「あの。フォース戦ってなんですか?」
ケーキヴァイキングのフォースネスト、ロイヤルワグリアで私は問う。
「……何よ急に」
「さっきG-Tubeで動画を探してたんですけど、チーム戦? みたいなのを見つけて」
ウィンドウを他の3人の方へと向けて、その内容を確認させる。
中身はと言えば4対4のチームマッチで、どちらも切磋琢磨した実力をぶつけ合って勝負をしていた。
このチームマッチとはどういうものなのか。それを探すべく、私は電子の海を泳いで一つの結論を抱く。それがフォース戦とは、というものであった。
「マジぃ? てかこれビルダイのリクくんじゃーん」
「本当ですわね。相手は、2年前に有名になったもう一つのBUILD_DiVERSですわね」
HATENA。なにそのさもみんな知ってます、みたいなフォース名のようなものは。
思えば、私はそれほどGBNの事情に詳しくはない。昔ELダイバーを巡る戦争があったとか、その程度の知識しかなく、具体的にこの人はマークしておいたほうがいい、などはあまり聞いたことがなかった。
「それって、有名なんですか?」
その言葉に、みんな信じられない、みたいな表情を浮かべる。な、なに。私そんなに変なこと言った?
「あなたならそう言うと思ってましたわ」
「わかるわー! ユーカリちゃんなら言いそう!」
HATENAを更に浮かべる。な、なんなの。何かおかしいこと言った雰囲気漂わせているけど。もしかした私なんかやっちゃいましたかってここで使うべき言葉?
「ビルドダイバーズ。このGBN内で英雄視されてるフォースの1つよ。詳しくはそっちのELダイバーにでも聞いて」
「そうそう! サラちゃんとはズッ友だしぃ?」
フレンさんが言うには以下の通りだった。
おおよそ4年ほど前に結成されたフォースであり、メンバーは7人の少数から構築される実力派フォースである。まさしく少数精鋭とはこの事を言うのだろう。
彼らは第一次有志連合戦に置いて、マスダイバーをGBN内から追い出し、ELダイバーの生死をかけた第二次有志連合戦ではGBNと天秤にかけた戦いにおいて、勝利を収めていた。
曰く、その強さはチャンプの所属するAVALONにも匹敵する。
曰く、知略にハマったものは、二度と抜け出せない。
曰く、ロータスチャレンジを初めてクリアした猛者たち。
などなど、とにかくすごいフォースである。その中でもリーダーである『リク』というダイバーは『チャンプに最も近い』と言われているらしい。
「ま、アタシらELダイバーの命の恩人ってことよ!」
「なんか、すごいんですね」
「すごいのなんのって言うけど、実際はエンジョイ勢みたいな雰囲気だけどねー」
実際に会ったことあるから知ってるんだよねー、と鼻高らかに口にする彼女はどことなく嘘松――嘘つきを彷彿とさせる鼻のつく言い方であった。
「エンジョイ勢がロータスチャレンジをクリアできるわけありませんわ」
「えー、でも小文字の方もロータスチャレンジクリアしてたじゃ~ん」
小文字の方――BUILD_DiVERSはと言えば、名前ばかりが先行している未知の集団だと言っていた。
曰く、有名人を集めたロータスチャレンジ-Ver.エルドラをたった4機でクリアしたやべぇ集団。
このイメージばかりが先行しており、それ以降の活躍が霧に隠れてしまっているものの、彼らもまた強者であることに間違いはない。
「メイちゃんも可愛くてさー。『タクシーとは、こう呼ぶのではないのか?』って手を上げるんだけどさ、ELダイバーってちっちゃいから運転手から見えないのマージウケるって」
「詳しいんですのね……」
ややドン引き。ストーカーじみたエピソードを繰り返されてしまえば、流石のノイヤーさんですら引いてしまうわけでして。
エンリさんなんか興味がなさすぎてコーヒーサーバーでカフェオレ作ってるし。
とにかく2つのフォースが激突しているのは有名らしく、特にリクVSヒロトの対決は手汗握る激戦だったと聞く。確かにあの戦闘はすごかった。
ダブルオースカイメビウスの超高火力攻撃に対して、武装を解除して強引に避けるコアガンダム。それから近接戦闘用であろうマーズフォーガンダムにグローアップして、臨機応変に対応する姿は、ある種ガンダムAGEめいた、戦況に応じてウェアを変えているみたいで、いつの間にか手を握っていたっけ。
「そういえば、エンリさんはいつからGBNをやっていますの?」
「は?」
「言われてみたら、エンリさんってあんまり自分のことを喋りませんよね」
一応フォース内の共有事項によって、エンリさんがAランクのトップファイターに数えられる程度の情報しか無く、いつ始めたかとか、GBNではどんな事をしていたかとか、そういう込み入った話をする機会がなかった。
いい機会だし、エンリさんが座ったソファーの隣にバリケードになるよう座る。
「大した話はないわよ」
「どーせめっちゃ面白い話持ってんだぞー! ほれほれ、アタシにいーてみ?」
「何キャラなのよ、それ」
「ギャルですけど何か?」
どちらかと言えばおじさん風に見えたのは、私の気のせいだろうか。
おじさんのELダイバー。いるんだろうか?
