最近、3人の様子が妙によそよそしい。
以前から知っていたことだけど、エンリちゃんとノイヤーちゃんは両方ユーカリちゃんのことが好きで、ユーカリちゃんはそう言ったことには無関心だった。
ただどうだろう。エンリちゃんとの一件から、彼女自身が妙にユーカリちゃんと一緒にいたがるのだ。まるで口説きとされたような。
そして事もあろうに、ユーカリちゃんはそれを微妙に避けている。
なんだこれ。
「なんだこれ」
目の前で距離を詰めようとエンリちゃんのそのさりげなく近づく姿と、それをやんわりと避けるように距離を置く我がフォースのリーダー。
そりゃだって、ねぇ。これまで幾百もの恋物語を見てきたけれど、こんなに微妙で、へっぴり腰ながらも、頑張って前に進もうとしている姿を見るのは初めてだ。
いや、嘘ついた。割と見てきたわ。基本このゲームやってる人ってオタクくんばっかりだから、そういうの下手くそな人間しかいないわ。
「ユーカリちゃん、告られたの? それとも告った?」
「「へっ?!!!」」
クソデカ大声がケーキヴァイキングのフォースネストに響き渡る。
エンリちゃんなんか驚きすぎてテーブルに膝ぶつけてるし、ユーカリちゃんは何故それを見抜いたんですか?! エスパーですかと逆に感心してしまっているぐらいだ。
あー、これは図星だね。アタシ知ってる。それもエンリちゃん側からぶっちゃけたなこれ。
「そっかーーーーーーー」
「なんでそんな反応になるのよ。そもそもわたしが告ったなんて勘違いも甚だしいわ。そんな、わたしがユーカリに半ば口説き落とされたみたいなこと言われなくても、わたしはユーカリのことを元から好きで……」
「え、そうだったんですか?!」
図星とは、人を戸惑わせるものである。
少なくとも今のエンリちゃんはメダパニがかかったように混乱している。
冷静に狂う姿ってあんなもんなんだねー。アタシびっくりしちゃうよ。
「いや、えっと。まぁ」
「そ、そうですか……」
あらあら。御年3歳にしてついお母さんじみた気持ちになってしまうわねうふふ。
なーんて言ってる場合じゃないって! どーすんのさノイヤーちゃん! 完全にエンリちゃんの方が敏捷性高いよ?! アタシが本来応援したいのはノイヤーちゃんであって、エンリちゃんの方じゃないんだよぅ! でもこれはこれで美味しい。
ってか、さっきユーカリちゃんから逃げるようにしてノイヤーちゃんがどっか行ったけど、あれなんか理由あったりするん?
いや。いやいやいや。アタシの中で1つ思い当たるフシが出来たっていうか、なんとなく『鈍感な』ユーカリちゃんならやりかねないというか、露骨な好意にもあんまり反応しなかった彼女なら、しでかしてしまったのかもしれない。
「ユーカリちゃん、ひょっとしてエンリちゃんとの告白、ノイヤーちゃんに相談した?」
「ど、どうして分かったんですか? やっぱりELダイバー特有のエスパーみたいなものですか?!」
やっぱりかーーーー!!!
