あのときの、悪い予感は間違いなく的中していた。
『……帰って、きますよね?』
その言葉はなんとなくの予感だけで、今にも消えてしまいそうなノイヤーさんに対して放った一言だった。
でも、嫌な予感というのはことごとく的中してしまうものだ。
目の前にあるフォース『ケーキヴァイキング』のメンバーリストの4人目の空席という虚空を見ながら、私はそう思ったんだ。
「もちろんって、言ったじゃないですか……」
ノイヤーさんとの連絡が取れないまま3日が経過していた。
幸いにもまだフレンド自体は繋がっている状況ではあるものの、エンリさんのときと同じようにログイン状態を隠している。どうしてみんなそんなに隠したがるんだろうか。
目の前にいるフレンさんは手で顔を覆っている。
隣のエンリさんは必死に冷静になろうとしているけれど、それでも動揺が止まらない様子だった。
エンリさんのときと同じ状況。いや、それ以上に今の状態はややこしかった。
誰かが言っていた。職場恋愛が駄目な理由は拗れた人間関係によって仕事ができなくなってしまうことだと。
今のケーキヴァイキングの状況はまさしくそのとおりの状態だった。
私とエンリさんがくっつくことで、ノイヤーさんが傷つくことぐらい分かっていた。けれど、あの場面では謝罪することがベストだって思ったんだ。まさか、こんな状況になるなんて、誰が思ったことだろう。
誰にも、私にさえ何も言わずにどこかにいなくなるなんて、おかしいですよノイヤーさん。
「ユーカリ、今日も?」
「はい。連絡が取れないです」
業務的なことばかり並べてもどうしようもならない。
でも建設的なことや明るい話に持っていけるほど、私は図太くもなければ強くもない。
ショックだった。何も言わずにノイヤーさんがいなくなっちゃうなんて。
失望した、私自身に。ノイヤーさんなら信じてくれるっていう慢心のせいで。
でも、誰よりも落ち込んでいたのは、私ではなくて目の前にいるフレンさんだった。
「ごめん。アタシが、軽率なことしたばっかりに……」
「フレンさん……」
「アタシ、恋愛上手だとか思い込んでて。ノイヤーちゃんの力になれるなんて過信したばっかりに」
「別にあんたのことは攻めてない。誰も」
「ううん、結局アタシはまだ誰のことも好きになったことないから、分からないんだよ。ノイヤーちゃんの気持ちも、何もかも……」
鼻を啜る音と詰まった声。そしてテーブルに落ちる一滴。
見ていて辛かった。きっとエンリさんがいなくなったときの私もこんな調子だったのだろう。
私だってノイヤーさんがいなくなって悲しい。それは変えの効かない真実であるはずなのに、同時に冷静になってしまう。それは目の前でもっと心配している相手を見つけてしまったからだろうか。
ひょっとしたら、私は薄情者なのかな。ホントはノイヤーさんのことなんてどうでもいいからエンリさんと付き合うことを選んでしまって、それで彼女を苦しめたのだとしたら……。
積もる後悔の雪がどんどん足を埋めて動けなくなっていく。
やっと一緒にやっていけるって思ったのに。それなのに、なんで私は、私自身の手でその幸せを崩壊させてしまったのだろうか。
もっと、友達として、と言う距離感で仲良く4人でやっていければよかったのに。
「全部私が悪いんです」
「ユーカリ……?」
「全部私が選んでしまった結末で、私がエンリさんを選んでしまったから……」
「ユーカリちゃん、それは……」
軽い気持ちだったかもしれない。
恋心を教えてくれだなんて、教えを請う相手はエンリさんじゃなくて……。
「いい加減にしなさい!」
凛々しくて、いつもかっこいいなと思っている声が、フォースネスト内に怒号として響き渡る。
ピシャリと肩を震わせて、冷静になった頭が、自分が何を言っていたかを理解してしまった。私、エンリさんになんてことを……。
「すみません。私、エンリさんになんてことを……」
「そんなことじゃないわ」
ハテナを浮かべる私に対して、エンリさんが見せたのはこの前エンリさんと戦ったときの戦闘記録だった。
随分前のことのように思っていたけれど、たった数週間前の話なんだ……。
「あんたが言ったワガママは一緒にいたいってことでしょ?! だったらくよくよしている場合じゃないわ!」
「でも、今回は……」
「肝が据わったアホの子なら、今回も猪突猛進に頑張るしかないじゃない! ノイヤーの家、知ってるんでしょ?!」
でも……。
そんな言い訳ばかりを上に積み重ねていく。
いくら束ねても、そんな言葉じゃ大した成果が得られないのは分かっている。でも今ノイヤーさんに会いに行く勇気がない。なんて声をかければいいか、分からない。
