ガンダムビルドダイバーズ リレーションシップ   作:二葉ベス

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サマーーーーーーバケーーーーーショーーーーーーン!


第22話:ばっどがーりゅとサマーフェス その1

 フェスとは、GBNで行われているフォース限定イベントのことである。

 ガンプラを用いたレースにスポーツ、ダンスなど、様々なジャンルがあり、参加すると特別なアイテムや会場エリアでだけ使えるコスチュームなんかも手に入る仕様だ。

 私たちは意識が比較的バラバラでも、一連のフォースであることには間違いないため、このフェスにも参加することになっていた。

 そこで参加メンバーを紹介することにしよう。

 まずはリーダーにして、悪魔のバッドガールと名高い(自称)ユーカリ様だぁ!

 

「なんだか、ワクワクしますね」

「ですわね! ユーカリさんとの二人っきりのデート。堪りませんわ!」

 

 バッドガールと名乗ってはいるものの、こういう時の衣装は郷に入っては郷に従えと言う。ということでちょっと恥ずかしいけど、水着を着ていくことにした。

 私はちょっとセクシー目な黒い水着を着ようとしたところ、ノイヤーさんとフレンさんに似合わないとバッサリ斬られてしまったわけで。

 仕方なく着たのが桃色のストライプでビキニタイプの水着だ。胸下のフリフリが可愛らしく、リアルでも欲しいなぁという反面、身体が小さいくせに胸ばっか大きいから入らないだろうな反面。悲しい。

 

「何もこんな可愛らしいのじゃなくてもいいじゃないですかぁ! もっとセクシーなの着たかったです」

「わたくしのユーカリさんがセクシー系など似合いませんわ!」

「まー、ありえんわなー。てか、ユーカリちゃんと二人っきりじゃないし」

 

 私だってセクシー系似合うと思うのになぁ。

 不満げに思いながら私は続くメンバーであるノイヤーさんの水着を目に映す。

 彼女の水着はいわゆる白いチューブトップと言って差し支えない。流石に布面積は広めで、胸の谷間から首掛けが生えているスタイルだ。

 なんというか、胸はそこまでないけど、西洋人特有のスレンダーでスラッとした手足が白いチューブトップと肌髪に似合って、美の領域にまで達している気がしてならない。神像だ、崇めなくては。

 

「ノイヤーさんの水着、すっごく美しいです!」

「う、嬉しいですわ! 他でもない、ユーカリさんにそう言っていただけるのは感謝で失神してしまいます!」

「やめなさいよ、迷惑じゃない」

「冗談に決まっているでしょう。でもそれぐらい嬉しいんですわ!」

 

 実際美しいから言葉にしたわけで。そこまで言ってくれるのは嬉しいし、褒めがいがある人物だなと考えると、相変わらず可愛らしく思う。

 

「ねね、アタシは?」

 

 うっふーんと、その身体美を見せびらかすのはELダイバーのフレンさん。

 子供らしく、ではなく大人らしく落ち着いたセクシーな黒いビキニは胸元をフリルで覆っており、女性にしてはかなり大きめの胸を誤魔化しながらも、ちらりと見える健全な肌色の谷間が顔を見せている。

 流石にフォース内ランキング最上位の胸をしている。不服ながらも、自分のがあんなにおっきくなったら嫌だな、と自戒の意味を込めてじっとその胸を見た。

 案の定フレンさんが胸を隠した。

 

「な、何?!」

「いや、大きいなと」

「ELダイバーのくせに生意気ですわ!」

「今度戦う機会があったら凹ます」

「なんでそんなに怖いこと言うのさ!」

 

 だって大きいし。Eカップぐらいあるんじゃないですか、それ? 肩凝りません?

