「まいどあり! 今後ともご贔屓に!」
目の前には国道のような大きな道路は時々車が通る程度で、どこどう見ても田舎だと言わざるを得ない。けれどもそんな静かな雰囲気に風情があると言える。やっぱりいいなぁ。私は生まれも育ちも都会だったから、憧れがあったりしたんだ。
ロイヤルワグリアと表記されたレストラン跡地は意外と清掃されているのか、中は結構綺麗だった。
「……買っちった」
「買っちったですわね」
「買っちったねー」
「…………」
何故かノッてくれないエンリさんを3人がかりの期待の視線で見つめる。
最近、気圧されていたエンリさんが少し可愛いということを知ってしまった以上、それができるチャンスというのを積極的にプレイしないほうが失礼というもの。許せ、エンリ。私だっていじられキャラなんだから、こういう時だけはいじりたくなってしまう。
エンリさんはあくびをするぐらいには大きく息を吸って、心の底から嫌だというため息をこれでもかというほど吐き出す。
でも分かってる。エンリさんがこれからやることを。
「…………買っちった、わね」
ほら。エンリさん、恥ずかしくても言えばノッてくれるんだから本当にいい人。
ちょっと雰囲気怖いし、鋭めの瞳をしているから理解されないだけで、可愛らしくて年相応の人なんだ。
「ウケる」
「後で覚えておきなさいよ……」
「アタシは覚えてないしー! ほら行くぞお前ら! 中身を見るんだよぉ!」
ふっふー! なんて声を上げながら、両手を上に挙げてロイヤルワグリアへと突撃するフレンさん。彼女は彼女で、かなり子供っぽいわけで。
「待ちなさい! そんなにはしゃいでは転びますわよ!」
「フベッ!」
「言わんこっちゃない……」
足元の石に躓いて転ぶフレンさんをため息を付きながら手を差し伸べるノイヤーさんもなんだかんだ優しい。あれで友達ではないというのはちょっと無理がある。
いや、友達っていうのはちょっと変かな。まるで……。
「スキあり!」
「あ、ちょっと!」
手を差し伸べたノイヤーさんの手を思いっきり引き込んで、彼女を更に転倒させている。
思いの外顔面から滑り落ちたからだろう。普段の白い肌とは似ても似つかない赤く擦れた顔を露出させて、ノイヤーさんが怒った。どっちかと言えば世話焼きの姉と手のかかる妹。もしくは親子に見える。
『わたしに家族なんていりません……』
不意に過去の記憶を思い出す。
過ぎたことだ。今更ぶり返すように頭によぎる理由なんてないのに。
『ムスビ』さんの過去に口を挟めなくても、今が幸せそうならそれでいいんだから。
「ユーカリ?」
「……なんですか?」
「何か考え事でも」
ハッとなって思い出した。今はみんながいるんだ。私だって、今を今までと同じく楽しもう。
「いえ、エンリさんが私の名前を言ってくれるのって珍しいなーって」
「そうかしら?」
「嬉しいんですよ! 名前ってその人に向けた、たった1人だけの特別ですから!」
「特別、ね……」
口からでまかせを呟いた割には結構いい名言だと思う。ユカリ名言辞典に登録したいところだ。分類はいい感じのこと言ったで賞、みたいな。
「あんたがそう言うなら、今度から名前で呼ぶようにするわ」
「え?」
「……そういうことだから」
2人の方へと歩いていくエンリさんは、私の方からは顔を隠していて。
今、私のことを名前で呼ぶようにするって。え、もしかして今名前で呼ぶって……。
動揺しすぎて同じことを2回も考えてしまったけど、そっか。そっかぁ!