「始めたのは、だいたい4年前ね。ちょうど大文字が活躍してた頃」
「おお! らしい話が出てきましたわね!」
4年前か。私、変なゲームばっかやってた時期だなぁ。
「第一次は?! 第二次は!!」
「声が大きいわよ。うるさい」
わざわざお口チャックの動きをしながら、口をH型に閉じるフレンさん。
それでも喋りたいのか、口はウズウズ動いている。
「第一次も二次も、興味なかったから参加してないわ」
「うぇー、アタシらの存在がかかってた二次もー?」
「別にどうでもよかったわよ。今更新しい命がどうこうって言っても、一般ダイバーには関係ないし。GBNがサ終しても、GPDに戻ればよかったし」
また慣れない単語が出てきた。GPDとはいったい。
「あれですの? ガンプラが壊れるリアルのガンプラバトル?!」
「元々出身がそこだから。今となっては嫌な思い出だけど」
カップに口をつけながら、エンリさんは答える。
その表情は何か後悔に塗れた視線な気がした。どこかに行ってしまうような、そんな浮世離れした遠く青い瞳。
私はいつの間にか手を添えていた。何故かは分からない。けれど、ひとりじゃないって、そう思ってほしかったからかもしれない。
「どうしたの、この手」
「……あ! いえ。なんでもありません!!」
「むーーーーー」
そして突き刺さるノイヤーさんの視線。え、何?! 今度こそ何かやっちゃった系女子だったりします?!
「あー。あ! エンリちゃんって、その間何してたん? ほら、鳥狩りとか! 遊んでたんでしょ!」
そんな気まずい空気をフレンさんが曖昧にするようにして、質問を切り出した。
鳥狩り、という単語もなかなかに妙だけど、エンリさんってスキあらばどっかに行って翼持ちとバトルを仕掛けているイメージが強かった。
実際、この前もフリーダムガンダムとバトって、両翼もぎ取るなんて事をしてたし。
あの時は対戦相手の方を慰めるので忙しかったな。
「フリーバトルしかなかったわ」
「あー、だと思った」
「ですね。なんとなく、そんなストイックさを感じました」
これはお世辞抜きで自分に対してストイックだとは感じている。
その内容が『八つ当たり』という話ではあるのだけど、いったいどういうことなのかは、やっぱり答えてくれなかった。
それからフォース戦というものを教わって、一種のギルド対抗イベントである、フォースバトルトーナメントがあるということも教えてもらった。今度出てみてもいいのかなー、なんて。
「ですから! まずはユーカリさんにもフォース戦の洗礼を味わっていただきましょう!」
「おけおけ! アタシ対戦相手探しとくねー」
「え?! ノイヤーさんも初めてですよね?!」
「そうとも言いますわ!」
そうしか言わないと思うんですけど。もしくはアホの子。
ウィンドウをスクロールして動かしながら、おおよそ適当と思えるほどに対戦申請を出していくフレンさんを見て、やや怖さを感じたけれど、そこはフォースリーダー。膝を揺らして、止まらぬ震えで恐怖を再現していた。
◇
「……だからって、なんで兄さんなのよ」
「すまんな! ハハハ!」
豪快に笑う男性の姿はやや勇者に見える風貌であるものの、どちらかと言えば洋風のサムライ、というべきかもしれない。
袴と着物に鎧を身に着けたファッションセンスがマッチしている辺り、なかなかのツワモノ感を出していた。
フォース『せんぱいと後輩の愛の巣』。こっちのセンスは壊滅的であるものの、それをカスリともさせない力強さが、彼らにはあった。
……というか、兄さん?
