「なるほど。言いたいことは分かりましたわ」
と、目の前で腕を組むノイヤーさんの返事。
「つーまーりー、ヴァルガでエンリちゃん探して、見つけ出したら即ゲット! みたいな?」
と、同じく目の前で腕を組みながら、首を縦に振っているフレンさんの姿。
どちらも、今までが私が見聞きしたエンリさんの情報と、それに付随する私の感情。そのすべてをノイヤーさんとフレンさんに告白したのだ。
フレンさんはすごく楽しそうであるものの、ノイヤーさんはー、と言えばかなり渋い顔でしわを寄せて悩んでいるように見える。
「ユーカリさんの気持ちもわかります。エンリさんの事情も分かりました。しかしながら、その作戦がおおざっぱすぎて、失敗する未来しか見えませんわ」
「それは……」
事実であった。
気持ちばかりが先行している今の状況だったが、実際にふたを開けてみれば、だだっ広いヴァルガで特定の相手を探し出して遭遇戦を仕掛ける、という砂浜からダイヤを探し当てるようなこと。無謀も無謀。無策すぎて、そのまま会えない可能性すらある作戦だ。
「わたくしはいくらか作戦を効率化する手立ては思いつきますが、どれも行き当たりばったりの作戦で、本当にそれができるかも怪しい代物ですわ」
「それでも! 私はエンリさんと一緒がいいんです!」
より渋い顔をするノイヤーさん。
あきれちゃったかな。確かに私の言ってることは基本的に子供のワガママに近い。
ひょっとすればGBN人生をすべて賭けたとしても、出会うことのできないし、出会えたとして説得できるかも怪しい。
「ユーカリさんのゲームセンスは確かにすさまじいものです。成長力だって素晴らしい。ですが、エンリさんを倒すということは、その域まで足を踏み込むということ。それが、あなたにできますか?」
私を試すような口ぶりでその答えを待つノイヤーさん。
戦闘不能にさせる。それだけでも難しいのに、説得も聞くか否か。
今のエンリさんは復讐の囚われた獣。ただの鬼といっても過言ではない。そんな相手にどうやって食い下がるか。私の見ている限り、最大で最強の仲間。そして今だけは、敵。
でも。それでもやるしかない。
迷っててもダメだって気付いた。前を向け。歩け。そうでもなければ、私の欲しいものは永遠に手に入らない。
目を見開く。それは覚悟の証。胸の炎に火が付いた、最後の印。
「それでも、やります。なんだってやります、エンリさんのためなら!」
「ッ……。それは、わたくしの時と同じ、とみてよろしいのですね?」
「はい。私は肝が据わったアホの子、なんですよ!」
アホの子なら欲しいもののために全力で追いすがる獣にならなくてはならない。
復讐に囚われた獣が相手なら、こっちだって獣となって戦おう。どちらの意志が強いか。その意志バトルを。
「はぁ……。分かりましたわ、ユーカリさんの作戦に協力します」
「やったー!」
「うぇーい!」
「うぇーい!」
フレンさんとハイタッチ。陽キャのノリだった気がするけど、今のテンションはだいたいそんな感じだし、大して間違ってないだろう。
こうやって嬉しいという気持ちを他の人と共感するのは、やっぱり心が躍って、うぇーいなんて言っちゃいますよね。
「んで、ノイヤーちゃんとユーカリちゃん。昔なんかあったの?」
「「うぇっ?!」」
それはそれとして、と言わんばかりに純粋な疑問符を浮かべながら、フレンさんは気軽に質問する。
い、いやぁ、あんまり気持ちのいい話でもないし、ましてやELダイバーに言っても価値観の違いから、きっとこじれるだろうし、そもそもここで話すような内容じゃない。
「今度話します! 今は多分その時じゃないですから」
「そうですわね。エンリさんのご騒動が終わって、彼女に頭を下げさせてからに致しましょう」
「むぅ、そーならそーでいいけどさー」
きっと隠し事をされているのはあまり気持ちのいいものではないらしい。
こっちの話はそれ以上にスッキリしない話ではあるけれど。それにアレは今、問題を先送りしているだけで、いつかノイヤーさんが直面しなくちゃいけない事案。その時はいつか来るだろうけど、きっと今じゃない。そんなことは考えている。だから後回しでいい。
