作戦の通り、エンリさんは実の兄であるユウシさんとの一騎打ちを挑む。
曰く、2人の連携が常勝の鍵となっているらしく、今回はそれを分かつ、分断させる戦い方をすべきと考えた。
エンリさんがユウシさんを誘導。その間に後方で控えるユメさんを3人で叩く。それが今回取れる最適解。そう考えていたのだけど……。
「なんなんですの、この弾幕の数は!」
「ありえねぇーって!」
宇宙戦闘には慣れていないものの、自前のゲーマーの勘というやつで避けていくものの、限度がある。
黒い無の空間に一際煌く星。それは星とか惑星とか、そんなものではなく、マズルフラッシュが幾重にも重なって見える光。
光る星の正体は誰だ。その答えはたった1つ。ユメさんの『パンダガーEX』であった。
曰く、ユメさんのくせに合わせて最大限まで調整を加えたまさしく彼女専用のダガーL。それだけならば話は終わりなのだが、その背中についているストライカーパックまで含めてEXなのである。
チャイナフルストライカー。対地、対宙、対艦など、いろんな制圧戦における装備を一身に背負った武装。巨大な2門の砲身と翼を携えており、小回りは効かないものの、圧倒的な弾幕と物量で相手に頭を垂れさせる。
ミラージュフレームをモチーフにしたミランド・セルを所持しているフレンさんと白ダナジンのノイヤーさん、そしてバッドガールの私の3人がかりで、これに戦おうとしているのに、攻撃のレンジには入れていない。
「避けるので精一杯なんだけどー!」
「飛行形態でもあの弾幕を超えるのは少しばかし……」
ドッズライフルを本来の射程距離から更に遠い位置から撃っているものの、当たっているのか当たっていないのかさっぱり分かっていない。
そしてビームバーストストリームを撃とうにも、邪魔をするのがあの兵器だ。
「Iフィールド発生装置。状況は最悪と言ってもいいでしょうね」
一種のバリアフィールドのようなもの。ビーム兵器であれば基本アレで無力化させられてしまう。もちろん臨界値まで攻撃をして装置を破壊することも可能なのだけど、それには弾幕の届かない射程距離からのビームバーストストリームしか方法はなかった。
そして、ノイヤーさんはその狙撃テクニックを所持してはいない。
『どうしましたか。まさかこれで終わりとは言いませんよね?』
嵌められた。そう感じるのにそう時間がかかることはなかった。
ユウシさんとユメさんは『あえて私たちの作戦に乗った』のだ。
エンリさんという人となりをちゃんと理解しているからこその作戦。ユウシさんの絶対に負けることはないという確かな意思。
「どうしましょう。岩に偽装してとか行けません?」
「行けるわけ無いじゃん! GN粒子の残量的にもムーリー!」
「ですが向こうも近づかない限り、決めてもないはずですわ」
先程からエンリさんとユウシさんの壁になるようにして、私たちと対面していた。
逆に言ってしまえば、ここを突破してしまえば4対1の絶対的有利を再現できるのだけど、まずは目の前のパンダガーEXを倒してから行かなきゃ……。
「ぶっちゃけ五分五分ぐらいには持っていけなくもない、的な?」
「フレンさん、まだ何か隠してるんですか?!」
「まー、ある意味現状サイキョーのセルっつーか。宙間戦闘に対応したセルだから用意はしてたんよ」
「ではさっさとそれを使いなさいよ!」
ノイヤーさんの言うとおりだ。特に隠す理由もなければそのサイキョーの装備を使うのに躊躇いはないはず。
「頭痛くなるからあんま使いたくなかったけど、しゃーないか!」
「でしたら、わたくしたちで時間を稼ぎますわよ!」
「はい!」
ダナジンが飛行形態へと変形し、その上に私のバッドガールが乗る。
よし、五分五分程度なら、十分に戦えるよね!
心の中で意識を切り替える。私はアウトロー。私はヒール。私は、悪い子!
「ひーはー! あたしの怒りを受けてみろー!」
胴体のフラッシュアイを起動させて『あえてこちらに目線を取らせる』。
襲いかかる2門のビーム砲を回避しながら、注意を引くためにパンダガーEXへと先行を開始する。
「ビーム! ビーム! ビーム!!」
『突貫してきた? ですが、例えドッズだとしても!』
静かな機械音が宇宙空間に溶かしながら、Iフィールド発生装置を展開。尽くのビームを溶かし尽くす。
やっぱりドッズライフルでも無効化されちゃうか。というか、実弾ライフルでの攻撃やガトリング砲もそうだけど、カスリダメージがかなり蓄積している。
「ユーカリさん、あの規格外のストライカーパック、どうお思いですか?」
「どうって、小回り効きませんよね、あれ」
「そのとおりですわ。先程ひらめいた作戦、乗ってくださる?」
チーム内回線で作戦の内容をフレンさん、私に拡散する。
「おっけー。アタシもなんとかしてみる」
「頼みましたわ。これにはフレンさんにかかっていますから」
私たちはできるだけ展開を派手に繰り広げながら、できるだけ注意を分散させるために宇宙空間を駆け巡り始めた。
◇
アタシが、作戦の要か。
しばらくソロプレイでやってきたアタシにとっては、あまりにも高い壁だろうけど、やらなきゃ女が廃るってもの。なら、やってやろーじゃん!
