ガンダムビルドダイバーズ リレーションシップ   作:二葉ベス

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お空に魂を引かれているので初投稿です。


第2話:AGE狂いとお嬢様の友達

「ってことなんですよ!」

「そうなんですわねー」

 

 半ば私の妄想なんじゃないかと錯覚してしまうほどのムスビさんの適当な返事に少し頬を膨らましながら、ストローからいちごミルクを吸引する。

 あの事件が起きてから1日。こうして学校で友達であるムスビさんと昼食を取っているのだけど、頭の中はエンリさんのことでいっぱいだった。

 嘘。AGE7割、エンリさん3割と言った様子。

 とにかくあのガンダムはすごかった。AGE系のMSとも違う姿は、GBNがガンダムのオールスターゲームであることを理解させるのには十分だった。

 強いて言えばヴェイガン系のガンダムレギルスというべきだろうか。いやでもあんなにかっこいい機体をその枠に留めるのは少し違う気がして。

 

「それはバードハンターのエンリで間違いないですわね」

「なんなんですか、その。バードハンターって?」

 

 バードハンター。直訳すると鳥の狩人、という名前ではあるものの、GBNでサバイバルをしている物好きなんて滅多に存在しないだろう。

 いるにはいるだろうけど、エンリさんはサバイバーというボロボロな雰囲気ではなかったのを思い出す。

 

「GBNにはある種の通り名、みたいなファンが付けた名前がありますの」

 

 有名なところで言えば『ビルドダイバーズのリク』や『キャプテンカザミ』など。

 後者はどちらかと言うと自称ではあるものの、定着しているらしいので間違いはないだろう。

 要するにその界隈で有名なダイバーに対して、通り名をつけることで格を上げている、ようなものだろう。二つ名持ちとかかっこいいもんね。

 

 バードハンター。彼女の二つ名は文字通り『飛ぶ鳥を落とす』ことに特化した戦い方にある。

 何故だか翼を持つガンプラを執拗に狙い、駆逐する。

 彼女が通った場所には鳥が一匹残らずいる様子から、その異名を名付けられたとのことだった。

 ある意味ではシリアルキラー。『翼を持つ』というステータス故に狙われるダイバーも正直可哀想なところではある。

 

「そのバードハンターに助けられた、なんて相手はどんなガンプラでしたの?」

「ゼダスM、です」

「あー」

 

 ヴェイガン系の機体は基本的に翼持ちが多い。多分助けるついでに狙われたのだろう。そちらは可哀想とは微塵も思わない。だって相手初心者狩りだったし。私のこと引退まで追い込もうとしてたし。

 

「まったく、ラッキーガールですわね」

「あはは、ホント」

 

 あれがザクとかだったら、彼女は目もくれずに消えていったことと思う。

 悲しいことに、助ける理由がたったそれしかないのだ。

 だけど、私にとってはもうズバッとズキュッと突き刺さった出会いなわけで。

 昨晩考えている間に、私の中で生まれた感情は、彼女とお近づきになりたい、というものだった。

 何故かは分かっていない。でも心に突き刺さる感覚は、まるで好みの関係性を見つけたような、そんな『好き』を見つけた感覚と同じだった。

 

「どうやったら会えるかな……」

「ぞっこんですわね。嫉妬しちゃいますわ」

 

 その大きな口でジャムパンをちょこっと食べるのは、白い髪と肌。そして青い瞳を持った、アルビノ種を彷彿とさせる見た目の庶民派お嬢様だ。

 ここまで紹介するのをすっかり忘れていたけど、彼女の名前はムスビ・ノイヤー。

 どこかの財閥のお嬢様、らしいのだが、その昼食が牛乳とジャムパン。そしてコンビニで買ったのであろうサラダだけなのだから、微塵もお嬢様らしいところは見つからない。

 ちなみにゲームソフトの中にAGEMOEの前編を間違えて入れていた友人はこの子だ。

 彼女も根っからのAGE好きであり、GBNを誘った理由もAGE好きである我が友がーとか言ってたっけ。その割には当日ドタキャンされたけど。

 

