『毎度! 今回もやってまいりましたグランダイブ・チャレンジ in サマーフェス!』
陽気で関西人的訛りを感じさせる男性が1人、マイクを持ってウィンドウの中に収まっている。
でかでかと黒いサングラスに発色の良いジャケットを身に着けた男は、ただでさえ熱い会場を更に熱く燃えたぎらせる。
男性たちも女性たちも歓声が広がって、特別席にいる私まで熱が伝わってくる。熱い。煩わしくないが、うるさくないかと言われたら嘘になる。やっぱりうるさいです、はい。
『実況はご存知窓辺のモクシュンギク……ミスターMS! そして解説は~!』
『こんちの~! フォース『ちの・イン・ワンダーランド』のちのだよー!』
広がるのは黄色い歓声。何のマークかは分からないけど、さくらんぼが描かれているうちわを握りしめる男性や、サイリウムを振り回す男性。とにかく圧が強かった。今度はむさ苦しいタイプ。
快活なイメージを持つ茶色いポニーテールと、豊満なバストを水着で包み込めば、アイドルの完成と言っても過言ではない。これで同時にランカーだって言うんだから、天は二物を与え過ぎだ。
『いや~! ちのはん、すごい歓声やなー!』
『あはは、どーも』
『言うても? 今日の相方はワイやから、みんなすまんな!』
「「あぁ?!」」
『怖いわーもう! ちのはんもそう思うやろ?』
『いいぞー、もっとやっちゃえ従業いーん!』
ドシャア! と大げさにすっ転ぶミスターMS。舞台慣れしているのだろう、やっぱり関西人はすごいなぁ。
この人たちのG-Tubeチャンネルもきっとあるのだろう。今度チェックしてみても損はないかもしれない。
『お約束やからな! つーことで』
箱を置くようなエアモーションを繰り広げると、真面目なトーンで1つちのさんへと声をかける。
『ワールドランキング104位。戦場の支配人っちゅーあだ名も持ってるちのはんに聞きたいことがあるんや。今回のグランダイブ・チャレンジ、注目株と言えばどのダイバーやろ?』
考えるような素振りで一拍、二拍と指でトントンとほっぺたを叩く。
そして、少しニヤリと笑った彼女は愛くるしい笑顔とともにその期待ダイバーというのを口にした。
『やっぱチャンプは気になっちゃうよねー! 妨害役での参加だし、このためだけに新しいガンプラを作ったって噂だしね!』
『って、結局チャンプやないかい!』
掴みはOKと言わんばかりに会場が笑いに包まれる。怒るということもないわけだし、上手い話題の誘導のさせ方だ。
ひとしきり笑いが収まったところで、それと……。と口にする。
『バードハンターも気になっちゃう! 巷で話題の翼狩りがフォースを組んだって聞いて、知り合いの中でも驚き隠せない子がいるくらいだからね!』
おっ。どうやら話題はエンリさんの話みたいだ。
ダイバーの情報とかは基本調べたことがなかったから、エンリさんがどれだけ有名なのか。私はそういうこと知らないので、どういう話をされるのか楽しみだ。
『怖いっちゅー噂やろ? そんな子がフォースに所属。さぞや劇的な出会いがあったんやろうなー!』
『ランカーに片足乗っけてるかもって噂だし、ちのも戦ってみたいよー!』
怖い? 否定したいところではあるものの、確かに怖い顔だと言われたら、うん。否定できないかも。
だってエンリさん、ずっとプンスカ怒ってるみたいに眉間にシワ寄せたり、鋭い視線で人を睨んだりしちゃうから誤解されるんだよね。ホントは年相応で可愛らしく、それでいて素直じゃない女の子なのに。
……そんな子の本当の顔を知っているのは私たちだけって思ったら、少し独占欲が満たされる。別にヤンデレとかじゃないけど、なんか嬉しいよねって気持ち。人は誰だって、裏の顔を知ってるって声に出さなくても顔に出ちゃう生き物だし。それは私だけかな。
「嬉しそうだねぇ、ユーカリちゃん」
「え? そ、そんな事ありませんけど?!」
別ウィンドウから話しかけてくるのはモビルドールフレンに乗ったフレンさんだ。
ニヤニヤと悪い顔を見せながら、機体の最終調整を進めていく。なんだよぅ。自分の作業に集中してくださいよぅ。
「ユーカリちゃんそういうとこ分かりやすいよねー」
「どういうところですか!」
「好意を隠せないとことか?」
「んなっ?!」
きっと対面で見ているフレンさんは私の真っ赤な顔を見てケラケラ笑っていることだろう。もう、そんな好意なんて見せてませんし。
「でもそっか。ユーカリちゃんはそっちかぁ」
「何がですか!」
「うんや! みんなが呼んでるから、また今度ねー」
何が言いたかったんだか。