「……クフフ。ユーカリちゃんもエンリちゃんも、どうしてそんなに顔真っ赤にしてるのー?」
「そ、そんなことないわよ!」
「そうですよ! えへへ、そんなわけないじゃないですかぁ!」
まるで計算尽くされたニヤケ面と煽り文句のフレンさんに少し怒りを思い浮かべる。
でも、なんかそれも悪くない気がして。なんでだろう。考えれば考えるほど、どことも知らないドツボにはまる感覚があるので、私は考えるのをそっとやめた。
(ごちそうさまです……)
フレンは考えていた。ノイヤー→ユーカリは一番最初に察することが出来た程度には分かりやすい感情の流れだったけれど、今のやり取りで確信した。エンリ→ユーカリも徐々に構築されつつある関係性であることを。
「三角関係、かー」
ELダイバーにしては比較的長寿にあたる3歳のフレンは考える。
ユーカリちゃんは魔性の女なのかもしれない。それも異性同性問わずに。フレンの予想ではエンリちゃんはありえないと思ってたんだけど……。
ノイヤーちゃん、意外と面倒な相手に恋心抱いちゃったなー。
「何を無視しているのですか! いいですか、わたくしはただあなたを……」
「ドキがムネムネだねー!」
「だから聞いていますの?!」
◇
中は思ったよりも広い。伊達にレストランをやっていないぐらいにはホールにはソファーが並んでるし、厨房だっていろいろな機材が揃っている。加えてバックヤードは雑多に色んなものを置けてしまう程度には、とにかく広かった。
もう一度言う。4人で過ごすには広すぎた。
「想像してたよりも、その。広いですわね」
「広いねー」
「うん、絶対持て余しそう」
フォースメンバー、もとい従業員4人では大したこともできないのは明確的。とは言っても増やす気はあんまりないので、ソファー1つに付き1人寝そべるぐらいには持て余していた。
4席占領しながら、ボケーッと天井を見つつ会話を始める。
「ユーカリちゃん、なんかないの?」
「何がですか?」
「こう、有効活用的な」
「犬カフェですわね」
「なんで犬なんですか」
「ユーカリさんに因んで、ですわ!」
「私犬じゃないですもん!」
「その耳と尻尾は飾りとでも?」
「それは! エンリさんとノイヤーさんにノセられて……」
「ふーーーーーーーーーーーん」
大変意味ありげで、中身のない会話を繰り広げているけれど、やっぱり何も成果は得られない。
どう考えてもこの広い地形を活かすような手立ては1つしかないわけで。でもなー……。
「やはりレストランを営むしかありませんわね」
「ノイヤーさんもそう思います?」
「そうなるわよね」
「アタシはいいと思うよ! EL友バンバカ呼んであげよっか?!」
EL友ってなんだろう。ELダイバーの友達ってことでいいのかな。そう言うことにしておこう。
時代はレストラン。私たちもチームワグナリア、じゃなくてケーキヴァイキングとしてケーキバイキングを繰り広げてみるのも悪くない。
そこでふと気になった。それは他の何物でもない。
「みんなって、料理できるんですか?」
カチッ。何故か空気が凍りついたような、そんな雰囲気を感じる。
地雷を踏んだ? 料理ができるって言う言葉だけで? まっさかー。
……まさかね。
「ノイヤーさんは、まぁできなかったですよね」
「うぐっ!」
「フレンさんは?」
「アアアア、アタシは食べ専だしー? ほら、料理好きのELダイバーとかいるじゃんフツー?」
どこの普通なんだろうそれは。
ノイヤーさんが料理が致命的に下手くそであることは前から知っていた。
でなければ昼ご飯にパンと牛乳オンリーの食事や、事あるごとにサラダチキンとトマトジュースなんて組み合わせはしない。
フレンさんも予想通りだった。滲み出る食べ専感は確かに出ていたと思う。
そして私の予想が正しければ、きっと……。
「エンリさんは?」
「……カップ麺なら得意よ」
「お湯作るだけじゃないですか!」
「自慢じゃないけどパスタを焦がしたことならあるわ」
「それは自虐っていうんですよ!」
ダメだ。エンリさんも例によって例のごとく、あちら側の人間だ。
そんな予感はしていた。エンリさんみたいなタイプは、隠れて料理ができる女子力の高いミステリアスな女性。もしくはダメな女の2種類いると。
そして戦闘技能にガン振りしていいるエンリさんに前者のミステリアスは似合わない。だから予想しておいて正解だったけど、パスタって焦げることあるの?
