ガンダムビルドダイバーズ リレーションシップ   作:二葉ベス

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GWも最後なので初投稿です。


第42話:自称お嬢様と弟

 もっとわたくしに勇気があれば。

 ほんのちょっと。背中を押してくれるようなのでいい。そんな勇気が、わたくしは欲しかった。

 勇気があれば大抵のことは何だってできる。

 例えば、ユカリさんに告白すること。例えば、友達の垣根を超えて付き合うこと。

 いくら望んでも、その機会は二度と訪れない。わたくしは、どこで道を誤ったのでしょうか。

 

「やぁ姉さん。まさか約束通りに来るとは思ってなかったよ」

「わたくしもですわ。あなたの顔など二度と見たくはなかったのですが」

「そう言わないでよ。僕だって呪われた子の弟だなんて思われたくないんだから」

 

 金色の髪に緑色の瞳。肌の色だけはわたくしとほぼ同じですが、それでもわたくしの欲しかったもの大差なくて。

 スラッとしながらも、まだ身長が伸び切っていないのか、中途半端な背丈と声色を持つ彼の名はアディ・ノイヤー。またの名をノイヤー家の次期当主。

 わたくしと2歳差であり、すでに社交界デビューをしたという話も聞く。

 正直、ノイヤー家の話なんてどうでもいい。ほぼ捨てられたような身なのだから。

 

「それで、わたくしに何か御用ですか? こう見えても忙しいので」

「貧乏暇なし、なんていうもんねぇ」

 

 そしてこの弟は姉に対して酷く当たりが強い。言ってしまえば嫌いなんだろう。

 その点だけは似ていて、わたくしもアディが嫌いであった。理由なんて、生まれて来なければ、なし崩し的にわたくしが次期当主になっていたかもしれないのだ。

 まぁ、アルビノの身体の時点で、それはありえないとは思いますが。

 癪に障る甲高い声で笑いながら、彼はすっと真面目な顔に戻る。

 

「まぁ、立ち話もなんだからさ、ちょっと移動しようよ」

 

 そう言ってそばに止まっていたのであろう黒塗りの高級車を指差す。

 これは、しばらく家には返してくれなさそう。

 わたくしたちは車に乗り込むと、そのまま道路を走り始める。

 どんな道でも反動が少なく、寝心地が良いと言えばいいのかもしれない。

 最もそんなはしたない真似をする方はいらっしゃいませんが。

 

 終始無言、というよりも、話すことがないと言った方がいいのだろう。

 お互いに嫌い同士なのであれば、声をかけるのも億劫であり、何を言われるかも分かったもんではない。だからこそ、ノイヤー家の、血族の家族がいる屋敷に到着するまでの間、何一つ語ることはなかった。

 

「着いたよ、マドモアゼル」

「ご苦労さま、ムッシュアディ」

 

 いちいち癪に障る弟だこと。

 一応紳士らしくドアを開け、わたくしに右手を差し出してエスコートする。

 まるで『お客人』みたいな扱い方でやたらとイラつく。

 

 ノイヤー家の屋敷に着くと、続く移動場所はわたくしの部屋だった場所。

 今はほぼ物置扱いになっており、手入れはされているものの、わたくしが元いたような痕跡は何一つ残っていなかった。

 この家でのわたくしの扱いは相変わらず、といったところでしょうか。

 本来なら応接室にでも通されて何かお茶やらなにもないなどをもてなされたことでしょう。いったい何を企んでいるのだか。

 しばらくしてアディと付き人2人が一緒の部屋に入ってくる。どう見ても、わたくしを逃してくれるような状況ではなさそうですね。

 

「それで、何がお望みなのですか?」

「いやぁ、大した話じゃないさ。最近新たな出資元を見つけてね。その話をしたくて」

 

 何故そんな事をわたくしに。

 真っ先に出た疑問はそれであった。

 前にも言った通り、わたくしにもう家主として、いや家族としての扱いはされていないため、アディが何をしようが正直どうだってよかった。

 でも、それを口に出したということは、何かわたくしの関連することなのでしょうか。

 

「GBN、だっけ? ガンプラバトルネクサスオンラインっていうの。姉さんもやってるんでしょ、子供のお遊び」

 

 警戒心が一段階跳ね上がる。

 GBNに対して何かしようとしている? みんなが、ユカリさんがいるGBNに。

 

「えぇ。あなたには到底理解できないような話でしょうがね」

「理解したくもないね、そんな低俗な児戯なんて。まぁ、世間的には人気だってことで、ノイヤー家も他との繋がりを得るために、出資を始めたんだよ」

 

 だが、それはもう遅いと言っても過言ではないはずだ。

 政界にはGBNに出資どころか、実際にプレイしているという令嬢もいると聞く。

 であるならば、GBNに目をつけるのは遅いはず。そのはずなんです。

 

「でもねぇ、出資したところで、貢献度としてはあまり高い位置には至らない。結局うちは技術力で盛り上げたような成金貴族だからね」

 

