ガンダムビルドダイバーズ リレーションシップ   作:二葉ベス

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そして……がつくと、基本不穏


第40話:ばっどがーりゅとGPD。そして……

 温泉はとても良かった。

 やっぱりいいよね、お風呂って。こう身体だけではなく、心も洗われる感じ。

 ストレスというストレスたちが、お湯に溶けて混ざって、そうして消えていくような幸せな心地よさ。

 私の場合隣にいたエンリさんこそがそのストレスの原因ではあったのですが。

 

 私が勝手にエンリさんからの視線を気にしすぎているだけなんだと思う。

 だって彼女は普通に接してきてるし、あんまりジロジロと私の身体を見ようとはしない。けれど、会話中の何気ない視線の移動が痛い。ちょっとだけ胸に行ったりお尻に行ったり。

 エンリさん、そんな人ではないと思ってたんですけど……。気にしすぎと言われれば嘘になるけど……。

 

「ふぅ……」

「エンリさん、やっぱり私のこと見てましたよね」

 

 しばらくの沈黙。エンリさんがこちらに目線を向けて、そらして。

 

「まぁ、見てたわね」

 

 白状しましたよこの人! うぅ。こんなんだったら私もエンリさんの裸をずっと見ておくべきだったなぁ。

 ……って、なんでそんな発想になってるの。私はただエンリさんと仲良くできればいいだけで、それ以上は求めていないっていうかなんていうか。

 

 ――本当に?

 

 尻込みしていく心の中の言葉が私に疑問をぶつけてくる。

 本当に求めてないの? それ以上を、親友を超えて、また別の愛の形へ。

 邪な発想は首を振って周囲に飛散させる。

 そうだ。今のはエンリさんとムスビさんからの告白みたいなものに、私が動揺しているだけ。本当に友達を望むのであれば、何も言わず断るべきなんだ。そう、断るのが正解なはずなのに。

 

 ――あなたの望む関係は?

 

 私が望む関係。それが分かれば苦労はしない。

 ムスビさんは私にとっての大親友であり、私のことを好きな相手であり、そんな相手に相談してしまったんだ、エンリさんのことを。

 謝らなきゃな、今度。事情は知らなかったとは言え、きっと私からの告白は胸を裂く勢いだったはずだ。

 そしてエンリさん。私のことを好きで、でも友達とは言ってくれなくて。私が憧れる年上の女性。

 不意に思った。あの時、なんで友達って言ってくれなかったんだろう。

 友達じゃなかったら今回のデートだって誘われなかっただろうし、じゃあエンリさんにとって私っていったいどんな人?

 

「エンリさんは……」

「どうかした?」

「……いえ、なんでもありません!」

 

 口に出した言葉を遮るように私の躊躇が割りこむ。

 きっとエンリさんは答えてくれるだろうけど、ちょっとだけ、ほんのちょっと。傷つくのが怖い。そんな事ないとは思っていても、本当のことを知るのが怖い。

 

「まぁいいわ。それよりガンプラバトルするわよ」

「へ?」

 

 そんなエンリさんの返しは少し目が輝いていて。

 ガンプラバトルって、GBNの? それだったらエンリさんはこんなに乗り気じゃなさそうなものを……ん?

 そうやって考えながら歩いていた先にあったのは大きなテーブルのようなものだった。

 表面は黒くて、何かのモニターにようにも見える。加えて向きうようにしてコントローラーが2つ。これはいったい……。

 

「なんですか、これ?」

 

 疑問をそのまま口にした私への返事が帰ってきたのはエンリさんではなく、隣に音もなく現れていた彼女の友達であった。

 

「GPデュエルのシミュレーションマシンです、お客様」

「わっ?!」

 

 現れたのは黒い髪に青い瞳。そして桃色の浴衣で着飾った若女将、ヒナノさんであった。

 彼女もまた、マスラオの改造機を手に持っている。ガンプラファイターだったらしい。

 

「わたしが昔GPDをしてたって話をしてたでしょう? たまにだけど、ここでGPDをするのよ。今では貴重な骨董品の1つだから」

「骨董品って、それは失礼に値しますよ、エンリさん」

「もう何年前の代物よ。これが壊れたらもう修理する目処なんてないでしょう?」

「そこは春町旅館、パーツ以外なら何でも出来ます」

 

 仲良さそうだなぁ。と聞き耳を立てながら、胸の奥でザワザワする気持ちを抑える。

 別にそういう嫉妬心とか抱いてないし。ただエンリさんがこんなに仲良さそうに話せる相手がいるなんて思ってもみなかっただけだし。

 

