ガンダムビルドダイバーズ リレーションシップ   作:二葉ベス

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今日も今日とてお空という死神に時間を奪われているので初投稿です。


第3話:AGE狂いと悪魔の対決

 戦場では少しの油断が一生分の対価として襲いかかってくる。

 ショートバレルに2丁のマシンガンを搭載したガンダム・フラウロスは少々改造しているのか、ビーム兵器にも対応している。

 弾丸の雨あられの中、桃色に輝く閃光がノイヤーさんの翼を掠めた。

 

「きゃあ!」

『やったぜぇ! この調子でどんどん連射連射連射ァ!!!!!』

 

 ダナジンに対地への迎撃手段はないと言っても過言ではなかった。

 もちろんそれはノイヤーさんのダナジン・スピリットオブホワイトにも同様のことが言えた。

 一応あるにはあるらしいが、ある種の虎の子らしいので、ここでおいそれと撃つのはためらわれるのだとか。

 それにしたって、VPS装甲の欠片すらない私たちの機体では、1発1発が致命傷だ。

 

『ヒャッハー!!! やっぱりフラウロスは最高だぜ!!!!!』

 

 相手は相手でフラウロスの連射力に恋をしているのか、一向にその場から動こうとはしない。その癖、射線はこちらに向いているので、厄介を通り越して迷惑千万極まりない。迷惑料として千万円払ってほしいところだ。

 とは言え、この状況は非常に芳しくない。エイム力は大した事ないようで、SFS状態のダナジンが攻撃を先程から躱しまくっている。

 どちらかと言えばノイヤーさんの腕がいいのかもしれないけれど、戦闘領域に入ってしまった辺り、腕がいいと言うよりも、運が悪いと言うべきか。

 それに先程から土煙に紛れている対戦相手の機体が気になる。

 フラウロスは明らかに私たちだけを集中的に狙っていて、向こうのことはお構いなしだ。そうなった場合、いったい誰が損をすると思うか。答えなんてものは決まっていた。

 

『速射連射乱射掃射!! どんどんどんどん撃て撃て撃て撃て……ッ!』

『……うるさい』

 

 弾丸の雨が途端に止む。

 その瞬間何が起こっていたのか。私の目には映っていた。

 黒いマフラーを身に着けた、歪で禍つな悪魔がナックルガードが実装されたツインメイスでフラウロスの頭部ごと、コックピットを叩き潰していた。

 一撃だった。私たちなんかにかまけていたから。そんな言い訳が、油断が彼を仮想の死へと追いやっていたのである。

 

『そん……なっ……!! 俺はただ、乱射が…………!』

『戦闘中に、よそ見する方が悪い』

 

 ツインメイスを回収した後に、トドメと言わんばかりに、手刀を形取った左手の突きが背後から胸部を抉り取る。まさしくオーバーキル。それ以上しなくてもよかったであろう悪魔は返り血にもよく似たオイルを全身に浴びながら、フラウロスから左手を抜き取った。

 残ったのはデータの残り滓。恐らく数秒も立たないうちにエントランス・ロビーに移送されて、修理に出さなくてはいけないほどの大怪我を負っていることだろう。

 可哀想に。あの悪魔が、エンリさんのガンプラでなければ、私たち討伐への加勢をしたかもしれないのに。

 

「ほっ……」

「なんとかなりましたわね。そちらの方、感謝いたしますわ!」

 

 エンリさんはただ黙って上を向いているだけ。

 そうだ、お礼を言わなきゃ。そしてあの事をちゃんと私の口から言うんだ!

 

「エンリさん、あの!」

『翼は、剥ぎ落とす』

 

 エンリさんが飛んだかと思えば、バックパックから生えている尻尾。テイルシザーが口を開く。

 

「え?」

 

 不意打ち。為す術もなく白いダナジンの翼を掴まれた後は、ワイヤーを自分の手で掴み取り、身体を捻らせながらテイルシザーの先にいる私たちもろとも、地面へと叩き落とした。

 

「きゃあああああああ!!!」

 

 文字通り不時着した私はなんとか受け身を取って事なきを得たけど、翼を掴まれたままの白いダナジンは抵抗することもなく落下ダメージをモロに受けてしまう。

 掴まれていた翼は取れてしまい、テイルシザーの捕食にも似た行為に再度空を航行することを禁じられてしまった。

 

「な、なんですの?!」

『……翼は、剥ぎ落とす』

 

 戦闘フィールドは依然継続。意図的に対戦相手を再度選んだ先にいるのはエンリさんのガンダムゼロペアー。強靭な脚力から放たれる猛烈ダッシュからのツインメイスが火を吹く。

 相手を必ず殺すという殺意を込めた強力な振り下ろし攻撃をすんでのところで躱すダナジン。自身がいたであろう場所には大きなクレーターが1つ出来上がっている。

 間違いない。彼女は、私たちを本当に戦闘不能にさせるつもりだ。

 

