ガンダムビルドダイバーズ リレーションシップ   作:二葉ベス

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あと一週間もすれば和風の村に行ってモンスターをハントしなくてはいけない


第4話:AGE狂いとやさぐれ女

「最悪ね……」

「なんでですかぁ!」

 

 聞き捨てはならない、というよりも、聞き逃すわけにはいかない暴言に私は思わず声を荒げた。

 いや、確かに勝手にバトルフィールドに乱入してきたのは私たちだし、どちらかと言えばこっちが悪い。いくらか弁明する余地があるとすれば、私はノイヤーさんに乗っていただけで、巻き込まれた方と言っても差し支えない。

 だから私は悪くない。とは言い切れるわけもなく……。

 

「カッとなったことは反省するけど、それとこれとは別よ。バトルフィールドは勝手に入るなってお母さんに習わなかった?」

「お父さんとお母さん共働きですし……」

「…………そんな家庭もあるわよね」

 

 比較的バッドコミュニケーションにあたるぐらいには最悪の返しだったと自負している。取り消すつもりは毛頭ないけど。

 実際ハイエナ行為が横行していた時期もあったらしく、誤解を招いたこちらが悪かったと今は謝るしかなかった。

 

「すみません……」

「いいのよ。負けるつもりはなかったのだけど」

 

 ペコリと頭を下げてお詫びをする。

 だが興味もなさそうに、ため息を1つついてみせた。その姿に少しだけ憂いたかっこよさを身に染みて。

 エンリさんの横顔に少しだけ見惚れながら、私が呆けていると彼女はお返しと言わんばかりに質問を投げかけてきた。

 

「GPDの経験は?」

「……え? いえ。というかGPDってなんですか?」

「なんでもないわ」

 

 小声で「実力だけ言えば経験者だと思ったけど、素組みでそれはないか」なんて聞こえる。どうやら1つだけ訂正すべき点があるようだった。

 

「私、VRゲームを嗜んでたので」

「あー、そっち系統ね。理解したわ」

 

 VRゲームはなにもGBNだけではない。

 NPCがAIなゲームだったり、カードを使って呪文を唱えるゲームだとか。ファンタジーからサイエンスフィクションまで、様々なゲームを嗜む程度にはやっていた。それらから分かったことだけど、どうやら私はVR適正が高い人間らしい。

 チュートリアルしか済ませていなかった、私がダナジンと悪魔のガンダムを遠ざけるのに放ったドッズライフルが正確な射撃だったのはそれが理由だった。

 

「最近は面白い新人が転がってるものね」

「そうなんですか?」

「まぁ色々いるのよ。浮かんでは沈んでの繰り返し」

 

 私はただVRゲームの経験があるというだけだ。

 そこにはガンプラの腕前という点を勘定に入れていない。

 ノイヤーさんに見せた時は見込みがある、ぐらいの勢いだったため、やればできるのだろうけど。

 

「私、ガンダムAGEでガンダムを知ったので、プラモデルの経験が皆無で」

「そのようね。期待の新人、ということで」

 

 興味もなさげに、腰掛けたカフェテリアの椅子で足を組み直す。

 エンリさんってやっぱりかっこいい。大人の女性、というイメージが強く浮き出ている。

 こういう時、私はよく人を褒めるようにしている。だから今回もその信条の通りにすべく両手をぐっと握りしめた。

 

「エンリさんってやっぱりかっこいいですよね!」

「……はぁ?!」

「なんというか、大人の色気みたいなのが全身から滲み出ていて。それにあの悪魔のガンダムだって、すごくかっこよくって……どうしたんですか?」

 

 机に肘をつき、片手で顔を隠しながら目線を遮るように横を向く。急にどうしてしまったのだろうか。『はてな』マークを浮かべながら、彼女の最終解答を待つのだが、それが一向に帰ってくることはなかった。

 注文したカフェオレとオレンジジュースが机に置かれて、私はオレンジジュースを手にする。

 

「飲まないんですか?」

「……はぁ」

 