アタシも半ば予感というか、もしかしたら、っていう憶測でしかなかったけど、そっか。ノイヤーちゃん、そんな話があったから行きづらかったのか。
アタシだって、そんな状況に出くわしたら平然とユーカリちゃんの隣に座るなんてことできるわけない。なんという凶悪な刃を持っているんだ、ユーカリちゃんは……。
「ちょっ! あんた、告白のこと喋ったの?!」
「ノイヤーさんになら言ってもいいかなって」
「「ノイヤー(ちゃん)だからダメなんじゃん」」
そんなどうして? と言う顔でハテナを浮かべるユーカリちゃんにさすがのアタシもないわってなったわ今。そりゃノイヤーちゃんも苦労しそうだこと。
「あれだったら、わたし席外すわよ?」
「アハハ、そうしていただけると非常に助かるかなー」
あのエンリちゃんが空気を読むレベルだし、これは相当だ。
やっぱりハテナを浮かべている彼女。これは正直にぶっちゃけちゃっていいのだろうか。こういうことはフツー好きな人自身から口にすべき内容なんだと思うけど、ユーカリちゃんの絶望的なまでの恋愛センスの無さに思わずゲロっちまいそうになる。
言うべきか、はたまた言わぬが花か……。
まぁまずはエンリちゃんのことについて聞こう。話はそれだからだ。
彼女が立ち去ったのを確認してから、アタシは件の内容を口にし始めた。
「んで、エンリちゃんとはどんなもんなの?」
「どんなって?」
「だから恋の進展みたいなの! あるでしょ、そーいうの!」
恋の進展。そんな事を小声で口にしながら、くるくると3分目まで減ったコップの水を揺らす。
別に難しいことを聞いているんじゃない。アタシはどうしたいかが聞きたいのであって、なにもやましいことを聞こうとはしていない。敵情視察って意味合いはあるけど。
「恋も何も。私今までそんなの考えたこともなくて。結局どうしたいかが分からないんです。友達のままでもいいし、エンリさんが求めるなら、って」
主体性がない。そう感じてしまった。
先日まではあれだけエンリさんを取り戻すと、ワガママをてこでも動かさないようなことをしていたのに、恋愛になればこれだ。どう対応したもんかと、悩んでしまうほどに。
きっと彼女はまだ恋を知らない子供だ。アタシが言えた立場ではないにしろ、人を心の底から好きになったことはないんじゃないかと思う。
それか、その相手がたまたまエンリちゃんであって、それにまだ気づいてすらいないか。
だとしたらノイヤーちゃんは報われない。どこまで行っても友達のままなんだから。
アタシは、ノイヤーちゃんが幸せになってほしいだけなのに。
「あのお嬢様はなんてっつってたの?」
「私に、幸せになってほしい。って」
「はぁーーーーー」
思わずめっちゃでかいため息が出てしまった。
なーにがユーカリちゃんに幸せになってもらいたいだよ。ホントは幸せにしたいのはノイヤーちゃんのくせにさぁ。
正直、エンリちゃんとノイヤーちゃんの恋愛事情は見てて面白い。それは確かだ。
でも2つを追っていても、片方が後悔するだけ。何もしなければ、きっとエンリちゃんの勝利で決着がつく。であるなら……。
「ユーカリちゃんさ、ノイヤーちゃんのこと、どー思ってんの?」
「友達、というか。親友みたいなものでしょうか。私がここにいるのも実際ノイヤーさんのおかげって言いますか」
「じゃあ、もしも。ノイヤーちゃんが、ユーカリちゃんのこと好きだったらどーする?」
アウトローの似合わないまんまるな目をぐっと縮めながら、口を徐々に開いていく。
でもそんなの嘘ですよねと言わんばかりに、次の瞬間には張り付いた笑顔を顔面に縫い付けた。分かってる。これがユーカリちゃんにとって更に迷わせる原因であることを。それでも、推しには報われてほしいじゃん。でなきゃファンとして失格だよ。
例え、この助言がノイヤーちゃんが本来伝えなくちゃいけない言葉を奪うことになっていたとしても。
「これは本気で言ってる。ユーカリちゃんは、どーするの?」
「わた、しは……」
そんな事を聞かれても。口をワナワナと震わせながら、答えを必死に模索しても、きっと見つからない。
アタシは知っている。それを人間は三角関係と呼ぶことを。
何度も見てきた。そのせいで崩壊してきたグループを。
でもほっとけないよ。ノイヤーちゃんが口を塞いだことだとしても、アタシは……。
「分かりません。例えそうだったとしても、2人のどっちかを選ぶなんて」
「まー、そう言うと思ったよ」
しょーじき、イジの悪い質問したと思っている。