「エンリさん! 私です! ユーカリです!」

『知ってる。でもこれはわたしの八つ当たりだから』

「お付き合いする、わたくしの目を見て話しなさい!」

 

 手のひらのビームバルカンを発射させるものの、相手のABCマフラーと鉄血装甲と呼ばれているナノラミネートアーマーによって阻まれる。

 ノイヤーさんが軽く舌打ちしながら、向こうのビーム攻撃を電磁シールドによって防ぐ。

 明らかに分が悪い。元々AGE系のMSに実弾兵器のようなものは殆どないと言っても過言ではない。コロニーデストロイヤーなり、プラズマダイバーミサイルなりはあるが、それは戦略兵器。戦術兵器であるMSには当然搭載されていない。

 そしてヴェイガン系の機体は特にミサイルなどの兵器は搭載されていない。

 理由は恐らく資材の無さと内蔵武器としての使い勝手の悪さに当たるだろうが、要するにノイヤーさんのダナジンには格闘戦を挑むぐらいしかあのゼロペアーとまともに戦う手段がないということ。

 そして先日のゼダスMを5機撃破した彼女の実力は、恐らくノイヤーさんより上。

 状況は、かなり最悪だった。

 

「ダンスのお相手、いかがかしらッ?!」

『そういうジョークはいいから。早く墜ちて』

 

 ダナジンの両手の砲門から現れたのはビームサーベルが2本。

 片翼を失っているであろうダナジンだが、そのマニューバは優れたものだった。

 ホバー移動しながら、ゼロペアーのビーム攻撃を電磁シールドで無効化しつつ、襲いかかるテイルシザーを優雅に回転しながら避ける。

 怪獣と悪魔の異種格闘技戦に心が躍るものの、そうは問屋が卸さない。私は眼中にないらしいが、自分にはエンリさんのゼロペアーが目に入っている。

 襲われている友達ぐらい、助けなきゃ友達失格でしょ!

 

 混戦極まるゼロペアーとダナジン・スピリットオブホワイトの間を縫うように、ドッズライフルの一撃がマフラーを掠める。

 反射的に仰け反ったゼロペアーを捉えるようにもう一撃を調整してビームの柱を打ち込む。

 これもギリギリのタイミングで避けられてしまう。ノイヤーさんも短時間とは言え集中していたのであろう。一息つき、相手を睨むようにしてダナジンの頭をゼロペアーに向ける。

 

『……助けた恩、忘れたわけじゃないよね』

「うん。友達を目の前で襲われてたら、助太刀しますよ普通」

『ふーん、そう』

 

 2対1。形勢が逆転したなんて口が裂けても言えない。

 こっちは素組みの状態でダナジンだって片翼を失っている。対してゼロペアーはABCマフラーの上限を迎えただろうけど、五体満足の状態。

 ビーム兵器は当然効かない。ドッズなら行けるかもしれないけれど、やはり素組みなのと、私の始めたての射撃の腕では当たらない。

 撃退の手段すら見えなかった。できれば引いてほしいのに、ゼロペアーは、エンリさんはそんな事をしなさそうに見える。明らかな闘志。明確な殺気。先程も八つ当たりと言っていた。満足するまではこの戦いはきっと続く。

 

「どうしますか、ノイヤーさん」

「……1つ、手がありますわ」

「ホント?!」

「マイクロウェーブ受信まで4秒。発射までの時間を合わせて、10秒持たせてくだいまし」

 

 マイクロウェーブ。それはガンダムXにて登場するサテライト・キャノンを使用する場合に用いられるエネルギー譲渡手段の1つだ。

 戦術兵器をMS単騎で行うことができる強力なものであるが、縛りは当然付く。

 それは戦場でマイクロウェーブ受信からサテライト・キャノン照射までの時間、その場で待機しなくてはならないということだ。

 GBNの仕様上、月が出ていなくてもマイクロウェーブの受信はできるものの、そこの難点が全てを台無しにしていた。

 でもサテライト・キャノンレベルなら、あのナノラミネートアーマーも突破できるかもしれない。だったら、やるしかないですよね。

 

「分かりました。なんとかします!」

『相談は決まったようね』

「はい! 私が勝ったら、言いたいことが1つあります!」

『そう。勝てたら、ねッ!』

 

 私たちの意図を察してか知らずか。ダナジンが大きく片翼を広げた瞬間、ゼロペアーの強靭な脚力が地面を蹴り飛ばす。10秒間耐えろと言われたのだ、当然ビームサーベルを手に、前へ出る。

 同時にゼロペアーから発射されたのはビームに非ず。小型のメイスが縦に回転しながら、ダナジンめがけて空中を走る。

 ダナジンをやられてしまえばこの戦いはおしまいだ。だから守らざるを得ない。そう、守らなきゃいけないのだ。

 瞬間。思考は一つのことに凝り固まってしまう。あのメイスをどうにかして処理しなくてはならない。それはエンリさんの手のひらで踊らされていることも知らずに。

 

