ガンダムビルドダイバーズ リレーションシップ   作:二葉ベス

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3章、エンリ編。完結


第36話:縁とユカリ。この想いは揺るがない

「くっ、重たい……!」

 

 その一撃であるか。それとも復讐心の重みがなのか。

 私には分からない。でも私にだって彼女のことを知る権利はある。だって友達だから。あなたが例え拒否したとしても、私はそう思ってるから。

 

「このぐらいッ!!」

 

 右腕の力が増す。だが、ガンダム・フレームに対抗するにはあまりにも無力。

 ホバークラフトによる移動を後方回避に切り替えて、上から下へと振り下ろされるメイスをビームサーベルの刀身で受け流し、地面に叩きつけさせる。

 ユウシさんとのエンリさん対策をこれでもかと言うぐらい詰め込んだんだから、これぐらいできなきゃユウシさんに失礼というもの!

 すかさずビームサーベルを収納してから、マウントしてたドッズライフルを手にする。

 ナノラミネートアーマーはビームを無力化することぐらい知っている。どれだけエンリさんと一緒にいたと思っているんだ。だがそれは許容量を超えたビームについてはいくらかのダメージは必ず襲いかかる。

 さらにドッズライフルはDODS効果のパッシブスキルだ。これによって装甲を貫通する。

 あの時は当たらなかったからわからないだけど、ナノラミネートアーマーがドッズライフルのビーム砲を守りきれる保証はないんだ。

 だからドッズライフルの銃口をゼロペアーへと向ける。

 もちろん射線上から外れるようにゼロペアーの動くもジグサグに接近してくる。

 3点射撃。これで、まずは左に一打。これはサイドステップで回避。

 こちらは続けて、逃すまいと右に一発。これによって地面をこすりながら静止して回避。

 最後の一撃は、まっすぐゼロペアーへ!

 

 貫通力を高めたビームライフルとナノラミネートアーマー。

 いわゆる矛と盾のお話と似ている。攻撃するのが私なら、イニシアチブは私にある。だからここで攻撃を加えられるのは私だけ!

 錯乱中のエンリさんのスキを狙って、左腕のシグルクローを起動させた。

 

『雑な攻撃。だけど、見事よ!』

 

 すぐさま回避行動を取るゼロペアーもそのビームは避けきれない。

 左肩に被弾した装甲はやや熱を帯びているものの、融解には至っていなかった。なるほど、ドッズライフルでの攻撃は無意味か。だけど、こっちはどうですか!

 

『続きはアンカーフック。いえ、シグルクローね!』

「そのとおりです!」

 

 ワイヤーをひねらせながら、牽制の意を込めたドッズライフルの連射。シグルクローによる攻撃の2つでエンリさんを追い詰める。

 

「エンリさん、私たち友達ですよね?!」

『私はそう思ってないって、さっきから言ってるでしょ!』

「でも! フェスの時、エンリさんが私に見せてくれた笑顔は、嬉しく見えました! 私たちといて、楽しかったってことですよね?!」

『それとこれとは、話が別でしょうが!!!』

 

 左腕のハンドメイスが、バッドリゲインに向かって投げつけられる。

 でも、その行動自体は折り込み済みだ。

 ホバー移動によって直撃コースを避けた私は続く反撃でワイヤーシグルクローで右腕を削ろうと刃が走る。これなら右腕のメイスもなくなって実質フリーハンドに……!

 

『そうは問屋は卸さない!』

 

 バチンと熱を帯びながら、シグルクローとテイルシザーが激突、弾かれてしまう。

 相手は意志を持った尻尾だ。だったらまず先にそっちからワイヤーを切断するしかない。

 意志を持った左手をテイルシザーに集中させながら、ハンドに持ってる武器をビームサーベルに変更し、次なる突進を始める。

 

「違いません! だって一緒にいて楽しかったんですよね! だったら!」

『だったら何?! わたしの復讐をあんたたちは止めるつもりでしょ!』

「それは違います! 私はアウトローらしく、復讐をやり遂げさせたいんです!」

『アウトローアウトローって、あんたが似てた試し、一切ないじゃないのよ!!』

 

