アウトロー。それは無法者と呼ばれるならず者と呼称する。
ではその無法とは何か。文字通りの意味であるなら、それは法律を無視する野蛮人だということだ。
この法律を無視するって行為が私にはあまり理解できないわけでして。
まぁ、要するに……。
「アウトローってなんですか?」
「……あんた、本気で言ってるの?」
私が感じるアウトローと言えばエンリさんなので、彼女に質問すれば何かしら分かるだろうと思ったんだ。その答えが、
「知るわけないじゃない」
という辛辣そのものな返事だったことを聞けば、私がどのようにどん詰まりかが分かってしまう。
分からないんだ、アウトローってどうすればいいのか。
「だって、エンリさんの格好を見れば分かりますよ! どれだけ辛く険しい修行を積めばその極地に至れるんですか?! 極みりたいです!」
「動詞にしないでもらえるかしら」
いやだって、長いツインテールはまだしも、黒いマフラーにボロボロのコートを見れば分かる。この人は無法者なんだと。私は詳しいんだ。昔の赤いマフラーにボロボロのコートを着て、黒いゲッ◯ーに乗っていた人間がどういう格好だったか知っているんだから。
それに機体からしてかなりアウトロー、というかダーク寄りの見た目をしている。
19歳の女性がかっこよさだけを詰めた悪魔のようなガンプラを作るわけがないんだから。
そう、エンリさんにはアウトローの素質がある。それを私は学び取って自分のものとしたいのだ!
「だからこのとおりです!」
「ちょ、公然の場で土下座なんてするんじゃないわよ!」
「いえ頭を上げません! 教えを請うためには相手を困らせるまでお願いしろって死んだばっちゃが言ってました!」
実はご存命です。ごめんなさいおばあちゃん。
それはともかくとして、両足を折りたたみ、両手をハの字に開きながら深々と地面に額をこすりつける土下座をしたのは初めてだ。だけど、意外と必死さを込めていればそれなりの出来になるのだろう。エンリさんは困ってるし、なんなら周りも反応も少し妙だった。
「見ろよ、バードハンターがわんこを土下座させてるぜ」
「何あの子、女の子に土下座させて楽しいのかしら?」
「うわ、スクショ」
「あぁあああああ、もう!」
その結果はと言えば、私の犬耳根っこを掴まれて、そのままエントランス・ロビーエリアからカフェテリアへと移動するハメになった。おばあちゃんの言っていたことはどうやら正しかったらしい。ありがとうおばあちゃん、今度遊びに行きます。
ソファ席に座らせたエンリさんはコーヒーとオレンジジュースを注文して、そのまま対面席に座る。いつもよりも数倍不機嫌そうだった。
「ホント、あんたと絡んでると退屈しないわ」
「褒めてます?!」
「褒めてない。貶してる」
乙女心とエンリ模様は複雑らしい。
私も突然目の前で土下座されたら流石に戸惑うだろうけど、今の今までアウトローについてのいろはを学んでなかったのだ。同じフォースのよしみで教えてはくれないだろうか。
「そもそも……いや。考えたら普通に分かったわ。あんたはわたしに憧れてアウトローになりたいと」
「うっす!」
「それやめて。気持ち悪い」
「はい……」
どうやらエンリさんには運動部系のノリは苦手みたい。メモメモ。
バッドガールを作ったきっかけも、エンリさんのゼロペアーに憧れて、というのが近しい。暴力的で無法で何でもありの戦い方は、ある種私にはないものなのだから憧れるなと言うのが難しい話なのである。
それだからエンリさんの動画を繰り返し見てたし、ミッションなどを利用して真似を試みたこともある。結果は慣れない戦い方をしてしまってスコアCを取れればいい方だった。
「マフィア系の映画とかドラマは?」
「見ましたけど、ちょっと怖いなって」
「任侠系は?」
「怖かったです。特に大声が」
「はぁ……」
盛大に呆れられてしまった。何が悪かったのだろうか。
パイレーツオブなんちゃらも見たし、海外のマフィア系列や、国内の任侠物も総じて言えるのだけど、私にあれは向いてない。血を見るのは平気だけど、声の大きさや張り方。やってることの残忍さなど、アウトローだからかやることをとことんやっているのが、怖くてたまらなかったのだ。
だからエンリさんに聞く。何も間違っていないと思う。
「だいたい、そんなのはノイヤーに聞けばいいじゃない。あいつなら答えてくれるでしょ」