「昨日すっぽかした人がよく言えますね」

「あれは本当にすみません。どうしても出なくてはならない会合のようなものがあったので」

 

 人の事情にとやかく言うのは普通にマナー違反だと思うし、追求はこの辺にしておこう。

 

「今日はGBNできるんですか?」

「もちろんです! わたくしのダナジン・スピリットオブホワイトを是非見ていただくことにしましょう!」

「おおー」

 

 彼女の駆ける機体はきっとダナジンの改造機なのだろう。

 あのMSもかっこいいからなー。仕方ないなー。ちゃんと見るまで戻れないなーこれはー。

 放課後のGBNのことで胸を高ぶらせながら、私は5時限目の授業の準備をするのだった。

 

 ◇

 

 エールストライクガンダムがデカデカと立っているシーサイドベース。

 海と赤レンガ倉庫が交互に光ってどこかの港と思わせるここにはガンダムベースとガンダムカフェ。そしてGBNの機器が搭載されていた。

 カバンの中にAGE-1が入ったタッパーを入れ、いざ来店。

 ちびっこいプラスチックの店員さんに挨拶しながら、私とムスビさんはガンダムベースの奥の方へと入っていく。

 そこはGBNに入るためのVR機器やらダイバーギアセッティングエリアやら。とにかく色んなものが目白押しだったのは言うまでもない。私には微塵も理解できないようなものばかりで目が回ってしまう。

 

「あら、先客かしら?」

「みたいですね」

 

 見れば長い黒髪のツインテールの毛先を地面につけないように、膝の上に起きながら、ゴーグルをして既にダイブしている人が1人。

 そのガンプラは黒くて、ボロボロなマフラーを首に巻いて、背中から伸びる尻尾がまるで悪魔を彷彿とさせる風貌で……って?!

 

「エ、エンリさん?!」

「はえ?!」

 

 もちろんそんな大きな声を出しても、意識がGBNの中にあるので反応されることはないにしろ、流石に私も驚いてしまった。まさかこんなにあっさり見つかるなんて思ってもみなかったから。

 そっか、今エンリさんはGBNの中にいるんだ。そう考えたら胸がワクワクと脈打つのを感じる。

 もしかしたらエンリさんとまた会えるかもしれない。今度会ったらどうしよう。まずはフレンド申請かな。やっぱりこういうのはまずお友達からっていうもんね。

 

「ムスビさん、早くダイブしよう!」

「はぁ。やれやれ」

 

 何がやれやれなんだか。今の私が激情だけで動いているとでも言いたいのか。そうだよそうに違いない。

 助けてもらった相手が実は自分の地域にいました、なんてニヤけものじゃないか。これは運命の出会いと言っても過言ではない。私の名前通り、エンリさんとの縁が結ばれているに違いない!

 ダイバーギアをセットし、その上に素組みのガンダムAGE-1を置く。

 光が足元から頭の先までスキャンされたのを見て、私もゴーグルをかぶり、操縦桿を握る。

 

『GPEX SYSTEM START UP──』

 

 二度目となる青白い光を座っている椅子から感じながら、徐々に意識が薄れていく。

 まるでエレベーターで下に降りていくかのような感覚。

 私が私でないものに、それでいて私であるものに変わる。

 黒くて短い髪が、青く染まり肩まで伸びたウェーブがふわりと首筋を撫でる。

 電子の身体がAGEの地球連邦軍制服へと姿を変え、そして……。

 

 喧騒の中、電子の身体の再構築を済ませればそこに立っているのはユカリではなく、ユーカリ。伸ばし棒を1つ追加しただけだけど、意外と本名バレしないのがミソだ。

 

「こちらですわ!」

 

 友人の声がして振り向けば、そこにはいつもと変わらぬアルビノの肌と髪で周囲の目を引く。

 リアルとは違う点を述べるとすれば異形なるドラゴンの翼と尻尾だろう。

 白いドレスと開いたパニエスカートに包まれた少女の翼と尻尾は、まるで醜い化け物、という風貌に見えなくもない。

 まぁGBNにはフェレットや犬に狐がいるんだから、対して気にする人はいないだろう。

 