 なんてセクハラまがいのことは言えない。最悪ガーフレに呼ばれて、オンラインゲームでゲームオーバーを迎えかねない。

 セクシーですよ、と一言褒め言葉を出して最後のとっておきに向かうとしよう。

 

 最後は今にも帰りたそうに腕を組んで、光を失った死んだ魚の目をしているエンリさんだ。

 案の定というか、予想通り灰色のジャケットをフードまで羽織っていて、絶対露出はしないという鉄の意志を感じさせてくれる。その割には肩から先はノースリーブだし、足はショートパンツ型で、スラリと伸びる足にグッと来るとこがある。

 普段はブカブカのコートだから分からないけど、改めて見たらエンリさんもスタイルがいい。ちょっと凹凸がないぐらいで、いろんな衣装を着こなすことができるんじゃないかって羨ましく考えてしまう。

 

「……なによ」

「いえ。羨ましいなーって」

「どこが?」

 

 どこが、って。そりゃ色々あるけど、その全てが私にはないものだ。ないものに憧れを抱いてしまうのは誰しもが持っている感情なわけで。

 

「私、こんなにずんぐりむっくりですから、エンリさんやノイヤーさんみたいな素敵な体型に憧れているんです」

 

 ポン。と何故かノイヤーさんの手が頭の上に乗る。そして一言。

 

「可愛いですわねぇ、ユーカリさんは!」

「な、なんですかぁ! 私はアウトローの悪い女なんですよ!」

 

 ワタワタと両手を上に挙げてその行為を拒否する。

 以前から思っていたけど、なんで私はこんなにもアウトロー扱いされないのだろうか。こんなにも悪い女を演じているというのに。

 

「致命的にいい子すぎるのよ、あんたは」

「……それ、本気で言ってます?」

 

 今、信じられないことを口に出された。私が、いい子? ……心当たりがありすぎて逆に困ってしまう。と、とりあえず信じられないという体で話を進めておきましょう。

 

「どの辺がですか! 私のいい子ちゃんなところ、聞かせてください!」

「そんな前のめりにならなくてもいいから。胸当たってるし」

「当ててるんですー!」

 

 癖になっているだろうため息をまた1つ吐き出して、エンリさんは手のひらを私に向けてくる。

 

「1つ。基本的に会話が敬語」

「2つ。アウトローは自分のことのように人を褒めない」

「3つ。悪い女は致命的にセクシー衣装が似合わないなんてことはない」

「4つ……」「わ、分かりましたよ! 私の負けです……」

 

 やっぱり最初のAGE狂い方面で進めていった方がいいのかな。

 こんなときになってキャラの方向性で悩むことになるなんて。うぅ、別に偽ってるわけじゃないからいいですし、無理してたのも間違いないんですけど。けどぉ……。

 

「エンリさん! ユーカリさんをあまりイジメないでくださいませんこと?」

「イジメてないわよ。せいぜいイジってるだけ」

 

 それをイジメているというのではないだろうか。

 半ば諦めがちにノイヤーさんの手を解くことなく撫でられている。なんか気持ちいい。以前ユーカリウムがどうこう言ってた気がしたけど、あながち間違いではないのかな、なんて考えたり。

 

「……これが、修羅場!」

 

 フレンさん、変なこと言ってないで止めてほしいんですけど。

 さっきから頭の上で高身長2人がバチバチと視線をぶつけ合って、殺意バリバリな戦いをしている。このままじゃ海の家なんかは耐えることもなく爆発四散してしまうだろう。おぉ恐ろしや。

 私のジト目を見て、やっとことの重大さに気づいたのかフレンさんが和解に入ってくる。

 

「まぁまぁここはさ、勝負ってことで!」

「「勝負?」」

「これから始まるフェス限定ミッションの3本勝負! 2勝した方がユーカリちゃんの所持権を1日得られるってことで!」

 

 え。私、勝負の賭け対象にされているの?!