 この春町旅館はGPD全国大会の選手宿として有名だった話は前回したが、その他には今でもGPデュエルのシミュレーションマシンが設置されており、ダメージレベルについても独自の改造から変更もできるらしい。

 そのため、GPDを知るために訪れるお客様もいないことはないとか。今はもっぱらGBNでいいじゃん派が多いため、GPDはたまの起動しかしていないらしい。

 確かに骨董品と言うにはあまりにも突き刺さる言葉だ。でも、そう呼ぶには小綺麗な見た目をしており、毎日メンテナンスを欠かしていないのだろうという推察が容易にできた。

 

「エンリさん、もしかしてこれのために?」

「ゼロペアーも最近不調だし、一回壊してでも再度調整したほうがいいと思ってね」

「あ、危なくないですか?」

「大丈夫よ。ちょっとパーツがダメになるぐらいだから」

 

 それを危ないっていうんじゃないですか。

 根本的にGPDに対する考え方が違う辺り、昔からガンプラが好きなんだろうなと言う気持ちになる。

 

「エンリさん、パラザイルはどうしたのですか?」

「パラザイル?」

「エンリさんのGPD時代の愛機です。アシュタロンの改造機で、シザーアームを4本使って空を飛ぶ姿は、堕ちた堕天使に相応しいご活躍でして……」

「ヒナノ!」

「堕ちた堕天使……?」

「これは失礼。喋りすぎましたね」

 

 やっぱり胸の奥がざわつく。ちょっと不機嫌な気持ちを私は発散することにした。

 

「エンリさん、最初私がやってもいいですか?」

「あんた、そんなにGPDやりたかったの?」

「違います。ヒナノさんとバトルしたいんです」

「私と、ですか。はい、いいですよ」

 

 人懐っこい笑顔を向けながら、それでも裏に隠された刃の如き闘志に少し怯える。

 この人、エンリさんやユウシさんとは別の、もっとスマートな戦い方をするんだ。それも、とても切れ味の鋭い……。

 ゴクリと喉を鳴らす。いいや、女は度胸。やってみるものなら、やるしかない。

 出撃するガンプラを射出口にセット。そして……。

 

「……これって、普通に動くんですか?」

「あんた……」

 

 呆れられたって、分からないんですよぉ!

 どうやらバトル開始時に「プラネットコーティング」と呼ばれる塗料のようなものが付与され、それを介してGPDの世界にログインできるらしい。

 じゃあ何もしなくてもいいんですね。と言わんばかりに操縦桿を握ると、バッドリゲインが浮かび上がった。

 

「えっと、イチノセ・ユカリ、ガンダムAGE-1バッドリゲイン、行きます!」

 

 ドーム状に展開されたシミュレーションマシンにバッドリゲインが飛び込んでいく。

 ちなみにダメージレベルは最小限となっており、傷ついたとしてもかすり傷程度らしい。

 慣れない操縦桿での操作と小さなモニター。これがGPDか、と考えながら操作方法を一通り学んでいく。

 うん、ちょっと癖があるけど、基本的にはGBNの操作と同じだ。だったら、行ける……!

 その瞬間だった。接敵アラートが鳴り響く。なんだ、とモニターを確認すれば、そこにいるのは桃色の武士であった。

 

 その機体は桜色に塗装されており、左腕にはディフェンスロッドが、そして右手には太刀のような武器を構えているマスラオ。

 あえてなのか陸上スレスレを移動しながら、バッドリゲインの方へと一直線に走ってくる。

 

「まずは、ドッズライフル!」

 

 三点射撃を心がけながら、こちらもホバークラフトで移動しながら撃ち抜いていく。

 だけど、サイドスラスターのせいなのか、ギリギリのところで躱しながら、接近してくる。

 速い。恐らく私がGBN内で戦った中で最も。ヒートカタナを手に持ち、質量兵器が上から下へと襲いかかる。

 流石にそんな直線的な攻撃は効かないと言わんばかりにホバークラフトでバックステップ。

 振り下ろした太刀が土煙を起こす。その中から追撃という形で、突きの攻撃が3連。これを喰らえばダメージは尋常じゃない。けれど、完全には避けられない。

 一度目はシグルクローで回避。二度目は強引に身体をひねらせるも、三度目の攻撃が軸足を狙って関節部分を貫いた。

 

「バッドリゲイン!」

 

 刹那の一撃。貫かれた右脚はそのまま切断。背中のスラスターと共に離脱するも、ホバークラフトの調整が難しくなる。もしかしてあの人、そこまで考えて……。

 

