覚悟は良いか。その言葉は何度も聞いた。
聞いたには聞いたけど、それはそれとして目の前の赤と青の鎧を身に纏った光の巨人を名前に入れたガンダムが強すぎるんですよ!
「どうしたどうしたぁ! お前の覚悟とやらはそんなもんか?!」
「っ!」
新規ウェアとして採用した脚部のAGE-3フォートレスのホバー移動はなかなかに調子がいい。どんな荒れた道でもこれ1つあればかなり楽になる。
ただその代わりにやってくるのは操縦所感の変更。今まで歩いていたわけだし、いきなりホバー移動すると、操縦系もこんがらがるわけで。
そして何より……。
(思うように動かない……!)
それは暴風か。そうでなければ津波。
暴力的なまでの力を振るう2つのメイスはどんなに振るっても、機体が力負けすることはない。
これがガンダムヘカトン。ユウシさんのもう1つのガンプラ……!
◇
市街地の廃墟。からっ風が吹くような気がしてならないこの殺風景な場所で、私たちフォースメンバーの3人はとある人物を待っていた。
ただ、待ってる間は暇なので、各々が持参したお菓子やらを広げて待っているわけで。
「遅いですわねー」
「私たちが早く来すぎちゃいましたし」
「相手は社会人だからねー」
各々がクッキーやらスコーンなどを口に含んだ後、ペットボトルの午後の紅茶を口に含んで甘さを流しさる。
午後の紅茶を午後に飲むというのは明らかにアウトローではない、フツーの行動なのはさておき、実際1時間ぐらい早く来てしまったのは本当だった。
理由なんてものは大したことはなく、半ばピクニック感覚でこの廃墟にやってきたと言っても過言ではない。廃墟って素敵だよね。見るものを魅了させると言いますか。ちょっとアウトローっぽいのもあるし。
レジャーシートを広げてバケットの中を漁りつつ、クッキーをパクリ。
背景がアウトローっぽいにも関わらず、やってることが平和すぎる。でも美味しいからもう一口。
「今度はエンリちゃんと一緒に来たいねー」
「まぁ、わたくしはどちらでもいいですが」
「ホントにバチバチで草~!」
「わたくしとエンリさんはライバルですからね!」
えっへんと、ない胸をそらしながらノイヤーさんの高笑いが廃墟に響き渡る。
エンリさんと、か。確かにエンリさんと一緒に来れたら、きっと楽しい。ツンケンしながらも、レジャーシートに座って、それで女の子座りだったらこの人はホントにかわいい一面があるなって喜んだり、逆にあぐらだったとしたら、これがアウトローか! って言ってそれはそれではしゃぐと思う。
で、誰にも見られないようにひっそりクッキーを手にしたらぱくついて「うん、悪くない」とか素直じゃない反応を見せるんだ。そうだったらいいなぁ……。
って、私なんて妄想してるの?! 確かにエンリさんが普段見せない姿を見るのが最近の楽しみになってるけど。なんか私、エンリさんがいないとダメみたいじゃないですか。
「どうかいたしました?」
「へ?! うんうん! なにもないけど!!!」
「明らかに動揺ー! フレンちゃん気になっちゃうなー」
「いや、ホントになにもないんですよぉ!」
そんな姿を見て、2人はどこが面白かったのか、あははと笑う。
なんでそんなに笑うんですかぁ!