「ダメですよ、あの子はお嬢様なんですから! 一応……」
本日の昼食であるサラダチキンとトマトジュースは、この際置いておくことにする。
「お嬢様だからって、汚いを知らないわけじゃないでしょ。むしろ知ってて然るべきだと思うわ」
「そうでしょうか。もっときらびやかで美しいのがノイヤーさんの真髄だと思いますけど」
他人がどう思っているかはともかくとして、リアルで見た彼女はとにかく栄える。
白い肌と髪、青い瞳はもちろん美しいとして、他にも食べ物を食べる際の気品な振る舞いや音を立てずに牛乳のストローを飲み干す様まで、その一挙手一投足が綺麗なんだ。
流石お嬢様。やっぱりテーブルマナーもしっかりしてるんだな、陰ながら見ていたりして。
「そうなんですよ、きらびやかで美しいのが、ノイヤーさんなんです」
それを自分に言い聞かせるように。あの時はきっとみんなが間違っていただけなんだから。
店員から出されるオレンジジュースが目に入ってようやく我に返る。
目の前にいる2つ上の女性は、顔色1つ変えずにコーヒーを口にしていた。よかった。不安な私を見せずに済んだ。
「だからノイヤーさんは少し違う気がしてるんです」
「……そう」
カチャリとソーサーにカップを乗せて1つ休憩。
机に肘をついて、彼女は頬を手に乗せる。どうやら考える素振りをしてくれているみたいだ。
薄々感じている、私にアウトローなんて向いてないはさておくとして、どうやったらそれらしく見えるだろうかと、オレンジジュースをストローで口に入れながら考える。今日も酸味と甘みが入り乱れていて美味しい。
「まぁ、ヒールプレイが一番よね」
「ヒール? それって回復の?」
「もう一つの意味よ。悪役って意味の」
「悪役……!」
◇
【世紀末】ハードコア・ディメンション-ヴァルガスレ Part***【ディメンション】
1:以下名無しのダイバーがお送りします。
ここはハードコア・ディメンション ヴァルガについて語るスレです。
ルールを守って楽しく語りましょう。
Q.ヴァルガってどうディメンション?
A.GBN内で唯一お互いの合意無しでバトルが出来るディメンション
通称運営がさじを投げた場所、猿山、動物園など例えられます。
Q.何でもしていいの?
A.奇襲に拡散砲撃、加えてハイエナ行為やモンスタートレインなど、やってる人は居ますが、基本的にモラルを守っていれば何でもいいです。
Q.ヴァルガに潜ったら速攻で死んだんだけど
A.ヴァルガでは日常茶飯事
◇
837:以下名無しのダイバーがお送りします。
ばっどがーりゅたん出たってマジか
838:以下名無しのダイバーがお送りします。
マジゾ。ちょうど南西部分だから前と同じログインポイントだな
839:以下名無しのダイバーがお送りします。
会いに行きたかった。きっと可愛かったんだろうな
840:以下名無しのダイバーがお送りします。
わんわんお!
841:以下名無しのダイバーがお送りします。
ガイアかな?
842:以下名無しのダイバーがお送りします。
バグゥかもしれないだろ
843:以下名無しのダイバーがお送りします。
フラウロスかもしれない
844:以下名無しのダイバーがお送りします。
なんで犬系MSにしなかったんだ(困惑
845:以下名無しのダイバーがお送りします。
犬系にしたら、本当に犬ダイバーになるから
846:以下名無しのダイバーがお送りします。
俺もばっどがーりゅたんの首元撫でたいな
847:以下名無しのダイバーがお送りします。
もしもしガーフレ?
848:以下名無しのダイバーがお送りします。
グッバイ。ムショで会おうな
849:以下名無しのダイバーがお送りします。
あの子、小さい割には胸部装甲それなりにあるからえっち
850:以下名無しのダイバーがお送りします。
それ以上はナマモノ法違反によって逮捕されるからやめとけ
851:以下名無しのダイバーがお送りします。
半ナマは丁重に扱え
852:以下名無しのダイバーがお送りします。
そうだぞ。同人誌で描いたらGTuberに見つかったって話もよく聞くからな
853:以下名無しのダイバーがお送りします。
やっぱみんな気になるんすね
854:以下名無しのダイバーがお送りします。
俺なら絶句する自信ある
855:以下名無しのダイバーがお送りします。
流石GBNの無法者の聖地だ。何も怖くない!