 私のコックピットを的確に狙ってテイルシザーが先を走らせるも、そのワイヤーをシグルクローで握ることでこれを阻止。そのスキに続くのはメイスの殴打攻撃。そんな攻撃、ユウシさんのときに散々見た。

 

『避けた?!』

「私だって、いつまでも弱いままじゃないんです!」

 

 バックステップ気味のバレリーナ回転で躱した束の間、今度襲いかかるのは左手のゼロペアークロー。鋭い爪とその延長された腕から放たれるビーム砲がバッドリゲインに被弾する。

 

「くっ!」

『わたしは強いままじゃなきゃいけない。ナツキに勝てるようになるまで、あんたたちとは絶交ってことよ!』

「そんなワガママ、私のワガママで覆しますから!」

 

 初弾は防げなかったけど、2発目以降はABCマフラーがなんとか受け止める。

 それでももう使い物にならないぐらい弾いたのなら、もう必要ない。

 ワイヤーを巻いて回収した左腕でゼロペアーに向かってマフラーを投げ捨てる。

 

『っ!』

「私は、一緒にいたいんです! 復讐だってナツキさんのフォース相手に喧嘩売りますし、もっとフォースのみんなと仲良くなりたい。それじゃダメなんですか?!」

 

 顔面にかかったマフラーを振り払うべく、左腕で掴んだ瞬間、ぐさりとシグルクローが装甲ごと撃ち抜いたことを察せられた。よしこれで、左腕は機能不全に陥るはず。

 

『なんて思ってたかしら?!』

 

 それは肉を切らせて骨を断つ。ワイヤーを断ち切るようにテイルシザーがその刃を開いて、真っ二つにした。

 これならワイヤーハンドは身動きがなくなる。そう信じ込むしかない。

 無線接続へと変わったシグルクローで左腕をめった切りする。

 

「友達じゃなくてもいいです! だから私は、エンリさんと一緒にGBNの世界を楽しみたいんです!」

 

 左腕を破壊され、先がなくなった左腕を見て、エンリさんは一回距離を置いた。おおよそ、私の知る中では初めての行動だった。

 

『ダメよ。あんたのワガママなんて聞いてあげられない』

「いいえ、聞いてもらいます! エンリさんの拒否権なんてありません!」

『人の気も知らないで……!』

「知りませんよ! エンリさん、ずっと私たちの隠し事してたじゃないですか!」

 

 エンリさんのことをもっと知りたい。それなのに、彼女は自分のことを話さない。

 それが、私の目的の弊害になっていて。だからそういう秘密主義なところは嫌いだった。

 でも今少しずつ明かされているのを感じるんだ。そしてその理由はきっと……。

 

『恥ずかしいし、迷惑でしょ。わたしの話なんて』

「迷惑なんかじゃありません! 少なくとも私はエンリさんのことを知りたいから!」

『だからそれが、眩しすぎるんじゃない! 秘密は秘密のままにさせるのが普通でしょ?! だからあんたは……ッ!』

「だからワガママなんです! 全部ひっくるめて、私はあなたを知りたい!」

『この、わからず屋ッ!!!』

「そっちこそッ!!!!」

 

 激突するビームサーベルとメイス。そして無線シグルクローとテイルシザー。

 強いけど、でも。絶対に勝ちますから!

 

 ◇

 

 彼女が言ってることはすべて本当のことだ。

 嘘なんかこれっぽっちもついていない、明るくて真っ直ぐで、それが眩しい光。

 きっと、折れることが一番丸く収まる方法で、私の復讐も邪魔をしないと言ってくれた。

 すべてがわたしにとって都合のいい提案で、現実で。

 

 だから怖かった。自らの幸せを自分の手で捨てたわたしに、そんな権利があるなんて思わないから。

 過去の自分を拭い去ることなんてできない。

 それでも、と受け入れてくれる彼女は、わたしが好きなユーカリは言ってくれた。

 自分のプライドと、すべてを受け入れてくれる光と。わたしはどっちを選べばいいのよ。

 

「『はぁぁぁあああああああああッッ!!!!!!』」

 

 ぶつかり合うサーベルとメイス。こちらも対ビームコーティングであるナノラミネート加工がされているものの、それはダメージ軽減でしかない。じりじりとメイス自体が溶けていくのが理解できる。

 負けてもいい。そう考え始めると、わたしとユーカリの真剣勝負の場に無粋な考えを持ち込んでいると、あのナツキと同じことをやろうとしていると自分に辟易する。

 そうだ、本気だ。本気でユーカリを退けるしかない。

 それなら、これしかないッ!

