喉を潤していく。
「ご飯、食べられる? 」
カランと音を鳴らし、水を飲み終えた征は一度重い息を吐き千聖の顔に視線を向けるのだった。
「すまない、取り乱した」
千聖はいつもの彼に戻りつつある事に少しばかり安堵すると、まだ僅かに震える彼の手にスプーンを握らせる。
「助かる」
「チケット代だから気にしないで」
征がゆっくりと食を進め始めていくと、千聖も自分の物に手をつけていく。
そこからの二人に会話は無く、ただ黙々と全て甘く味付けられた料理を食していくのだったーー。
「ーーそれじゃぁ、明日がんばってね」
「あぁ」
千聖の言葉に征は一言だけ応える。
千聖もそれ以上求めていないのか、彼の返事だけを聞くと玄関の扉を開けて出ていく。
「…………ふぅ」
千聖が外のスタッフと共にいなくなる気配を感じると、征はそのまま膝から崩れていく。
気を緩めすぎた、まさか他人の前で眠ってしまい、そのうえ自分に戻りかけてしまうなんて。
征は噴き出た粘りつく汗に嫌気を差しながら、内心で感情を抑えつけるのだった。
「ごめんなさいスタッフさん。毎回のことながら送ってもらってしまって」
「いいえ、これも仕事ですので」
千聖の発言に運転手は事務的な発言を返す。
「明日はコンサート会場までお送りする様に承っておりますので此方までお迎えにあがります。会場はドレスコードがございますのでお気をつけください」
「わかりました」
千聖が車に乗り込むと運転手は直ぐに扉を閉め一礼だけすると、自身も乗車し
千聖は座席に背中を預けると、征の姿を思い浮かべる。
あの時の彼は正常では無かった、まるで別の誰かが入れ替わって居たようだった。
「孤独って、ああも人を歪にしてしまうのね」
流れ行く街の風景に溶けていく声で口を動かすと、無性に涙が出てきてしまう。
泣きたくても泣けなくて、笑いたくても笑えなくて、なのに生きようと必死に自分を偽ってる彼を見ていると、自分の無力さに涙を浮かべることしかできないそんな自分が悔しくもあった。
「私も孤独だったら彼の側を寄り添えるのかしら……」
「不躾ですが、それはお辞めになった方が宜しいと進言致します」
涙を啜り続けるだけだった空間に運転手が千聖の独り言に否定を入れる。
「征様は決して一人を望んで独りになったのではありません。あの方はどんな形でも良いから少しでも誰かに振り向いて頂きたくて、呪いの様に自身を偽っておられるのです」
運転手は車を停めるとボタンを押し、千聖が乗っている座席側の扉を開く。どうやら長い間泣いてしまっていた様だ。
「今のあの方には人として繋ぎ止めてくれる誰かが必要なのです」
「それが私ですかーー」
「存じ上げれません、ただ千聖様もその一人ではあるのではと」
運転手の当たり障りのない言葉に千聖は僅かだが救いを得たのか視線を前に据えながら、車を降りると運転手に礼を述べ車の扉を閉めた。
感想などお待ちしております。作者は豆腐メンタルなので書いているとき面白いのか不安になります
作者ーー
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GOMI
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はよ書け
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死ねー!!
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変人
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神だー!