だからいつか話しますからー、なんて言いながら、話題は3:0で可決されたのであった。
「で、結局どの辺からやっていきましょうか」
決めたからにはまずはやらなきゃいけないことの洗い出しだ。
まず、大前提として私とエンリさんの実力差が激しい。
かたやゲーマーとはいえGBNは初心者に毛が生えた程度。かたやGPD時代からのガンプラの専門家。タイマンで戦うとしたら、100%とは言わないでもおおよそ9割の確率で死亡が確約されている。
せめて相打ち、もしくは討伐。これがマストの条件であった。
「やることが山積みですわね。ユーカリさんのバッドガールの問題点を洗い出し、本人の実力を底上げに、VRゲーマーとしての感をGBN寄りに修正。これだけでも3つですわね」
「うへー」
「望むのはタイマンですし、複数人相手でもエンリさんを説得できるとは思えませんわ」
だから。
そう呟いて、ノイヤーさんが軽く練った作戦をテーブルの上にホワイトボードを表示させて書き出し始めた。
「まずはわたくしが囮となってエンリさんを誘い込む。翼持ちガンプラの判定を受けたわたくしであれば、何とかなりますわ」
「無理ならミランド・セルでも使って誤魔化せばいいしね!」
「それもありましたわね。で、上手いこと引き寄せてから、ユーカリさんと鉢合わせ、そのままバトルスタート。わたくしたちは横槍が入らないように周囲をけん制、なのですが……」
この言葉の続き。ゲームの作戦について、基本的にノイヤーさんに任せているためあまり深いところまでは分かってないけれど、今回だけは分かった。
「明らかに人手不足ですわ」
「ですよねー」
「どうしましょう。私たちゲームを始めてまだ日が浅いから、人脈とかなんもないんですけど……」
致命的な欠点はそこにあった。さすがに2機で私たちの戦闘宙域全部を把握できるほど、私たちは有能でなければ、強者ではない。おそらくチャンプと智将ロンメル大佐であっても、おおよそ同じことが言える。
攻撃範囲が広くても、応用力があっても、決定的一撃があったとしても、それは変わらない。人一人が守れる範囲はたかが知れているのだ。
「そうなんですよね。この作戦、3人で完遂するには明らかに足りないんですのよ。少なくとも四方警備であと2人。それもかなり強い人、に限りますわね」
かなり強めの2人なんて私のフレンドアーカイブにはいな……くはないけど、わざわざあの人を呼ぶのはさすがに筋違いな気がする。
あるいは春夏秋冬の4人。でもナツキさんがエンリさんにとっての地雷なわけだから、手助けを求めても、エンリさんの燃え滾る復讐の炎に油を注ぎかねない。だったら、どうすれば……。
「人脈なら任せてよ! アタシ、その辺にダチいっぱいいるし」
それは意外な助け船。
フレンさんがにんまりと笑って、我に人脈あり、と言わんばかりの仕草を取ってみせる。
「つーか、アタシの後見人がケッコー有名でさ! それはもう『ビルドダイバーズのリク』くんとかメイちゃんとか。それからそれから……」
「ちょっとお待ち。あのリクさんとお知り合いなんですの?!」
少女は笑う。明らかに自分が優位であると自覚したような顔。目を細めて、口元を歪ませて。顔で煽らせて。これ、完全にノイヤーさん煽りに行ってる……。
「もち! フレンド見てみる?」
「口から出まかせでない証拠、見せていただきますわ!」
フレンさんから受け取ったフレンド欄のウィンドウをノイヤーさんが受け取ると、そのまま上から下へとスクロールしていく。
五十音順だからかリクという名前は割と下の方にある。
くの行にいる『クジョウ・キョウヤ』。しの行にいる『シャフリヤール』。たの行にいる『タイガーウルフ』。私でも知っているような有名人がフレンド欄を流れていき、ま行には『マギー』の文字。出会ったことはないけど、あの人も初心者には優しいって評判だったっけ。
そしてりの欄。燦然と輝く『リク』という文字2つ。ノイヤーさん、これには唖然の言葉を残さずにはいられなかった。
「ほーれ、ぎゃふんって言ってみ?」
「ぎゃふん!」
「あははははは、ウケる―!!」
「言っちゃうんだ……」
こうかは ばつぐん!
ノイヤーは きぜつした!