 帰ってきた返事はただのため息で。

 ようやく顔を正面に戻してくれたかと思えば、カフェオレをストローから口にしている。

 私もオレンジジュースをストローからチューチュー吸って少々の酸味と甘味を舌の上で味わう。

 

「え?! なにこれ美味しい!!」

 

 気付いた。なんだこの五感へのフィードバック率の高さは。

 今まで遊んだVRゲームは基本的に味がしないものが多い。雰囲気を味わう、というケースが多いVRゲームの食事に置いて、このGBNというVRMMOは文字通り一味違っていた。

 普通にオレンジジュースを味わっている感覚がする。こんなにも五感にフィードバック、こと味覚という感覚が再現されていることに感動を覚えていた。

 

「そんなに驚くこと?」

「驚きますよ! エンリさんは他のVR経験は?」

「ない。ずっとガンダム一筋だったから」

「すごいんですよ、このGBNは! 五感のフィードバックがすごくて!」

 

 うわー、すごくテンション上がる! こんなにも美味しく感じるのなら、別の料理はどんな味がするのだろうか。ワクワクで唾液が止まらない。じゅるり。

 

「注文するなら自分で払えるだけにしなさいよ」

「え? あ……。むむむ……」

 

 始めたてにお金はない。ミッションを見ていると、すぐに稼げるみたいに見えるけど、それでも初めて2日でまともなミッションはチュートリアルしかしてこなかった私に許された注文権は存在していなかった。

 

「ぶえー! ナポリタンとか頼みたい……。あとオムライス」

「勝手に頼めばいいじゃない」

「奢ってくれるんですか?!」

「んなわけない」

「ぶー……」

 

 って、ほぼ初対面の人間にこんなこと頼んでいい訳がない。

 ちらりと彼女の顔を伺ってみれば、あまり芳しくないような表情を私に浮かべている。うぅ、失敗した。調子に乗ってしまった点を1つ改めるように、私はしょぼくれた顔で謝罪をする。

 

「ごめんなさい。ちょっと調子に乗りました」

「別に」

「でも、ほぼ初対面のエンリさんに突っかかりすぎじゃないですか、私」

 

 いくらなんでもグイグイ踏み込みすぎた。まだ言いたいことだって言えてないのに。

 彼女は正面を向いて、しなやかな両腕を胸の前で組む。表情は依然険しく、これは怒られるパターンではないだろうか。

 そう考えていた私に帰ってきたセリフは、想像とは少し異なっていた。

 

「さっきのでチャラにしてあげるわ」

「……さっきの?」

 

 さっきのって、何?

 私がなにかしたような思い出もなにもないのだけど。

 考えれば考えるほどドツボにはまっていくような感覚はするものの、一向に答えは出てくることはない。

 云々唸っている私を見て、意図が伝わっていなかったのかと、またため息混じりの愚痴をこぼす。

 

「さっきのよ。さっきの」

「だからなんですか? さっきのって」

「……あんた、本気で言ってるの」

 

 本気も何も。特に思い当たるフシが一切ない。

 ホントに「さっきの」が分からないから質問しているのだけど。

 美人な口元をわなわなと震わせながら、時には口を開けて何かを言葉にしようとするが、諦めて口にしたり、時には目線が宙を泳ぐ。何か言いづらいことでもあるのだろうか。

 それが「さっきの」ということなのだろうか。私にはやっぱり分からない。

 次第に青寄りの黒いツインテールをふるふると揺らし、全てを諦めたように肘をついて話してくれた。

 

「…………かっこいいって、褒めてくれたことよ」

「え?」

「だから……! もういいや」

 

 その表情は、病的なまでに白かった肌が少しだけ色づいたように夕日が灯る。

 もしかして、さっきの褒め言葉のことを言っているのだろうか。たったそれだけの褒め言葉のつもりだった。私が今すぐにでも伝えたいと思った心からの言葉だった。それを嬉しいって言ってくれるって、なんか……。なんか……!