「いえ。最近そんな様子すら見せなかったので、心配で」
「え?」
「エンリちゃんのこと、ずっと心配そうにしてたから。吹っ切れても笑うことはあんまなかったし」
私、そんなに笑ってなかっただろうか。
でも、私だってセンチメンタルな感情に浸らずにはいられない場面だってあったし、なんだったら最近はずっとエンリさんのことを考えている。
思い詰めていた。そう言い方を変えれば、私の中で腑に落ちていくのを感じる。
そっか、私みんなに迷惑かけてたんだ。
「ごめんなさい……」
「いいっていいって! 答えは見出したってちゃんと分かったし」
「ですね。これが終わったら、わたくしも言いたいことがありますので、お覚悟を」
「え、こわい」
「大したことではありませんわよ! ……いやあるかも」
どっちなんだ。でも、そんな2人が嬉しくて。
心配してくれる人って案外身近にいてくれるし、それを迷惑と取ってしまうのは人間の性と言っても過言じゃない。思いは簡単には届かないから。
「ありがとうございます。私に賛同してくれて」
「いーのいーの! どうせノイヤーちゃんなんて、自分の好感度上げることしか考えてないだろうしー!」
「そんなことはありませんわ! わたくしだって見捨てることができない相手の手はちゃんと握りますわ!」
「それがライバルでもぉ?」
「ぐぬぬ……」
2人のプロレスが少しだけ羨ましく思う。
いつかエンリさんとそんな関係を築けたら。そう考えるぐらいには。
「お、早いじゃないか、ケーキヴァイキング」
考え事をしていれば、もう10分経過していたらしい。
集合50分前にも関わらずそこに現れたのはユウシさんとユメさんであった。
「今日はよろしくお願いします。って言っても、戦うのはせんぱいなんですもんねぇ」
「ん? お前も戦うか? 2対1のヴァルガ戦想定の」
「せんぱぁい、ひょっとしてそのお目々はふきのとうですかぁ?」
「んだと?!」
どうやら関係は相変わらず変わっていないようだった。
レジャーシートから立ち上がって、ダイバールックの埃をパンパンと払う。
さて、本日ユウシさんに依頼したのは対エンリ戦の予行練習のようなものだ。
おおよそ30名から40名の包囲網を作った後、エンリさんとの一騎打ちを行う想定なのだけど、バッドガール改めバッドリゲインがどこまでやれるか、どこの調整をすべきか。そもそもエンリさんを相手取ることができるか。というのをユウシさんと一緒に導き出していくことだった。
いわばガンプラ調整と強化訓練を兼ね備えた、ヴァリアブルなミッションというわけです。
起動時間から超短期決戦用のベルグリシではなく、ガンダムヘカトンと呼ばれる別の機体を今回は使うそうだ。
早速と言わんばかりに、市街地廃墟の所定の位置にスタンバイ。ユウシさんの指示を待つ。
『つーことで、俺はエンリの真似事をすればいいってことだな?』
「はい。そのためにツインメイスを持ってきてくださいましたし」
『軽いな、やっぱ』
「それはせんぱいが脳筋だからですよ~!」
『うるせぇぞ後輩! 俺はバスターソードが好きなんですー』
「まぁまぁ、痴話喧嘩はその辺にしてもらって」
バッドリゲインの操作所感は変わっている。
脚部のパーツにAGE-3フォートレスを採用しているため、ホバークラフトによる移動を可能にしている。これで足場がとにかく悪い場所でも同様の成果を得られるようにしている。
そして左腕は今までとは違い、ゼイダルスのシグルクローに。スキあらばワイヤーを手先ごと飛ばして斬りつけることだって可能だ。エンリさんのナノラミネートアーマーへの答えと言っても差し支えない。
どこまでやれるか。それを今、試す。
【BATTLE START】
アナウンスが出た途端、正面の方から何かを壊すような音が聞こえる。そしてそれが急激なほどこちらに近づいていることも。
足を動かしてその音から逃げるようにして移動を開始する。
って重っ! 足が思うように動かない。あ、そっかこのガンプラホバー移動が主体で……。