856:以下名無しのダイバーがお送りします。
お前、首が……!
857:以下名無しのダイバーがお送りします。
マミったか
858:以下名無しのダイバーがお送りします。
件のばっどがーりゅたんに会ってけど、壮絶だった
859:以下名無しのダイバーがお送りします。
お、人柱か
860:以下名無しのダイバーがお送りします。
いいなぁ
861:以下名無しのダイバーがお送りします。
壮絶って、何が?
862:以下名無しのダイバーがお送りします。
戦いがだろ、言わせんな恥ずかしい
863:以下名無しのダイバーがお送りします。
それが、前とは別もんだったわ
864:以下名無しのダイバーがお送りします。
ガンプラが?
865:以下名無しのダイバーがお送りします。
口調が
◇
「ワイヤー天宙落としじゃーい!」
『グワーッ!』
ヒールプレイ。それは回復としてのヒーラー、という意味ではなく、プロレス用語の1つである。
意味としては悪役として振る舞うプロレスラーのこと。反則を多用したラフプレーを展開し、金的への攻撃や凶器を使用しての攻撃。はたまたレフェリーへの暴行に加え、挑発行為など、とにかく私の求めるアウトローそのものであった。
悪役としてのロールプレイ。それが私に課せられた最初の試練と言っても過言ではなかった。
「えっとえっと、今度は……」
とはいえ、そんな悪役とは無縁な生活を送っていた私だ。特に悪かっこいい台詞を思いつくことがないわけでして。
「ドッズ乱射ライフルー!」
出来上がったのは見るも無残な中途半端なロールプレイであった。
「あー、こんなのだったらもっとカッコイイセリフをメモっておくべきだった!」
それのどこがアウトローなのか皆目見当がつかないものの、キルスコアだけは着実に溜まっていく。
このヴァルガという土地に私のアウトロー魂が順応してきたのだろう。ある程度勝手が分かってきた私は初心者には見えないほどの立ち回りで1機、また1機と撃墜していく。
この順応は、実際はエンリさんの動きを見たこととゲームへの慣れが原因であることを、この時の私はまだ知らない。
『ワイヤーが、足に!』
『ちょ、お前こっちに……うわー!』
「その辺に居た、お前が悪い……」
ワイヤーフックをガンプラの足に絡ませた後は、そのまま下部に居たシャイニングガンダムに激突させ爆破。そのままテクスチャの塵に消し飛ばしていった。
やっぱりかっこいいは正義なんだよなぁ。この台詞も後で使いかもだしメモっておこう。
ワイヤーを戻しつつ、ヴァルガを心行くまで順応してからその場を立ち去った。
この後、殺戮の天使や煉獄のオーガ。珍しくビルドダイバーズのリクがヴァルガに立ち寄ったという話を聞くが、その辺の話は私とは関わりがないから放って置くことにする。
「どこに行ってましたの?」
「ちょっとヴァルガに」
「全く、昔からそうですわね」
小さい舌をぺろりと出して、帰りを出迎えてくれたノイヤーさんと合流する。
とりあえずヴァルガで起こったことを楽しげに報告していると、どこか呆れた様子でため息をつく。
「面白くなかったですか?」
「いえ。ゲームは慣れた頃が一番楽しいですものね」
「うん! やっぱりノイヤーさんは私のこと、よく見てますね!」
「当然でしてよ!」
フンスと胸を張るノイヤーさんは今日も素敵だ。
だけど。そう彼女はテンションを下げて、釘を刺すが如く左人差し指を突き立てて注意する。
「ですが、ヴァルガは本当に危険なところなんでしてよ? 初心者の内はあまり行かぬが吉、なんですわ」
「そう、でしょうか?」
確かに集団で襲ってくるところを見てはいるものの、基本的にはモラルを守った無法者たちである。言われているほど危険な場所でなければ、怖いところでもない。もちろん4回ぐらいは死んだけど。
「ホント、肝が据わったアホの子ですわね」
「むー。それは酷いですってば!」
いつも言われていることだから、大して怒りはしないけれど。
ひとつ伸びをして、私はこの後どうしようかと、ノイヤーさんと相談するのであった。
エンリの服装の元ネタは流◯馬だけど流竜◯じゃないです