けど、いつかは決着を着けなくてはいけないことで。そのいつかが今なんだ。
「ま、覚えていてよ。きっと3人が望む選択は得られないかもだけど、ユーカリちゃんならこの2人の手を握ってあげられるって思ってるから」
「……そう、でありたいですね」
あーあ、言っちゃった。アタシも戦線に混ざらないといけないよなー。
極力公平でいたかったけど、ノイヤーちゃんにいつの間にか固執してたのかな。
……そういや。なんでアタシ、こんなにもノイヤーちゃんに固執してるんだろう。大した義理も恩もないのに。
考えても仕方ないか。さて、後でノイヤーちゃん探しに行かないと。
◇
「ってことで」
「あなた、本当に何してますのよ……」
場面は変わってノイヤーちゃんが海辺にやってきたアタシは、事の顛末を伝えることにした。案の定迷惑そうにアタシを見ている。出過ぎた真似をしちゃったかなとは思ってたけど、そんなにか。
「というか、なんでわたくしの居場所が?」
「フレンド情報、隠してないでしょ」
「あ……」
ノイヤーちゃん、そういうところうっかりというか、微妙に抜けてるというか。
そういうところも可愛いとは思うけど、流石にそこはしっかりしておこうよって思ったり。
モビルドールを体育座りで白ダナジンのそばに置いて、アタシもノイヤーちゃんの隣へと座る。
「何のつもりですの?」
「や、話なら聞いてあげるよって言いたくて」
「訳が分かりませんわ」
本音言っちゃえば、ちょっと心配してるんだよね。
そういうこと全部抱え落ち思想なタイプだし。それに負けヒロインのオーラが強いし。
違う違う。そういうんじゃなくて、なんというかほっとけないんだよ。今度はノイヤーちゃんが、とか考えただけで嫌だし。
「なーんて、言えるわけないか」
「本当に何なんですの?」
「フレンさんは多くのことを見聞きしているから、あんたが見てて不安だって話!」
「いつから親ヅラしてますの」
「親ヅラっていうか、友達ヅラ?」
友達なのにねー、とけらけらと笑う。なんとも不服そうなのが丸見えだ。
どーもノイヤーちゃんとの距離を微妙に感じてしまう。アタシはこんなに好きだっていうのに、まったくもって失礼極まりない話だ。
あ、今の『好き』は、面白い対象としての好きってことで、決して恋愛の話じゃないからね。
つーか、ELダイバーって恋愛すんのかね?
一説ではELダイバーの先祖も普通に人間だから、恋愛するってケースを聞くし、何だったらリクくんとサラちゃんがそれに近い。あの2人がいつくっつくかも気になるけど、それはそれとして、だ。
ELダイバー同士なら分かる。だけど、人間とELダイバーは身体の構造が違う。そういう『種族』的なニュアンスから、超える壁が高い。
マギーちゃんにも聞いたことはあったけど、いい回答は得られなかった。
むしろ『その答えはあなたが自分で知るべきよ』なーんて言っちゃって。
まぁ、付き合うならノイヤーちゃんかなー、と考えることはある。
少なくとも、後見人として仮契約してるマギーちゃんからいつかは離れなきゃいけない。その相手が彼女ならアタシはいいと思ってる。
問題は、向こうが懐に何かを抱えていることだけど。
「ねー、アタシのこと好き?」
「なんですの、急に」
「周りがみんな恋愛話ばっかだしさ! アタシもそういうの求めちゃうわけ! 分かる?」
「影響されてるだけでしょう」
「それでもよー! 結局どーなん?」
試すような視線がアタシから放たれる。
実際気になってるんだよ、ノイヤーちゃんからの好感度。
なんでかは知らんけど、たまに、無性に。それがたまたま今だっただけ。
煩わしいように目線を配らせながら、アタシと目線を合わせる。綺麗な碧色。まるで深海に吸い込まれるような、そんな奥深い瞳。アタシは、これが好きだった。
しばらくしてため息を1つ吐き出した彼女は、空と海の間を向き直して一言。
「中身は嫌いじゃありませんわ」
「……そっかぁー!」
それは外見なんかよりもアタシを見てくれてるってことだよね。
腰の付け根から首にかけて電流が走るみたいに、ゾワゾワっとする。こういう感情を嬉しいっていうのは知ってる。だからアタシはその恥ずかしさも相まった感覚を誤魔化しながら、茶化すことにした。
「素直じゃないなー! えへへ」
「だから嫌だったんですわ」
アタシの顔はきっとふやふやに緩んでいたことだろう。
瞳の奥で、少しだけ悲しそうな様子を浮かべるノイヤーちゃんを尻目に。
碧色に好きを込めながら