 

「私嬉しいです!」

「なんであんたが言うのよ」

「だって! 私の言葉で嬉しくなる人がいるって、嬉しくないですか?!」

 

 自分でも少々頭痛が痛い事を言っている覚えはある。

 でもそれ以上に伝えたい感情を素直に伝えることができて、私は嬉しくなった。

 この心の揺れ動きを言葉に例えるなら、その感情が最も当てはまる言葉だ。

 

「……あんた、変わってるわね」

「そうですか?」

「その素直さは美徳だと思うわ」

 

 ボソリと「わたしには眩しすぎるけど」なんて聞こえた気がしたが、多分気のせい。

 私は私で、エンリさんが褒めてくれたことが嬉しくて、些細な内容を気にも留めなかったのもある。

 

 そういえば。そんな話題を切り替えるようにして口に出された彼女のワードは私の気持ちを切り替えるには十分だった。

 

「あんた、勝って何が言いたかったの?」

「あ。あ! はい! えっと……」

 

 素直さが美徳と言われるのは初めてだった。

 損しかない性格だと思ってたけど、褒めてくれる人がいてくれて。それを言葉に乗せてくれる人がいてくれて。

 私も同じく感謝を口に含ませて、該当の言葉を紡ぐ。

 

「友達になってほしいんです。私と!」

「……友達?」

 

 私は伝えたかった。あのゼダスM5機から助け出してくれたことを。

 私は撃ち抜かれた。その美貌とクールな彼女。そしてガンダムゼロペアーを。

 私は手を伸ばした。この目線の先にエンリさんがいることを望んで。

 

 どうしたかったなんて、私の足りない人生経験の前では一緒に過ごすぐらいしか思いつかなかった。

 ビビッと感じたこの感情を理解するのはまだまだ時間が足りない。

 だからこの目線の前にエンリさんを見据えて、目標と理解を得るために。

 その手っ取り早い手段が「友達」だった。

 

「そうです! 迷惑かもしれませんけど、でも!」

 

 その言葉に、決意に言葉を震わせながら、私は口にして。

 握りしめた両手には感謝と懇願と。ビビッと感じた何かを秘めて、彼女の言葉を待った。

 そこに一切の偽りはなく、ただ一緒にGBNをしたいという気持ちだけがこの衝動を突き動かしている。

 どんな返事が来るんだろう。

 期待と不安。希望と絶望。大釜の中に相反する感情論をぐるぐる混ぜにする。

 

 彼女は決して目線を合わせずに。それでも目を見る私に向かって、少しすれたような感情を口に出しながら答えた。

 

「勝手にすれば」

「……と、言うと?」

「フレンド登録はしてあげる。あとは勝手にしなさい」

 

 期待は希望へと無事昇華した。目をまんまるに見開きながら、私の描く未来回路にエンリさんという仲間が加わったことに大喜びしながら、早速フレンド登録を済ませようと、メニュー画面を開いた、が。

 

「フ、フレンド登録ってどうやってするんですか?」

「……はぁ。コミュニティって項目があるでしょ? それを……」

 

 ノイヤーさんがオルフェンズディメンションから帰ってくるまでには済ませておきたい。そんな事を思い描きながら、私はエンリさんからのチュートリアルを受けるのであった。

 

 ◇

 

「ふすん……ユーカリさんの初フレはわたくしになる予定でしたのに」

「ご、ごめんなさいー! 忘れてたからしょうがないじゃないですかー!」

 

 面倒な子に出会った。歳はわたしよりも下で間違いない。ごく一部が非常に発達した140代の女の子なんてそうそういてたまるか。だからこの子はきっと小学生に違いない。でなければ中学生だ。

 後から合流したもう片方は、正直分からない。けれど、あの口ぶりだと同年代だろう。騒がしいたらありゃしない。

 カフェオレの氷をカランと揺らしながら、わたしは話半分で2人の痴話喧嘩を右耳で受け止めて左耳に流す。こういうのはあの二人組の話題でうんざりだ。

 