「足は武士にとって基本となる部位ですからね。一番最初に潰すのが正解と言えましょう」

「っ!」

 

 後ろに下がりながら、ドッズライフルでの照射をするけれど、ディフェンスロッドやサイドスラスターによってこれを防がれる。でもバッドリゲインのクロスレンジは中近距離。だからシグルクローでの奇襲も可能になる。

 そう考えていたのだが、そうは問屋が卸さない。

 マスラオの改造機が懐にカタナを収める。同時に本体から伸びるケーブルが接続されると、赤色の粒子が刀身に宿り始める。

 

「ハルマチ流一の型。春一番……ッ!」

 

 居合斬りのように下から上へと刀身を滑らせる。その時だった、カタナの先から『刃』が射出されたのは。

 

「え?!」

 

 必殺の一撃は私の不意の範囲内。咄嗟に反応しようにも右脚が切断されていて思うように動かない。

 結果としては胴体を真っ二つにされて耐久値を一気に0に持っていかれてしまった。

 唖然とする私の前で、刀身が元の黒に戻ると、血を振り払うような仕草をして、バトルモードが解除された。

 

「相変わらずの切れ味ね」

「ありがとうございます。ユカリさんも初めてにしては筋がいいですね」

「はい……」

 

 私はと言えば、圧倒的な技量の差に少し落ち込んでいた。

 後で調べたところ、ヒナノさんは、ダイバーネーム若女将としてG-Tuber活動をなさっているとか。特に人気のあるコンテンツというのが、その居合動画。自分で極めたハルマチ流という剣技は一種の芸術であると、界隈で噂になっているんだとか。

 ランカーではないにしろ、ダイバーランクはS。つまりかなり強いということだ。

 上を見れば途方も無いのは分かるけれど、あそこまで何も出来なかったとは。

 目の前のバッドリゲインを回収して組み立て直す。

 

「次はわたしね」

「お手柔らかにお願いいたします」

「そっちこそ。ユカリ、ダメージレベルを3にしておいて」

 

 ホント、エンリさん楽しそうだなぁ。

 やっぱ全力を出せる相手は嬉しいのかな。私じゃ力不足なのかな。

 私じゃ、そんな笑顔出せないのかな。ダメだダメだ。こんなんじゃより一層落ち込んでしまう。とりあえず目の前のガンプラバトルを見ることにする。

 その時のエンリさんはとても楽しそうで。私が告白されても良かったのかなー、なんて思うぐらいには物思いに耽ってしまうわけでして。

 

 ◇

 

「エンリさん、途中からGPDのことばっかでしたよね」

「それは、すまなかったわ。デートのことすっかり忘れてた」

 

 バスに乗っている最中、私とエンリさんは隣同士に座って話をしていた。

 幸いにも他のお客さんは誰もおらず、二人っきり+運転手という状態になっていた。

 

「というか、やっぱりこれデートだったんですね!」

「あっ……。違うわ、おでかけよ」

「またまた~、嘘はいけませんよ!」

 

 先程までざわついていた胸が少し収まっていた。

 頭の中では薄々そうなんじゃないだろうか、なんて思うぐらいには心が揺れ動いていた。

 

「まぁいいわ。今日はどうだった?」

「楽しかったですよ、エンリさんと一緒にいれて!」

「……そう」

 

 窓際に肘を置いて顔をそらすようにして照れを隠す。

 隠さなくたって可愛いのになぁ。なんて、脳内で考えながら。

 

 あの時から、エンリさんに告白されてからずっと考えていた。

 ひょっとしたら自分はエンリさんのことが『好き』なんじゃないだろうか、と。

 ずっと追っかけしてたのだって、ある種の一目惚れみたいなところがあったのかもしれない。自覚ないし、今もそうではないけれど、なんとなしに思ってしまう。

 同時にムスビさんのことも思い出す。私のことを好きだと聞いたムスビさんは、いったいどんな気持ちで私の話を聞いていたのだろう。

 力になりたくて、でもうまく言ってほしくはなくて。揺れ動く相反する感情論に対して、ムスビさんは私に幸せになってほしいと言った。それは紛れもなく本心であり、ムスビさんが私に感じている愛の表れなんだと思う。

 ホントは、私が言うべきセリフのはずなのにな……。

 

「ユカリ、やっぱり悩んでるのかしら?」

「え?! えー……。まぁそうですね」

 

 あまりに暗い顔をしていたのだろう。エンリさんでさえ一発でバレてしまう表情をしていたのだろう。

 