こういう曖昧な言い回しをされると、誰でもモヤモヤと考え事を巡らせてしまうのは仕方のないことだと思う。全く。こういうときはちゃんと言葉にしてほしいものだ。
◇
なんでこうなったんだろう。分からないものの、地上戦と同じような装備をこの身に携える。
相手はチャンプとその他諸々。どうやらフレンまで結託しているらしく、妨害役の1人に数えられていた。
モビルドールフレンの見た目はノクティールカザクファントムを参考にしているであろう大型ローターとスキー状のフィン身につけている。
いわゆる対潜装備のランド・セル。彼女が言うにはアイランド・セルと言うらしい。
性能は未知数であるものの、戦闘ログで見たハイランド・セルの完成度的には要注意機体の1つと言ってもいい。
加えて、あのガンダムAGE-1タイタスを水中戦仕様にしたガンプラも要注意だ。
外観もそうだけど、問題はその中身。ワールドランキング1位のクジョウ・キョウヤなのだから。
ガンダムAGE-1サブマリンマグナムと名付けられたガンプラは、チャンプのトレードカラーである紺色の塗装に、マッシブな装甲。その数々は恐らく魚雷が発射できるようになっているはずだ。手に持っているハープーンミサイルもそれを物語っている。
相変わらず戦闘力高そうな完成度をしているガンプラに対して思わずため息をつく。
もう一度言おう。なんでこうなったんだろう、と。
「あら、敵前逃亡ですの?」
「あんたと一緒にしないで」
「なんですの! わたくしがそんな事するわけないじゃないですか!」
別にそんな試しをした覚えはない。ただ、なんとなくそう返しただけだ。
海辺にずらりと並ぶガンプラの中で隣同士に立っているダナジンとゼロペアー。
その様子はまさしく怪獣VS悪魔。こころなしかわたしたちの周りに誰も人がいない気がする。気のせいだと信じたいところだ。
「そもそも、エンリさんはユーカリさんのことをどう思っているんですの?」
「は? どうしてそういう話になるのよ」
「ライバルとして当然のことですわ。で、どうなんですの?」
ライバルって、なんなのよ。あんたとライバルになった覚えなんてないのだけど。
「はぁ、自覚なしですの」
「だから何の話?」
はてなマークを浮かべながら、周りのダイバーたちがいつの間にか海に潜っていくのが視線の端に見える。
「「……出遅れた!」」
ゼロペアーの自慢の脚力で地を蹴ってから思いっきり水中へと入っていく。
さながら飛び込み台からのダイビングのように水しぶきが天空に届きかねないぐらいに舞い上がる。
水中を泳ぐ無数の機影が全て『ハロ』という小さな機械を探しているんだと思うと、なかなかに胃が痛くなった。こいつら全て敵か。だったら……。
『よう嬢ちゃん! 早速だが死ねぇ!』
「分かってたよ」
機体にまとわりつく水圧を自慢の馬力で振り切りつつ、思いっきりハイゴックへと裏拳を叩きつける。
ゴンッという鈍い金属音を鳴らしながら、回転しつつ水上へと上がっていく。
『だったらお前から最初に……!』
『はーい、爆雷ドーン!』
その長い爪を振り上げた瞬間だった。並々と振り撒かれるのは水上からの雨。いや、爆雷。複数の爆雷が直撃してしまえば、ハイゴックの耐久値は急激に削られていき、テクスチャの塵に変えてしまった。
「爆雷ですの?!」
「どっから……」
『ここからだよー、エンリちゃん、ノイヤーちゃん!』
両肩のローターを回転させながら、水上をスキーのように駆け巡りながら、続く爆雷に魚雷、ハンドグレネードを水中に投下していく。
まさしく空襲と言っても差し支えないダイバーへの攻撃を行うのはモビルドールフレン。我がフォースが抱えるELダイバーの一人だった。
「だいたい、なんであなたが妨害役に回っているんですの?!」
『えー、だって楽しそうだったしー! マギーちゃんに誘われちゃったからー!』
「裏切り者ですわ! 皆さま、まずは邪魔者を始末いたしますわよ!」
『おう!』『今は停戦協定だ!』
ビーム兵器は出力が足りない。故に直接足を引っ掛けて、水上というド頭から引きずり下ろす。それこそがノイヤーの作戦であったのだろう。
焚き付けたノイヤーは何かを待機しているようにその場で停止。他の連中はフレンの足を取るべく、プロペラを回しているのだけどモビルドールフレンの速度は尋常ではない。
プロスキーヤーのようにジグザグに水上を駆け、時には空を舞い、時には爆雷で攻撃。まさしく厄介者極まりない状態だ。
『くそ、こいつ!』
『このギャル、はえー!!』
『遅いおそーい! ほーれ爆雷爆雷!』