 回りくどい。何が言いたいかが定まらない。

 怒る心をなんとか諌めて、冷静に考えながらことの運びを見定める。

 

「そこで、だ。所詮はオンゲの民度。迷惑行為を繰り広げるプレイヤーをね、掃除しちゃおうって思ってさ」

「……は?」

 

 何故その発想に至ったのかが分からない。

 だがおおよその思考回路は分かる。アディは基本的に自分より地位の低い人を見下す傾向にある。わたくしがその1人なのだから間違いない。

 そしてオンゲ特有の民度の低さは、言伝通りに聞いていけば確かに存在する。

 BD事件。ブレイクデカールが引き起こした事件のおかげで民度は多少改善されたと言ってもいいが、今でも初心者狩りやら、モンスタートレイン行為。加えてハイエナ行為などが横行しているのも事実だ。

 そんな民度の低いダイバーがいる場所に出資するなんて真似を、アディが気分良く思うわけがない。

 

「だからさ、擬似的なGM行為をしようって思うんだ。そういう組織、フォースっていうんだっけ?」

「民間の自治組織ということですの?」

「そういうことになるねぇ。正義を持って悪しきを打つ。ん~素晴らしい」

 

 そして、自分が正義であることを必ず主張したがる。

 俗にいう自治厨と言ってもいいだろう。あるいは正義厨か。正義はノイヤー家にあるって言いたげですわね、愚弟。

 

「名前も決めているんだ。『粛正委員会』、姉さんが好きなガンダムアゲって作品から取ってきたんだよ」

「ガンダム、エージ。ですわ」

 

 話はおおよそ掴めてきた。そして次に言う言葉も、だいたい分かった。

 

「ごめんねぇ、必要のない知識は覚えないようにしているんだ」

「それで、その『粛清委員会』に入れと。そういうことですの?」

「察しが良いねぇ。流石周りの目を気にするだけのことはあるよぉ!」

 

 フォース『粛正委員会』。

 つまるところ、運営の預かり知らぬところで勝手にGM行為をするフォース。

 そのリーダー格としてわたくしを弾頭させるということ。

 

「つまり、わたくしは体の良いノイヤー家を代表する実働隊になれ、と」

「ホント察しが良いねぇ。ノイヤーというアカウント名が広がれば、自ずと出資元であるノイヤー家の影響力も高まっていく。それはとてもいいことだよ」

 

 私利私欲のための実働部隊。体の良いノイヤーとしての名前の活用。

 なんとも、腹立たしい。気に入らない。今更わたくしを呼び出したかと思えば、ゴミを拾ってそのまま活用しようとする浅ましい魂胆。それが、わたくしには許せなかった。ほっといてほしい。わたくしはもうノイヤー家に、このアルビノの身体に嫌気が差しているのだから。

 

「お断りします。そもそもGBNにはガードフレームというNPDのGMがいます。それで事足りますわ」

「でもプレイヤー間のいざこざには介入できない。システムのバグを修復するしか脳のないチップに人間様のGMなんて果たせないよ」

「でしたら人が人を裁くなど、あってはならないことです。少なくとも1ダイバーにはその権限がない」

「いいや、人が人を裁かなきゃ、世界は平和にならない。裁判でも同じことを言ってるでしょう?」

 

 減らず口を。

 これだからこの弟は嫌いなんだ。

 

「昨今のSNSでは人の手によって罪を裁いている。でなければ炎上なんて言葉は出ないだろう」

「それが傲慢だと言っているのです」

「いいや、争いは同じレベルでしか起きない。下等生物同士で罪を裁いていけばいい。そうすればみんな、人を監視するようになる。つまり平和だよ、それは」

 

 結局は利益のことしか考えていない愚弟が、何を言っているんだ。

 GBNの平和だなんて、あなたは微塵も考えていないくせに。

 

「それに、だ。最近、姉さんの戦績も落ちているみたいじゃないか」

「それは関係ありませんわ」

「いいや、関係あるとも。強くなれれば――」

 

 ――愛しのユカリちゃんも手に入れられるかもしれないよ?

 

 こいつ、どこまで知っているんだ。いや、それよりもわたくしの愛する人を巻き添えにしようとする魂胆を、わたくしは許せない。

 頭に血が上ったわたくしはアディに近づこうとするものの、すぐさま付き人に捕らえられ、両腕を二人がかりの大人の力で抑えられてしまった。

 

「低俗な姉さんらしいや。まさか民間人の、さらに女を好きになるだなんてねぇ」

「何が悪いんですの?! 昨今は同性婚も許されていますわ!」

「気が触れてしまったかい? ごめんねぇ、姉さん」

 

 ニヤニヤと顔を歪めるアディに対して、一発ぶん殴ってやりたい気持ちにすらなる。

 淑女としては三流でも、恋する乙女としては正解の態度だろう。

 