「わたくしでもそうめんは作れますわ」
「そうめんって焦げるものでしょ?」
「は? ありえなくない?」
どうしよう。収集がつかなくなってきた。
私はとりあえずソファーから立ち上がって、キッチンへと向かっていく。
思い立ったが吉日。こういうのは実力を見せるのがベストだ。
「待ちなさい! キッチンには悪魔が住んでるのよ!」
バードハンターなんて異名持っている悪魔のガンプラ使いが何を言っているんだろう。
まぁそこで見ててよ。私の本気、見せてあげますから!
~数十分後~
「おまたせしました、ハンバーグです!」
「「おぉ~」」
「へぇ、焦げてないのね」
どうして焦がす前提なのだろう。
作ってきたのはオーソドックスな牛豚合いびき肉ハンバーグ。
流石に慣れないキッチンであることと、材料がなかったので添え物の人参やポテトはなく、ただただハンバーグが4人前分置かれている。
ジュースサーバーから水を4杯並べて、私も席についた。
「じゃあ、これがフォースネスト獲得祝いってことで!」
「ですわね! さぁさ皆様、コップを上げましょう!」
コップを天高く突き上げて、私の鶴の一声で合図を鳴らす。
「乾杯!」
「「かんぱーい!」」
「……乾杯」
水なんて味気ないけど、ジュースはまだ実装されていないみたいだったから、今度BCをフォースに入れないとなー、なんて思いながらお箸を使ってハンバーグをひとつまみ。
うん、悪くない。流石はGBNというべきか、リアルとは少しだけ工程が省略されているものの、同じぐらいの味を引き出すことができるみたいだ。
でもハンバーグ全体をふんわりとさせるためにもうちょっとつなぎを練っても良かったかな。
「ん! 美味しいですわ!」
「なにこれっ?! めっちゃジューシー!」
「……美味しいわ」
私が考えているよりも思いの外好評だったみたいだ。
それだけGBNの味付けが完璧に仕上がっているのだろう。
自分で作ったVRハンバーグを口にしながら、みんなの喜んでいる姿を見て、誰かのために作るというのも悪くないかな、なんて思うわけでして。まぁ、今回はみんなのあまりにもあまりにもな話を聞いたからだけど。
「ごちそうさまでした! あー、お腹いっぱい!」
「ご飯が欲しくなりますわね」
「お粗末様でした。どうですか、私の腕前は!」
「感服で満腹!」
フレンさんの妙な発言にくすりと笑いながら、私は食器を片付ける。
お客さんがそんなに来ないのなら、レストランやってみようかな。
漠然と食器を自動洗浄機に入れて、ボーッと考える。あれだけ喜んでくれるなら、私だって嬉しいし。
「あ、でも席中にびっちりぬいぐるみ置いても良くない?!」
「それはそれで怖いですわ!!」
訂正。やっぱりレストラン、やらなさそうかも……。
◇
GBN総合スレpart***
1:以下名無しのダイバーがお送りします。
ここはガンプラバトル・ネクサスオンライン通称『GBN』に関して雑談するスレッドです。
各種ミッションについての情報はまとめwikiに載っています。
ビルドの相談、フォース勧誘、ミッション攻略の情報交換などはそれぞれ専用スレッドでお願いします。
【GBNまとめwiki】(http://・・・
【ビルド相談スレ】(http://・・・
【フォースメンバー募集スレ】(http://・・・
【ミッション攻略スレ】(http://・・・
【前スレ:GBN総合スレpart***】(http://・・・
◇
84:以下名無しのダイバーがお送りします。
あの伝説の桜の樹の下ミッション、攻略されてるんだけど
85:以下名無しのダイバーがお送りします。
あのめちゃくちゃホラーな?
86:以下名無しのダイバーがお送りします。
あのランク詐欺の?