 

「『落とせ、ゼロペアー!!!』」

 

 ガンダム・フレームに搭載されたリミッターを意図的に解放させる。

 おおよそ3分の殺戮劇。こうでもしないと、もうユーカリを完膚なきまでに叩きつけられない!

 パワー負けしたバッドリゲインの右腕が空中に打ち上がる。同時に打ち上げた右腕のメイスで即座に左肩を殴打する。

 メリメリとめり込ませた肩は機能停止まではいかなくても、ダメージは甚大なものになっている。

 体勢を立て直すべく、バッドリゲインの右手がくるくると回転しながら、ゼロペアーのコックピットへとサーベルの刃を突き立てる。だけどリミッター解除したわたしに、そんな攻撃通用しない!

 

 メイスを手放してから襲い掛かる凶刃の根っこを掴み上げると、そのまま胴体に足を設置。はじき返すように、ドロップキックを打ち込む。

 

『きゃぁぁあああああ!!!!』

 

 もぎ取った右腕を捨てて、ノックバックするバッドリゲインに対して、さらなる追撃をするべく、脚部に力を踏み込む。

 

「あんたの右腕は潰した! 左肩も故障! もうあんたにわたしは止めれない!」

 

 この時、わたしは頭に血が上っていたんだと思う。

 冷静なわたしだったらきっと、無線シグルクローがすでに手先にないことぐらい分かっていたはずなのに。

 踏み込んだ右足から突如力が抜けていく。そしてその箇所から甚大な被害が発生していることに気づいた。

 

「足がッ!」

『私は、諦めない!!』

 

 ノックバックしていたバッドリゲインがいつの間にかこちらに接近。

 右腕のビーム砲を連射するも、元々命中精度の低い兵器だ。ことごとくの合間を抜けていく。

 ホバークラフトでくるくると回転しながら、持ち上げた右足で、わたしのゼロペアーの頭部を蹴り飛ばす。メインカメラが……!

 

「でもッ!!」

 

 テイルシザーは死んでない。

 カウンターと言わんばかりに吹き飛ばされる寸前、彼女の脚部をテイルシザーで貫く。

 もちろんこっちも被害は尋常ではない。テイルシザーは破損。それでもバッドリゲインの右足を損傷させるまでに至った。そして、バランスを失ったホバークラフトは、すでに機能を停止していると言わざるを得ない。

 岩盤に叩きつけられながらも、それでも残っている右腕と左足をフルに生かして、廃墟を松葉杖に立ち上がる。

 向こうはまだシグルクローが健在。こっちは右脚と左腕の破損。メインカメラもほぼ死んでいる。勝機は、絶望的だった。

 

『エンリさん。私は、エンリさんがいいんです。あなたがいないと、私たちは止まったままなんです』

 

 わたしだって、止まったままよ。あの時から、ずっと。

 

『エンリさんじゃないとダメなんです! 私たちは、あなたが必要なんです!!』

 

 そんなこと言わないでよ。わたしの意志が、機体が揺らいでしまう。

 

「どうして。友達ならわたしじゃなくてもいいじゃない。こんな面倒くさくて、根暗の陰キャみたいな奴よりもっと……」

『そんなこと言わないでください!』

 

 ぴしゃりと、言葉が空中を切り裂く。

 それだけは違うって、わたしじゃないあなたが、わたしの知らないわたしを知ってるみたいじゃない。

 

『私のエンリさんは、強くて、かっこよくて、褒めたら可愛らしく照れて……。私の憧れたヒーローなんです! だから、例えエンリさんでも、自分のことを卑下する言い方は絶対許しません!!』

 

 ヒーロー? ヒールではなくて?