「改めて、はじめましてですわ。わたくしはノイヤー、です」

「あ、これはどうも。私はユーカリです」

 

 ふふ。どちらとも言わずに笑みがこぼれだす。

 決してはじめましてではないものの、GBN内では初めてであるから挨拶はした。それでも知り合い同士でこんな事するなんて思わなくて。

 

「まぁいいですわ。今日はいかがいたしますか?」

「もちろん、エンリさん探し!」

「そう来ると思ってましたわ」

 

 少しだけ膨れた胸の前で腕を組んだムスビさん、もといノイヤーさんははてさてどうしたかと、考え事を始める。

 私と考えていることは同じなのか、首を傾げながら該当のバードハンターがどこに潜んでいるのか考えている模様だった。

 居場所の見当は一切ついてない。長い目で探していくしかないけど、それでもある程度の出没スポットぐらいは把握しておきたかった。

 

「バードハンターの居場所、となりますと飛んで探したほうが早いかもしれませんわね」

「そうなんですか?」

「彼女の性質ですわ。バードハンターは羽根付きのMSに強く反応いたしますわ。ならわたくしのMSが適切かと思いましてね」

 

 ウインクしてみせた彼女の可愛さはさておき、ノイヤーさんのガンプラ自体がどんなものか、私は把握していない。

 ログイン時にちらりと隣を見たことと、先程言っていた内容からダナジンであるということは知っている。だけどそれ以上のことは知らない。白かったのだけはなんとなく印象深かった気がするけど。

 

「では、格納庫エリアにレッツゴーですわ!」

「おー!」

 

 ◇

 

 格納庫エリア。ここでは自分がスキャンしたガンプラが等身大の姿として出撃の時を今か今かと待ちわびている。

 私のAGE-1もそうで、昨晩ちょこっとパチリというまでハメたり、筆入れというものをしたり。そうして出来上がったのが今のAGE-1ノーマルだ。

 そして隣に並び立っている白いガンプラ。これだけ聞けばガンダムのようにも聞こえるが、そんなことがあり得るはずもなく。

 前屈姿勢で立つ白いガンプラは両腕の手のひらにバルカン砲。ビーム発射口は彼女と同じような青い瞳のように塗装されており、彷彿とさせるのは某カードゲームの青い瞳で白い龍の彼だ。白き霊龍と名付けられたダナジンを最終調整と言わんばかりにノイヤーさんは設定をいじくり回していた。

 

「なにしてるんですか?」

「フレーバーテキストに少し細工をしているのですわ! こうすれば長時間飛ぶことも可能になりますの」

 

 フレーバーテキストとは、ガンプラ1体1体をどういう設定にするかを決める一種のプログラミングのようなものだ。

 特定の単語を組み合わせるようにして、ガンプラのプログラムを作成していって、自分だけのたった1つのMSを作ろう! というのがコンセプトらしい。

 もちろんこの単語、『プラグイン』はゲーム内で獲得できるのだが、私は当然持ち合わせていないので、ノイヤーさんがいじっているのをただ眺めているだけである。

 やがて調整を完了させたのか、1つ伸びをしてから溜まっていた息を吐き出す。

 

「こんなもんですわね。さ、行きましょうか」

「ちなみにどんな感じになったんです?」

「とりあえずAGE-1を乗せても滞空時間3時間以上は確約いたしますわ!」

「すご……」

 

 周りのガンプラよりも少し大型であるダナジンだが、それでもMS1機を乗せてその滞空時間って普通にすごいんじゃ。この辺りはやはり元々のガンプラの完成度によって変わっていくるのかな。私も完成度の高い、自分だけのガンダムAGEを見つけたいところだ。

 

 機体に乗り込めば、周りは暗い画面となりながらも、正面のモニターだけが光る。よし。

 

「ユーカリ、ガンダムAGE-1。行きます!」

「ノイヤー、ダナジン・スピリットオブホワイト。出ますわ!」

 

 カタパルトの射出を演じることができるのは数多いGBNに置いてのアドバンテージの一つかもしれない。後から出てきたダナジンの手に掴まれて、彼女の背中に乗る。気分はSFSに近い。