「フレンさんからの紹介だと思ってみたら、まさかエンリさんがいるなんてびっくりしました!」
「わたしもびっくりよ。結婚して家から出た兄とGBNで再開するなんて」
「……これも1つの愛の形ね……」
エンリさんが兄さんと言っていた相手ユウシさんとそのお嫁さんと言うべきユメさん。そしてサラーナさんの3人が今回の対戦相手だった。
「ふーん、エンリもフォースを持つようになったか!」
「ちょっと……」
「中学生までは元気だったのに、突然こんなになったからびっくりだぜ」
中学生までは? ちょっと気になる話だし、挨拶も兼ねてそのことについて聞こうとした、その瞬間であった。
「ふっふーん、嫁よりも妹ですか、せんぱぁい?」
「ヒウッ! お前ッ、アレほど溝内はやめろって言っただろ!」
「他の女にうつつを抜かす、せんぱいが悪いんですよー」
「もうすぐ2……痛ッ!!」
「それから乙女の年齢を口にするのはタブーですよーだ」
あはは。なんというか、大変独占欲が強いお嫁さんだこと……。
軽いドン引きも兼ねながら挨拶を交わすと、ユウシさんも悪い人間ではないということが分かる。というか、妹を素直に心配してる感じがして少し羨ましく感じた。私一人っ子だったから。
「ま、今日はいいバトルにしような」
「はい、よろしくお願いします!」
サラーナさんはバトルには参加しない性格で、フォース戦は基本的には2人で参加しているとのことだった。
相手のせんぱいと後輩の愛の巣からは、ユウシさんの『ガンダムベルグリシ』。そしてユメさんの『パンダガーEX』が出るという情報だけが出ていた。もちろん情報収集なんてこれっぽっちもやっていない、が……。
「兄さんはわたしがやるわ」
作戦会議を始めて、いの一番に答えを出したのは他でもないエンリさんであった。
「と、突然どうしたんですの?」
「兄さんのガンプラは規格外なのよ、色々と。同じ鉄血同士なら、わたしが相手した方がまだマシよ」
「……ちなみに、どんなのなんですか? ガンダムベルグリシって」
掲示板での下調べを兼ねながら、10分という作戦会議を進めていく。
『ガンダムベルグリシ』。ガンダムティターンを前身にした、バルバトスルプスをベースにしたガンプラである。
巨大な剣、いや壁と言っても差し支えないほどの大きなバスターソードは強力な武器であるものの、それ以上に厄介なのは純粋な出力だ。
エイハブ・リアクターを超えた架空のコア『デザスト・リアクター』によって出力は通常の3倍。常時リミッター解放に匹敵する力を得ている。
山の巨人とも謳われる『ガンダムベルグリシ』はまさしく偉大なる者を相手にしているかのような強さを有している。だが、それにもしっかりと弱点が存在していた。
「本人曰く、欠陥品なのよ。フル起動時間おおよそ9分。それ以上はセーブがかかるって」
「それだけの兵器ってことですか」
「超超短期決戦型のガンダム。それがベルグリシよ。わたしはこれをなんとかして止める」
「そんなの、エンリさんでも……」
無理ですよ。そう言いかけて、やめざるを得なかった。
その瞳はいつものような虚ろな瞳ではなく、決意と信念に満ちた私の知らない別の彼女だったんだ。
「……わたしも、浮足立ってるのよ。久々に兄と戦えることが」
「分かりました。皆さん、いいですか?」
「もち! 3対1で叩いてからそっち行けばいーし!」
「わたくしは正直反対ですが、ユーカリさんが信じたのですから、わたくしも信じますわ」
意外に見えただろうか。でも戦略的には1人を囮にして、その間に3機で袋叩きにするのは常套手段ではあると思う。あまり褒められたやり方ではないけれど。
でもこれは、エンリさんと言う壁が崩れてはいけないという諸刃の作戦。私たちがユメさんを先に叩くか、逆にエンリさんが叩かれるかの。
だから私たちは賭ける。BETしよう、エンリさんが勝つ方に!
「……ありがと」
「どういたしまして!」
「ふん」
残りの作戦を決めて、私たちはガンプラに乗り込む。
初フォース戦で、初勝利。これだけ初めてが揃えばかっこいいし、下剋上ってとてもアウトローっぽいし!
だから……!
「勝ちましょう、皆さん!」
「えぇ」「ういー!」「……そうね」
高らかに宣言しましょう。いざ!
「フォース、ケーキヴァイキング。行きます!」
突然始まる兄妹対決
◇情報アップデート
名前:エンリ / ホシモリ・エンリ
性別:女
身長:159cm
年齢:19歳
二つ名:バードハンター
過去作『GBNで小悪魔系後輩に煽られてるんだが』の主人公であるホシモリ・ユウシ(イッチ)の実の妹である。
ユウシ本人はユメと結婚しており、既に家から出ている。
エンリはそのことに対して何も思うところはないものの、
自分の師匠であるユウシと一度対決してみたい、という思いはあった。
◇ユウシ
出典元:GBNで小悪魔系後輩に煽られてるんだが(二葉ベス作)
エンリの兄であり、今は嫁のユメと一緒に二人暮らしをしている。
相変わらずGBNにはログインしており、掲示板もそれなりに活用している。
時たま、スレッドに『うちの嫁が最近怖いんだが』と出てきたらだいたい彼だ。
ランカーとしてやっていける実力もあるが、興味がないためか、昇格戦などは一切していない。
◇ユメ
出典元:GBNで小悪魔系後輩に煽られてるんだが(二葉ベス作)
ユウシの嫁であり、現在リアルでは『ホシモリ・ユメカ』と名乗っている。
仕事は相変わらずだが、周りからの印象は笑顔が増えたと、話題になっている。
ユウシをイジるのが好き。でもちゃんと愛しているので、愛のあるイジりと言えよう。