 もはや意地とプライドだけで立っていたゼロペアーの身体が揺らぐ。

 片足をつぶしたのに、それでも立ち上がるバッドリゲインはもう使い物にならない右足を引きずりながらも前に突き進む。

 それが、わたしとあなたの決定的な差だとでもいうの?

 前を進むことをやめたわたしと、血反吐を吐いてでも前に進むユーカリ。

 それで、すべてを察してしまった。

 

 ――ユーカリ、あんたはわたしよりも強いわ。

 

 とある白狼が言っていた気がする。真に強い奴は心が強い奴であると。

 目の前のユーカリは、間違いなくそれだった。真に強い、強者であった。

 あーあ。また負けた。わたしはナツキだけじゃなくて、ユーカリにも負けたのね。

 

 どんよりと広がる曇り空と灰色に塗りつぶされた廃墟を見て、まるでわたしの心象風景だな。なんて馬鹿げたことを考える。

 

「負けたわ、ユーカリ」

 

 ゼロペアーは、わたしのプライドは、そのまま前へと倒れ伏した。

 

 ◇

 

「エンリさん!」

 

 耐久値もまだ余裕はある。だけど、もう機能停止寸前まで行っているゼロペアーを横に、がれきの上に座っていると、ユーカリが近づいてきた。

 

「……なに?」

「約束です! フォースに帰ってくるって!」

「……1つ聞きたいことがあるわ」

 

 ユーカリを助けたのはただの偶然だ。そこにはただの気まぐれと、ゼダスが練習に最適だと思ったからそうしただけで。それ以上のことは、求めていなかった。

 でも、あなたは何故かついてくる。どうして? わたしが、ヒーローってどういうことなのよ。分からない。わたしには、何も分からない。

 

「わたしは、あんたの求めているような強い女じゃない。ユーカリが求めたヒーローではないわ」

 

 どうして。

 その謎ばかりがわたしの中で浮かび上がってきて。

 ヒーローなんて柄じゃない。昔からヒールだともてはやされていたところだ。

 今さら、わたしをヒーローだなんて……。

 

「偶然だったとしても、気まぐれだったとしても、エンリさんは私を助けてくれたヒーローなんです。そこに強いも弱いもありません」

 

 ――でも。

 ユーカリはそう一拍置き、口に出す。

 

「あの時のエンリさんは間違いなく強かったです。少なくとも、私を憧れさせるには」

 

 そっか。ユーカリがわたしじゃなきゃダメって、そういうことだったんだ。

 わたしへ特別な感情を抱いていたから、で……。

 

「私は、エンリさんの強いところも、弱いところも、すべて受け入れられます!」

 

 だから戻ってきて。そう言ってくれているみたいで。

 そんなこと言われたら。わたしだって胸の奥に湧き出てくる激情が沸騰するじゃない。

 もう、この想いは揺らがない。この感情は止まらない。

 

「エンリさん……?」

 

 純粋な瞳で、何も知らないような穢れを知らない瞳でわたしを見つめてくる。

 あぁホント。この子は魔性の女だ。

 わたしのことをここまでかき乱しておいて、それでも友達のためだと言い張る。わたしはそんなこと思ってない。わたしは、あなたのことが、ユーカリのことが。

 

「ひゃいっ!」

 

 近づいてきたユーカリの手を引いて、わたしの胸元に顔をうずめさせる。

 結果的にはわたしがユーカリを抱きしめるようになってしまったけど、そんなこと今はどうだっていい。背中に手を回して、ぬくもりを確かめる。

 この心臓の鼓動は聞こえているだろか。GBNはそこまで再現できるんだろうか。分からないけど、伝わってるといいな。

 

「好きよ、ユーカリ」

 

 曇り空に、一筋の光が差し込んだとすれば、それはユーカリで。

 やっと言えた。わたしの、この胸の想いを。縁とユカリが結んだこの愛を。




縁とユカリ。結んだ絆は、まさしく愛。

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