「でも、ユカリちゃんは別の子と付き合い始めてしまった。違うかい?」

「っ!」

「悲しいねぇ、姉さんの初恋が悲恋として終わるだなんて、僕は悲しくて涙が出てしまうよ」

「微塵も思っていないくせにッ!」

 

 そのセリフを聞いてなおのこと気分を良くしたのか、口角を歪める。

 やっぱりこの弟は嫌いだ。接しているだけでこの手で殺めたくなる気分だ。

 

「さて、そこで戦績の話に戻ろう。仮に、姉さんとその付き合った子が戦い、勝利すれば姉さんの力こそが正義だということが証明されるね」

「そんな事をしても、ユカリさんがわたくしになびくことなんてありえませんわ!!」

「そう! だからこれはただの復讐! 分からせてやるんだ、自分の恋心を。嫌だろう、自分の心を押しつぶすのは!」

 

 そう、だけど……。

 かつて聞いたことがあった。エンリさんを取り戻しに行く時に、ユカリさんがどんな思いで彼女の前に立ったかを。

 それはただみんなと一緒にいたいから。そのために刃を交じりあったと。

 ユカリさんは強い子だ。そしてわたくしは弱い子。

 どこまでいっても、ユカリさんの優しさを知ってしまった以上、もうそれなしでは生きてはいけないほど弱くなってしまった。

 ユカリさんの願いは誰よりも知っている。

 でも自分の恋心を殺すのは、あまりにも辛い。

 

 アディの言葉は概ね同意できた。出来てしまった。

 だからこそ『粛正委員会』に行くということは、ユカリさんの元を離れることで。

 でも。いや。……それでも。

 

「……考えさせてください。わたくしには、そのぐらいの時間はあるのでしょう?」

「まぁそう思ってたよ。ただし期限は決めさせてもらう。それまでに返事がなければ、この話はなかったことにする。いいよね、姉さん?」

「……えぇ、分かりましたわ」

 

 揺れ動く天秤は、復讐とユカリさん。

 そばにいても、わたくしの恋心はもう元には戻らない。

 それでも、ユカリさんの元から離れたくない。

 考えれば考えるほど、ドツボにはまっていく感覚。抜け出せない底なし沼のような、深い闇。

 わたくしは、どうすればいいのでしょうか。

 ノイヤー家の屋敷を後にし、夜風になびく銀色の髪を見ながら、わたくしはそんな事を考えていた。

 

 助けてほしい。そう思うのは誰のせいなのか。

 他でもない。それはユーカリさんの声。それは愚弟の声。

 わたくしは迷っている。アディの話に乗ろうとしている。

 やっていることはただの自治厨行為であり、見方を変えればやってはいけないマナー違反の領域であることは百も承知だ。

 だけども、自分の恋心を天秤にかけられてしまえば、誰だって即決することはできない。

 

「ユカリさん、どうして、あなたは……」

 

 どうしてでしょうね。どうしてあなたは……。

 いいえ、あなたもわたくしの元から離れていくのでしょうね。

 目をそらしている真実に背を向けて、わたくしが取るべき行動を模索する。

 でも、探せども探せども、そこにある恋心からは逃れられなくて。

 

「力を見せつければ、わたくしが強いと信じさせれば、ユカリさんを振り向かせられる」

 

 ありえもしないと首を横に振るのが正解だったかもしれない。

 でも、それが正解だと誰が決めた。誰が、わたくしの行動を正義となす?

 答えは、自分自身の中にしかない。わたくしの、中にしかいない。

 

 たった1つの真実に背を向けて。いくら考えても、その結論に達するのなら、わたくしはこう答えよう。

 

「もしもし」

『やぁ姉さん。ひょっとして返事かな?』

「えぇ。わたくしは……」

 

 もう、後戻りはできない。

 ごめんなさい、ユカリさん、エンリさん。ついでにフレンさん。

 わたくしは、わたくしの恋心を守るために、あなた達を裏切ります。

 

 ▼ノイヤーがフォースを脱退しました。




天秤は傾く


名前:アディ・ノイヤー / アディN
性別:男
身長:162cm
年齢:15歳
二つ名:ノイヤー家の次期当主

機体名:???
見た目:金髪緑眼。スラッとした体型で良く言えば優男


ムスビ・ノイヤーの実の弟であり、ノイヤー家の次期当主として成り上がった愚弟。
基本的に人を舐めるような態度ばかり取る要するにクソガキ。
基準としては自分が上か下かぐらいしか決めていない。
下と判断すれば、黙って舌打ち。
上と判断すれば得意の皮肉トークで相手をイラつかせる。
実際のところは本当に優秀であり、その性格さえ直せば、ちゃんと当主としての道を歩めるほど。ただ、その性格が壊滅的なのであるが……。

ムスビのことはノイヤー家の恥晒しだと思っている。
もちろん親の影響ではあるため、ノイヤー家は基本的に腐敗しきっている。
持ち直した先代はそうでもなかったというのに……。

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