その瞬間、黒い鉛が真正面の廃墟を突き抜けてバッドリゲインの左腕に機能障害を発生させる。なんてことはない。暴力によって腕が引きちぎられたのだ。
『エンリなら所構わずとりあえずメイスを投げる。当たらなくてもそれが相手への牽制になると考えてな』
「ぜ、善処します」
次! と今度も同様のステージへ。
高速修理剤をバッドリゲインにかけてから、もう一度コックピットに乗り込む。
えっと、ホバー移動はこれだから。滑るように移動するってことを心がける。
思考制御機能だったか。名前は忘れたけど、私の考えていることを機体に反映させている機能があるとのことなので、まずは自分が滑るように移動することを考えるようにする。
そして始まった2戦目。脚部から強力なジェットエンジンが起動すると、重かった身体が一気に軽くなったように感じた。
よし、これなら接近戦を挑みつつ、回避行動もかなり楽になるはず。あとはこれを慣れさせれば……。
そう考えていると、上から突如赤と青の鎧が襲いかかる。
これをバックステップで躱しながら、左腕のシグルクローを構える。
土煙の中。かき分けるようにして2つのメイスを持った勇者、ガンダムヘカトンが牙をむく。
私もリアスカートの剣を抜き、メイスの振り下ろし攻撃をビームサーベルで真正面から受け止める。だが、それで止まらないのがエンリさんである。
側面から襲いかかるもう1つのメイスが私の腹部を抉るようにして殴打を始める。
ホバークラフトの移動で横回転しつつ、バレリーナのように回避。続けて裏拳を打ち込む要領で両刃のシグルクローをヘカトンへと向けた。
『なるほどな。こいつは期待できそうだ』
背面に傷をつけたものの、とっさの行動ということで傷が浅い。
スラスターへの致命的ダメージにはならないシグルクローを射出させながら、右手に持ったビームサーベルで更に追撃を行う。
だが、ユウシさんはそう簡単にくたばってはくれない。
振り下ろしたメイスを重心にひっくり返ったヘカトンが両足で私の胴体を蹴り飛ばす。
思わず後退したバッドリゲインに対して、メイスを手放したヘカトンが馬乗りに。そのまま頭部を掴み取る。
『あいつのゼロペアーは阿頼耶識システムを搭載している。普通のガンプラなら今のでなんとかなるが、エンリのゼロペアーは動いてくる』
「は、はい!」
強い。阿頼耶識システムを実装するには鉄血機体のガンダム・フレームでなければいけないという制約がある。その性能というのも思考制御機能だったかを少しだけ鋭くするものだ。
だからまるで人間みたいな動かし方をガンプラがすることができる。
柔軟な発想と、これまでの経験則。それらが全て阿頼耶識システムという動作サポートに適応される。エンリさんが真に強いとされている所以だった。
『そらもう一本!』
「はい!」
戦えば戦うほど、自分自身が成長ししていくのを感じる。
ホバークラフトの移動がここまで便利であると同時に、細かい動作を行わなければ、致命的なスキにつながるという恐ろしい諸刃の剣。ソシャゲでいうところのオート周回がこういうところなのだろう。
シグルクローだって分かってきた。この刃はとにかく鋭い。少しでも当たれば致命打にはならなくても、それなりに耐久値を減らせられる。ワイヤーと組み合わせればとにかく相手はその処理に専念しなくてはならない。
バッドリゲインはとにかくトリッキーであるものの、それ故に繊細な操作と追い詰めるための思考を繰り広げなくてはならない。
難しい。そう感じた。チャンプがトライエイジをほぼそのまま使用しているのは多分それが理由だ。
武装がシンプルであればあるほど、その戦術の応用パターンが広がっていく。
今のバッドリゲインはその応用パターンが極端に狭い。だけどその分奇襲性、初見殺しと言う面が非常に強くなる。
エンリさんと相打ちを取る、もしくは勝つとなれば、相手の意識外からの一撃を与えるしかないのだ。
そして同時に感じる。エンリさんの強さを。