 残り8秒。巡る1つの思考の中、導き出した結論はビームサーベルでの迎撃。

 両手に持った2本のビームサーベルをクロスさせ、襲いかかるショートメイスを弾き飛ばす。よかった。これでダナジンに当たることはない。そう思っていたが、そうは問屋が卸さない。

 ゼロペアーのフロントスカート部分から発射されるのはシザーアンカー。メイスのナックルガード部分と接続すると、チェーンを握ってから、弾かれたメイスを勢いよく目標へと叩き落とす。

 咄嗟にバックステップをして回避をするものの、判断が遅れてしまうのは仕方のない事実であった。

 振り下ろされるメイスを前に先ほど正面に構えていた両腕がベキベキとクッキーを砕くようにあっさりと粉砕していってしまった。

 

「なっ?!」

 

 もっと強度があったら恐らく耐えていたかもしれない。だけどそんなのはイフの話。

 残り5秒。叩きつけたチェーン付きメイスを持ったゼロペアーは身体を捻り始めた。

 嫌な予感がビンビンと感じる。私の予測ではフロントスカートと連動しているメイスが捻った先にあるAGE-1とダナジンを横薙ぎで一掃するつもりだ。

 どうすればいい。素組みの防御力なんてたかが知れているし、あんな暴力的な戦い方から身を守ったところで次の質量が襲いかかってくる。死ぬのが遅いか早いかの差しかない。

 刻一刻と判断のときが迫る。明確な死のイメージが、漠然とした頭の中で浮かび上がる。

 でも。死ぬぐらいだったら次に繋げるのが一番だ。そう、ダナジンのサテライト・キャノンに賭ける方が、いいに決まってる!

 

 だから無意識に私はレバーを前に向けていた。

 AGE-1のスラスターを全開にし、刻一刻と死を与えようとしているゼロペアーに私は突撃を仕掛けていたのだ。

 

「うぉおおおおおおおお!!!!!」

『この子ッ!』

 

 質量の暴力にこちらだって質量の暴力をぶつける。

 目には目を歯には歯を戦法だ。これのいいところは作戦が非常に単純であること。

 悪い点を上げるとすれば、先がないことである。

 質量爆弾によってよろけたゼロペアーが有線でつなげたメイスを地面にこすりつける。こうなってしまえば勢いはこちらに向いている。背中から地面に不時着したゼロペアーはなんとかそこから抜け出そうとするが、もう遅い。残り0秒だ。

 

「ダナジンよ! 眼前の敵を焼き滅ぼしなさい! ビームバーストストリーム!!!」

 

 ダナジン・スピリットオブホワイトの口が開き、青い瞳にも似たビーム照射口から高密度の白い閃光が私たちの方へと向かってくる。

 ノイヤーさんの手を汚して申し訳ないけど、今日の目的は果たせた。だから……。

 

「エンリさん、ごめんなさい」

『はぁ……あんたたちの作戦勝ちよ』

 

 捨て身の戦法はどうやら吉と出たらしい。

 白い閃光がAGE-1を、ゼロペアーを溶かし尽くすのに何秒かかっただろうか。

 ビームバーストストリームが照射された後、残っていたのは抉れた地面とバトルフィールドを解除する旨のメッセージだけだった。




・ガンダムゼロペアー
名前の由来は数字の『ゼロ』と失望の『ディスペアー』を掛けている。
『叩きのめす』ことをメイン据えた格闘戦仕様のガンダム。

ガンダムヴァサーゴを主軸にして、両腕をバルバトスルプスに。
バックパックをバルバトスルプスレクスのテイルシザーを装備。
フロントスカートにはX1を採用。シザー・アンカーを使用可能。
また、自分で自作したABCマフラーを装備しており、ビーム耐性は高い

・特殊システム
ABCマフラー
ツインエイハブリアクター
ナノラミネートアーマー
阿頼耶識システム・リミッター解除:
合言葉は『落とせ、ゼロペアー』

・武装
ゼロペアークロー
クロービーム砲
ツインメイス
テイルシザー
シザー・アンカー
メガソニック砲

 ◇

・ダナジン・スピリットオブホワイト
ダナジンを白く染め上げ、発光部分を青く塗りつぶしたノイヤーのガンプラ
名前の由来は『ドラゴン』と『ダナジン』をかけ合わせている。
状況打破用に胸部ではなく頭部にサテライトキャノン同様の、
ビームバーストストリームを所有しているのが特徴的。

基本的にはダナジンと同じ見た目ではあるが、
胸部にコックピットを移したり、頭部の強度を増したり、
ダナジンスピナーをテールライフルに変え、
不意打ち可能なオリジナル性と完成度を上げている。

・特殊システム
電磁シールド
変形

・武装
ビームバルカン
ビームサーベル
ビームバーストストリーム
ダナジンライフル
パイルバンカー×2

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