『私は、一緒にいたいんです! 復讐だってナツキさんのフォース相手に喧嘩売りますし、もっとフォースのみんなと仲良くなりたい。それじゃダメなんですか?!』
いや、そんな事ない。過去の私はもっとフォースのみんなと仲良くなりたいと願った。それはエンリさんやフレンさんだけじゃない。ノイヤーさんもその1人だ。
だったら、その事を伝えに行けばいいんだ。アホの子らしく、肝を据えて。
「……っ! 分かりました。行ってきます!」
「それでこそわたしのユーカリよ」
急いでログアウトして、私はムスビさんの家へと走り始めた。
まずは一緒にいたいってことを伝えなくちゃ。私のやれることはそれからだ。
◇
「エンリちゃん、アタシ……」
「GBN内を探すわよ。ログインしてないなら家にいる。家にいないなら警察に頼るか、GBNの中にいる」
「……頼れるね、最年長」
そんなことはない。これでも必死に考えた方だ。
わたしだってノイヤーがいなくなるのは悲しい。こんな思いを他の3人にさせていたのならなおさらだ。
それに、何もわたし1人でどうにかしたわけじゃない。
「フレンがわたしたちの分まで悲しんでくれたから、逆に冷静になれたのよ」
「……そっか」
「これから悲しむ余裕なんてないほど、忙しくなるわよ」
余裕なんてない。だからユーカリがしたように、わたしもわたしの全力を持って探し始めることにしよう。
◇
肺が痛くなっても、足がもつれそうになっても、私が急ぐべき場所は間違いなくムスビさんの家で。
ムスビさんが行きそうな場所はだいたい見当はついてるけど、どこが1番と言われたら自宅しかない。
階段を駆け上がって、古びたアパートの部屋の扉の前に立つ。
すー、はー。緊張と不安と恐怖と。すべてを大釜にかき混ぜて希望と勇気を錬金術する。
大丈夫。ムスビさんなら。いや、そんな慢心は捨てる。まずは伝えるんだ、一緒にいたいってことを。
インターホンを1つ鳴らして、返事を待つ。
しばらく経ってから、もう一度押す。おかしいな、普段ならインターホンを鳴らせば中から何かが動く音を感じるのに、今はそれを感じない。
と言うかなんだろう、この気配のなさは何もいないような、誰もいないようなそんな嫌な予感。
まさか。そう思って私はドアノブに手をかけて、そろーりと扉を開く。
「……えっ?」
そこには『なにもなかった』。
まるでムスビさんの冷蔵庫の中身のように、机も椅子も。冷蔵庫や電子レンジ。その他生活に必要そうな家具の数々や、山積みにされていたガンプラの山もない。もぬけの殻、だった。
「ムスビさん……?」
衝撃的な光景に、何か考えなくちゃいけないと考えて、固定化される頭をフル回転する。
だけど、かえってそれは悪影響。考えれば考えるほど、嫌な予感が私の中から吹き出していって。私が嫌で引っ越した? 私がいたから? 私が、私が……。
「嫌だ……」
嫌なのは向こうだって分かってる。だけど、嫌だ。嫌なんだ。ムスビさんと別れるなんて、あんなひっそりいなくなるなんて思わないじゃないですか。だって数日前まではちゃんと話していたんですよ?! それなのに。なのに……!
スマホから1つメッセージの着信が入る。もしかしたら! そう思って、私はスマホの画面を見たけれど、それは別の人の、エンリさんからのメッセージだった。
内容は簡素なもので、GBN内を探しているから、あんたは警察に捜索願を出してから、GBNを探そうというものであった。
「……そうだよ。私が言ったんだ。それは誰がなんと言おうと自分で体現しなくちゃ」
一緒にいる。たったそれだけのことなのに、遠くて遠くて。
だけど、過去の私が願って、今も叶えたい願い、ワガママなんだ。
「泣いちゃだめだ」
泣くのは最後の最後。ムスビさんが戻ってきた時。そうしなきゃ。
だったらまずはやるべきことは1つ。頼るべきものに頼って、自力でできる部分は、自力で探す!
空室の部屋に涙を置いて、私はまた走り始める。
私の、ワガママは変わってないんだから。
◇
【世紀末】ハードコア・ディメンション-ヴァルガスレPart***【ディメンション】
1:以下名無しのモンキーがお送りします。
ここはハードコア・ディメンション ヴァルガについて語るスレです。
ルールを守って楽しく語りましょう。
Q.ヴァルガってどういうディメンション?
A.GBN内で唯一お互いの合意なしでバトルができるディメンション
通称:運営が匙を投げた場所、猿山、GBN動物園、マッドマックスなど例えられています。
Q.何をしてもいいの?