「セルチェンジ! ミランド トゥー ハイランド!」
後ろから迫ってくるのはハイランド・セルが装備されたサポートユニット。
背中のバックパックの接続を解除し、一時的に操縦権をサポートユニットに譲渡。そのままラインに従って、V2のミノフスキードライブとAGE-FXのCファンネルが装備された、Hi-νガンダムのようにも見えるバックパックを背中に接続。
モビルドールフランの瞳の色を空の色と同じ青色に染め上げれば、その換装は完了する。
モビルドールフラン ハイランド・セル。
空間・宙間戦闘に対応した装備であり、先程も言った通り推進力とオールレンジ性能を高めた現状最強のセルである。
「ミランドは任せた。んじゃ行こうか!」
このGBNでファンネルを使うには2種類の選択肢が存在する。
1つはプラグインでフレーバーテキストにファンネルを使用可能にする文言を加えること。ある程度の使い方はできるものの、精度はあまりよくない。
そのため特化機体には必ず『サイコミュシステム』を搭載する必要がある。
これが2つ目。バックパックにそのサイコ・フレームを組み込むことで、別作品のファンネルであるCファンネルを使えるようにしている。
そしてこれは素質の問題になるけど、自動操縦ならまだしも、手動操縦だとめっちゃ頭使うんだよ、これ!
「行っちゃいな、Cファンネル!」
ミノフスキードライブから発射される6つのCファンネルは全て手動操縦。
思考補助システムがあるにしろ、湯だつぐらいには頭使うからあんま使いたくなかったのにー!
「ユメちゃんのせいだかんね!」
『私ですか?!』
加えて展開するのは光の翼。桃色のビームエネルギーを利用して、常人離れしたスピードでパンダガーEXの視線をこちらに向ける。
『っ! 3対1って卑怯じゃないですか?!』
「アウトローだから、別にいいんだよヒャッハー!」
パンダガーEXを挟んで反対側にはノイヤーちゃんのダナジン。
こっちの作戦も順調に進んでいる。視線は、こっちが貰っている!
『そう簡単に、調子には!』
数えるのが億劫になるほどのミサイルが空中に散布される。目標は3:7でアタシが7。この程度なら、Cファンネルで切り刻みつつ、それでいて光の翼を最大放出しながら、焼き切ってみせようじゃん!
ミサイルの撃墜数を増やしながら、更に空中でバク宙をして光の翼を縦2文字に斬り裂く。
漏れたミサイルをCファンネル6基で両断。加えて高速移動しながら更に光の翼で焼き切る。出来上がったのは目の前で爆発が広がる宇宙だけだった。
「マジ、ですの?」
『や、やりますね……ですが!』
「んーや。もう手遅れだと思うよ」
へ? そんな気の抜けたユメちゃんの声とともに襲いかかるのは虎の子のIフィールド発生装置の破壊。あまりの衝撃に前のめりにチャイナフルストライカーごとパンダガーEXが動く。
『な、なんですか?!』
「さっきから、ユーカリちゃんのこと、見えてた?」
先程まではそこにいなかった。いや、レーダーにすら映ってなかった機影が1機チャイナフルストライカーの接続部分をビームサーベルで崩壊させる。
「これぞアウトロー戦法その1! 不意打ちぃ!」
咄嗟に切り離してその場を離れるものの、巻き起こる爆風は逃れられない。
パンダガーEXを含んだ爆発は一帯を炎の海に沈めた。
どういうことか。何が起こったのか。それがノイヤーちゃんの作戦だった。
小回りが利かないが、スキはないパンダガーEXを攻略するにはアタシのミランド・セルの力が必要だった。
サポートユニットに接続させたミランド・セルを混乱に乗じてユーカリちゃんのバッドガールに接着。GN粒子とミラージュコロイドの隠密性で姿を消しながら、背後に回ったユーカリちゃんがバッサリ。っていうのがノイヤーちゃんの作戦。マージでアタシじゃ思いつかんわ。
「つーことで! 後はアタシらに任せてユーカリちゃんとノイヤーちゃんは行っといで!」
「殿は任せましたわ!」
「ありがとうございます! では、行ってきます!」
殿は任されたよん、ってね。
スタングルライフルを握りしめて、Cファンネルを自動操縦に切り替え。よし、第二ラウンドと行こうじゃん、ユメちゃん!