水中に巻き起こる爆風の中からハロを探すべく、センサーの感度を最大限に高める。
どこだ。どこにある。別にわたしは欲しくないけど、勝負には負けたくない。ノイヤーにだけは何故か負けたくない。
「マイクロウェーブ、来ますわ!」
その時だった。水の先。空から降り注ぐ一筋の光がノイヤーの近くに着弾する。
水はその光を避けるように水がめくれ上がっていく。
モーゼの十戒。そんな言葉がふさわしいほどの干上がり方。
『……やば』
津波に揺られて空中に逃げるフレンであったが、その先にあるのは奈落。水の中という地獄。地獄に済むのはズゴックやら何やらと、水中戦仕様の機体が無数に存在している。
まさに魑魅魍魎。百鬼夜行の妖怪たち。これで一機撃墜かな。
『これでおしまいだー!』
襲いかかるミサイル群。井の中の蛙のようになったフレンを容赦なく降り注がれる。
まさしく処刑宣告。断頭台の惨劇が今目の前で繰り広げられようとしていた。
勝利の確信。それ故に、迫りくる紺色の彗星に気づかない。
『な、なんだ?!』
『うわぁああああああああああ!!!!』
ミサイルを中和しながら、ビームラリアットやスパイクによって次々と水中機体が鉄くずに変わっていく。
その姿はまさしく鬼神。いわば一騎当千の強者。唯一絶対なるチャンプ。
『う、嘘だろ……?』
「マジですの?」
「本気、なんでしょ」
水中で瞬く間に数十機を瞬殺した彗星の名は、ガンダムAGE-1サブマリンマグナム。
妨害役として担当している、クジョウ・キョウヤその人であった。
『フレンくん、大丈夫か?』
『あ、うん。けど水中入っちゃったからむりぽー』
『なら下がるといい。殿は私が努めよう』
わたしたち、ハロを手に入れられればこのゲームクリアだったはずよね。なのになんで目の前でこんな殺戮を見なきゃいけないのよ。
冷めていく背中の悪寒をじっとりと感じながら、その上で湧き上がる胸の闘志を抑えきれずにいる。
ひょっとしたら、チャンプに勝てたらナツキに勝てるかもしれない。
兄には対戦相手の向こう側にナツキを見るなって言われたけど、そんなの無理だ。わたしは、わたしの闘志を止められない。
「ど、どうすれば……」
「ノイヤー。あんたはどっかに逃げなさい」
「へ?」
腰にマウントしていたツインメイスを両手に持つ。保って3分。リミッター解除すれば、あのチャンプにだって勝てる。いや、勝つ!
『バードハンター、エンリくんだったね。まさかちのくんが言ってた注目株と戦う羽目になるとは』
「御託はいい。わたしと戦え」
『いいだろう。君の挑戦、受けて立とう!』
サブマリンマグナムの磁気旋光システムを起動させて、ビームの出力を上げていく。水中に分散してもリングを維持できるくらいの完成度。ひりつく感覚がまさにたまらない。
勝っても負けてもじゃない。勝ちに行く。行こうゼロペアー。今日はチャンプハンターだ。
「『落とせ、ゼロペアー!』」
水にくぐもったオオカミの鳴き声にも似たモーター音が響き渡る。
殺す。その勢いで。ユーカリには申し訳ないけど、あんたの憧れ、ここで叩き潰させてもらう!
バードハンターVS唯一のチャンプ
◇ちの
出典元:ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ(二葉ベス作)
フォース『ちの・イン・ワンダーランド』のリーダーであり、
ELダイバーセツの後見人でもある、セツコン。
その順位は104位と、かなり強いことが伺える。
◇モビルドールフレン アイランド・セル:
ノクティルーカザクファントムを参考に、
主に水中への雷撃を主眼に置いた装備。
両肩のウィングバインダーを大型のローターに換装し、
脚部にスキー状のフィン「スキッドプレート」を装備することで海上を滑走しつつ、
スキッドプレートに格納された爆雷を投下することが可能である。
・特殊システム
スキッドプレート
・武装
144cm大型魚雷
ハンドグレネード
マーク13ホーミング魚雷
M25対潜爆雷
◇ガンダムAGE-1サブマリンマグナム
クジョウ・キョウヤが駆けるタイタスの水中専用仕様。
名前の意味は海を駆ける弾丸。
グランダイブ・チャレンジのオファーを受けてから、
公表と同時にG-Tubeで制作を始めた大人げないの逸品。
細かい処理などは基本ながら、ミサイルやビームの出力を水中戦仕様に変えている。
特に磁気旋光システムに手を加えたリング状ビームは、水中でも使用可能。
・武装
ビームラリアット
ビームニーキック
ショルダーミサイル
ハープーンミサイル