A.奇襲に拡散砲撃、加えてハイエナ行為やモンスタートレインなど、やっている人はいますが、基本的にモラルとマナーを守っていればなんでもいいです。
Q.ヴァルガに潜ったら速攻で死んだんだけど
A.判断が遅い!(天狗面
◇
329:以下名無しのモンキーがお送りします。
知ってるか、あの自治集団
330:以下名無しのモンキーがお送りします。
なんそれ
331:以下名無しのモンキーがお送りします。
知らんご
332:以下名無しのモンキーがお送りします。
俺この前やられたわ
333:以下名無しのモンキーがお送りします。
自治集団って?
334:以下名無しのモンキーがお送りします。
ああ!
335:以下名無しのモンキーがお送りします。
ああ!
336:以下名無しのモンキーがお送りします。
それってハネボール?
337:以下名無しのモンキーがお送りします。
ボルボル~
338:以下名無しのモンキーがお送りします。
ボルバルザークみたいな鳴き声やめーや
339:以下名無しのモンキーがお送りします。
で。自治集団ってなによ
340:以下名無しのモンキーがお送りします。
数週間前から出没してる自治組織でな。
主に初心者狩りやハイエナ行為、モンスタートレインとかを見つけ次第、叩き潰してるんだと。
で、なんで自治集団かって言われてるかと言えば、『正義は粛正委員会にあり!』って言いながら、人格否定やら暴言を重ねて相手をボコボコにしていくんだと。
遭遇した奴から聞いたけど、しばらくガンプラバトルできないとも
341:以下名無しのモンキーがお送りします。
自治厨で草
342:以下名無しのモンキーがお送りします。
マジでマナ悪じゃん。
俺らが言えた試しじゃねーけどwww
343:以下名無しのモンキーがお送りします。
ヴァルガ民は基本バカかドMしかおらんから
344:以下名無しのモンキーがお送りします。
初心者狩りったって、ヴァルガに限った話でもないだろうしな
345:以下名無しのモンキーがお送りします。
モンスタートレインも然り、ハイエナも然り。
346:以下名無しのモンキーがお送りします。
念の為フォースで検索かけてみたけど、粛正委員会ってフォース多すぎて絞れん
347:以下名無しのモンキーがお送りします。
AGE本編に出た名前だからなー
348:以下名無しのモンキーがお送りします。
ヴェイガンは殲滅する!!
349:以下名無しのモンキーがお送りします。
それにしたってやりすぎじゃねぇか?
350:以下名無しのモンキーがお送りします。
過激派怖いわね
351:粛正委員会
正義は粛正委員会にあり!!
352:粛正委員会
正義は粛正委員会にあり!!
353:粛正委員会
正義は粛正委員会にあり!!
354:以下名無しのモンキーがお送りします。
うわ、スパムか
355:粛正委員会
正義は粛正委員会にあり!!
356:以下名無しのモンキーがお送りします。
釣られたなポッター
357:以下名無しのモンキーがお送りします。
スパブロォ!!!
358:以下名無しのモンキーがお送りします。
ちょまて、お前おいおいおい!!!
359:以下名無しのモンキーがお送りします。
どうした
360:以下名無しのモンキーがお送りします。
粛正委員会にやられちゃったか
361:以下名無しのモンキーがお送りします。
見つけたけど、フォースリーダー、ばっどがーりゅのフォースの子じゃねぇか
362:以下名無しのモンキーがお送りします。
は?!
363:以下名無しのモンキーがお送りします。
ばっどがーりゅってあれだろ? バードハンターのとこの
364:以下名無しのモンキーがお送りします。
どこだよ
365:以下名無しのモンキーがお送りします。
ダイバーネームはノイヤー。
使用ガンプラは、ガンダムレギルスN。
てか、あんなマスクしてたか?
366:以下名無しのモンキーがお送りします。
ノイヤー……どっかで聞いた覚えが
367:以下名無しのモンキーがお送りします。
知っているのか雷電?!
368:以下名無しのモンキーがお送りします。
ノイヤー財閥。工業系を中心にいろんな企業に出資しているところだな。
アンドロイド産業とかにも出資してたはずだから、結構大手。
で、その子がノイヤーって名前使ってるってことは……。
369:以下名無しのモンキーがお送りします。
マジかよ
370:以下名無しのモンキーがお送りします。
模造犯やろ流石に。
371:以下名無しのモンキーがお送りします。
でも確かに悪い連中から初心者とか騙されたダイバーとかは救済されてるんだよな
372:以下名無しのモンキーがお送りします。
まぁそうだけど……
373:以下名無しのモンキーがお送りします。
だがやってることは逆シャアのシャアだぞ
374:以下名無しのモンキーがお送りします。
人が人に罰を与えるなどと
375:以下名無しのモンキーがお送りします。
エゴだよ、それは
◇
「……これでいいんですの?」
「流石は姉さん。煽り文句はバッチリだよ」
わたくしは力を示す。そのために家も出払い、ノイヤー家の屋敷にいる。
全ては、エンリさんという悪魔からユカリさんを助けるために……。
そこにいなくても、絆だけは残ってる