◇
戦闘継続時間はおおよそ6分。残りは3分だ。
『もっと叩き込んでこい、エンリ!』
「ちっ」
以前の大型バスターソードよりも更に大きい、超大型バスターソードを事もあろうに片手で容易く振り抜いてみせる。
わたしの兄には二つ名が存在している。
――ヴァルガの怒れる勇者。
由来はと言えば単純でヴァルガの民であり、自身を勇者として名乗っているためである。
しばらく聞いていなかったけれど、まさかあんな侍チックな見た目になっているとは思ってもおらず。袴のようなホバーを使いながら、バスターソードを振り回す姿は確かに勇者と言っても差し支えないだろう。
近づけない。
わたしのキルレンジは基本的にはツインメイスが届く範囲。長物であるバスターソードはとにかく大きい。普通ならばその巨大な剣を扱いきれずにスキが生まれるはずなのだけど、彼は常軌を逸している。巧みに操る姿はまさしく怒れる勇者。
わたしの目的はそもそも時間を稼ぐことなんだから、それでいいとは思うのだけど、それはそれとしてこの兄とは決着をつけたい。負け越しているんだ、せめて兄に勝てないと、兄に勝ったナツキには……!
『相変わらず拘ってるんだな』
「……兄さんには関係ないでしょ」
『なら1つ言っておいてやる』
バスターソードの剣先をわたしのゼロペアーに向けて……。
『目の前の相手を見てない奴が、俺に勝てるわけないだろ』
「うるさい!」
昔からそうだ。昔からこの兄はわたしの心を、過去を逆撫でしてくる。
3本目の腕の代わりであるテイルシザーを先行させつつ、ツインメイスを両手に持ちビーム砲を連射する。もちろんこれは牽制だ。それを理解してない兄ではない。
隕石を力強く叩きつけて、浮かんだ岩盤や土煙がテイルシザーの妨害をする。
咄嗟に方向転換。視界を確保すべくテイルシザーを横に一閃。さらに手に持っているハンドメイスを1つ投げつけた。
『甘いな。お前の手癖の悪さは誰より分かってるつもりだ!』
ハンドメイスの先には的がおらず、代わりに横振りに豪快にバスターソードを投げつける。あまりにも兄妹。手癖の悪さは遺伝するとはこのことだけど、こんな兄と同じになりたくない!
迫りくる回転壁。潜り込むのも飛び越えるのも、恐らく兄の計算の内。腰に構えている太刀を手に一緒に飛び込んできている。飛べば斬り、潜り込めば恐らく突き。横に避けようにもこの機体のスピードでは間に合わない。だったら……!
『潜り込むか。だが!』
襲いかかるのは突きの3連撃。まさしく即死の一撃に対して、わたしが何をするか。正直後先なんて考えてないのけど、仕方ない。
仰向けになった機体のフロントスカートからシザー・アンカーで奇襲。
もちろんこの攻撃に突きを解除して切り払う。だけど、それが狙いだ!
「こいつでッ!」
強引に身体を捻らせながら続く攻撃はテイルシザー。
オオカミのような起動音を響かせながら、目標はコックピット一点。ワイヤーを伸ばして、その先にある勝利をわたしは勝ち取る!
『……サラーナに教わっといてよかったぜ』
カチャリ。その鈍い音が反転しながら空間を歪める。
一閃。わたしのテイルシザーは波打つ鉄の刃によってワイヤーが両断された。
「ッ!!」
更にもう一回転。続く攻撃はハンドメイスでの打撃攻撃。
こうでもしないと兄さんには届かないって分かってた。けれど!
踏み込む刀はもはや囮。へし折った刃を顧みぬことなく、ベルグリシの右手が頭部に襲いかかる。
その無慈悲なまでの爪は、『もう一本のワイヤー』によって阻まれた。
『……ユメがやられたか』
「あんたたち……」
その姿はヒーローでもヒロインでもなんでもない。
ただの黒い海賊。アウトローの装いは紛れもなく、わたしが僅かにでも信頼しているフォースリーダーの姿だった。
「仲間がやられるところを、黙ってられません!」
戦闘時間はおおよそ8分。残りは1分だ。
ぶつかりあう暴力と暴力
・パンダガーEX
パンダガーLをユウシとユメの手で再構築して作り上げたユメのワンオフ機体。
基本的な見た目そのものはパンダガーLと相違はないが、
すべての調整がユメの触感で作られており、文字通りユメにしか扱えないガンプラ。
また、ストライカーパックについては固定されており、3つのパックを一緒くたにした、ユメだけの決戦用ストライカーである。
◇チャイナフルストライカー
対地、対宙、対艦などをすべて含めたてんこ盛りストライカー。
巨大な2本の砲身と巨大な翼を携えており、小回りは効かないものの、
いくつもの兵装で根絶やしにする制圧戦に向いている。
また、Iフィールド発生機も装備されており、
ビーム兵器では無効化されてしまうほどのフィールドを持つ
・武装
シロクローピストル
シロクローライフル
125mm2連装高エネルギー長射程ビーム砲「バンブー砲」
3連装ミサイル・ポッド
ウイングミサイル:6基搭載
ガトリング砲:2門搭載
2連装リニアガン
フラガラッハ3ビームブレイド