「私、エンリさんからもそうですけど、ムスビさんも好きだって思ってくれてて。分からないんです。友達としてを選ぶのであれば、どっちの好意も無駄にするのがベストなんだと思います。でも、そんな度胸は私にはなくて」

 

 結局は誰か1人を選ぶことが出来ないぐらい私は優しすぎるのだと思う。

 自分で言うのも変ですけど、それでもみんなには笑顔でいてほしい。身内は特にそう思う。

 でもこの答えはきっと、どちらかを。ううん、ムスビさんを傷つける。

 私を慕ってくれて、いつも一緒にいてくれた彼女の顔を曇らせる。

 どうして、1人しか選べないんだろうか。どうして、みんなじゃダメなんだろうか。

 

「エンリさん、私どうすればいいんですか?!」

「……それをわたしに聞くの」

「すみません。でも、私ずっと悩んでて……」

 

 人間関係ほど最も面倒なものはないとされている。

 だったら、私はその1番面倒な事を考えていることになる。なら答えが出せないのなんて、当然のことで。

 

「……ユカリは、どうしたいの?」

 

 私は、私の本心は……。

 エンリさんの瞳は期待と不安の入り混じった混濁とした色をしていて。

 後悔のない選択はないって、ヒロトさんも言ってた。でも取り戻せるなら、ワガママになってもいいって。

 でも、取り戻せないかもしれない。ムスビさんとは、もう……。

 

「ユカリ。わたしはあんたと付き合いたい。でも、わたしが嫌だって言うならこっぴどくフりなさい。それがケジメってやつよ」

「そんなの……」

「人間、バッサリ言われた方がうじうじ悩まなくて済むのよ」

 

 嫌なわけないじゃないですか。

 私は、私の本心は、こんなにもエンリさんの方に天秤が傾いてるのに。

 息を吸って、吐く。

 決断は怖い。後悔は先に立ってくれないように、未来だって目の前にあるわけじゃない。

 2つの分岐点。エンリさんを選ぶか、ムスビさんを選ぶか。

 

『わたくしは、ユカリさんに幸せになってほしいだけですわ』

『あなたが思うようないい結果を、見せてくださいませ』

 

 後で謝ります。ですから、今はその言葉を、信じますね。

 

「エンリさん。私は、恋心がどんなものか知りません」

「だけど、この心が、私の心がそう言っているのであれば……」

 

 エンリさんの手にそっと自分の手を添える。

 伝わってしまうだろうか、私の心の声が。血液を通って、循環する私の叫びが。

 

「私に、恋心を教えてもらっていいですか?」

 

 精一杯の勇気を込めて。

 後には引けない言葉を1つ乗せて。私は彼女の手をギュッと握る。

 彼女の瞳は丸く円を描く。まるで、なんて比喩を使うほどではないほど驚いて。

 口を開いて、現実を受け入れるように、彼女は言の葉を紡いだ。

 

「えぇ、喜んで」

 

 エンリさんのそんな笑顔、私初めて見たなぁ。

 いやそうでもないか。この前見た。告白された時、それ以上の喜び。

 

 問題は山積みだ。だけど、1つだけ、解決したことがあるとすれば。

 私はエンリさんのことを好きかもしれないってことぐらいだ。




運転手「次は~、しあわせ公園~しあわせ公園~。カップルの方はお降りください」
エンリ&ユカリ「!?」


◇タオヤメ
マスラオの改造機。
名前の意味は益荒男の対義語である手弱女から。
マスラオを盾付きにして戦闘力を安定させた一品。
基本的にはマスラオの色違い。桜色に染め上がった機体は春の花のよう。

マスラオの基本運用であった二刀流のビームサーベルではなく、
あえてヒートカタナを採用。理由は防御面での不安があったため。
その代わりオリジナルギミックであるケーブル接続によって、
より強力な1本の太刀として振る舞うことができる。

またケーブル接続によって、GN粒子をヒートカタナにまとわせて、
斬撃を飛ばすこともできる。

・武装
ヒートカタナ「春之太刀」
鋭い太刀の質量兵器。渾名が付けている程度には洗練されている。
背中のケーブルを接続することで、熱を帯び両断できる

ビームチャクラム
レーザー機銃
GNバルカン
GNサイドスラスター
GNディフェンスロッド・ブレイド
飛乱去無
タオヤメのトランザム。
オリジナル領域まで引き上げた出力は変わらずとも、
各種の性能が上がっており、切れ味がとにかくいい。
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