87:以下名無しのダイバーがお送りします。
あのダイバーを生き埋めにしたっていう?
88:以下名無しのダイバーがお送りします。
ダイバーは普通に死なんやろ……
89:以下名無しのダイバーがお送りします。
あれ、確か制限設けられてるんだっけ。
フォース単位で、なおかつフォース成立から1ヶ月以内
90:以下名無しのダイバーがお送りします。
その割にはデビルガンダムがめちゃくちゃ硬いから、ジリ貧になって終わるよな
91:以下名無しのダイバーがお送りします。
デビガンwwww
92:以下名無しのダイバーがお送りします。
なんでそんな制限も受けてるん?
93:以下名無しのダイバーがお送りします。
フォースネスト貰えるミッションなんよ。
選んだ中から1つ、みたいな
94:以下名無しのダイバーがお送りします。
へー
95:以下名無しのダイバーがお送りします。
てかどこのフォースよ
96:以下名無しのダイバーがお送りします。
ggrks
97:以下名無しのダイバーがお送りします。
どうせ有名ドコロの転生だぞ
98:以下名無しのダイバーがお送りします。
いや、マジで聞いたことないとこだわ。
ケーキヴァイキングってとこ
99:以下名無しのダイバーがお送りします。
何それ、美味しそう
100:以下名無しのダイバーがお送りします。
飯テロはやめろォ!(やめろォ!)
101:以下名無しのダイバーがお送りします。
あー、バードハンターがいるとこか
102:以下名無しのダイバーがお送りします。
は?! あいついつの間に……
103:以下名無しのダイバーがお送りします。
俺らと同じぼっちだと思ってたのに……
104:以下名無しのダイバーがお送りします。
昔、傭兵として雇ったけど、あいつはマジでやばい。
戦い方がとにかく暴力的すぎる。
105:以下名無しのダイバーがお送りします。
丸くなったな
106:以下名無しのダイバーがお送りします。
今も時々飛ぶ鳥を落としてるけどな
107:以下名無しのダイバーがお送りします。
相変わらずじゃねぇか!
108:以下名無しのダイバーがお送りします。
懐柔できるだ、あいつ
109:以下名無しのダイバーがお送りします。
綺麗だけど、めっちゃ殺意高いし、近寄りがたいのにな
110:以下名無しのダイバーがお送りします。
バードハンター引き込んだリーダー、マジなにもんだよ……
111:以下名無しのダイバーがお送りします。
フォース戦はまだみたいだから、あいつの気まぐれじゃないか?
112:以下名無しのダイバーがお送りします。
それもそうか。一匹狼みたいなタイプだしなー
◇
ゆっくりと。スローペースで
【探索ミッション:伝説の桜の樹の下】
推奨ランク:D
受注条件:結成1ヶ月以内のフォース
報酬:任意のフォースネストの譲渡
恋人が1人行方不明になってしまったんだ!
この前から連絡が取れなくて。だから探してほしい!
最後に会ったのが桜の木の下だったから、もしかしたらそこにいるかも!
◇
本ミッションは探索ミッションと謳っておきながら、
実際はデビルガンダムと戦うミッションであるため、実際の内容は高難易度である。
このミッションの真相は以下の通りである。
男はとある桜の木に魅了された。
より美しく。より綺麗に咲き誇らせるために彼は研究者として桜の木を永遠にすべく研究を始めた。
研究の途中、DG細胞というものを見つけ、桜の木に移植すると、周りの木々の養分を吸い取りながら成長を始めていく。
男は感極まったが、DG細胞のエネルギーを賄うことが出来ず、陰りを見せ始める。
男はどうすればいいか迷ったが、とある小説を読み、インスピレーションを得た男が実行に移す。それが『美しい女性』の生贄であった。
やがて『恋人が行方不明になった』、という文言で皆を騙してデビルガンダムを使い、NPDを養分としていた。
ダイバーが負けても、養分にされることはないが、一定時間機体にデバフを受ける。