 いち早くフレンド登録を済ませたわたしたちが迎えたのは、先程のダナジン乗りであろう人物であり、名をノイヤーというらしい。

 ダナジンという翼付きであるのなら、いち早く落とすことを考えなくてはいけなかったから血が昇っていたが、元を正せば彼女がバトルフィールドに入ってこなければ、乱入戦闘にならずに済んだ。

 もちろん彼女からの謝罪は受け取ったけど、内心は不服だった。

 

 青いレンズで白い翼のダナジン。その青い瞳はおおよそ『あいつ』を思い出させるのには十分で。

 八つ当たりなのは分かっていても、止まらない激情を鎮める方法を知らない。

 だからこうやって大人しく座って窓の外を眺めている。

 GBNの空は美しい。美しいからこそ、憎い。GPDのあの空を、青い翼のサムライを彷彿とさせるから。

 

「どう思いますかエンリさん! ノイヤーさん、ちょっと独占欲強めです!」

「何を言っしゃいますの?! わたくしは至って正常な……ってあれ」

 

 なんだ。わたしに声をかけたのか。横目でちらりと彼女たちの様子を伺うも、どこかわたしを心配したような。いや、どちらかと言えば黄昏れているわたしを見て少し引いたのかもしれない。面倒な面構えしてたか、わたし。

 

「なに?」

「い、いえ。わたくしは特に……」

「空、好きなんですか?」

 

 意外、というほど意外ではない。彼女ならそんな真っ直ぐな言葉を口にするに違いないと思ったから。嫌というほど身を持って体験したんだ、それは間違いない。

 好き、という言葉は空に似ている。時々どこへ行っていいか曇ってしまったり、本当に道に進んでしまってもいいのかと戸惑うほどの嵐になったり。

 それでも進んでよかったと。目覚めにカーテンを開けたら清々しいほどの気持ちよさに思わず目を細めてしまうほど静かで暖かい気持ちになる晴れになったり。

 そんな晴れ模様は、わたしには……。

 

「そんなに好きじゃない」

 

 ――眩しすぎた。

 

 夏の太陽はいつだって直射日光をしたら、目を焼いてしまうように。

 憧れたあの背中は依然遠くて。超えたように見せた彼女の姿は背を向けていて。

 あぁ、わたしは嘘を付かれたんだ。わたしの方が実力が上であるという嘘を。

 

「わたし帰る。それじゃ」

 

 メニュー画面からログアウトのボタンを押そうとした次の瞬間、彼女が、ユーカリがわたしに呼びかけてくる。

 

「はい! リアルでまた!」

「……は?」

 

 わたしの嫌いな嘘を付かれながらも、変な冗談だと思い、ログアウトする。

 エレベーターで上昇していくように、電子の身体が精神から剥がれ落ち、現実の肉体へと癒着する。

 あの頃から癖になってしまったため息をまた1つ吐いてから、VRゴーグルを外す。

 目の前にはわたしの愛機、ガンダムゼロペアーが我が物顔で鎮座している。

 あんた、かっこいいってさ。まぁわたしが作ったガンプラなんだから当然なんだけど。そんな彼女の嘘か真か分からない褒め言葉を鼻で笑い、バッグからタッパーを取り出し、そして……。

 

「またお会いしましたね、エンリさん!」

「……は?」

 

 隣には、髪型に違いはあれど身長と胸の大きさとわんこみたいな雰囲気がそっくりそのまま現実に写し出された彼女の、ユーカリの姿があった。

 

「エンリさん、ガンプラ教えて下さい!」

「……は?」

 

 どうやら、現実でもこの子からは逃げられないようだった。




名前:エンリ
性別:女
身長:159cm
年齢:19歳
二つ名:バードハンター

見た目:青寄りの黒髪のツインテール。腰まで伸びている。青い瞳
ボロボロのコートと長いマフラー(要するにグレ◯ッキー)
綺麗めな美人。鋭い印象を見受けられる容姿。
胸はない。Aカップぐらい。つるつるすとーん

ヒロイン。
クールな見た目に反して、褒め言葉にはクッソ弱い。
また、とある出来事から嘘が嫌い。
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