 嘘嘘。全然聞いてないよそんなことは! だって私みんなでフェスを楽しもーぐらいの緩い考えしかしてこなかったのに、そんな私を巡って勝負って……なんかヒロインっぽいかも。

 

「まぁいいわ。受けて立ってあげる」

「フッフッフッ! 舐めてはいけません。わたくしはかつて屋台際の白虎と謳われた異名もありましてですね……」

「あー、はいはい。そういうのはいいから」

「いいからじゃありませんわよ!」

 

 お互いに握手を交わして、選手宣誓はこれで終わりみたいだ。

 こうして始まるのは世にも珍妙な、私を巡った謎の3番勝負です。ホントに謎です。

 

 ◇

 

「そういえばフォースフェスってガンプラを使ったいろんな大会をやってるんでしたっけ」

「そーそー。これもその1つってわけ!」

 

 目の前で行われているのはビーチでやるなら、こういうのが栄えるよね、っていう多分3大競技のビーチバレーだ。

 ただ普通のビーチバレーではない。ガンプラを使ったビーチバレーである。

 ルールは簡単。3回までタッチが許されたボールを相手のフィールドに叩きつければ1点。その点数を競って、先に3セット取った方が勝ち、と言うスポーツだ。

 もちろん火器武装などは禁止、なのだが何故かNT-Dやトランザム、EXAMと言った身体強化系は使えてしまう。そのため……。

 

「なんなんですの、この超人バレーは」

 

 そこに巻き起こるのは地獄。まさしく煮えたぎった熱々の釜をひっくり返したような熱意と情熱、それから何よりも勝る殺意。

 繰り広げられているハイパーモードVSFX-バーストのバトルは異種格闘技戦ではあるし、なんだったらたまに戦闘ログで見かけるけれど、実際はビーチバレーをしているっていうのは詐欺もいいところだと思う。

 

「まさか、これをエンリさんとノイヤーさんに?」

「まさかぁ! 普通ビーチバレーって2on2だし、タッグ組まされるのアタシらだし、やる気ないって!」

「じゃあなんでこれを見せたんですか?」

 

 不敵な笑みを浮かべながら目の前のギャルダイバーはこう告げた。

 

「覚悟、決めてもらうって思って、さ!」

 

 その言葉に誰一人反応することはなかったけれど、誰もがこのドヤ顔を殴ってやりたいと思ったことだろう。珍しく私もその1人だった。

 ネタがスベったことに対して、やや恥ずかしそうに口元で喉を鳴らして誤魔化す。

 ちょっと傷ついたみたいだから、この事は不問にしよう。

 

「で、わたしたちにやってもらう3番勝負の1つ目は?」

「よくぞ聞いてくださったー! 右手をご覧ください」

 

 一同、フレンさんの指を差す方向を見れば、そこにあるのはただの海。あとは受付会場となるベンチだけ。ど、どういうこと?

 

「第1関門はグランダイブ・チャレンジ in サマーフェスってことで、水中に沈んでる『ハロ』を探してもらうんだ!」

「「え”っ!」」

 

 ノイヤーさんはともかく、エンリさんまで露骨に嫌そうな顔をする。

 そもそもグランダイブ・チャレンジってなんだろう? ってことで軽くその場で調べてみると、そういうクリエイトミッションがあるのだとか。

 原典は水深500メートルもある特注プールの底に沈んでいる『ハロ』を手にして、再び地上に浮上できたのなら勝ち、というミッション。水中戦に長けたダイバーが積極的に妨害に入るなど、水中戦の登竜門として有名なクリエイトミッションらしい。

 私は一切水中戦をやったことがないから、さっぱりなんだけど、ひょっとして難しいのでしょうか。

 

「難しいも何も、水に足を取られて撃墜は数え切れないわ」

「それに底に行けば行くほど水圧が絡んできて、生半可なガンプラではすぐにぺしゃんこなんです。それ故に敷居が高いとされていますわ」

「へ、へぇ……」

 

 確かガンダムAGEにも水陸両用の機体であるウロッゾが存在したけれど、水中戦って結構戦略面より、戦術面のイメージが強い。

 あのキオですら湿地帯である点からフォートレスでの出撃をしていたし、水中戦を避けていたフシもある。敷居が高いと言われても納得できた。

 