エンリさんが冷静であればあるほど、シンプルであればあるほど、戦術パターンが極端に増えていく。そりゃそうだ。さっきも言った通り、武装がシンプルだから応用が効きやすい。
例えばメイスの投擲。例えばテイルシザー。更にはゼロペアークロー。
そのどれもが相手を叩き潰すという暴力に他ならない。その癖腕の延伸や、フロントスカートのチェーンがあるんだ。奇襲性も遥かに高い。
ユウシさんとの再現戦ですらこんななのだから、エンリさんと戦う時、どうすればいいのだろうかと、少し疑問に思ってしまう。
『ほらもっかい!』
「っ!」
――それでも。
もう少しで見えそうなんだ。私の作戦が。
もう少しなんだ。バッドリゲインの癖を理解するのは。
目と鼻の先なんだ。エンリさんとの手の距離は。
『いきなりシグルクローか! なら!』
自分の意志を持って飛び交うシグルクローの腕をユウシさんはワイヤーごと掴み上げる。
私はそこを見計らって、ホバークラフトによる移動を重ねながら、ビームサーベルを手に持つ。
『突撃か。だがエンリなら』
そう、エンリさんなら。このギミックは知らないはずだ。
突如ヘカトンの衝撃が走っていく。何故か。その理由はワイヤーの先にあった。
『シグルクローが! どこだ?!』
ヘカトンが掴んだワイヤーの先にはシグルクローの手は存在しない。
自力で脱出したシグルクローは半ばC・ファンネルのように空中を自立で移動。バックパックに左腕、足の裏などを斬り裂いていく。
ついに光の巨人が膝の膝をついたタイミングでワイヤーと再接続したシグルクローが戻ってくる。
『なるほどな。無線接続のワイヤーハンドでエンリの油断を誘うってことか』
「はい。エンリさんはこの攻撃を初見では受けきれない。そう考えてます」
『だが、あいつは復讐のためならそれすら覆してくる。やれるのか?』
やれるのか。
そんな言葉を私は何度も聞いた。みんな、私のことを心配してのことだ。
だけど、そんな言葉は何度だってこう答える。
「それでも、だとしても。私はエンリさんと一緒にいたいんです」
『……。そうか』
逆境に抗う言葉はたった一つ。だとしても。
無理な賭けだとは思う。エンリさんには背面のテイルシザーだってあるし、そもそも私のシグルクローを察して、接近戦を嫌がるかもしれない。
それでも構わない。それらを全てねじ伏せてでも、エンリさんと一緒に復讐するために、私はこの歩みを緩めるつもりはない。
『よし、もう一本行くぞ! 10日間フルでお前をみっちりしごいてやる!』
「はい!」
地形を変えて、戦略を変えて。
私は今だけ鬼にも悪魔にもなろう。それがアウトロー仲間として、友達として果たすべき絆だと思うから。
全ては、あなたのために。私のために
・ガンダムAGE-1バッドリゲイン
名前の由来は取り戻す。エンリを取り戻す覚悟を決めたユーカリが、
ガンダムAGE-1バッドガールをさらに改修したガンプラ。
より白兵戦に特化させた機体であり、
AGE-1を主軸にして、左手をアンカーショットからゼイダルスのシグルクロー。
AGE-2のリアスカートはビームサーベルを収納しながら、
足はAGE-3フォートレスのパーツを採用。どんな足場でもホバー移動することができる。
また首周りにはエンリをリスペクトしたABCマフラーを身につけている。
・特殊システム
ABCマフラー
フラッシュアイ
・武装
ドッズライフル
ビームサーベル
シグルクロー
ビームバルカン
チェーンシールド
・ガンダムヘカトン
ガンダムバルバトスルプスを改造し、
大型バスターソードをメインに、ディテールを勇者らしくしたユウシのもう1つの機体。
腰にビームマントを展開している。
ユウシの普段遣いのガンプラであり、エイハブ・リアクターを2つ搭載。
出力よりも継続時間を優先した性能をしている。
特に内蔵武器を主においており、掴まれると腕のバンカーで貫かれることもしばしば
・特殊機能
ナノラミネートアーマー
リミッター解除
合言葉は「怒れ、ヘカトン」
・武装
超大型バスターソード
太刀
パイルバンカー
クロー
ビームマント