 

「まずはどこに行く感じで?」

「どうしましょう。とりあえずオルフェンズディメンションでも行ってみましょうか」

「了解です!」

 

 鉄血のオルフェンズがモチーフとなったオルフェンズディメンションは陸上が多い。

 宇宙エリアもあるものの、鉄血のオルフェンズの土臭い戦闘が行えないことから、あまり人気のないエリアでもあるらしい。悲しいねバナージ。

 とは言え、鉄血のオルフェンズ自体、私は見たことがない。いつかは見たいと思っているものの、そのいつかはオルガ・イツカなのか、5日なのか。ともかく未確定ないつかに振り回されるのはよくない。今度見よ。

 

 青いリンクサーキットのような門を潜り抜ければ、そこには広大な荒野のステージがそこにはあった。

 数あるディメンションの1つ。オルフェンズディメンションは少しさみしい雰囲気が漂っている。

 飛行形態になっているダナジンで滑空しながら空気を切り裂いていく。目的はたった1つ。バードハンターの発見であった。

 広大だからこそ周りを見渡せば見えるのかなと思ったけど、目に入ってくるのは赤い砂と岩盤だけで、特にそれらしい物体は何もない。

 

「どうですか?」

「ダメですね。もうちょっと別のエリアに行きましょう」

 

 この広大なGBNの中から1つの機体を見つけること自体がそもそもおかしい。

 頭ではそう思っていながらも、彼女とまた出会いたい、という気持ちが私の中で徐々に膨れ上がっている。どうしてだろう。なんでだろう。そんなことは多分ある1つの文章でまとめられるほど簡単なものだ。

 出会ったら必ず言おう。そう思ってかれこれ1時間ほどオルフェンズディメンションを飛んでいるが、一向に悪魔のガンダムが見当たらなかった。

 

「ここじゃないんでしょうか?」

 

 ノイヤーさんが1つため息をつく。それはそうだ。付き合わせているのは私なわけで。今度何かをごちそうすることにしよう。お嬢様ってコーラとか飲むのだろうか。そんなことを考えながら空を飛んでいると、結界のような壁を通った気がした。

 それは薄っぺらい膜のようなもので、ガンプラから何かを纏ったような、そんな感覚を感じたのだ。

 何か、嫌な予感。まるでそれは『バトルフィールド』に入ったかのような、そんな感覚だった。

 瞬間。ガンプラからレッドアラートが鳴り響く。

 

「な、何?!」

「少々捕まっててくださいませ!」

 

 撃ち放たれるのは桃色の閃光。これをダナジン自体を傾けて回避する。チュートリアルで言っていた。GBNでは2つのルールを除いて、原則いきなりのPvPは禁じられている。

 1つはハードコア・ディメンション。ヴァルガでの戦闘。

 そしてもう1つは、戦闘エリアへの介入。

 見ればガンダム・フラウロスと呼ばれる機体がこちらに銃口を構えている。

 対戦相手は土煙に隠れて見えない。いや、それにしたって戦闘エリアへの介入って、もしかしてこんな判定なの?!

 

「ノイヤーさん、もしかして……」

 

 彼女は口を閉じながら、それでも愛嬌のある可愛らしい顔を右手で抑えてこう告げる。

 

「やってしまいましたわ」

「やっぱりー!」

 

 突如始まったのはガンダム・フラウロスによる弾丸の雨あられ。

 ビームも混じったその攻撃からは逃れるすべはなく、私たちの初めての戦闘が幕を開けた。




名前:ノイヤー / ムスビ・ノイヤー
性別:女
身長:164cm
年齢:17歳
機体名:ダナジン・スピリットオブホワイト
見た目:白い肌に白い髪。青い瞳と異形のドラゴンの翼と尻尾。
服装は白いドレスのようなもので、スカートは開けたパニエ
要するに白いエリ◯ベート

ユーカリの友達。
自称お嬢様だが、庶民派すぎて周りからはお嬢様だと思われてない。
ダナジン・スピリットオブホワイトの元ネタはかの偉大なる龍。青眼の白龍

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