まぁすぐにげんきのかたまりが投げられて復活したけど。
確かにフレンさんのフレンド人脈はすさまじい。彷彿とさせるのはマギーさんのそれか、それ以上か。無名の相手までいるし、『ルクルーナ』という文字まで見える。
さすがギャルのELダイバー。初めてフレンさんに対して恐れを覚えた瞬間だった。
「まー、アタシ3年はこの辺にいるし!」
「それなのにフォースには入ってなかったんですね」
「傭兵みたいなもんだし! でもアタシはここに腰を据えられて安心してるよ」
フレンド欄を閉じて、彼女は目を閉じ、思い出に浸る。
それは紛れもなく3歳のそれではなく、3年ここでGBNという荒波に揉まれた戦士の安息に見えた。
「それなりに仲良くしてもらってる人はいるし、なんだったら仲いい子とかいるんだけどさ。アタシの魂の問題かなーって。色恋沙汰を見るにはここがぴったりって思ったのよ!」
「はぁ……」
ノイヤーさん、露骨にため息を彼女にぶつける。
今いい感じの話しているところじゃなかったっけ?
「ひっどくなーい? アタシ、2人のこと応援してるけど、どっちにBETすればいいか、なんだかんだ悩んでるんだかんね!」
「ならわたくしにBETしてくださいませ! 後悔はさせませんわ!」
「えー、ノイヤーちゃん。なんか負けヒロインっぽいんだもん」
「負け……っ!」
あ、今なんか地雷が起動した音がしてる。
「ノイヤーさん、誰かに恋でもしてるんですか?」
「へっ?!」
「フレンさんと前から隠し事してるみたいに私には言ってくれませんし。どなたなんですか? 応援しますよ!」
「え、い、いや。その……」
歯切れ悪く、目の前のアルビノお嬢様は目を泳がせながら、竜のしっぽを揺らす。
なんだろう。分からないけど、妙に熱がこもっているというか、そんなにその人のこと好きなんだ。
「幸せ者だなぁ、ノイヤーさんの想い人! だってこんな美人さんに惚れられてるんだもん!」
「ほ、惚れて……って、はぁ……」
「どうしたんですか?」
「アタシも、今のはミゾウチ抉るなら一番強い攻撃だったと思ったよ」
「現実というのはどこまでも非情ですわね……」
いったい何のことだろう。2人して意思疎通ができているみたいだけど、どうして私には教えてくれないんだか。私もうぷんぷんですよ!
「まぁいいですわ。これから頑張ればいいというもの。それより今は目の前のことを何とか致しますわ!」
「おっけい!」
問題は山積みだけど、フレンさんの人脈を使えば何とかなる。そう確信は得ていた。
まずは自分一人でできることをしなくては。
「んじゃ、何人か声かけてみるねー! そいや、この前後見人ちゃんが言ってたっけ。フォースのみんなに会いたいって」
普段の感謝のしるしをしたいということだ。
故に、今度その人のフォースネストに行ってご挨拶しよう、という算段であった。
「って、ちょーどいいわ! 後見人ちゃんに協力してもらお!」
「い、いいんですの? そんな簡単に」
「いいのいいの! 普段いつ寝てるか分かんない人間だし!」
それは寝ることを催促した方がいいのでは。私は声に出そうとしたけどやめた。ショートスリーパーの人とかいるしね。そうだそうに違いない。
心の中で何とか説得してみせた。私偉い。
「んじゃそっちの予定組んじゃうねー」
「ありがとうございます。ちなみに、その方って巻き込んでも大丈夫なんですか?」
「もちもち! なんだったら有志連合にも入ってたかんね!」
……ん?
有志連合って、あのマスダイバー討伐戦とか、ELダイバーの時の『あの』有志連合のことでいいのだろうか。
それって相当の実力者はないだろうか。今更ながら、背中に一筋の冷や汗が流れる。
「そ、その方のお名前を聞いてもよろしいですか?」
「ん? アタシの後見人? 『マギー』ちゃんだけど?」
「は?!」
「え?!」
マギーって、あのマギーさんのことで、いいんですよね?!
フォースネストにとどろく驚きの声は、店内全域に広がったとか広がってないとか。
そのぐらいびっくりなんですよ、フレンさんの後見人さんが!!
唐突な原作キャラ介入