「今回は割と易しめで、妨害の中いくつかあるハロを手にした人が勝ち、みたいな」

「へー」

「それに水深もそれほど深くもない。ガンプラの作りが多少甘くとも、プレイするのには支障がないだろうね」

「そうなんですかー……って、誰ですか、今の」

 

 キョロキョロと男性の声がした方向に目線を配らせる。

 どこかで聞いたような相手を思いやる暖かく優しい声色。この声、ひょっとして……。

 目線の先には仮面を外した金色の髪をした男性の姿がいた。

 

「キョウヤさん?」

「あぁ。しばらくぶりだね、ユーカリくん」

「え?」「は?!」

 

 今度はエンリさんとノイヤーさんのギョッとした声が耳の奥に伝わってくる。

 まるで、普段見ない有名人か幽霊でも見たようなそんな驚き方。

 キョウヤさんに失礼だと思うんだけどなぁ。なんて考えながら、差し伸べられた手を掴んで再会の握手を交わす。

 

「あ、あんた、チャンプとどういう関係なの……?」

「え、どういうって……え?」

 

 随分前、というほどでもないが、この前聞かされたエンリさんの『チャンプ』という言葉が引っかかる。

 ワールドランキング1位。AGE好き。G-Tubeチャンネルで見た、金髪長身で、優男の『キョウヤ』……。

 繋がっている手。がっしりとした男性の手。彼のダイバーネームは『クジョウ・キョウヤ』。点と点が繋がり、1本の線でつながる。そして繋がっているこの手も……。理解するにはさほど時間は必要なかった。

 

「え? え?! もしかして、あなたがチャンプなんですか?!」

「そうとも言われているね。改めて、僕の名前は『クジョウ・キョウヤ』だ。よろしく」

 

 いたずら心か、何故かガッチリと掴まれた逃げようのない右手をどうにかこうにかして振りほどこうとしているが、一切離れる気配はない。

 え、本物?! 私、ひょっとしてこの前雑談してたのって本物のチャンプだったんですかぁ?!

 

「あんた、まさか……」

「し、あるわけないと思ってて。仮面つけてたし、ガンプラに詳しい人だなぁとか思ってたり、ネトゲだし同じ名前ぐらいいるよね。とか思ってたんですぅ!」

「あはは、あの時はお忍びだったからね。いいお茶会だったよ」

「そうでしたけどぉ!」

 

 スポッと手が抜けた勢いから砂浜に尻餅をつく。

 いやだって、まさかチャンプとフレンドになっていただなんて、思わないですよ普通。

 こうなってしまえばアウトローの皮なんてものはもうないに等しいわけで。

 

「あ、えっと。ファンです! このトライエイジにゲスト参戦したキョウヤさんのカードにサインください!」

「いいよ。持っていてくれたなんて嬉しいな」

「と、当然です! AGEファンのファンですから!」

「バグってますわね、ユーカリさん」

 

 期間限定のGBNの時にまさかの筐体デビューしていたクジョウ・キョウヤさんのカードにサインしてもらっちゃった。あー、今日はなんて吉日なんだろう。もう何も怖くない。

 

「では、時間も押しているからこれで。フレンくん、後でね」

「ういー! また後でー!」

 

 相変わらずのいい笑顔で水着にパーカーを身につけたキョウヤさんが人混みの中に消えていく。なんか、いつの間にかすごい体験をしていたのかもしれない。今の記憶、しばらくしたら吹っ飛んでそう。

 でももう一つ気になることもあった。

 

「フレンさん、チャンプとはまた会いますの?」

「うん。だって、グランダイブ・チャレンジの妨害役の1人だからね!」

「「「……え?」」」

 

 それは、今からグランダイブ・チャレンジにエントリーしようとしているエンリさんとノイヤーさんへの死刑宣告に相応しい内容であった。




再来のチャンプ

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